ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第3話:舞う赤札と黒い羽

リアスと朱乃が部室で過ごしてから、再び時は進んで夜となり、夜空には綺麗な満月が昇っていた。

 

現在、八雲は食後に自室のベッドに腰掛け、今し方装着した神 器(セイクリッド・ギア)……二十四気の神操機(シーズン・ドライブ)についてコゲンタから説明を受けていた。

 

「……なるほど。左右の手甲は各々役割があるのか」

 

『おう。――右腕の手甲は、オレ達シキガミの本来の力を解放させる『印』を切ってもらう為のもの。簡単に言えば、呪文詠唱や格闘ゲームのコマンド必殺技みたいなものだと思ってくれ』

 

「……頭に情報が送られた時に見た()()()()()()()()がそれか。あの蟹の怪物に強力な一撃を当てたのも、印のおかげだったんだな……」

 

『まあな。――次に左腕だけどよ、簡単に言えば自衛用だ』

 

「自衛用?」

 

八雲の言葉にコゲンタは頷く。

 

『例えば、オレ達を降神したくても出来ない状況があるとするぜ。その場合、八雲自身が戦うしかないだろ? まあ昔からオレ達は見てたから分かるが、八雲の実力ならそこいらの使い魔や低級悪魔なら渡り合える力と符力があるぜ』

 

「……そんなに強いと思ってないんだけどな」

 

『いや、お前とお前の親父さんが強すぎなんだっての。――話を戻すぜ。もし八雲しか戦えない状況でも、体は人間だから脆いし疲労困憊となって危機に晒されることもある。そこで、この左腕の出番だ』

 

「何が出来るんだ?」

 

『それはだな……………ん?』

 

左腕を突き出すコゲンタ。しかし、何かを感じたのかコゲンタは窓から夜空を見上げた。

 

「どうした、コゲンタ?」

 

『あれは……!』

 

コゲンタの視線を八雲は追うと、自身の視界に月をバックに飛ぶ何かが映った。

 

「鳥にしてはデカイけど、まさかコゲンタ……あれが」

 

『ああ、八雲が思ってる奴だ。それと……奴の通った空に、僅かだが血の臭いがした』

 

「何だって!?」

 

コゲンタの発言に八雲は驚くと共に神器を戻し、部屋を出ようとした。

 

『行くのか?』

 

「ああ」

 

『そうか。でも、これはリアスのねーちゃんたちが解決することだと思うぜ?』

 

「それでもだ。――もう、あの人たちと関わったんだ。俺の手が届く範囲は、何が何でも絶対に守る」

 

『お前の親父さんの言葉、か……。分かったぜ、八雲!』

 

八雲の決意にコゲンタは頷き、八雲は部屋を出て玄関へと向かい靴を履いた……その時だった。

 

「どこか出掛けるのかい?」

 

「っ!? お、おばあちゃん……」

 

振り返ると、そこに立っていたのは八雲の祖母であり和菓子店『つる屋』の店長でもある『吉川おつる』だった。高齢にも関わらず背筋は真っ直ぐであり、孫の八雲を可愛がっている可愛らしい人だった。

 

「えーっと、ちょっと運動がてら、ランニングをしようと思って、ね……」

 

咄嗟に考えた言い訳を口に出す八雲。すると、おつるは納得した様に頷いていた。

 

「そーかい。相変わらず息子に似て元気やねぇ。無理せんよう、気をつけんさいね」

 

「う、うん。それじゃあ、行ってきます」

 

そして八雲は出ると同時に心の中でおつるに謝罪すると、コゲンタの導きで目的地へと走って向かった。

 

「コゲンタ、奴はどこに……!」

 

『……あの軌道だと、どうやら昨日の公園の様だぜ!』

 

「急ぐぞ!」

 

その発言を聞いた直後、八雲の速度が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、八雲が初めてはぐれ悪魔に襲われた公園。月明かりに照らされるその場所に、2つの影があった。

 

「さて、そろそろ終わりですよ。可愛らしいグレモリー眷属の悪魔さん」

 

1つは、サラリーマンのスーツを着た男性だった。だがその背中には、カラスの様に黒い翼が生えており、両手には不気味な光を放つ槍が握られていた。

 

そう、この男は『堕天使』だった。

 

「……………」

 

もう1つは、放課後に部室で八雲と出会った小猫だった。しかし制服の所々が破れ、腕は負傷したのか血が滲んでおり、その場に膝をついていた。

 

何故、この様な状況なのか……?

 

それは時間を少し遡る。この名も無き堕天使は、()()()()()()()に賛同し、八雲が転校して来る前にこの駒王町にやって来たのだ。

 

その向かう途中、堕天使は力を得る為に駒王町へ着くまで多くの人間を殺し、快楽を満たすと共に殺した人間の魂を自分の力へと吸収していた。

 

そして、最後に堕天使は名のある悪魔かその眷属の死体を手土産にしようと考え、入手したグレモリー眷属の情報と自身の好みから、小猫を標的としたのだ。

 

「どうですこの力。多くの魂を糧としたおかげで、あなた位の悪魔など私の足下にも及ばないですよ」

 

「……………」

 

堕天使を睨み付ける小猫。しかし、堕天使は徐々に小猫へと近付いて行く。

 

「では、最後に言う言葉はありますか?」

 

「……………」

 

「黙秘権ですか。いやはや最近の悪魔はつまらないですねぇ。――あの方の大願成就の為に死になさい」

 

冷酷に吐き捨てる堕天使。そして、両方の光の槍を小猫に迫ろうとした……その時だった。

 

「私の下僕に手を出さないでもらえるかしら?」

 

小猫が聞き覚えのある声に気付くと共に、光の槍が弾かれて堕天使は小猫から距離を取ると、小猫を守るように朱乃と祐斗が現れ、堕天使の少し横にリアスが立っていた。

 

「大丈夫、小猫ちゃん?」

 

「……木場先輩」

 

「現れましたね。グレモリーとその眷属……」

 

「悪いけど、あなたと話すことは何もないわ。――下僕を傷付けた罪、あなたの死で詫びてもらうわ」

 

リアスの言葉を切っ掛けに眷属3人は堕天使に殺気を放つが、堕天使は余裕に笑みを崩さずに言う。

 

「おお、怖い怖い。あなた達3人相手だと勝ち目は薄くなりますね。だから――」

 

瞬間、堕天使は指を鳴らすと空中に無数の透明な球体が現れた。

 

「そんな物っ!」

 

しかし、リアスは自身を守る為、朱乃は小猫と祐斗も守る様に障壁を張り、堕天使の攻撃を防ごうとした。だが――

 

「少し弱ってもらいましょう」

 

堕天使の言葉の直後、球体は一斉に割れた。どうやらガラスの小瓶らしく、中に入ってある()()が、4人の体に降り懸かった。

 

「これは……!?」

 

「っ……ああああああ!!」

 

「小猫ちゃん!? ちっ、力が……」

 

そしてリアスが液体の正体に気付いた瞬間、小猫が苦痛の叫びを上げ、祐斗と朱乃が膝から崩れ落ちてしまった。

 

そう……液体の正体は、『聖水』だ。

 

「どうですか、私が直々に調合した聖水の威力……。傷に触れれば強烈な痛覚が襲い、量によって体力を奪う特別製なのですよ。ですけど――」

 

すると、堕天使の視線は倒れている3人から立っているリアスへと移した。

 

「いやはや、さすがグレモリーと言うべきか。あれだけの量を浴びても尚、立っているとは……」

 

「この程度で、私が倒れる訳に、いかないじゃない……!」

 

「素晴らしい! まさに『(キング)』の風格……………ですが、その様に弱っていく様を見るのは好かないんですよ。私……」

 

その言葉を最後に、遂にリアスも崩れ落ちてしまった。

 

「部長!?」

 

「リアス!?」

 

崩れ落ちるリアスを見て叫ぶ祐斗と朱乃。だが、堕天使は一歩、また一歩とリアスへと近付き、歪んだ笑みをしながら新たな光の槍を構え、高々に宣言する。

 

「さてさて、まさか私がグレモリー眷属を一網打尽に出来るとは夢にも思ってませんでしたよ。――そこで見ているのですよグレモリー眷属の悪魔達! この私に倒される貴様達の主のさい――」

 

しかし、堕天使の宣言は言い終える事はなかった。

 

「……………え?」

 

何故なら、リアスの前にいた堕天使の姿が無いからだ。

 

「あ、朱乃さん。今のは……?」

 

「今、堕天使の横に、何かが来て……」

 

祐斗と朱乃の反応に気付くリアスは2人の視線を辿ると、そこに堕天使がいた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()姿()()……。

 

「な、何なのだ……この8角形の魔方陣は一体……?」

 

「……あれは!?」

 

目を白黒させる堕天使をよそに、朱乃は()()()がやって来た軌道を辿ると驚愕した。

 

「……ええっ!?」

 

「……どう、して!?」

 

朱乃に続き、祐斗、小猫も気付き、リアスも視線の先に見つけて驚愕した。

 

「ど、どうして、ここに彼が……!?」

 

「……………え?」

 

そこにいたのは、拳を突き出し、唖然と見つめている八雲だった。

 

何故、このような体勢をしているのか……?

 

それにはまず、少し時間を遡らないといけない。

 

 

 

 

 

 

リアスたちが堕天使と対峙している頃、八雲は走りながらコゲンタの説明を聞いていた。

 

「お札?」

 

『ああ。左手に符力を集中すれば出てくるんだ。火炎弾や氷水弾といった副次攻撃。身体機能の簡易強化。障壁による防御とか、色々使えるぜ』

 

「用途が広いんだな。しかし、符力を集中ってどうすればいいんだ?」

 

『そうだな……手に何かを持つイメージをすれば出てくると思うぜ』

 

コゲンタの言葉に八雲は試してみようと、走りながら左手を前に持っていき集中した。すると、左手には1枚のカードが現れて八雲は足を一時的に止めた。

 

「……お札なのか?」

 

そう言いながら、八雲は裏表と交互に見つめる。

 

お札の大きさは、トランプとほぼ同じ。裏の中央には陰陽を表す対極図を八卦の陣で取り囲んだ模様に対し、表には何も描かれてなかった。

 

「……想像してたお札と違うな。どちらかと言うと、細長い紙で難しい文字が書かれた物だと思ったぞ」

 

『携帯しやすいからいいじゃねえか。――今出た札は、投げつければ障壁を作り出す【壁】の札だな。()()使()()()()()()()()とか思ってたからか、【壁】の札が出たんだろうな……』

 

「意外と的を射てるんだな。このお札……」

 

八雲の心理を的確に当てたお札に感心した直後、コゲンタの声が荒げた。

 

『……ッ! いたぞ、八雲!』

 

「なッ!? リアス先輩ッ!」

 

視線を向ける八雲。公園まで約10メートルの地点で視界に映ったのは、崩れ落ちたリアスに近付き槍を構える堕天使の光景だった。

 

「くそっ! ここだと間に合うかどうか……!」

 

『八雲、その札を投げるんだ!』

 

「投げるっても、距離が……………いや、あれならいけるか!」

 

何かを閃いたのか、八雲は構えた。

 

初めて神器を呼び出す為に行った構え。突き出させる拳にはお札が上手い具合にセットされ、目を閉じて精神を集中させた。

 

『おいおい……まさか拳圧で飛ばすのか?』

 

「……………その――」

 

そして目を開いた瞬間、捻った胴体を元に戻すと同時に――

 

「まさかだああああああああっ!!」

 

コゲンタの質問を叫ぶように肯定し、拳を突き出した。瞬間、お札が一直線に向かい堕天使との距離が半分になった頃、お札から八卦の陣が現れ、そのまま堕天使に激突してしまったのだ。

 

「……………え?」

 

『マ、マジかよ……』

 

堕天使を押し潰す光景に唖然と見つめる八雲とコゲンタ。だが、この状況を見てコゲンタはハッと気付いた。

 

『って、今のうちだ! ねーちゃんたちを助けにいくぞ!』

 

「お、おう。そうだな……」

 

そして、八雲は公園へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか!」

 

リアスに駆け寄る八雲。手を取り立ち上がらせると、リアスは口を開く。

 

「あなた、どうしてここに……?」

 

「コゲンタが堕天使の気配と血の臭いに気付いたんです。そして追い掛けてたら、この状況に出くわしたので……」

 

「そう、助かったわ。ありがとう……。――でも、この問題は私たちの問題なの。部外者であるあなたに関わってもらいたくない」

 

鋭い視線の言葉を向けるリアス。しかし、八雲は臆する事なく前を見据える。

 

「……関係なくないでしょ」

 

「え……?」

 

「例え国や種族が違っても、茶を飲み交わして話し合えば知り合いだ……。それに、目の前で危険に晒されてる奴を、俺は無視なんて出来ない!」

 

そして八雲はリアスたちを守る様に前へ出ると、解放された堕天使は八雲を見つけるなり憎悪を宿した視線をぶつけた。

 

「……ま、まさか仲間がいたとは計算外でした。しかし、よくも私に傷を付けましたね。その罪は死でもって償ってもらいましょう!」

 

「血の臭いを漂わせる野郎に、これ以上は先輩たちに指一本触れさせない。――いくぞ、コゲンタ!」

 

右腕を突き出す八雲。しかし、堕天使は槍を構えて八雲へと向かった。

 

「見た事のない術ですが、隙だらけですよ!」

 

「「「「吉川くん(先輩)!?」」」」

 

迫り来る堕天使の凶刃。悲痛に叫んだリアス達だが、八雲は臆する事なく唱える。

 

「シキガミ、降神!」

 

そして、堕天使の繰り出す槍は八雲に届かなかった。

 

「なっ!?」

 

「八雲に……手を出すな!」

 

何故なら……現れたコゲンタが堕天使の槍を、西海道虎鉄で防いでいるからだ。

 

「ぜらああああっ!」

 

そして右薙ぎにより槍を弾き飛ばした瞬間、コゲンタは堕天使の懐へと飛び込み、腹に蹴りを一撃与えた。

 

「ぐげぇっ!」

 

蹴り飛ばされ、顔を苦痛で歪ませる堕天使。間合いも元に戻る中、堕天使は余裕の笑みを浮かばせていた。

 

「魔獣使いでしたか。魂を糧とした私に一撃とは、その魔獣は強力ですね……。――しかし、魔獣ならこれで対処出来ますよ!」

 

取り出したのは聖水が入れられた小瓶。堕天使は小瓶をコゲンタに投げつけると小瓶が爆ぜ、中の聖水がコゲンタへと八雲に降りかかった。

 

「フハハハハ! これであなた達の死は確定した! 男はすぐに殺した後、女共には――」

 

その瞬間……勝利を確定した堕天使の発言は最後まで言えなかった。

 

「ごちゃごちゃうっせーんだよ!!」

 

何故なら、悪魔でも魔獣でもない八雲とコゲンタには聖水など効かず、コゲンタは堕天使の頬を力強く殴ったからだ。

 

「ば、馬鹿な!? 何故、私の聖水が効かないのですか!?」

 

「残念だけど、私は彼が悪魔だなんて一言も言ってないわ」

 

混乱している堕天使の質問に、朱乃たちを立ち上がらせるリアスが答えた。

 

「彼は私の眷属でもなければ悪魔でもない、只の人間よ」

 

「何だと!?」

 

「そう言うこった。シキガミに聖水なんて効かねえよ! 一気に決めるぜ、八雲!」

 

「ああ!」

 

印を空に切る八雲。その腕の速度は前回より素早く、コゲンタの力を解放した。

 

「必殺!」

 

「ひっ、ひいいいいっ!?」

 

恐怖のあまり動かない堕天使に対し、コゲンタはスライディングキックの要領で堕天使を空中へと蹴り上げ、コゲンタ自身も追い掛ける様に跳んだ。

 

怒涛疾風牙(どとうしっぷうが)!!」

 

跳躍直後、コゲンタは堕天使に一撃を当てると、空中を蹴る様にして急速ターンを行いまた一撃。

 

「オラオラオラオラ!」

 

縦横無尽に空中を駆け巡り、堕天使は空中に留まる様にコゲンタの攻撃を受け続け、翼の羽が舞っていた。

 

「これで……終わりだあああああっ!!」

 

そして、コゲンタは堕天使に止めの一撃を行おうと仕掛けた。

 

「……………ッ!?」

 

「うおッ!?」

 

しかし、最後の攻撃を堕天使は力を振り絞り回避し、コゲンタの爪は空を切った。

 

「ここ、こんなところで死ねるかぁっ! 絶対に貴様を殺してやるからな! 覚えてろ!」

 

そのような捨て台詞を言い、堕天使は八雲たちの前から逃げ出した。

 

だが、コゲンタは八雲に言った。

 

「追い掛けるぞ、八雲。あれを野放しにしてたら、また犠牲者が出るぞ」

 

「ああ、分かってる」

 

「待って!」

 

動き出す八雲達に、リアスが声を掛ける。

 

「私も連れて行きなさい。このまま舐められては、グレモリー家の恥だわ」

 

「でも先輩、その体じゃあ――」

 

「お願い」

 

真っ直ぐに八雲を見つめるリアス。強い意思と決意を感じ取り、八雲は頷く。

 

「……分かりました。一緒に追い掛けますか」

 

「ありがとう。――朱乃、小猫の治療をお願い。祐斗は2人を守って」

 

「畏まりました」

 

「分かりました。部長、気を付けて下さい」

 

リアスの指示に従う朱乃と祐斗。そして、八雲もコゲンタに指示を出す。

 

「追い掛けられるか、コゲンタ?」

 

「空を飛んでるしな。全力で走れば、オレは行けるぜ」

 

自信満々に宣言するコゲンタ。暫く考えた八雲は、コゲンタに声を掛けようとした。

 

「分かった。じゃあ――」

 

――待たれよ、八雲殿。

 

「ん?」

 

「「え?」」

 

刹那、八雲は名を呼ばれて反応し、リアスと祐斗も八雲の方へ目を向けた。

 

「部長、今のは……?」

 

「……はっきりと何か聞こえたわよね?」

 

「僕の場合、ノイズが掛かったみたいではっきりとは……」

 

――すまないな、グレモリーの娘とその眷属の剣士よ。今の状態では八雲殿や我輩たち(シキガミ)の他、純血の種族にしかよく聞こえんのだ。

 

「じゃあ、あなたもシキガミなのね」

 

――いかにも。……して、八雲殿。あの堕天使、我輩が倒してみせましょう。よいか、コゲンタ。

 

「……………」

 

謎の言葉に若干コゲンタは乗り気ではなかったが、()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

暫くして、コゲンタは舌打ちをする。

 

「ちっ、分かったよ。交代だ、交代……」

 

――では八雲殿。札に我輩を思い浮かべ、コゲンタへ投げて下さい。然すれば別のシキガミへと入れ替えが可能ですぞ。

 

声に従い、八雲は目を閉じて集中し、声の主を思い浮かべた。

 

声色からイメージして、誇り高き軍人気質。そして見えた青い鱗を持つ者を……。

 

「……………はあっ!!」

 

お札をコゲンタに投げ付けた瞬間、コゲンタと入れ替わる様にして新たなシキガミが現れた。

 

 

 

 

 

 

その頃、駒王町上空に逃げた堕天使は、弱りながらも逃げていた。

 

「くそっ、下等種族ごときに無様な姿にされるとは……」

 

堕天使の憎悪は、現在八雲とコゲンタに向けられていた。

 

初めて自身の戦績に黒星を付けられた相手であり、この事実を()()()()()()()使()に知られてしまえば全てが終わってしまう。そう思いながら、堕天使は新たな策を練っていた。

 

(傷を癒したら、まずはこの辺りの人間を殺して力を蓄えなければ……。そして、いつか必ずあの者達を葬って――)

 

「チェストオオオオオッ!!」

 

「な――」

 

ザシュッ!

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

しかし……策に夢中のあまり、堕天使は()()()()()()()()()()、片翼を斬られてしまった。

 

「い、一体何が……………っ!?」

 

落下しながらも、堕天使は翼を切り落とした犯人を見て驚愕する。

 

「な、何……だと……!?」

 

堕天使の視界に映るのは、青い鱗を持つ西洋の竜を思わせる獣人的な外見を持つ者。背中の翼を大きく広げ、手には変わった形の矛を持ち、その者の視線は墜ちていく堕天使を終始見つめていた。

 

そして、堕天使は偶然にも駒王学園のグラウンドへと墜落したのだった。

 

 

 

 

 

 

「墜ちてますね、先輩」

 

その頃、八雲はリアスと共に堕天使を追跡しており、堕天使が墜落している中、八雲たちも学園へと向かっていた。

 

「そのようね。――それにしても便利ね、そのお札。移動用の魔方陣も展開出来るだなんて……」

 

言葉の通り、八雲とリアスの移動は八卦の陣に乗って移動していた。無論、これは八雲のお札から出した【動】のお札の効力である。

 

そして2人は学園に到着した直後、土煙の中に落下した堕天使が倒れていたが、ふらつきながらも立ち上がっていた。

 

「逃げても無駄だ。大人しく諦めろ」

 

「……………ったんだ……」

 

「ん?」

 

何かを呟く堕天使に八雲が反応した瞬間、堕天使は激昂した。

 

「貴様が現れなかったら、私はあの方のお側に近付けたんだ! それを貴様が……貴様がああああっ!!」

 

半狂乱になりながらも、堕天使は槍を新たに出して八雲へ駆けてくる。しかし八雲は臆する事なくその場に立ち、右腕を動かした。

 

「震、兌、震、離」

 

「終わりだあああああっ!!」

 

「危ない!?」

 

八雲が発し、堕天使が凶刃を向け、リアスが叫ぶ。そして――

 

「必殺、螺子式貫通波(スクリューかんつうは)!!」

 

上空から竜巻が一直線に地上へ向かい、堕天使に直撃した。

 

「外道め……八雲殿に触れるな!」

 

その言葉と共に1人のシキガミが八雲の前に降り立つと、堕天使が八雲に手を伸ばそうとした。

 

「……す、みません、でした……………。ど、どうか助けて――」

 

「駄目だ。多くの命を奪った罪……自分と、お前の仲間の命で償え」

 

しかし堕天使の命乞いを切り捨て、八雲は最後の断罪を言い放つ。

 

「最後だ、ブリュネ。――坎、坎、離、震」

 

青ざめる堕天使。そしてシキガミである『青龍のブリュネ』が光り輝き、それは現れた。

 

「必殺、究極竜護符変化(フィネールデュラガン)!!」

 

青いドラゴンの姿を象ったオーラとなったブリュネ。巨大な口が開いた瞬間、堕天使を喰らい急上昇した。

 

「欲に埋もれ、人々の命を奪った堕天使よ。――塵となり滅せよ!」

 

刹那、堕天使は天高く放り出され、急下降したドラゴンの口から飲み込まれた。

 

「レ、レイナーレ様あああああ!!!?」

 

断末魔と共に消滅する堕天使。そしてドラゴンが通った跡に舞う黒い羽を、八雲とリアスは見たのだった。

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、八雲とリアスは眷属たちが待つ公園へと戻ると、治療を終えた小猫が口を開いた。

 

「すみません、部長。ご迷惑を掛けました」

 

「謝ることなんてないわ。それに、私たちを助けてくれたのは彼よ」

 

「ありがとうございます、吉川先輩」

 

「別にいいよ。俺はただ、皆を助けたかっただけだしな……」

 

「それでもよ。今回は本当に助かったわ。私からも礼を言わせて」

 

「は、はあ……」

 

小猫とリアスの言葉に八雲は照れて視線を背けると、暫くして八雲がリアスと向かい合った。

 

「リアス先輩」

 

「……何かしら?」

 

「俺、これからもシキガミ(仲間)たちと一緒に守っていきますよ。この町の皆を……先輩たいを……」

 

「……………」

 

決意と覚悟が宿った八雲の瞳。朱乃、祐斗、小猫が見つめる中、暫くしてリアスは小さな溜め息を吐いた。

 

「覚悟は本物みたいね。分かったわ……。――吉川八雲くん。それにコゲンタ」

 

「はい」

 

『え、オレも?』

 

そして、リアスの声色で何かを悟った眷属たちも微笑む中、リアスは2人に言った。

 

「私達はあなた達を、オカルト研究部の一員として歓迎します。これから『シキガミ使い』として活躍してもらう予定だから……覚悟しておきなさい、八雲!」

 

「……はい!」

 

『ちょっと待ったぁ!』

 

リアスの笑顔に八雲は返事をする中、コゲンタが異見した。

 

「どうしたコゲンタ? そろそろ終わる頃なのに……」

 

『ちょっとした訂正だ、八雲。――リアスのねーちゃんよぉ……。その『シキガミ使い』って呼び方はやめてくれ。八雲にそんな二つ名は似合わねえんだよ』

 

コゲンタの言葉にリアスは口元に手を当て、暫く考えると納得した。

 

「……………確かにそうね。あなたたちと八雲の関係って、そこらの魔獣使いと別物の雰囲気を感じたし……」

 

「では部長。もっと洒落た名を考えてはどうでしょうか?」

 

「そうね。新しい部員に相応しい名を、私たちで考えましょう」

 

「はい!」

 

「……はい」

 

「……えーっと、俺はどうすれば……」

 

朱乃の言葉にリアス、祐斗、小猫が賛同する中、八雲は戸惑っていた。

 

「『シキガミ戦隊』はどう?」

 

「では、『吉川一座』ではどうでしょうか?」

 

「……『八雲先輩と愉快な仲間たち』」

 

「『シキガミマスター』。……いや、なんだかゲームの称号みたいだね……」

 

リアス、朱乃、小猫、祐斗が考え出た名を次々と言う中、八雲はそんな光景を見て微笑んでいた。

 

「……本当に、守れてよかった」

 

『……ああ、そうだな』

 

「コゲンタ。……俺、もっと強くなるよ。だから――」

 

八雲はコゲンタに手を差し伸べて言った。

 

「これからよろしくな」

 

『……ああ! オレ達と一緒に、悪党と闘って町を守ろうぜ。――だから八雲。親父さんみたいな(つわもの)になろうぜ!』

 

そしてコゲンタが八雲の腕を取り、決意と約束を願った握手をした。霊体にも関わらず、八雲とコゲンタは互いの心に暖かさが染みたのだった。

 

「「「「……………」」」」

 

「……ん?」

 

『お前ら……何見てんだよ』

 

そんな中、2人の光景を見た4人の内、リアスが口を開く。

 

()()()()()()()()()()()、ね……。――決まったわよ、八雲」

 

自身に満ち溢れ、リアスは改めて八雲に言った。

 

「あなたはこれから、『闘神士(とうじんし)』として活躍してもらうわ。皆もいいわね?」

 

リアスの言葉に朱乃たちも頷くと、改めてリアスは八雲に手を差し伸べた。

 

「よろしくね、八雲!」

 

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

そして、八雲は全員に握手を交わすのだった。




今さらですが、八雲の姿はアニメ版『陰陽大戦記』の『吉川ヤクモ』ですが、性格などは全くの別人だと思って下さい。

それと初登場のおつるさんの姿は、『ケロロ軍曹』の『日向秋奈』をイメージしてます。

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