ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第31話:結成、聖剣〈エクスカリバー〉破壊団

「……………」

 

『……………』

 

「……………」

 

『……………』

 

「……………」

 

『……だぁぁぁッ! いつまで黙ってるんだよ!』

 

しびれを切らしたコゲンタが叫んだが、八雲は頷くだけで再び考え込んでしまう。

 

放課後の騒動から数時間が経過した。一誠と祐斗(悪魔側)ゼノヴィアとイリナ(教会側)の戦いは、教会側の勝利で幕を閉じたのだ。

 

思えば敗因要素は多くあったが、中でも印象なのは祐斗が普段の力を出しきれていないのが大きい。相手のゼノヴィアと力比べをした時点で、八雲は内心呆れる様に呟いたくらいだ。

 

そして、勝負が決まった後に祐斗が立ち去ったのだが、その別れ際でのリアスの悲しそうな顔に、八雲も一誠達も見ていられなかった。

 

これが、前回の勝負の回想である。

 

「コゲンタ」

 

暫くして考え込んでいた八雲は名を呼ぶと、コゲンタは笑みを浮かべていた。

 

『分かってるぜ。今、八雲が考えてる事なんて、オレ達には筒抜けだしな』

 

「そうか。なら、協力してくれるか?」

 

『ああ!』

 

「ありがとう。明日は学園も休みだし、朝から行動するか」

 

「何の行動ですか、御主人様?」

 

八雲が小さく呟くと、不意に背後から声をかけられては振り向いた。

 

そこにいたのは勿論くぅろだった。先ほどまで風呂に入っており、髪はしっとりしていた。

 

「いや、祐斗の事でな……。ダチの為にも、ちょっとお節介を焼こうと思ってな」

 

「お節介、ですか? なら、私も協力させてください!」

 

『おいおい、大丈夫か? くぅろの実力は認めてっけどよ、事件の首謀者や教会側に危険視されるんじゃねえか?』

 

「それでもッ!」

 

心配するコゲンタをよそに、くぅろは八雲に体を密着するほど乗り出した。

 

「御主人様がお友達の為に危険を承知で進むなら、私は御主人様の為に身を挺してでも守りますッ! だから、私にも協力させてくださいッ!」

 

くぅろの言葉に感化されて正面を見る八雲。くぅろの瞳には揺らぎない決意を宿しており、暫く見つめていた八雲は苦笑して一言。

 

「……くぅろ、お前の覚悟は受け取った。だけど一つだけ言っとくぞ。俺がお前も守ってやる。だから、お前はお前の成すべきことをやるんだ」

 

「御主人様……」

 

八雲の言葉にくぅろは頬を赤く染める。その表情は先ほどの決意に満ちた顔から一変し、まるで恋する乙女であった。

 

『あー……もういいか?』

 

しかし、コゲンタの言葉に反応しては八雲はくぅろを体から離れさせた。

 

「お、おう。そうだな。それじゃあ、明日の行動なんだがーー」

 

 

 

 

 

 

翌日、八雲とくぅろは駅前のベンチで座っていた。

 

昨日の事もあり、今朝の鍛練では一誠とリアス、アーシアは不在であったが、八雲達は鍛練を終えてすぐに家を出たのだ。その際、朝食も取らずに出てしまったので、それぞれの膝上には駅前のハンバーガーショップで買った商品が入った紙袋が置かれていた。

 

すると、八雲は紙袋からハンバーガーを取り出しては話し、ハンバーガーを食べているくぅろは耳を傾ける。

 

「それじゃあ、昨日の確認だ」

 

「ふぁいッ!」

 

「祐斗はエクスカリバーを憎んでいる。その憎しみのせいで昨日、リアス部長の言葉に従わなかったのは知ってるな……はむっ」

 

「……んぐっ、はい。勝負の後、部長の静止を無視してどこかに行きました」

 

「……………ごくっ。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、俺は考えた」

 

「そこで、この前に御主人様が会った首謀者の神父を見つけるんですね」

 

「そうだ。見つけるには俺達だけでも相当な時間も掛かるが、ダチの為に頑張るしかない」

 

ふぉ()うですね。……むきゅっ、それじゃあ、どこから向かいますか?」

 

「そうだな……」

 

くぅろの言葉に悩みながら、八雲は残りのハンバーガーを頬張っては何げなく空を見上げると、それは突然に起こった。

 

「嫌だぁぁぁぁッ! 俺は帰るんだよぉぉぉぉッ!」

 

「んぐ!?」

 

「ちょ、御主人様!?」

 

聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえたせいで、八雲は喉を詰まらせてしまうが、くぅろがドリンクを渡したので大事に至らなかった。

 

「……………っ、ぷは~……。今の声って……」

 

そして八雲は声の方へ視線を向けると、そこにいた。

 

「兵藤! どうして俺なんだよ! それはお前ら眷属の問題だろう!? 俺はシトリー眷属だから関係ねぇ! 関係ねぇぇぇぇぇッ!」

 

「そう言うなって、匙。俺が知ってる悪魔で協力してくれそうなのはお前だけなんだよ」

 

「ふざけんなッ! 俺がてめぇの協力なんてするかよ! そんな事したら、俺は会長に殺されちまうだろうがぁぁぁぁッ!」

 

「「……………」」

 

号泣する元士郎を逃げないように捕縛する小猫。そして毒気を抜かれた様子で立ち尽くす一誠という、珍しい組み合わせが八雲達の視界に入っていた。

 

「お前んところのリアス先輩は厳しいながらも優しいんだろうよ! でもな! 俺んところの会長は、厳しくて厳しいんだぞッ!」

 

恐怖で青ざめる元士郎。しかし、その絶叫は適当に頷く一誠といつもの無表情の小猫に流されるのであった。

 

「……………あ」

 

そんな中、小猫はある方向に顔を向けた事で八雲達の存在に気付いた。

 

「ん? 小猫ちゃん。どうかした……………あ」

 

「よっ」

 

そんな小猫に釣られるように、一誠も同じ方向に顔を向けると、八雲が手を上げていた。

 

 

 

 

 

 

「すると、2人も俺と同じ考えだったのか」

 

「まあ、そうだな。でも、イッセーほどに考えてなかったな。俺達だけで行動してたし……」

 

それから暫くして、八雲とくぅろは一誠達と共に街中を歩きながら話を聞いていた。

 

内容としては、八雲が立案した物より予想を上回る驚きの内容だったが、同時にそれなら両者の利害が一致する内容でもあり、その手があったかと感心してしまった。

 

しかし、それは下手をすれば互いの関係が悪化するかもしれない危険な賭け。命がけの交渉だが、仲間の為にと八雲達も同行する事を決めた。無論、リアスとアーシア、朱乃には内緒で……。

 

「チクショウ……………俺に拒否権は無いのか?」

 

一方、元士郎は俯きながら八雲と一誠の後をついていく中、ホリンが話しかけていた。

 

『ええやないの。あんたが活躍しとたって、シトリーはんによーけ言ったるさかい。そないなったら胸キュンになる可能性あるで』

 

「ほ、ホントか!? マジなんだなッ!! だったら、少しだけなら手伝ってやるか」

 

ホリンの言葉に元士郎はやる気を出す中、小猫は「単純」と、ホリンは『ちょろいなぁ』と一言呟いた。

 

「とりあえず、()()()を探さないと始まんないな。早く見つかればいいんだが……」

 

「そうだよな。でも極秘任務中だって考えると、長期戦覚悟したほうがいいんじゃねえか?」

 

『だったら、オレ達にいい考えがあるぜ』

 

「本当か、コゲンタ!」

 

一誠の言葉にコゲンタは自信満々に頷き、その方法を口に出そうとした瞬間だった。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私達にお慈悲をぉぉぉぉッ!」

 

街中探索、約30分。簡単に見つかった。

 

「………なあ、吉川」

 

「分かってる」

 

『……こりゃあ、出番はいらないみたいだな』

 

「「「……………」」」

 

苦笑する一誠、八雲、コゲンタに、何とも言えない表情をする小猫、くぅろ、元士郎。距離はあるが、6人の視界に探し人2人……ゼノヴィアとイリナは会話を続ける。

 

「くっ……これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒つかないでゼノヴィア。路銀の尽きた私達がこうでもしないと、食事も摂れないのよ? ああ、パンのミミさえ買えない私達ッ! こんな事なら、おつるさんの和菓子を残しておけばよかったわッ!」

 

「ふん。そもそも、路銀が尽きたのはイリナが詐欺紛いのその変な絵画を買うからだ」

 

「何を言うの! この絵には、聖なるお方が描かれているって、展示会の関係者も言っていたわ!」

 

「じゃあ、誰なんだ? 私には誰も脳裏に浮かばないな」

 

「……多分、ペトロ……様?」

 

「……あぁ、主よ。これも試練ですか? どうしてこんなのが私のパートナーなのだ……」

 

「ちょ、ちょっと、頭を抱えないでよ。あなたって、沈む時はとことん沈むわよね」

 

「うるさい! これだからプロテスタントは異教徒だというんだ! 我々と価値観が違う。聖人をもっと敬え!」

 

「何よ! 古臭いしきたりに縛られるカトリックの方がおかしいのよ!」

 

「何だとッ!」

 

「何よッ!」

 

「「ぐぬぬぬぬ……ッ!」」

 

「……これ以上は、さすがに見過ごせないか」

 

ついには顔をぶつけながら喧嘩を始める2人。さすがに街中で騒ぎとなると一般人にも迷惑になると判断し、八雲は先に前へと出た瞬間、それは聞こえた。

 

ぐぅぅぅぅぅ……………ッ!

 

大きく腹を鳴らしては、ゼノヴィアとイリナは地べたへと崩れてしまった。その姿から、遠巻きに見ていた一誠達は昨日部室で啖呵を切った人物と同一だとは思えなかった。

 

「……まずは、どうにかして腹を満たそう」

 

「……そうね。そうしないと、エクスカリバー奪還どころじゃないわ」

 

「……ちょっといいかな?」

 

ゼノヴィアとイリナが考えようとしたが、不意に声を掛けられては顔を向けた。

 

「えっと……………今から食事に行くんだけど、一緒に行くか?」

 

そんな八雲の言葉に、2人はひもじさの宿った瞳から生気が戻り、素直に頷いた。

 

 

 

 

 

 

「「ンまぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」」

 

注文した料理を口にした途端、ゼノヴィアとイリナは周りの人目を気にせずに叫ぶ。

 

現在、八雲達は近所のファミレスに来店し、ゼノヴィアとイリナに食事を奢っていた。最初2人は八雲に感謝しようとしたが、その際に一誠達を視界に入れてしまった。それでなのか、ファミレスに到着するまでブツブツと懺悔を呟き、気まずい雰囲気のまま連れていったのだった。

 

「うまい! 日本の食事はうまいぞ!」

 

「うんうん! これよ、これなのよ! これが故郷の味なのよ!」

 

しかし、そんな雰囲気も今は無い。注文した料理が運ばれてはガツガツと彼女らの腹に収められ、それはそれは幸せそうな表情を浮かべては涙を流した。

 

そんな中、八雲達は小声で話している。

 

「よっぽど空腹だったみたいだな」

 

「平らげる速度が尋常じゃねえよ。お金が足りるか心配だ」

 

「……私も少しは出せますよ」

 

「俺も……………正直ピンチだけど、出してやる」

 

「小猫ちゃん。匙……」

 

「その心配は無い。今回は、俺が全額払うよ」

 

「ちょ、平気か八雲!? どう見ても1万以上はあるぞ」

 

元士郎の驚きに八雲以外の面々は同意する。現にゼノヴィアとイリナの横には食べ終えた皿が積まれており、その中にはファミレスの中でも高額な品もいくつか入っている。しかも全額払うという事は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。因みに八雲と一誠、小猫、元士郎はソフトドリンクを頼んでおり、くぅろはパフェを食べていた。

 

「少し前にリアス部長から謝礼を渡されたんだよ。最初は拒んだけど、どうやらリアス部長の家族からの謝礼らしくて、最終的にこっちが折れたんだ」

 

無論、所持している金額はほんの一部だが、ここの食事代なら余裕で払える。もしも全額を所持していれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。因みにその謝礼は銀行に預けていれば八雲の家族が不審に思う恐れがあるので、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

そんな八雲とリアスのやり取りに唖然としていた一誠達。すると、食事の音が途切れたのか、一誠達は気になって視線をゼノヴィアとイリナに向けた。

 

「ふぅ……落ち着いた。まさかキミ達(悪魔)に救われる日が来ようとは、世も末だな」

 

「おいおい、奢ってもらっておいてそれかよ……」

 

ゼノヴィアの皮肉に口の端を引きつらせる一誠。だが、奢るのは八雲なので一誠達は関係ない。

 

「はふぅー、ご馳走様でした。ああ、主よ。心優しき悪魔達にご慈悲を」

 

「「「うッ!」」」

 

イリナが合掌した後に胸の前で十字を切った結果、悪魔である一誠、小猫、元士郎の3人は頭痛に襲われ、頭に手を当てた。

 

「あ、ごめんなさい。つい十字を切ってしまったわ。てへっ♪」

 

少しばかり悪びれた様子でかわいらしく笑うイリナ。一応、故意ではなかった様だ。

 

「で、私達に接触した理由は?」

 

水を飲んで一息ついたゼノヴィアが改めて訊いてきた。

 

さっそく本題に入り、気を引き締め直した八雲と一誠が答える。

 

「あんたら、エクスカリバーを奪還する為にこの国に来たんだよな?」

 

「そうね。それについては、この前の説明した通りよ」

 

空になったコップをテーブルに置き、イリナが肯定した直後、八雲が訊ねる。

 

「だけど同時に、()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……って言ってたよな?」

 

「……………」

 

八雲の言葉に何かを感じ取ったのか、ゼノヴィアは目を細める。そして、真剣な表情を浮かべる八雲と一誠は言葉を発した。

 

「「エクスカリバーの破壊に協力したい」」

 

2人の発した一言によって、店内の一角がシンと静まり返った。緊張の為か、ゴクリと生唾を飲む音が妙によく聞こえた気がした。

 

一誠が持ちかけたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだった。これなら、祐斗が聖剣を破壊する事で自分と同志の復讐を果たし、イリナとゼノヴィアは堕天使の手から奪還できると考えた一誠は、彼女達と接触を図ろうとしていた。その結果、八雲とも行動を共にする事が出来たのだ。

 

ただ、一誠は今になって自分達と結託し、エクスカリバーを破壊する事は彼女達を侮辱する行為ではないのかと、内心で冷や汗をかいていた。

 

「「「「……………」」」」

 

「もぐもぐ……」

 

一誠と同席する八雲、小猫、元士郎は黙りながら、くぅろはパフェを食べながらゼノヴィアとイリナの反応を伺う中、先に静寂を破ったのはゼノヴィアだった。

 

「そうだな。破壊可能であれば1本ぐらい任せてもいいだろう。ただし、そちらの正体がバレない様にしてくれ。一時的とはいえ、こちらもそちらと関わりを持っている様に、上にも敵にも思われたくはない」

 

意外とあっさりと許可が下りた事に八雲達は唖然と見つめていると、ゼノヴィアの返答にイリナが異を唱える。

 

「ちょっとゼノヴィア。いいの? 相手はイッセー君とはいえ、悪魔なのよ?」

 

「イリナ。正直言って私達だけで3本回収とコカビエルとの戦闘は厳しい」

 

「それは分かるわ。けれどッ!」

 

「最低でも私達は3本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰ればいい。私達のエクスカリバーも奪われるぐらいなら、自らの手で壊せばいい。それで奥の手を使ったとしても、任務を終えて無事帰れる確率は3割も無い」

 

「それでも高い確率だと覚悟を決めてここに来たはずよ。それこそ私達、信徒の本懐じゃないの」

 

「気が変わったのさ。私の信仰は柔軟でね。何時でもベストなカタチで動き出す」

 

開き直る様な言い方をするゼノヴィアに、イリナはさらに声を上げた。

 

「あなたねッ! 前から思っていたけれど、信仰心が微妙におかしいわよ!?」

 

「否定はしない。だが、任務を遂行して無事に帰る事こそが、本当の信仰だと私は信じる。生きて、これからも主の為に戦う。違うか?」

 

「……違わないわ。でも」

 

食い下がるイリナをゼノヴィアは遮った。

 

「だからこそ、悪魔の力は借りない。代わりにドラゴンの力を借りる。上もドラゴンの力は借りるなとは言っていない」

 

ゼノヴィアの視線が一誠に……否、彼の中に宿る赤龍帝に向けられ、彼女は嬉々として語る。

 

「まさか極東の島国で赤龍帝と出会えるとはね。悪魔になっていたとはいえ、ドラゴンの力は健在と見ているよ。伝説通りなら、その力は最大にまで高めれば魔王並になれるんだろう? それだけの力ならエクスカリバーも破壊出来るだろうし、この出会いも主のお導きと考えるべきだね」

 

「た、確かにドラゴンの力は借りるなとは言ってこなかったけど、屁理屈すぎるわよ! やっぱりあなたの信仰心は変だわ!」

 

「変で結構。しかし、イリナ。彼はキミの古い馴染みだろう? なら、信じてみようじゃないか。彼のドラゴンの力を」

 

自信に満ちたゼノヴィアの言葉に、イリナは沈黙しては静かに頷いた。

 

「どうやら上手くいけたな」

 

「そうだな。じゃあ、さっそく今回の俺のパートナーを呼んでもいいか?」

 

安堵する中、一誠は携帯を取り出した。

 

無論、連絡相手は祐斗である。

 

 

 

 

 

 

「……話は分かったよ」

 

一誠から連絡を受けて数分後。ファミレスに顔を出した祐斗は説明を受けた後、嘆息しながらコーヒーを口に含んだ。

 

「……正直、キミ達にエクスカリバー破壊を承認されるというのは遺憾だけどね」

 

「随分な言い様だな。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬り捨てているところだ」

 

ゼノヴィアと睨み合う祐斗にイリナが訊ねる。

 

「やはり、『聖剣計画』の事で恨みを持っているのね? エクスカリバーと教会に……」

 

「当然だよ」

 

鋭さを宿らせる瞳を細めながら、祐斗は冷たい声音で肯定した。

 

「でもね、木場くん。あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣と呼応出来る使い手が誕生出来たの」

 

「だが、計画失敗と断じて被験者のほぼ全員を始末するのが許されると思っているのか?」

 

祐斗に憎悪の眼差しを向けられて反応に困るイリナ。

 

そこへ、ゼノヴィアが言う。

 

「その事件は、私達の間でも最大級に嫌悪されたものだ。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題があるとされて異端の烙印を押された。今では堕天使側の住人さ」

 

「堕天使側に? その者の名は?」

 

ゼノヴィアの言葉に興味を惹かれたのか、祐斗が訊ねた。

 

「『バルパー・ガリレイ』。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

 

バルパー。その人物が祐斗の仇敵なのだろう。

 

その名前を覚える中、八雲は横にいる祐斗を見た。その瞳には新たな決意の光が宿っており、目標が分かっただけでも大きな前進と確信した。

 

「僕も情報を提供した方がいい様だね。先日、エクスカリバーを持ったエクソシストに襲撃された。その際、神父を1人殺害していたよ。殺られたのはそちらの者だろうね」

 

「それ本当なのか、木場!?」

 

祐斗の言葉に驚き、思わず一誠が訊ねる。

 

「まあね。その時、八雲くんも一緒にいたよ」

 

全員の目が八雲に集中すると、八雲は「あぁ」と言っては頷く。

 

「少し交戦したけど、途中でメイド服の人形に邪魔された。殺った奴の名前は覚えたけど、その後の行方はどうなったんだ?」

 

「向こうの逃走が一枚上手だったよ。あの時は正直、悔しかったね……」

 

「それで、その相手って誰ですか?」

 

「フリード・セルゼン。以前、ある事件に加担していたエクソシストらしい」

 

くぅろの問いに八雲は答えると、それを聞いた元士郎を除く全員が僅かに顔をしかめた。交戦した八雲でも、あの不快な雰囲気は嫌になってしまう。

 

その言葉に、ゼノヴィアとイリナは同時に目を細めた。

 

「そうか、奴か……」

 

「フリード・セルゼン。元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。13歳という若さで悪魔祓い(エクソシスト)になった天才。次々と悪魔や魔獣を滅していく功績は大きかったわ」

 

「だが、奴はあまりに殺りすぎた。奴には信仰心なんてものは最初から無かった。あったのはバケモノへの敵意と殺意。そして同胞すらも手をかける、異常なまでの戦闘執着。異端にかけられるのも時間の問題だった。なるほど。フリードは奪った聖剣を使って同胞を手にかけていたか。あの時、処理班が始末出来なかったツケを私達が払う事になるとはね」

 

忌々しげに呟くゼノヴィアの言葉に、この場の全員は内心で納得した。

 

「まあいい。とりあえず、エクスカリバー破壊の共同戦線といこう。何かあったらここへ連絡をくれ」

 

ゼノヴィアはテーブルに置いてあった紙ナプキンを取り出してペンを走らせると、連絡先が書かれたモノを一誠と八雲に渡した。

 

「サンキュー。じゃあ、俺の方もーー」

 

「あ。イッセーくんの携帯番号はおばさまからいただいてるわ」

 

「マジかよ! 母さん! 勝手な事をッ!」

 

微笑むイリナの言葉に思わず一誠は耳を疑っていると、八雲もゼノヴィアと同じ様に連絡先を記した紙ナプキンと、何時の間にか用意した封筒を渡した。

 

「俺の連絡先だ。それと少ないけど、お金も貸しておく。無くなったら店に来てもいいぞ。おばあちゃんとおじいちゃんが和菓子をご馳走させるだろうしな」

 

「本当に!? 食事も奢ってくれて、それにお恵みを貰えるなんて……。ああ、主よ。この優しい者に祝福を……」

 

「「「うッ!」」」

 

神に祈るイリナの姿に一誠達はまたしても頭痛に襲われるが、祐斗だけは情けない姿を晒さない様にしていた。

 

「では、そういうことで。食事の礼と恩は、何時か返させてもらうぞ。ではな、赤龍帝の兵藤一誠と……」

 

「吉川八雲」

 

「そうか。またな、吉川八雲」

 

「食事ありがとうね、イッセーくんと吉川くん! また奢ってね! 悪魔だけど、イッセーくんの奢りならアリだと主も許してくれるはずだわ! ご飯なら何時でもOKなのよ!」

 

そう言って2人が席を立つと、八雲達は店を出るまで見送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「「「「ふぅぅぅぅ……」」」」

 

その後、緊張が解けたのか祐斗とくぅろ以外のメンバーが大きく息を吐いた。

 

「何とか上手くいったな」

 

「ああ。我ながら大胆すぎる作戦でした」

 

「……八雲くん。イッセーくん。どうして、こんな事を?」

 

静かに訊ねる祐斗に対し、八雲と一誠は答える。

 

「ま、仲間で眷属だしさ。お前には助けられた事もあったから借りを返す……って訳じゃないけど、力になろうと思ってさ」

 

「悩んでるダチの為に力になりたかった。それに下手に動けば、リアス部長に迷惑が掛かるしな。『はぐれ』にさせたくない。まあ、向こうと協力態勢が取れたし、結果オーライさ」

 

「私も御主人様と同じです!」

 

くぅろも答えたが、その言葉に祐斗はまだ納得しない表情だった。だが、そこへ小猫が口を開いた。

 

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」

 

普段は無表情の小猫。だが今、祐斗を思う小猫の表情は少し寂しげで、その変化はこの場にいる全員に衝撃を与えた。

 

「……お手伝いします。だから……………いなくならないで」

 

キュン……

 

(や、やべぇ。木場じゃないのに俺がきゅんときたぜ)

 

(普段は無表情だけど、こう……………何かと別の表情を見せられると、胸が高鳴る俺がいるな。これが所謂、ギャップなのか?)

 

『あー、男どもはこれやから』

 

そんな表情の小猫の訴えに一誠と八雲がときめく中、ホリンはジト目で呆れた様に呟くと、祐斗は小猫の行為に困惑しながらも苦笑していた。

 

「まいったね。小猫ちゃんにそんな事を言われたら、僕も無茶は出来ないよ」

 

「それじゃあ……!」

 

期待する言葉に、祐斗は頷いた。

 

「今回は皆の好意に甘えさせてもらうよ。イッセーくんと八雲くんのおかげで、真の敵も分かったしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」

 

その瞳に決意を宿して祐斗は宣言すると、一誠と八雲は気合いが入り、小猫とくぅろは安堵しては小さく微笑んだ。

 

「よしッ! 俺達エクスカリバー破壊団結成だ! 頑張って、奪われたエクスカリバーとフリードのクソ野郎をぶっ飛ばそうぜ!」

 

「ああ! 俺、イッセー、祐斗、小猫、くぅろ、シキガミ達が力を合わせれば、どんな困難にも打ち勝てる。この任務、必ず成功させようぜ!」

 

『『『おぉぉぉぉッ!』』』

 

八雲の言葉にシキガミ達が気合いを入れて叫ぶ。友の為、その気持ちがシキガミ達にも伝染した様だ。

 

こうして、八雲達と教会側の共同戦線が結ばれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えーっと、俺も? 結構、蚊帳の外なんだけどさ……」

 

『『『『『……………』』』』』

 

その言葉に、全員が一時だけ元士郎の存在を忘れていたのに気付いたのだった。




久々更新です。あと、この話を連載したら、今までの話を徐々に修正してます。連載前にも修正してますが……。

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