ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第6話:よろしく非日常

『オキナサイ! オキナサイ! オ、オキナイト、キ、キススルワヨ!』

 

「……………うーん……」

 

ツンデレボイス目覚まし時計に起こされた一誠は、気が付くと床でうなされていた。

 

(……最悪の目覚めだ)

 

ここ最近、恋人である夕麻に殺されるという悪夢を見ている。

 

しかし、一誠はこうして生きている訳で、あれはやはり夢に過ぎない……と、一誠は思った。

 

「起きなさい! イッセー!」

 

「わーってるよ! 今起きる!」

 

いつも通りの朝。最悪な目覚めに一誠は立ち上がると、制服の袖に腕を通しながら大きく溜め息をつき、朝食を食べて登校を始めた。

 

夕麻とのデートの日を境に一誠は変わった。無論、見た目ではない。

 

まず1つ目、朝に弱くなった。特に朝日が苦手だ。

 

日差しが肌に突き刺さり、鬱陶しいとさえ思ってしまうほどで、なかなか起きてこない一誠を母親が叩き起こしに来る毎日だ。

 

しかし、逆に夜になると力が湧き上がる。

 

試しに夜中に出た一誠は、足取りが軽く、夜の暗闇に溶け込んでいくと心身が高揚感で打ち震える。

 

夜の感覚が、以前と違うものだと確信出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

「よー、心の友よ。貸したDVDはどうだった? エロかっただろ?」

 

「ふっ……今朝は風が強かったな。おかげで朝から女子高生のパンチラが拝めたぜ」

 

教室へと到着するなり、一誠は自分の席の椅子に深く腰を降ろした直後、松田と元浜が声を掛けてきた。朝から悪友の顔を見て一誠は更にテンションが下がる中、松田は自分の鞄を開けて、その中身を一誠の机の上に置いていく。

 

『『『ひっ』』』

 

ドカドカと山積みされていくのは、見るからに卑猥な題名の本やDVD。クラスの女子達が軽く悲鳴をあげ、3人に蔑んだ声を発するが、松田と元浜は気にせず一誠に言う。

 

「いいもん手に入ったぞ。特にコレなんか、滅多にお目に掛からないDVDだぜ」

 

「おおっ! 何だ、この秘宝は!? 凄いな!」

 

「……………」

 

テンション上昇中の2人に対し、最近は朝が辛い為にその様な気分になれない一誠。そんなテンション低めな表情をする中、声を掛けられた。

 

「相変わらずだな、お前ら」

 

「ん……………? ああ、吉川か……」

 

一誠が声の方へ振り向くと、教室に到着した八雲が声を掛けてきて、自分の席へと座った。

 

転校してから数日後、八雲とは随分と仲良くなった。最初は女子達の人気に嫉妬をしたが、話している内に嫉妬心は薄らぎ、今ではいいクラスメイトとなった。

 

因みに一誠の家と八雲の家は意外と近く、つる屋のお得意様の1人だと知った。

 

「んだよ吉川! 俺らの楽しみの邪魔すんなよ!」

 

「邪魔はしないって、松田。……ただ、学園に堂々とエロ本やAVを持ってくのはどうかと思うぞ」

 

「視線を逸らして言われても、説得力に欠けるな」

 

「うっせーよ、元浜……」

 

変態3人組の2人と会話をする八雲。だが、そんなことで八雲の女子達の人気が減ることは皆無だ。

 

「……………」

 

そんな会話を聞いても尚、一誠のテンションは変わらず低いままであり、それを見た松田が嘆息する。

 

「おいおいおい。どうしたんだよ、イッセー」

 

「最近、ノリが悪いぞ。お前らしくもない」

 

松田の言葉に元浜も同調してつまらなそうに言うと、八雲が何かに思い当たり発言する。

 

それが、もう1つの変わった事……。

 

「アレじゃないか? 彼女が出来たとか何とか……」

 

「あー。俺には彼女がいましたーっていう例の幻想か? やっぱり病院とか行った方がいいんじゃないか? なあ、元浜」

 

「そうだな」

 

八雲の言葉に松田と元浜が肯定する。

 

これがもう1つの変化。一誠以外の人物全員が、夕麻の事を忘れていた。

 

それを裏付けるかのように、彼女の電話番号やメールアドレスが一誠の携帯電話から消えていた。それを含め、一誠の記憶以外から彼女に関する痕跡が一切見つからなかったのだ。

 

やはり解せない。深夜に沸き上がる得体の知れない力といい夕麻のことといい、何かがおかしい。

 

そう考え込む一誠の肩に、松田が手を置いて言う。

 

「まあ、思春期の俺らにそんな訳の分からない事が起きるかもしれない。よし、今日は放課後に俺の家へ寄れ。秘蔵のコレクションを皆で見ようじゃないか」

 

「それは素晴らしい。松田くん、是非ともイッセーくんを連れて行くべきだよ」

 

「勿論だよ、元浜くん。俺ら欲望で動く男子高校生だぜ? エロいことをしないと産んでくれた両親に失礼というものだ」

 

「いや、それは違うだろ」

 

松田と元浜の会話に八雲は突っ込むと、一誠は松田の提案に半ばヤケクソ気味に賛同した。

 

「わーったよ! 今日は無礼講だ! 炭酸飲料とポテチで祝杯をあげながら、エロDVDでも見ようじゃねぇか!」

 

「おおっ! それだよ、それ! それこそイッセーだ!」

 

「その意気だ。3人で青春をエンジョイしようではないか」

 

盛り上がる3人が結束を新たにした瞬間、授業開始の鐘が鳴ったのだった。

 

「…………………………すまねぇ、兵藤」

 

八雲の呟きを隠して……。

 

 

 

 

 

 

「おっぱい揉みてぇなぁ!」

 

学園から帰宅してすぐ、一誠は悪友2人とエロDVD鑑賞会にしけ込んでいた。

 

テレビから女性の卑猥な声が聞こえてくる。しかし枚数を重ねていくうちに彼らの興奮は冷めていき、ついには「なぜ俺たちには彼女がいないのだろうか?」と、真剣に思い出し、逆に泣けてきてしまった。

 

松田は3作品前辺りから涙が止まっておらず、元浜に至ってはクールに装ってはいるが、メガネの奥で涙を溢れさせていた。

 

「俺さ、この前女の子に体育館裏に呼ばれたんだ。……生まれて初めてカツアゲされたよ……」

 

30分前の元浜の呟きである。これには一誠も危うく泣き出すところだった。

 

3人のすすり声とテレビから女性の喘ぎ声が室内に響き渡る中、やがて最後の作品を見終えて解散することになった。

 

「じゃあな」

 

玄関で松田と別れると、一誠と元浜は歩き出す。

 

「じゃあ、また明日な」

 

「ああ、いい夢見ろよ」

 

そして帰り道の途中で元浜と別れて数分、どことなく元気の無い元浜に激励のメールでも送ろう考えていると、一誠の全身に悪寒が走った。

 

目の前の道の先からスーツを着た男が一誠を睨んでいる。視線を合わせるだけで本能が警報を鳴らしていた。

 

「これは数奇なものだ。こんな都市部でもない地方の市街で貴様の様な存在に会うのだものな」

 

そう言いながら静かに歩み寄ってくる男。何を言われているのか理解出来ず、一誠は思わず後ずさる。

 

「逃げ腰か? 主は誰だ? こんな都市部から離れた場所を縄張りにしている輩だ、階級の低いものか、物好きのどちらかだろう。お前の主は誰なんだ?」

 

訳の分からない事を言いながら、男は一誠に殺気を飛ばしてくる。

 

「訳分からないっつーの!」

 

身の危険を感じた一誠は振り向き様に来た道を全速力で走った。

 

夜の闇を掻き分け、見知らぬ街道を駆け抜け、ただひたすら逃げるのみ。そして15分ぐらい走ったところで開けた場所に出ると、一誠は駆ける足を歩みに変えた。

弾む息をと問えながら周りを見渡す。

 

「ここは……」

 

息を整えながら周囲を見渡す。今、一誠がいるのは夕麻とのデートで最後に訪れたあの公園だった。

 

「これって、偶然か奇跡か何かか……………ッ!?」

 

戸惑いつつ噴水の近くまで歩みを進めると、背筋に冷たいものが走り、一誠はゆっくりと振り返ると、眼前に黒い羽が舞い、一瞬カラスの羽かと思った。

 

「逃がすと思うか? 下級の存在はこれだから困る」

 

一誠の目の前に現れたのは、黒い翼を生やした先程の男だった。

 

「お前の属している主の名を言え。こんなところでお前達に邪魔されると迷惑なんでな。こちらとしてもそれなりの……………まさか、おまえ、『はぐれ』か? 主なしならば、その困惑している様も説明がつく」

 

男が何か呟いたかと思うと、今度は勝手に1人で納得した。

 

ファンタジーな展開と緊張が支配する中、一誠はふと夢の出来事を思い浮かべていた。

 

あのデートの日、最後の最後に一誠はここで夕麻に殺されたのだ。よく考えると目の前の漆黒の翼にも見覚えがある。夕麻が一誠を殺す直前に、同じものを生やしていた。そうだとすると、一誠は自然と次の展開を容易に想像した。

 

「ふむ……。主の気配も仲間の気配もなし。消える素振りも見せない。魔法陣も展開しない。状況分析からすると、やはりお前は『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」

 

明らかに物騒な事を口走る男が手をかざす。その先にいるのは勿論、一誠。

 

空気を揺らす耳鳴りと共に男の手に光が集まり、やがて収束する光は槍の形に形成した。

 

(殺される!)

 

一誠がそう思った瞬間、既に槍が腹を貫いていた。

 

「ゴボ……ッ!」

 

一誠の口から大量の血が吐き出され、途端に激痛が走った。

 

痛い……。それだけが一誠の中を埋め尽くし、その場に膝をついた。

 

腹の中から焼けるような痛みを感じ、やがてその痛みは全身へ回り、耐え難いものになっていた。

 

手で槍を抜こうと触れてみたら、今度は手に痛みが走り、手を見ると触れていた部分に火傷が生じていた。

 

「ぐ……あぁぁぁ……」

 

一誠はその場で呻く事しか出来ず、あまりの痛さに涙が止まらない。

 

そこへコツコツと男の靴音が近づいてくると、一誠は見上げた瞬間、男は新たに光の槍を作り出していた。

 

「痛かろう。光はお前達にとって猛毒だからな。その身に受ければ大きなダメージとなる。――しかし悪かったな、痛い思いをさせてしまって……。光を弱めで形成した槍でも死ぬと思ったのだが、意外と頑丈だ。では、もう一撃放とう。今度は少々光の力を込めるぞ。なに、怖がることはない。次は確実に殺してあげよう」

 

これ以上はマズイと察する一誠だが、激痛で体が言うことを聞かない。それと同時にあの夢の続きも思い出していた。

 

――鮮やかな紅が俺を……。

 

しかし、あれは夢だ。助けてくれる訳でもない。そう諦めた……その瞬間だった。

 

「はあっ!!」

 

ひゅっ。

 

男の声と風切り音が聞こえたかと思うと、一誠の眼前で爆発が巻き起こり、男の全身が焦げて片腕から鮮血が迸っていた。

 

「その子に触れないでちょうだい」

 

一誠の隣を女性が通り過ぎていく。

 

鮮やかな紅い髪。後姿からでもすぐに理解し、夢では顔は分からなかったがこの人だと一誠は確信した。

 

「無事か、兵藤」

 

そして一誠を支えるように隣へ並ぶ男に、一誠は夢とは違う展開を感じると同時に誰なのか理解した。

 

「その紅い髪……グレモリー家の者と、その下僕か……」

 

「リアス・グレモリーよ。ごきげんよう、堕ちた天使さん」

 

「……………」

 

堕天使が憎々しげにリアスを睨み付けるが、しかしそんなことはどこ吹く風。リアスの代わりに八雲が睨み返す中、リアスは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「この子にちょっかいを出すなら容赦はしないわ」

 

「……ふふっ。これはこれは。その者はそちらの眷属か。この町もそちらの縄張りという訳だな。――まあいい、今日のことは詫びよう。しかし下僕は放し飼いにしない事だ。私の様な者が散歩がてらに狩ってしまうかもしれんぞ?」

 

「ご忠告痛み入るわ。この町は私の管轄なの。私の邪魔をしたら、その時は容赦なくやらせてもらうわ」

 

「そのセリフ、そっくりそちらに返そう、グレモリー家の次期当主よ。――わが名はドーナシーク。再び見えない事を願う」

 

ドーナシークと名乗った堕天使は黒い翼を羽ばたかせ、夜の空へと消えていった。

 

危機が去り一誠が少し安堵すると、途端に目が霞み、ついに意識を手放した。

 

「リアス部長……兵藤の容態が!」

 

「確かにこれは少しばかり危険な傷ね。仕方ないわ。……八雲、この子の自宅まで運ぶわよ」

 

「なら、俺が担いで行きます。兵藤の家も知ってるんでね」

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

どうしてこうなった?

 

今朝、目覚まし時計に起こされて一誠は目を覚ました。夕麻ではなく謎の男に追い掛けられる悪夢から覚めると、まず気付いた事は自分が裸だったことだ。

 

一切の衣類を身に着けていない、全てをさらけ出した状態。真っ裸で寝る習慣なんて無い一誠にとって、この状況は明らかに異常で、更に家に帰って来た記憶も無い。

 

しかし、全てをさらけ出していたのは一誠だけではなかった。

 

「……うぅん……すーすー」

 

恐る恐る視線を隣に移すと、そこには生まれたままの姿で寝息を立てるリアスがいた。

 

「……………」

 

雪の様に白い肌、細い腰にスラリと伸びた美脚、極め付きには豊かなお胸……………まさに大絶景!

 

大・大・大・大・大・絶・景!!!!

※フルーツ鎧武者のアクセントで!!

 

「ええええええええええええええええええええ!?」

 

この状況に大混乱する一誠。素数を数えようとしても効果無く、逆に覚えてない自分の初体験を思い出そうとする中、追い討ちは掛かる。

 

「イッセー! いい加減に起きてきなさい!」

 

ガチャリと勢いよく開かれる部屋のドア。怒り心頭の一誠の母親が入ると同時に、リアスが目覚めた。

 

「うーん……………朝?」

 

寝惚け眼を擦り、上半身を起こすリアス。そんな中、母親はこの光景を見て固まり目だけ一誠へと移ると、一誠は視線を逸らしてしまい、母親は退室して叫んだ。

 

「セセセセセ、セ、セッ○スゥゥゥゥゥ! イッセーがぁぁぁぁぁ! 外国のぉぉぉぉぉ!」

 

「か、母さん! 母さんどうした!?」

 

「国際的ぃぃぃぃぃ! インターナショナルゥゥゥゥゥ!」

 

「母さん!? 落ち着いて! 母さぁぁぁぁぁん!」

 

両親の叫び。家族会議決定と同時に、一誠はもう顔を両手で覆うしかなかった。

 

「随分と朝から元気なお家ね」

 

そう言うなり、リアスはベッドを抜け出して着替え初めていると、不意に一誠に訊いた。

 

「お腹、平気?」

 

「え?」

 

「昨日、刺されていたから」

 

「っ!」

 

リアスの一言で一誠は一気に目が覚める。夢で見た内容と同じ、男に槍で致命傷を負わされた。

 

しかし、リアスは一誠の心を見透かす様に言う。

 

「因みに昨日の出来事は夢じゃないわ。致命傷だったけど、意外な程あなたの体は頑丈だったから、私の力でも一夜掛けて治療出来たの。裸で抱き合って、弱っていたあなたに魔力を分け与えた訳だけど、同じ眷属だからこそ出来る芸当よ」

 

「は、ははは裸で抱き合ってって、まさか――」

 

「大丈夫よ、私はまだ処女だから」

 

その言葉に何故か安心する一誠に、リアスは指先で一誠の頬を撫でながら言った。

 

「そんな不思議そうな顔をしないの。あなたが思っているよりも、この世界は不思議が多いのよ?」

 

指先で撫でられながら一誠は顔が紅潮すると、リアスは言った。

 

「私はリアス・グレモリー。悪魔よ。そして、あなたのご主人様。よろしくね、兵藤一誠くん。イッセーって呼んでもいいかしら?」

 

一誠はリアスの言葉をよく分からなかった。だが、そんな彼女の魔性の微笑みだけは本物だった。

 

 

 

 

 

 

暫くして、一誠はリアスと共に登校した。

 

一応、一誠の両親との家族会議はリアスの魔力によって解決したが、登校までに同じ学園の生徒から多くの厳しい視線を浴び、やっと教室へと到着した。

 

「おはよう、兵藤」

 

一誠が席に座るや否や、不意に八雲から声を掛けられた。

 

「お、おう……」

 

すると、今朝見た夢とリアスの言葉に、一誠は八雲の顔を見た瞬間、八雲は言う。

 

「昨日の傷は大丈夫そうだな」

 

「っ!? じゃ、じゃあ、先輩の使いって……」

 

学園の玄関前でリアスは言った。「後で使いを出すわ。放課後にまた会いましょう」と……。

 

「使い? いや、俺は何も聞かされてないが……」

 

「……………あれ?」

 

予想外の発言に一誠は首を傾げてしまうが、リアスに言われたことを八雲に伝えた。

 

「なるほどね……」

 

「……それで、吉川も先輩の仲間なのか?」

 

「まあな。――取り敢えず、放課後は空けとけよ。俺も一緒に行くから」

 

八雲にそう言い残され、一誠は放課後になるまで授業を受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

そして放課後、一誠は旧校舎までの道のりを歩いていた。正確には、前にいる八雲とリアスの使いで来た祐斗に案内されてなのだが……。

 

「そ、そんな……木場くんと吉川くんと兵藤が一緒に歩くなんて!」

 

「汚れてしまうわ、木場くん! 吉川くん!」

 

「木場くん×兵藤なんてカップリング許せない! 木場くん×吉川くんじゃなきゃいや!」

 

「ううん、もしかしたら兵藤×木場くんか、兵藤×吉川くんかも!」

 

「待って! 吉川くん×兵藤の可能性もあるわ!」

 

その道中に祐斗と八雲を慕う女子達の絶叫に、一誠はこの際無視した。

 

阿鼻叫喚の渦の中。何とか黙ってやり過ごすと、目的地であるオカルト研究部のドアの前に到着した。

 

「部長、連れてきました」

 

「ええ、入ってちょうだい」

 

ドアの前で祐斗が確認を取ると、奥から聞こえてくるリアスの声に促され室内に入った。

 

部室の不気味な雰囲気の装飾品に戸惑いながらも一誠は室内を見渡すと、ソファーで最中を食べる小猫を見つけた。因みに、その最中もつる屋の最中である。

 

「こちら、兵藤一誠くん」

 

祐斗の紹介にペコリと無言で頭を下げる小猫。

 

「あ、どうも」

 

一誠も軽く頭を下げると、小猫はまた黙々と最中を食べ始めた。

 

そんな反応に軽く戸惑っていると、部屋の奥から水の流れる音が聞こえる。見れば室内の奥にはシャワーカーテン。そしてカーテンに映る女性の体の陰影。

 

(この部室、シャワー付いてんの!?)

 

一誠が内心驚いていると、カーテンの奥から声が聞こえた。

 

「部長、これを」

 

「ありがとう、朱乃」

 

声の主は朱乃とリアス。しかし一誠はカーテンの奥に映る裸のリアスに興奮し、勝手にヒートアップしていた。

 

「……いやらしい顔」

 

鼻息を荒くする一誠に対し、ボソリと小猫が呟いて一誠の心が貫かれる中、カーテンの奥から制服を着こんだリアスが出てくると、リアスは一誠を見かけるなり微笑んだ。

 

「ごめんなさい。昨夜、イッセーのお家にお泊りして、シャワーを浴びてなかったから汗を流していたの」

 

しかし、リアスの言葉よりも部室にシャワーがあるのが気になる一誠。内心でそんなことを思いつつ、視線をリアスの後方にいる朱乃に移すと驚きで絶句した。

 

「あらあら、はじめまして。私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

 

リアスと併せて『二大お姉様』の1人である朱乃のうっとりしてしまう声色で挨拶され、一誠も緊張しながら再び挨拶を交わす。

 

「さて、これで全員揃ったわね。さっそくだけど、兵藤一誠くん。いえ、イッセー。私たちオカルト研究部はあなたを歓迎するわ。もちろん、悪魔としてね」

 

そして、リアスの素敵な笑顔によって一誠は勧誘されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

この世界には、悪魔、天使、堕天使と呼ばれる種族が存在している。

 

悪魔と堕天使は冥界……つまり『地獄』の覇権を巡り、太古の昔から争っている敵対関係であり、そこに悪魔と堕天使の両者を葬ろうと『天界』から神の命を受けた天使を含めた三竦みの戦いを、大昔から繰り返している。

 

さて、ここからが本題だ。

 

一誠を殺した夕麻の正体は堕天使だった。彼女は一誠の身に宿る『神器』を危惧して犯行に及んだらしい。

 

『神器』。特定の人間に宿る規格外の力。世界的に活躍している、あるいは歴史に名を遺した人物の多くが、神器の所有者だと言われている。

 

大半は人間社会規模でしか機能しないものばかり。だが、中には悪魔や堕天使の存在を脅かす物もあるらしく、一誠の場合は後者に当たり、それが原因で堕天使に殺され、役目を終えた夕麻は一誠の周りから自分に関わる記憶と記録を消した。しかし、悪魔であるグレモリー眷属と神器の力に守られた八雲だけが記憶消去を免れている。

 

しかし、殺された事が事実なら、何故一誠は生きているのか……?

 

その答えは、リアスが一誠に見せた1枚の『チラシ』だった。

 

チラシには『あなたの願いをかなえます!』の謳い文句と魔方陣が描かれており、部室の床に書かれている魔方陣と同じだった。

 

これは『簡易版魔法陣』というものであり、人間が悪魔を召喚するための代物だ。偶然、一誠も初デートの日に夕麻との待ち合わせの時に同じチラシを貰っていたのだ。

 

これを用いて、一誠は死ぬ間際に強く願ったのだ。

 

――……どうせ死ぬなら、あの美少女の腕の中で、死にたかったな……。

 

それにより召喚されたリアスは一誠を見てすぐに神器所有者だと気付き、悪魔としてリアス・グレモリーの眷属として一誠の命を救うことを選んだのだ。

 

以上、リアスを含むオカルト研究部による、一誠曰くファンタジー全開な話である。

 

そして現在、一誠は――

 

「ドラゴン波!」

 

オカルト研究部の部室でリアス達の目の前にて、『ドラグ・ソボール』の主人公、空孫悟(そらまご さとる)の必殺技であるドラゴン波のものまねを全力でしていた。無論、神器を発現させる為に行った行動だ。

 

羞恥を殺し、やけくそ気味に声を張り上げドラゴン波のポーズを取った直後に、一誠の変化は起きた。

 

「なっ……!?」

 

突然一誠の左腕が光りだし、やがて光は徐々に形を成して左腕を覆っていき、光が止んだ時には一誠の左腕は赤い籠手が装着されていた。

 

手の甲には宝玉が嵌め込まれており、周りもかなり凝った装飾が施され、見た感じは立派なコスプレアイテムだった。

 

「な、なんじゃ、こりゃぁぁぁぁ!」

 

当然の神器の出現に一誠は驚きを隠せなかった。

 

「それがあなたの神器。一度ちゃんと発現が出来れば、あなたの意志で何処にいても発動出来るわ。そして、あなたはその神器を危険視されて、堕天使である天野夕麻に殺されたの。そして私があなたを生き返らせたの……悪魔としてね」

 

その瞬間、一誠と八雲を除くメンバーの背中に悪魔の翼が生え、八雲は拳と掌を手合わせの様にして神器を出現させると、すぐに一誠の背中からもリアス達と同じ様に悪魔の翼が生えたのだった。

 

「それじゃあ、改めて自己紹介するわね。祐斗」

 

「2年生、木場祐斗。兵藤くんと同じ2年生って事は分かっているよね。僕も悪魔です。よろしく」

 

リアスに名前を呼ばれ、一誠にスマイルを向ける祐斗。

 

「1年生、塔城小猫です。悪魔です。よろしくお願いします……」

 

小さく頭を下げる小猫。

 

「3年生、姫島朱乃ですわ。研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。うふふ」

 

礼儀正しく深く頭を下げる朱乃。

 

「吉川八雲。俺たちは悪魔でもリアス部長の眷属でも無いが、協力者として入部している。神器を持つ者同士、よろしくな」

 

右手でシュッと敬礼の様なポーズで挨拶する八雲。

 

「そして私が彼らの主、リアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」

 

最後にリアスが紅い髪を揺らして堂々と言った。

 

どうやら自分はとんでもないことになってしまったようだと、一誠は自覚したと同時にリアスに質問した。

 

「あの、リアス先輩。八雲の言った()()()って、他にも部員がいるんですか?」

 

「いいえ。部員はこれで全員だけど、八雲の持つ神器にシキガミと呼ばれる種族が宿っているのよ」

 

「シキガミ?」

 

『オレがそうだぜ』

 

一誠が首を傾げる中、霊体であるコゲンタが出て一誠に挨拶する。

 

『オッス! オレは白虎一族のコゲンタだ。よろしくな』

 

「あの、リアス先輩。そのシキガミって今はいるんですか?」

 

『だから目の前にいるだろ!』

 

「それとも、八雲の神器の中で寝てたりして……」

 

『もしもーし。聞いてるのかー?』

 

「「「「「……………」」」」」

 

『……この野郎、まさか』

 

そして、一誠を除く全員が理解した。一誠は悪魔になったばかりのこともあるのか、コゲンタに気付いていなかった……。


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