ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~ 作:仮面肆
『聖剣計画』。
カトリック教会が秘密裏に計画し、剣に関する才能と神器を有した少年少女を被験者にして行われた、聖剣に対応した者を輩出するための非人道的な実験。
被験者は散々実験を繰り返され、自由を奪われ、人として扱われず、生を無視された。
だが、彼らは耐え続けた。特別な存在になれると信じて、神に愛されていると信じ込まされて、その日が来るのを待ち焦がれながら生きてきた。
その結果が、被験者たち……聖剣に対応できなかった者たちの処分だった。
施設の一箇所に集められた際、被験者たちは一切恐怖を抱かなかった。だが、研究者に撒かれた毒ガスにより倒れ、一つ、二つと命が次々と消えていき、ようやく彼は理解した。
ああ、自分は殺されるのだ、と。
そして彼がいた被験者グループの番となり、毒ガスが散布される。息を止めようにも限界があり、微量ながらガスを吸い込み、呼吸のために徐々に体へ取り込んでしまう。
全身に痛みと痙攣、朧気になる視界の中、被験者の1人が研究者を突き飛ばし、強引に扉を開けては彼を逃がした。
「逃げて! あなただけでも!」
その言葉に、彼は研究施設を脱出した。死にたくない一心で、追っ手に執拗に追われながらも、最後の最後まで逃げ続けた。
だが山の森、雪が降る中で訪れた死の兆候。ついに彼は静かに倒れ込み、意識が消失する中、視界に
「あなたは何を望むの?」
薄れていく視界に、紅髪の少女の微笑みを彼は見た。
それが彼……木場祐斗とリアス・グレモリーとの出会いだった。
◇
「同志たちの無念を晴らしたい。いや、彼らの死を無駄にしたくない。僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはいけないんだ……」
その言葉を最後に、祐斗は自身の過去を語り終えた。以前リアスにも祐斗の過去を聞かせてもらったが、悲しい過去に八雲たちは沈痛の面持ちで静かに聞いていた。
「う、ぅぅぅぅ……………ッ!」
そんな中、1人のすすり泣く声が聞こえて自然に視線が向けられた。
このメンバーの中でただ1人、祐斗と聖剣の関係を知らなかったシトリー眷族である元士郎だった。今の元士郎の顔面は、目、鼻、口と、顔から出る汁を出しては号泣していた。
「木場ぁ! 俺は今、非常にお前に同情している! 辛かっただろう、キツかっただろう! その施設のヤツらやエクスカリバーに恨みを持つ理由も分かるぞ!」
そんな表情で力説する元士郎を誰も笑わない。その熱い気持ちに一誠は無理矢理連れて来て申し訳なかった気持ちが消え、八雲も感心するように頷いた。
「俺も協力するぞ! ああ、やってやるさ! 会長にいいとこ見せるよりも、俺たちでエクスカリバーの撃破だ! 俺も頑張るからさ、お前も頑張って生きろよ! 絶対に救ってくれたリアス先輩を裏切るな!」
顔面汁まみれな元士郎が祐斗の手を取り言う中、多くのシキガミたちも現れては言った。
『微力ながら、我輩も是非協力させてもらおう』
『例え邪魔が入っても、この剣で木場の道を守り抜こう』
『それにしても、意外と根性あるんだなシトリーの『兵士』さんよぉ。オレっちも根性見せねえとなぁ!』
ますますエクスカリバー破壊に積極的になるシキガミたち。すると、汁まみれな顔を拭った元士郎が唐突に言った。
「いい機会だ。俺の話も聞いてくれ! 共同戦線張るなら俺の事も知ってくれよ!」
その行為は悪くない案だと八雲は思った。他人を知れば小さな絆が生まれ、それは様々な事に繋がるのを知っていたからだ。
そんな思いの中、気恥ずかしそうにしながらも瞳を輝かす元士郎。彼の口が開いた。
「俺の目標は……………ソーナ会長とデキちゃった結婚をすることだッ!」
『『『『『……………え?』』』』』
「でもな、デキちゃった結婚ってモテない奴にとってみたらハードル高いんだぜ? そもそもデキちゃう相手がいないし……。でも、いつか会長とデキちゃった結婚するんだ、俺……」
『『『『『……………』』』』』
気恥ずかしそうにしながらもランランと瞳を輝かせて語る元士郎。その結果、殆どの者の表情から先程の熱意が徐々に消え、困惑することとなった。
だが、ただ1人、元士郎の理解する者がいた。
「ッ!!!」
元士郎の告白に共感し、滝のように涙を流してはその手を無言で取り、一誠は確信した。
同じであり、同類であり、同種であり……同志だった。
「聞け、匙! 俺の目標は部長の乳を揉み……………そして吸うことだッ!」
「……ッ!!!」
一誠の力説に元士郎は目を見開き、再び涙を流す。既に雰囲気は別の熱気が発生していた。
「ひ、兵藤ッ! お前は分かってるのか? 上級悪魔……しかもご主人様のお乳に触れるのが、どれほど大きな目標かということを」
「匙、触れるんだよ。上級悪魔の……ご主人様のおっぱいに俺らは触れられるんだよッ! 実際、俺はこの手で部長の胸を揉んだことがある」
「そんな……嘘だろッ!? そんなことが可能なのか!?」
「嘘じゃない。ご主人様のおっぱいは遠い。けど、追いつけない程の距離じゃないんだッ!」
「……………いつまで続くんだ? このスケベ談義は」
聖剣を奪取した者たちが、この駒王町のどこかにいるのは教会側の説明で聞かされた。だが、たかが地方都市でも広い。探すには膨大な時間がかかり、盗人が逃げる時間が増えてしまう恐れもある。
人海戦術で探すにしても、教会側を含めて計8人。単独捜査で行けば発見は早いが、戦闘になった場合の危険度が跳ね上がり、取り返しのつかない可能性が出てしまう。
『なあ、八雲』
「ん?」
『オレたちにいい考えがあるぜ』
そんな八雲の悩みに、コゲンタは自信満々な笑みを浮かべた。
◆
『このあたりでいいぞ』
コゲンタの言葉に全員の足が止まる。
ファミレスで行われた長い語らいは、一誠と元士郎の信頼を構築することに成功した。だが、熱意からなのかテンションが高い中、一誠は八雲にも何か告白しろと言われたのだ。
メンバー内の男子で目標を語ってないのは八雲のみ。小猫は半目で「イヤです」とキッパリ拒否し、くぅろはファミレスの料理に夢中で言わなかった。そして、八雲もコゲンタの提案を聞いてすぐに行おうと思い、全員に説明してはファミレスをあとにしたのだ。
結果、ファミレスでの語らいは一誠と元士郎の信頼が構築され、祐斗のはぐれ悪魔への道を閉ざすなどプラスに働いたのだった。
そして現在、八雲たちがいる場所は路地裏の広い空間。ファミレスからも近く、尚且つ人目がつかないような所だ。そんな場所の四隅に八雲は【隠】の闘神符を投げ、人払いの結界を発動させては『二十四気の神操機』を装着した。
「シキガミ降神!」
前に突き出した腕の前に『窓』が開かれ、現れたシキガミは猫の獣人的な外見を持っていた。隠しきれない色気が出された体に、胸元が大きく開いたチャイナ服が更に色気を拡散。その色気に一誠の鼻の下が伸びては小猫に制裁が加えられる中、シキガミが言葉を発する。
「豊穣のルリ、見参」
「ルリ。早速だが頼む」
「いいわよ。そこのイケメン君の目標達成に協力するわ」
その言葉とともにルリは首にかけていた『陰陽鎖・
「あ」
真っ先に反応したのは小猫。自分たちに近づく複数の気配を感じ取り周囲を見渡すと、ゾロゾロと現れた。
「にゃあ」「みゃあ」「んなー」
「なーご」「みー」「ふみゃー」
「んあー」「なー」「んみゃー」
猫、猫、猫、猫………………。
「って、どんだけいるんだよ!?」
一誠の言葉に全員が同意した。何せ、この場に現れた猫は数十匹もなり、あっという間に足の踏み場もないのだ。
「このくらいでいいかしら……。――ねぇ、あなたたち。この辺りで最近、怪しい人間を見かけたことはあるかしらはいそこのきじとら柄ッ!」
色っぽい声色でルリが猫たちに訪ねる。いきなり指名された猫は驚くが、その猫の鳴き声に納得するような相づちをするルリの行動に、一誠が八雲に訪ねる。
「なあ、八雲。本当にこれで分かるのか?」
「さあな。だけど、この猫たちの方が町の隅々まで知ってるだろうよ。協力を司るルリだから可能な手段だし、先行投資も買ったからな」
これこそコゲンタたちシキガミが考えた作戦だった。
豊穣一族が司る力は『協力』。豊穣一族の秘伝の舞で猫を呼び集め、最近の出来事を教えてもらい犯人探しに協力してもらおうとしているのだ。
無論、ただで情報を貰う訳ではない。ルリはギブ&テイクを心情にしており、情報をくれた猫に八雲が道中買った煮干しを数匹渡して情報料を払っている。その結果、後に数匹の猫がルリに町の情報を持ってきては餌を貰い、小さな情報ネットワークが形成されるのだった。
「ふぅ……。八雲、終わったわよ」
そんな未来を知らない八雲たち。すると、いつの間にか猫たちは姿を消しており、ルリが八雲に結果を報告した。
「この数日での犯罪者は複数。空き巣、ひったくりとかの犯罪を起こした人間もいたみたいけど……殺人で、しかも白髪の神父服の男が1人いたようよ。まあ、恐怖ですぐに逃げたからどこにいるのか知らないようだったけど……」
「それと、何匹かは人間の姿をした人形と接触したみたいよ」
「人形? まさか、前に戦ったメイド服のか?」
「外見を見た子もいたから合ってると思うわ。何でも、箱に入れられて川に捨てられた時に助けてもらったとか、野良仲間の集会にたまに現れて餌を貰ったとか、近所のお婆さんが歩道橋を上がる時に背負ってあげたりとか、そんな話が聞けたわ」
「なにそのいい人」
それから暫くしてルリの報告は終わり、この場で全員解散することとなった。
祐斗はいつでも戦えるように準備をする為に帰り、一誠、小猫、元士郎は
だからなのか。八雲は声を発し、くぅろは闘神銃を構えた。
「……そろそろ出てきたらどうだ、おふたりさん」
その言葉に若干遅れ、アハハと苦笑するイリナと、目を細めるゼノヴィアが現れた。
◆
八雲と教会側が出会っている頃、コカビエル一派の隠れ家である廃教会。レイナーレがアーシアの神器を奪うために行った儀式の間である地下に動きがあった。
以前の地下空間はグレモリー一行とレイナーレ配下の悪魔祓いたちの乱戦が繰り広げられて崩壊寸前だった。だが今はそんな形跡などなく、まるで新築のような一室へと戻っていた。
「フンフンフ~ン♪」
そんな地下空間で、上機嫌な鼻歌を口ずさむ人物がいた。
雪のように綺麗な白い肌、宝石の如く青い瞳、腰まで届く金髪、そして小学生のような体型の少女が、目の前に浮かんでいる複数の魔法陣を見ながら、楽しそうに手袋をした手を動かしていた。
少女のピアノを奏でるような指さばきに連動するように、魔法陣が世話しなく紋様を変化させる。それが暫く続くと同時に、1つの魔法陣に変化が訪れる。
その魔法陣を簡単に説明すれば、設計図。
人の形を象ったソレが、別の小さな魔法陣に被さっては形を変える。それが数回される内に、設計図のソレは完成された。
「こんなものかナー。そんじゃまあ、実行っト!」
設計図を見た少女が納得するように喋り指を鳴らす。すると設計図が眩い光を放ち、設計図のソレが具現化したではないか。
無機質で金属の装甲、性能面を追求した体格、鋭利な刃を連想させる黒い鋼の翼。
機械の堕天使が降臨した。
「かーんせーい。とりあえず『機体堕天使(仮)』の名称で、このフォルダに保存しちゃいましょうカ」
そんな中、少女の着けている手袋が機械の堕天使を光の粒子にして吸い込まれると、地下空間の扉が開いた。
「ただいま戻りました、マスター」
現れたのは、以前八雲と戦ったオートマータと呼んだ人形少女のマルフだった。同じメイド服を身につけ、その手にはコンビニ袋を持っていた。
「お帰りマルフ。さてさて、頼んだ物は……………って、マールーフー」
近づくマルフに少女はコンビニ袋を奪うと中身を確認した。だが、笑顔だった顔が次第に眉をハの字に変え、マルフを睨む。
「アタシが頼んだのと違うのがあるんだけド。カスタードホイッププリンが、どうして普通のプリンなわけサ?」
「残念ながら売り切れだったのです。この町にある同じコンビニでは隣町まで行かなければなく、雇主との契約ではこの町に離れられないので買えなかったのです」
「ムムム、売り切れなら仕方ないナ。全く、契約の行動範囲はもう少し広めにしてほしかったさネ……」
無表情で答えるマルフに少女は納得してない表情をしているが、プリンを一口食べてはすぐにニコニコ笑顔となった。
そして少女がプリンを食べ終えるのを見計らい、マルフが話しかける。
「ところでマスター。進捗具合はどうですか?」
「ついさっき完成したヨ。物量を優先してるから性能面は中級以上で上級未満。武器に関してはワンオフじゃないから、量産品を使うサ」
「それで雇主が納得しますかね?」
「こっちも商売で契約してるんダ。積まれた金額に応じて、アタシは契約者の要望に答えた人形を作りだス。その後の人形の扱いは契約者が責任を持って取り扱うことサ」
少女が言い終えると、新たな魔法陣の設計図を空中に浮かばせては作業を開始した。
「そんじゃまあ、アタシは他の契約者の人形を作らないといけないサ。終わるまでは、マルフの今日の晩ご飯を楽しみにしながら仕事するヨ」
「畏まりました。ですが、何度も言いますが休憩もしてください。もういい歳なんですから」
「アハハ。このカーディナル家が家長、キテュン・カーディナル。まだ40にもなってないから、徹夜しても平気へっちゃらサ」
そんな軽口を聞き、マルフはヤレヤレと顔を振っては地下空間を出たのだった。
「さーて、始めますかネ」
そして
1年以上の更新ですいませんでした。orz