ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第5話:さよなら日常

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

草木も眠る丑三つ時。駒王町の隣町にあるビル内に、1人の男が逃げていた。

 

しかし、この男は普通の人間ではなかった。

 

耳が異様に尖っており、服装は研究者のような白衣を羽織った姿。懐にはカチャカチャと金属がぶつかり合う音がしており、走るたびに月明かりに照らされて反射するメスが見えた。

 

実はこの男、上級悪魔の下を逃げ出したはぐれ悪魔である。名前は『キョニー』と言う。

 

しかし、そんな名前もすぐに無意味なので覚えなくていいだろう。何故なら――

 

「見つけたぞ!」

 

「ひっ!?」

 

キョニーを捕縛する為に追い掛けて来るコゲンタが来たからだ。無論、捕まりたくないキョニーはすぐに逃げ出した。

 

「あの野郎、まだ逃げるのか?」

 

そして、コゲンタを追い掛けるように八雲も走って来ると、イヤホンタイプの通信機器を使って連絡を入れる。

 

「こちら八雲。リアス部長。標的の誘導に成功しました」

 

『ご苦労様。引き続き追跡をお願いね』

 

「了解」

 

短いやり取りを終えて八雲は再び追い掛けると、一緒に走るコゲンタは不満そうに言う。

 

「しっかし、今回は討伐じゃないから暴れ足んねえぜ」

 

「仕方ないだろ。依頼人からなるべく無傷で捕まえろって言われてるからな」

 

「何でだよ?」

 

「逃げた際に多くの私財やら道具やらを奪われたから、隠し場所を吐かせるんだとよ」

 

「でもよ、それらを売っ払ったかもしれないぞ?」

 

「かもな……。だけど部長命令だ。大きな抵抗をしない限り、威嚇のみだぞ」

 

「分かってるよ」

 

会話が終わり暫く走ると、曲がり角を行ったキョニーがすぐに別の道へと向かっていた。どうやら曲がり角には朱乃と小猫が待ち受けていた様で、八雲たちは朱乃たちと合流した。

 

すると、八雲は小猫を見て口を開く。

 

「どうした小猫? 不機嫌な顔をして」

 

「……何でもありません」

 

「……朱乃先輩。小猫の様子が……」

 

「うふふ、心配無用ですわ。この使い魔が私にちょっかいを出したくらいなので……」

 

朱乃の視線を辿ると、廊下に倒れている虫の様な使い魔が死んでいた。

 

「大丈夫ですか? 怪我とか……」

 

「ええ。ただ私の胸をつついたくらいなので」

 

その言葉に八雲は朱乃の大きな胸を見てしまい、すぐに視線を逸らした。

 

「……仕方ないよな。男だもの」

 

コゲンタの呟きに八雲は羞恥で頬を染める中、朱乃が通信機器からの連絡を受けており、すぐに八雲たちに言った。

 

「……どうやら、部長と祐斗くんが標的の捕縛に成功しましたわ。こちらも向かいましょう」

 

そして、八雲達はリアスの下へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「皆、お疲れ様。今日の昼には隠れ家から依頼人の私財を探すから、それまでよく休息しておいて」

 

「「「「はい」」」」

 

リアスがキョニーを捕らえて冥界へと転送した後、八雲たちはその場で解散となった。その際、朱乃たちは眷属のみが使える紅い魔方陣で帰って行く中、リアスと八雲だけがその場に残っていた。

 

「ご苦労様。八雲、コゲンタ」

 

「リアス部長も、ご苦労様です」

 

『……オレとしては、もう少し暴れたかったけどな』

 

コゲンタの不満にリアスは苦笑する。

 

「今回は特例だったのよ。仕方ないわ。それに犠牲者が出る前に捕まえられたし、相手も罪を認めていたから丸く収まっていいじゃない」

 

『まあ、そうだけどよ……』

 

「そう不貞腐れるなよ。何なら、俺と組み手でもして発散するか?」

 

『それは止めとくぜ。シキガミの掟に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうなのか。また新しくシキガミのことを知れたよ」

 

そう言って八雲は腕を組んで頷いた後、リアスの方へと体を向けて懐から1枚の闘神符を取り出した。

 

そして、八雲はリアスに闘神符を渡して言った。

 

「それじゃあリアス部長、俺達は帰ります」

 

「ええ。気を付けるのよ」

 

()()()()ので大丈夫ですよ。――それじゃあ、おやすみなさい。バイスです」

 

『じゃあな、リアスのねーちゃん』

 

「ええ。またお昼に」

 

そう言って、八雲は別の闘神符を地面に投げた瞬間に【転】と書かれた青い輝きをする八卦の陣が現れると、八雲が八卦の陣の上に乗った瞬間、青い光に自身が包まれた。

 

そして光が収まると、八雲の姿は無かったのだった。

 

……物語に支障は無いが、たまに八雲の口から発せられる『バイス』と言う単語は『さようなら』という意味を持ち、リアスたちも理解しているのだ。

 

 

 

 

 

 

八雲の自室の床に青く輝く八卦の陣が静かに現れると、八雲が現れた。

 

「……上手くいったな、コゲンタ」

 

『ああ。――それにしても、【転】の闘神符を使いこなすなんてな。神器を知ってから5日目で、いろんな種類を覚えたもんだな……』

 

そう言いながら、コゲンタは床に置かれた消滅中の闘神符を見た。

 

【転】の闘神符。その効果は、八雲がいる場所から違う【転】の闘神符へと転送出来る空間移動型の闘神符であり、先程リアスに渡したのも同じ【転】の闘神符である。今夜のはぐれ悪魔の捕縛場所までの移動も、その闘神符のおかげなのだ。

 

「防御の【壁】に、移動補助の【動】と【転】。攻撃用が無いのが駄目だな」

 

『……それじゃあ、攻撃用の闘神符を覚えることが次の目標だな』

 

「ああ。――さてと……取り敢えず、少し寝てから鍛練しないと」

 

『寝るって……3時間も無いんじゃないか?』

 

「昼寝で補うよ。――それじゃあ、おやすみ」

 

そして八雲はベッドに入るなり、意識を手放すと同時にある事に気付いた。

 

(……そう言えば、今日か。……兵藤の……デートは……)

 

これを最後に、八雲は完全に眠りについたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……1人の人物の運命の歯車が動き出した。

 

 

 

 

 

 

早朝、一誠は出掛けていた。理由は勿論、八雲が来た日から付き合いだした天野夕麻とのデートの為に待ち合わせ場所へと向かっていた。無論、3時間以上前に現地到着する様に計算して……。

 

「待っててね、夕麻ちゃ~ん♪」

 

人が少ない道を浮かれながら進み、道のりである公園を突き抜けようとした途中、見知った人物が視界に入った。

 

「あれって……?」

 

白い柔道着に紅い帯。そんな人物が拳を交互に突き出し、蹴り上げ、様々なキレのある動きの型をする演武に、一誠は一瞬だけ見惚れて感動した。

 

そんな中、視線に気付いたのか人物が一誠に声を掛けた。

 

「兵藤か。おはよう」

 

「やっぱり吉川か。お前って、格闘技でもしてるのか?」

 

「一通りは親父に教わった物だ。――ここいらの地理も分かったから、少し前から鍛練してんだよ」

 

そう言うなり、八雲は演武を再開しながら一誠に訊いた。

 

「それより、兵藤。朝早く、出掛けてるのは、彼女との、デートか?」

 

「おう! 今から待ち合わせ場所に向かうんだよ!」

 

「そうか。まあ、せいぜい、楽しんで、いけよ!」

 

「ああ! なあ、吉川。デートが終わったら、長々とデート初体験話を聞かせてやるからな! じゃあな!」

 

そう言い、一誠は待ち合わせ場所へと向かう中、再び1人となった八雲は動きを止めて一誠の背中を見つめていた。

 

「彼女かぁ……」

 

『……………』

 

「俺も、いずれは女の子と付き合ってみたいなぁ……」

 

『……………』

 

「……コゲンタ?」

 

『え? 何だ?』

 

「いや、俺が話してるのに何もリアクションが無いから……。どうした?」

 

『あ、あぁ……。少しな……』

 

そう言いながら、コゲンタは一誠の背中を睨み付けて誰にも知れずに呟いた。

 

『……………この符力、やっぱり昔どこかで感じたな』

 

 

 

 

 

 

八雲が鍛練をして時間が大分過ぎ、夕方の部室に八雲はいた。

 

現在、部室には八雲を含めてリアスと祐斗の3人だけであり、小猫と朱乃は仕事に出ていた。

 

リアスは部長席で、祐斗は部室のソファーに座りながら朝方リアスが用意していたケーキを食べており、そして八雲も祐斗と向かい合う位置でソファーに腰掛けてケーキを食べていた。

 

すると、唐突に祐斗が昼間の仕事について話し出した。

 

「依頼も完遂しましたね。依頼主の私財も無事でしたし、キョニーの狙いも分かりましたし……」

 

「……ええ。――でも、依頼主の私財がねぇ……」

 

呆れているリアスに、八雲も同調するように頷いた。

 

昼間、八雲はグレモリー眷属の手伝いでキョニーの隠れ家から様々な物を押収しており、その際に依頼人の私財を見つけた。

 

その私財とは、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だったのだ。しかも日本製のみといった徹底振りで、どうやら依頼主は相当なオタクのようだ。

 

「……冥界は日本のサブカルチャーが大ブームなんですか?」

 

「一部の悪魔だけよ」

 

八雲の言葉にリアスは苦笑する。後に、リアス自身の兄も日本のサブカルチャーに触れ、『とある特撮番組』を作り出すなど知る由も無かったが……。

 

『それにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()ではぐれ悪魔になるなんてな……。錬金術師の考えは分からないぜ……』

 

「それも、『合成獣(キメラ)』を作って人々から精気を取り出そうと考えていたみたいよ。……まあ、野に放たれる前に合成獣の苗は全部処分したから大丈夫ね」

 

リアスの顔が呆れた表情から安堵へと変わった。すると、突然部室の魔方陣が光りだした。

 

「あら? まさか私が呼び出されるなんて……一体誰かしら? まあ丁度いいわ。八雲、祐斗、今日はもう上がっていいわよ。また明日」

 

「あ、はい。お疲れ様でした」

 

『お疲れさん』

 

「部長、お気をつけて」

 

八雲、コゲンタ、祐斗が別れの挨拶をすると、リアスはそのまま転送されて部室には2人が取り残された。

 

こうして、八雲と祐斗は暫く部室で談笑すると、一緒に学園を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

時は数分前に遡る。

 

夕暮れの町外れの公園には一誠と夕麻の姿があり、そして夕暮れが近いのか辺りに人気はなかった。

 

そんな中、ただ今一誠のボルテージは頂点に達しようとしていた。

 

夕麻に告白されてからの初めてのデート。思い出にしようとほとんどをスケベに侵食された脳みそを搾り出したプランを、数十回ものシュミレーションを重ねた結果、一誠は夕麻との初デートを満喫した。

 

待ち合わせの3時間前に現地到着した後、手を繋いで歩き出した。洋服の店に入ったり、部屋に飾る小物を見たり、お昼は高校生らしくファミレスだったが美味しそうにチョコパフェを食べる夕麻の笑顔に癒され、これぞ若者のデートだと痛感した。

 

そして現在、2人しかいない公園で夕麻は一誠の手を離れて噴水の前へ歩く。

 

「今日は楽しかったね」

 

噴水をバックに夕麻が微笑んだ。

 

「ねえ、イッセー君」

 

「なんだい、夕麻ちゃん」

 

「私たちの記念すべき初デートってことで、1つだけ私のお願い聞いてくれる?」

 

「っ!?」

 

来た!

 

初デート、夕暮れの公園、別れ際……等々のワードが脳内で変換して組合わさり、エロい妄想が更にヒートアップする一誠は、夕麻に悟られない様に妄想を抑えて平静を装う。

 

「な、何かな、お、お願いって」

 

しかし声は上ずり、バレないかと内心でヒヤヒヤとする一誠に対し、夕麻は微笑むだけだった。

 

そして、夕麻ははっきりと一誠に向かって言った。

 

「死んでくれないかな」

 

「……………」

 

思考が止まった。

 

物騒なことを満面の笑みで言われ、一誠は一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

「……………え? それって……あれ? ゴメン、もう一度言ってくれない? なんか、俺の耳変だわ」

 

聞き間違いだと思い、一誠は訊き返す。

 

「死んでくれないかな?」

 

「……………」

 

どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

苦笑しながら「冗談きついなー、夕麻ちゃん」と、一誠が言おうとした瞬間、夕麻の背中から黒い翼が生えた幻想的な光景を、一誠は直視した。

 

「楽しかったわ。あなたと過ごしたわずかな日々。初々しい子供のままごとに付き合えた感じだった」

 

可愛らしい雰囲気から、冷たく怖い目つきに大人っぽい妖艶な声音となる夕麻。口元は冷笑を浮かべ、なんとも冷たい雰囲気となった瞬間、夕麻の手に光が集まり槍の形へと形成していく。

 

「ゆ、夕麻ちゃ――」

 

一誠は何がなんだか理解出来ずに立ちすくんだ瞬間――

 

ドン!

 

「…………………………え?」

 

鈍い音がしたかと思うと、気が付いた時には光の槍が一誠の腹を貫いていた。

 

槍を抜こうとしたが、ふっと槍は消えてしまい、残ったのはポッカリと空いた腹だけ。そこからドクドクと血が噴き出す。

 

血、血、血……………。

 

痛みは無いが、頭が朦朧とし、視界もボヤけ、ついには足元が崩れて倒れてしまった。

 

倒れ伏す地面に血の池が広がっていく中、ツカツカと一誠に近づく足音。そして耳に届くかすかな声は、夕麻のものだった。

 

「ゴメンね。あなたが私たちにとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ。恨むなら、その身に『神器』を宿らせた神を恨んでちょうだいね」

 

悪びれた様子もなくその場を去っていく夕麻に、残念ながら今の一誠には立ち上がるどころか問い質す事も出来なかった。

 

そうこうしている間にも血だまりは面積を広げていく中、意識が遠退くのを一誠は理解していた。

 

――マジかよ……。高校2年生で死ぬのか?

 

――まだ人生の半分にすら達してねえよ!

 

――こんな訳の分からない公園で、彼女に刺されてこの世とオサラバなんて笑えねえ!

 

今にも消えそうな意識の中、一誠の頭に出会った人々が浮かび上がる。

 

悪友の松田と元浜。学園で自分が覗き見をした数々の女子達。自分の彼女の自慢話を聞き続けてくれた転校生の八雲。そしてスケベでどうしようもないこんな自分を育ててくれた両親。

 

――……つーか、自室の各所に隠したエッチな本が死後に見つかるのはシャレにならねぇ……………ってか、死ぬ前になんでこんなロクでもないこと考えてるんだよ、俺……。

 

そんな考えの中、一誠は最後の力を振り絞り、どうにか手だけは動かす事が出来ると、腹の辺りを手でさすり、顔の近くまで動かした。

 

紅い……紅い、自身の血……。一誠の手のひらは彼の鮮血で染まっていた。

 

今際のきわ、一誠は1人の女性を思い浮かべた。

 

紅い髪をしたあの美人。学校で見掛ける度に、紅い髪が一誠の目には鮮烈に映っていた。

 

――……どうせ死ぬなら、あの美少女の腕の中で、死にたかったな……。

 

そんな事を思っていると、いよいよ視界がボヤけていき、一誠が意識を手放しかけた……その時だった。

 

「あなたね、私を呼んだのは」

 

突然、一誠の視界に誰かが映り込み、声を掛けてきた。目がボヤけてしまっているせいか、その声が誰なのか分からなかった。

 

「死にそうね。傷は……へぇ、おもしろい事になっているじゃないの。そう、あなたがねぇ……。本当、おもしろいわ」

 

興味ありげな含み笑いをしながら、声の主は言う。

 

「いいわ。どうせ死ぬのなら、私が拾ってあげるわ。あなたの命。私のために生きなさい」

 

鮮やかな紅い髪をなびかせ、リアス・グレモリーは言ったのだった。




少し短め。そして初っぱなからでたはぐれ悪魔は、OADに登場したキャラを参考に使いました。名前は巨乳から……まんまですね……。

しかし金髪巨乳が好きって、どこのもげろなのか……?

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