パルプンテは最後までとっておく   作:葉虎

10 / 26
第9話

――Side Kouji Makihara

 

はぁ!?

 

一瞬、電話で言われたことが理解できなかった。

 

昨夜の夢とは裏腹に俺は平和な学校生活を今日も一日送り終えた放課後。

 

例によって、学校に来ていないアリサに悪態をつきつつ、帰ろうとした所でクラスの男どもに遊びの誘いを受けた。

 

まぁ、偶にはこういうのもいいか。ハブられるのもなんだしなぁ。とか思いつつ、誘いに乗り、校庭にてサッカーに興じる事にする。

 

そしてその休憩時間。携帯電話を開くと留守電が入っていた。

 

相手は義姉さん。

 

切羽詰まった口調で、早口で聞き取りづらく。直ぐに切れてしまったが……。

 

「――っ!?わり、俺帰る!!」

 

慌てて人気のない方向へ駆け出す。だって…

 

「なんでだ!?早すぎるだろ!!」

 

薫さんが帰ってから数日は猶予があると思ってたのに…

 

なんでよりにもよって…

 

「来てすぐに事を起こしてるんだよ!!」

 

 

――Side Nami Kanzaki

 

「リスティ…そこをどきね。これはうちらの問題。あんたは関係なか」

 

「嫌だね。久遠も那美もさざなみの家族だ。」

 

にらみ合う。薫ちゃんとリスティさん。

 

薫ちゃんの手には十六夜が…リスティさんは妖精のような羽を出し、右手がバチバチと光を放っている。

 

薫ちゃんの後ろには楓さんと葉弓さん。共に小太刀と弓を構えて薫ちゃんの指示を待っている。

 

「那美。久遠を頼むよ」

 

私と久遠を庇うように、薫ちゃんと対峙しているリスティさんがそう声を掛けてくれる。

 

「久遠!!ダメだよ!タタリなんかに負けちゃダメ!!」

 

荒い息を吐き、蹲っている久遠に必死に声を掛ける。

 

事の発端は学校帰りに、薫ちゃんたちを偶々見かけ、その只ならぬ雰囲気が気になって後を付けたことが始まりだ。

 

 

薫ちゃんたちの意図は分かる。封印が完全に解け掛る前に、久遠を殺してしまうつもりだ。

 

だから、咄嗟に久遠に十六夜が向けられた時に割って入った。

 

其処にリスティさんもやってきたんだ。

 

なんでリスティさんが来たのかは分からない。けど…今はやることは……

 

久遠を助けなきゃ。

 

 

――Side Other

 

此れは、一匹の狐と少女の物語。

 

タタリとなり封印された一匹の狐。

 

それから…長い時が経ち、彼女の封印は時を経つに連れて徐々に弱まっていく。

 

そして、人々の記憶から祟りの記憶が完全に消え去った数百年後に…

 

彼女の封印がついに解けてしまった。

 

封印から解けた彼女は再び、雷の力を持って、破壊を始めた。

 

しかし、長きに渡り封印され、また、封印が解けた直後という事もあり、彼女にはかつての力が無く。

 

現代の退魔師…神咲の者達が総出で再度封印を試み…

 

彼女の力は再び、封印された。

 

封印が解けた直後で被害は最小限に留まったが…犠牲者も出た。

 

それは封印を試みた神咲の退魔師ではなく…

 

神主を務めていた普通の…平和な家族。

 

その家の父と母だった。

 

 

両親の死に泣き、悲しむ少女。

 

そんな少女に狐を封印した神咲の家の当時の当代が告げる。

 

【……あんたの両親ば殺したんは……祟りと呼ばれちょる。昔、諸国を荒らしとった狐じゃ】

 

【…きつね?】

 

【うちもこの通り…殺されかけたが……薫が……孫がどうにか倒した。……今は力を失って…ただの狐じゃ。仇ば討ちたいのなら討てばよか。両親を殺されたあんたと、あんたの弟にはその権利がある。

……うちは止めん】

 

生かすも殺すも自由。

 

そう問われた少女…那美は考える……そして…

 

その問いを受けてから数日後、那美は一匹の狐の過去を見る。

 

両親を殺され、狐の過去を知った那美は……

 

【…あなたの封印は、何年か経ったら解けちゃんだって。だから、わたし、おばーちゃんと一つ約束をしたの……】

 

両親を殺された…憎むべき対象の狐に答えを語りかける。

 

【あなたと仲良くなって……いい子に育てるって】

 

彼女が出したのは復讐ではなく、共に歩んでいくという答えだった。

 

【タタリなんて…呼んでごめんね。…そんな名前じゃなくって、弥太君がくれた…名前があるんだよね?】

 

それは…遠い過去。少年が少女に与え、少年以外に呼んだ者は無く、また、数百年に渡って呼ばれていなかった名前…

 

【…ずっと久しく…遠く離れても……幸せで居られる様に…そう願って名付けられた名前…】

 

その名前を…

 

【ね。久遠】

 

数百年ぶりに呼ばれた名前。そしてその名を呼んだ少女は狐を胸に抱き…

 

【…悲しい事…いっぱいあったけど……友達になれるよね?…しゃべれるんだよね?だったら呼んで…】

 

 

 

 

「……な…み」

 

「久遠!!」

 

必死に声を掛ける…数百年の時を超えて……久遠という名を再び呼んでくれた少女の名前を口にする。

 

大切で…大好きな友達

 

もう抑えられない。もう嫌だ。あんな事をするのは…。

 

一筋の涙が頬を伝う…

 

そして残った最後の意思で……呟いた。

 

「た…す…けて」

 

瞬間…落雷が落ち。

 

「ァァァアア!!」

 

叫びと共に……封印が解かれる。

 

少女すがたから女性の姿に変わり、破壊の権化と化す。

 

その最初の標的になったのは…

 

「那美!!」

 

最も近くにいた大切な友達である少女。

 

 

薫たちの必死の呼びかけに反応する事が出来ず…

 

無残にも凶爪が振りぬかれた……

 

 

――Side Kouji Makihara

 

義姉さんを対象にリリルーラで現場に到着した時に目に入ったのは…

 

「おい那美!!しっかりしろ!!」

 

「リスティ!此処はうちらが抑える。早く那美を病院に!!」

 

大人となった久遠と戦う薫さんを初めとする三人と。

 

必死に那美さんに声を掛けている義姉さん。

 

そして……

 

腹部から血を流し、倒れている那美さんの姿だった。

 

 

……何をやってたんだ…俺は!?

 

こうならないように…動いてきたんじゃないのか!?

 

いや…後悔は後だ。今は……

 

「義姉さん!どいてくれ!!」

 

「耕二!?」

 

間違いなく致命傷。しかし…俺には…

 

「ベホマ」

 

最大級の癒しの呪文を那美さんに施す。

 

俺のホイミ系の呪文は、体力と共に外傷も治す。

 

「傷が……」

 

数秒後、傷痕一つない状態になり…

 

「…ん?……あれ?私……耕二くん?」

 

何事もなかったかのように那美さんが目を覚ます。

 

ふぅ…これで那美さんは大丈夫だな。

 

「……後は久遠を」

 

視線を戦っている三人に向ける。

 

どうにか持ってはいるが久遠が押している。いずれは三人とも倒れるであろう。

 

「義姉さん。俺の部屋の机の一番右上の引き出しの中にある巾着袋を持ってきて!!

あ、あと那美さん。あれ借りるよ!」

 

言いながら駆ける。

 

途中でスカラ、ピオラ、マホバリアを限界まで重ね掛ける……

 

そしてたどり着いたのは地面に落ちていた。那美さんの愛刀である雪月を拾い上げ。

 

「久遠!!」

 

久遠に切りかかった。

 

 

斬撃を爪で受け止める久遠。

 

そして俺たちは対峙する。

 

 

「誰!?なんなの!」

 

「子供!?なんでこんなところに…」

 

「…耕二くん!?どげん!こんなところに居ると!!」

 

突如割って入った子供に困惑する3人。

 

「ごめん!説明したいのは山々なんだけど……来る!」

 

そんな3人に謝りつつ、久遠が放つ雷を避ける。

 

「は、速い!」

 

ピオラが可能にした高速移動。それに子供ながらの小柄な体格も相まって…久遠は俺を捉えることが出来ない。

 

さらに…

 

「トベルーラ…」

 

「嘘!?あの子空を飛んでない!?」

 

空を含めた三次元軌道。

 

さて……

 

「義姉さんが来るまで…俺と戯れようか……」

 

 

 

度重なる久遠の攻撃。高速移動により今のところ避けてはいるが、長くは続かない。

 

その原因は体力不足。唯でさえ子供の体に高速移動。強化しているとはいえ、失われる体力は激しい。

 

普通なら直ぐにガス欠になるだろう。

 

そう、俺以外ならば…

 

「べホイミ…」

 

度々べホイミを掛け、体力を回復する事で…俺は魔力が尽きない限り、動き続ける。

 

攻撃を避け、時折食らいつつ、回復呪文で回復し時間を稼ぐ。

 

攻撃呪文は使わない。能力によりコントロールが効くとはいえ、万が一にも間違え、久遠を殺してしまう結果になったら

目も当てられない。何より、久遠に対して呪文を放つなんて事は出来そうにない。

 

最初の一撃だって、断腸の思いで放ったんだ。

 

それに時間を稼ぐって言っても微々たるもの…

 

ほら…

 

「耕二!!」

 

義姉さんも来たことだし…

 

「終わりにしよう……!義姉さん!俺が久遠を抑えている間に中の宝石を薫さん達に!!」

 

丁度5人居る。

 

「受け取ったら、久遠を中心に5人で囲ってください!那美さん!病み上がりで辛いだろうけど…頑張って!」

 

「リスティ!?耕二君は一体を…」

 

「薫!今は耕二を信じてくれ!」

 

 

 

蒼い宝石。サファイアを持つのは神咲楓…

 

「なんだか分からいけど…配置に着いたよ!」

 

翠の宝石。エメラルドを持つのは神咲葉弓。

 

「こちらもいいですよ!」

 

真紅の宝石。ルビーを持つのは神咲薫。

 

「片が付いたら色々と問い詰めちゃる!」

 

黒い宝石。パールを持つのはリスティ・槙原

 

「さて…お膳立ては全て整ったよ。耕二」

 

そして……

 

白い宝石。ダイヤモンドを持つのは…

 

「耕二君!!お願い!久遠を…久遠を助けてあげて!!」

 

神咲那美。

 

準備は整った……

 

「邪なる威力よ退け……」

 

5人が持つ5つの宝石を起点として陣が描かれる。

 

あれらは普通の宝石。俺の魔力を微量に帯びているので互いに若干の干渉をし合うだけの…

 

それを利用して邪を滅する陣を描く。

 

紡がれて描かれるのは五芒星。

 

そして紡がれる呪文…

 

「マホカトール!」

 

陣から光の柱が天に上る。

 

それは聖なる光。

 

「ぁぁぁアアア!!」

 

その光にさらされた。中心に居る。久遠の祟りは…最後に叫びを挙げて…

 

完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

時計の秒針が刻まれる音が部屋に響く…

 

普段のさざなみ寮とは打って変わって静まり返ったリビング。

 

此処で緊急家族会議が開かれていた。

 

議題は言わずもがな…久遠の一件についてだ。

 

あの後、当然のように薫さんに事情説明を求められたが、義姉さんの

 

『とりあえず、念のために那美をフィリスに見せよう。話はその後でもいいだろ?

それに、耕二。いい機会だから寮のみんな…というか耕介と愛にも話したらどうだい?』

 

という話になって、その日に話をする事になった。

 

参加メンバーは…

 

薫さん、楓さん、葉弓さんの神咲退魔師の三人と那美さん、義姉さんの当事者組。

 

父さん、母さん、真雪さんのさざなみ寮の保護者組。

 

そして俺だ。

 

んで、現在俺の能力以外…今日あった事と久遠の事を薫さんが説明した所だ。

 

「………色々、バ神咲には言いてぇこともあるが…説教は全部の話が終わってからだ。あと…坊主。那美は平気なんだろーな?」

 

「それは安心していいよ。フィリスのお墨付きだ」

 

その言葉にホッと一息つくと、真雪さんは俺に視線を向ける。

 

いや、真雪さんだけじゃなくみんなの目が俺に向く。

 

「んでだ。耕二。その不思議パワーはどうしたんだ?」

 

若干、鋭い視線になる真雪さん。いや、それはまだいい。

 

薫さん…睨まんといて~~こわっ、滅茶苦茶怖いって。

 

ふむ…此処は

 

「…何を隠そう……槙原耕二は…魔法使いだったのだ!!」

 

簡潔かつ、ウィットに富んだ説明で…この場を和ま…

 

「ふざけるんじゃなか!!」

 

ですよね~。

 

とりあえず、俺が知る限りのリリカルなのはで出てた設定を話す。

 

多次元世界とか魔導師の事を中心に。

 

「俺に色々教えてくれたお姉さん(架空)が居てね。その人に力の使い方とかを教わったんだ(大嘘)」

 

「え?その人?さぁ、最近会ってないなぁ。何処にいるかも知らないし……」

 

そう誤魔化す。間違えても本当の事を告げ、俺の精神年齢を知られる訳にはいかない。

 

何故かって?そりゃ決まっている。女の人と混浴が出来なくなってしまうからだ!!

 

「耕ちゃん!」

 

話を聞き終え、真っ先に声を出したのは、珍しく怒気を含んでいる母さん。

 

今まで黙っていたことを叱られると身構えていたのだが…

 

「知らない人に付いて行ったら駄目でしょ!?めッ!!」

 

「「「「「「「えっ!?怒るとこそこなの!?」」」」」」」

 

声が揃う。俺も驚いた。

 

「あ、愛。此処は黙っていた事を怒るべきだろう?いや、知らない人に付いて行ったことも確かに良い事じゃないが…」

 

「?それは何か理由があったんじゃないかしら。違う?耕ちゃん」

 

「いや…黙ってたのは言い出すきっかけが無かったというか…」

 

よくよく考えてほしい。唐突に息子が魔法使いだと言い出したらどう思うか…

 

まぁ、俺が子供という事もあり、微笑ましげに見られるだけで信じては貰えないだろう。

 

証拠を見せれば信じては貰えるかと思うが……

 

「……今日の反応から見てリスティは知っとったんじゃろ?」

 

「まぁね♪今日、那美を助けた回復の魔法にはボクもお世話になってるからね」

 

「坊主。どっか怪我でもしてんのか?」

 

「いや、違うよ。もっと微弱な…回復。疲労回復とかにも効くから、仕事終わりに疲れている時なんかは時々お願いしてたんだ。それに…」

 

義姉さんはニヤッと笑みを浮かべて…

 

「美肌効果もあるしね。それも最上級の」

 

爆弾を落とした…

 

「そういえば…那美ちゃん」

 

「えっ!?なんですか!?」

 

「いや、お肌が艶々だと思って…」

 

「本当だ。とても死にかけた人間とは思えない。いや、何時もより綺麗かも…」

 

い、嫌な予感が…

 

「耕二!」

 

「な、なんでしょ。真雪さん」

 

「……後で部屋に来い。」

 

「…イエスマム!」

 

有無を言わさない迫力に頷く事しか出来なかった。

 

混沌となりつつある。さざなみ家族会議。それに収拾を付けたのは

 

「話が脱線しちょる!!ちょっと黙っとってください!!」

 

議長?の薫さんであった。

 

「信じられんけど…この目で見た以上。耕二君の力については信じる。んで、久遠に使った力はなんじゃ?どういう効果がある?」

 

「マホカトールですか?効果は悪しき物を滅する。破邪の魔法としか言えないです。それゆえ、それ以外の人間や動物には何の影響もありません。あれで、ピンポイントにあの黒い靄みたいな奴だけ滅しました。」

 

俺の言葉に絶句する薫さん。そりゃそうか、言ってみればこの効果は退魔の最高峰と言っていい。

 

威力も久遠に憑いていた祟りを滅したのだ。申し分ないだろう。

 

その後も矢継ぎ早に質問が続く。

 

空を飛んでたけど、やっぱり飛べるのか?とか、他にどんなことが出来るかとか…

 

攻撃的なものは隠しつつ、できる事を都度述べていくにつれ、周りが騒ぎ、薫さんが収めるという

パターンを繰り返す。

 

もはや、完全に何時ものさざなみ寮の空気に戻りつつあった。

 

因みに最もウケが良かったのがモシャス。一通りの人に化けては、色々な事をやらされた。

 

薫さんに化けて、真雪さんの少女漫画に出てくるヒロインの台詞の真似をやった時は凄かった。

 

真雪さん&義姉さん大爆笑。怒り心頭で顔を真っ赤にした薫さんに叩かれた。

 

想えば、薫さんに殴られたのはこれが初めてではなかろうか……。

 

取りあえず、夜も更け…会議もぐだぐだになって来たこともあり、ひとまずお開きとなった。

 

久遠についてだが、薫さん達の見立てでももう祟りは存在しないとの事だが、念の為にお祖母さんでもある和音さんにも見てもらう為に、本家へと連れて行く事となった。

 

 

後日、事の次第を知った和音さんによる呼び出しがあり、神咲の総本山に出向くことなり、そこでドタバタがあるのだが…今の俺には知る由もなかった…。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。