ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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※後半微エロ注意です。まぁ、原作の方もエロスですが……。


第29話:赤い来訪者

「……………いない」

 

雨の降る中、くぅろは傘を差しては辺りを見回る様に下校していた。

 

八雲が祐斗を探しに出て長い時間が過ぎた頃、さすがに遅いと心配したくぅろは八雲を探しに部室から出たのだ。その際、見つけたらそのまま帰宅するとリアス達に言っており、くぅろは下校しながら八雲を探している最中なのだ。

 

「御主人様も祐斗さんも、一体何処にいるんだろ? この雨じゃあ半獣人化(へんしん)しても鼻が効かないし……」

 

もし半獣人化すれば、くぅろは確実に八雲を見つけられるだろう。毎夜八雲の匂いを嗅いでいる彼女なら、例え目を瞑っていても位置を完璧に把握し、瞬時に駆け出して見つけては嬉しそうに飛び付くからだ。

 

「御主人様ー! 祐斗さーん! 何処に……………って、あれ?」

 

下校してくぅろは漸く気付いた。何時もの登下校の道にも関わらず人気は無く、立ち止まっては注意深く辺りを見渡した。

 

(おかしい。通行人が全くいないなんておかしすぎる。人払いの気配は特に無いのにどうして……)

 

瞬間、くぅろはある一点に視線を向けては止まった。

 

その一点は上空。目を凝らして見たくぅろの視界に、光の球体が映った。

 

「あれって、御主人様が作った疑似空間の結界! どうしてこんな所に……」

 

そしてくぅろが驚愕する中、それは起こった。

 

光の球体に幾つもの亀裂が走り、ガラスが割れる様な音と共に球体が壊れてしまったのだ。

 

「うおっと!」

 

「っ!」

 

その結果、光の放出と共に八雲がくぅろの目の前に着地し、八雲と戦っていた自動人形であるマルフも八雲と距離を取る様に着地したが、すぐに膝をついてしまった。

 

「ご、御主人様!?」

 

「ん? ああ、くぅろか。どうした?」

 

「どうした、じゃありません! 御主人様こそどうしたのですか! 制服も所々破れてますし、それにあの人は誰ですか!」

 

傘を投げ出し、すぐに近付いたくぅろが心配しながら体を触る中、八雲はくぅろに促される様にマルフを見た。

 

現在、2人の容姿は戦闘により衣服がボロボロなのだが、八雲は袖口や服の端の一部だけであり、マルフに至ってはロボットの様な腕が壊されて火花が散りながら元の腕が露になり、足も同じ様な状況で、八雲より酷いありさまだった。

 

すると、マルフは立ち上がっては無表情のまま八雲を見つめた。

 

「まさか、ワタシがここまで追いやられるとは思っていませんでした……」

 

「いや、切り札を使わなかったら俺も危なかったよ。それで、まだやる気か?」

 

八雲の問い掛けにマルフは首を横に振る。

 

「例え挑んでも、次はアナタのお仲間も参戦するでしょう。さすがにワタシの魔力も切れてしまいますので、もう戦う意思はありません」

 

そう言いながらマルフはロボットの様な腕と足を光の粒子へと変換し、元の手足となっては言う。

 

「それに、そろそろ戻らないとマスターの機嫌が悪くなります。早く戻っておやつを渡してあげないと……」

 

「そうか。じゃあ、これで終わろう。また邪魔するんだったら、容赦しないぞ」

 

「忠告ありがとうございます。次は、戦わずに会いたいですね。それでは……」

 

その言葉を最後に、マルフは背中と足裏に内蔵されたブースターを展開して、空を飛んで何処かに行ってしまった。

 

「……行ったな……………くっ!」

 

「御主人様!?」

 

マルフが見えなくなった頃、八雲は疲労の表情と共に倒れてしまい、咄嗟にくぅろは優しく受け止めた。

 

「すまない、くぅろ」

 

「……事情は後で聞きます。ですから、今は家に戻りましょう。リアスさん達には許可をもらってますから……」

 

「くぅろ。お前……」

 

すると、雨に濡れるくぅろの頬から、別の水が流れていた。

 

「わたしが御主人様と一緒に祐斗さんを探していれば、御主人様がこんなに傷付く事は無かった筈です。御主人様、本当に、ごめんなさい……」

 

「……………」

 

すると、落ち込むくぅろを八雲は優しく頭を撫でた。

 

「ごしゅ、じん、様?」

 

「心配掛けたな。でも、俺はここにいる。生きてる。だから泣くな。くぅろやイッセー、リアス部長達が俺を信じてくれるなら、俺やシキガミ達は死なないから……」

 

「……………はい……」

 

そして暫く八雲に撫でられながら、くぅろは心に暖かい感情が溢れるのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻。以前レイナーレが拠点として利用していた廃れた教会に、2つの人影がいた。

 

「……………」

 

1人は、装飾の凝った黒いローブを身に纏う若い男の堕天使。聖壇の前に佇み、飾られている折れた十字架を憎悪が込められた瞳で見上げていた。

 

名をコカビエル。聖書に記される古からの強者であり、堕天使中枢組織『神の子を見張るもの(グリゴリ)』の幹部の1人である。

 

「全く、フリードは何処をほっつき歩いている。聖剣の具合を見なければならないのに……」

 

もう1人は、神父の格好をした初老の男。コカビエルから離れた場所で、何やら心配そうに同じ所を行ったり来たりしていた。

 

名をバルパー・ガリレイ。ある事情で異端の烙印を押された元神父だ。

 

「ただいま戻りました、コカビエル様。フリード様は……まだ戻られていませんか」

 

すると壊された入り口からマルフが現れ、振り返るコカビエルはマルフの姿を見て口を開いた。

 

「その姿はどうした?」

 

「マスターの任務の帰り道、フリード様が悪魔に捕縛されていたので救助を行いました。その際の負傷です」

 

「何!? 聖剣は無事なのだろうな!?」

 

「はい。フリード様は逃走しながらも聖剣を握り締めていました」

 

フリードよりも聖剣を優先して心配するバルパーの言葉を返しながら、マルフは自分の創造者であるマスターがいる地下へと足を運ぼうとしたが、コカビエルに「待て」と言われて足を止めてしまった。

 

「戦闘で俺の配下を多く葬った貴様に、それほどの手傷を追わせた奴は誰だ?」

 

「この町に住む男子学生です。フリード様を襲った悪魔と知り合いの様でしたので、恐らくグレモリー家の長女か、シトリー家の次女と関わりを持った者でしょう。――それでは、ワタシはマスターの所へと向かいます」

 

従者の様に丁寧に頭を下げ、マルフは無表情のまま祭壇下の階段へと足を運ぶのだった。

 

「……私と組む前に何かあったのか?」

 

すると、バルパーは問い掛ける。

 

バルパーがマルフとそのマスターに会ったのは、コカビエルが既に組んでいた時に出会った。初めは只のメイドだと思い特に興味も無かったが、コカビエルの言葉に興味を抱いた様だ。

 

コカビエルは視線を向けずに言った。

 

「あの“人形使い”の実力を探る際、俺の配下である初級・中級堕天使を向かわせたが、初級は全滅、中級も辛うじて生存者がいたが、殆どの者がこの計画に加えられない有り様だった。それも、あの人形のみでだ……」

 

その際、コカビエルはマルフのマスターと直接会合しては契約を持ち出した。その戦力を計画に加えれば、確実に自身の野望を達成出来ると思ったのだ。

 

「交渉は上手くいった。だが、俺は多くの配下を亡くし、金も全て失った……」

 

刹那、コカビエルは10枚の翼を広げ、その余波で十字架を粉砕した。

 

「だが、その犠牲も報われる。計画が始まれば、俺の心を潤せる。地獄の様な戦争を起こせる。戦争を……………この退屈な世界に、地獄以上に悲惨な戦争をッ!!」

 

狂気を宿すコカビエルの笑み。

 

その時、バルパーは思うのだった。

 

やはり、この堕天使と組んだのは正解だった、と……。

 

すると、コカビエルは翼を収めながら、マルフの報告に上がった者に興味を持った。

 

「しかし、逆に知りたいものだな。あの人形を退けたその人間とやらに……」

 

口元を歪めて薄い笑みを浮かべながら……。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。八雲は自室にいた。

 

あの後、八雲とくぅろは帰宅しては何時もの様に祖父母と過ごし、就寝の時にくぅろは提案した。

 

「御主人様、今日はゆっくり休める様に自室で寝ますね。だから……体調がよくなったら、また一緒に寝てください」

 

そう言ってくぅろは自室に戻ったが、その際に哀愁漂う表情を、八雲は見てしまった。

 

(明日辺りでも、元気付けてやるか……)

 

そして現在、八雲はベッドに寝転びながら放課後の出来事を思い返していた。

 

「オートマータ、か……」

 

『手強かったよな。オレの攻撃も簡単に弾きやがったし……』

 

「コゲンタ……」

 

急の登場に八雲は呟く中、コゲンタは語り続ける。

 

『オレだけじゃねえ。フサノシンのスピードも、フジの剣技も、タンカムイの妙技も、ゴロウザの怪力も、八雲を入れた同時攻撃すら防ぎやがったのは目を見開いたぜ』

 

「真終牙黄流の技もことごとく打ち返されたしな。『卯通鬼(うづき)』と『歩観通鬼(ふみづき)』の一撃離脱戦法で幾らか稼げたが、それも対応されて苦戦したよ」

 

『速度重視の足運びに先手必勝を主眼にした一撃のコンボでも、あの人形には対して脅威じゃなかったんだよな。だから……』

 

「ああ。だから切り札を切ったんだ」

 

『それほどの強敵だしな。――でもよ八雲、切り時は分かるが多用は控えなよ。切り札でも未完成なんだからよ』

 

心配する様なコゲンタの声に八雲は一言分かったと声を掛けようとするが、それは出来なかった。

 

『おーい、ヤクモー!』

 

何故なら、青い龍のシキガミが現れて声を掛けられなかったのだ。

 

現れたのは、龍に似た獣人的な外見を持ったシキガミ。同じ種族のブリュネと違い、少年が龍のマスクを被った様にも見える。

 

名前をキバチヨ。『青龍のキバチヨ』である。

 

「キバチヨ。そんなに慌ててどうした?」

 

すると、キバチヨは八雲の問いに答える。

 

『詳しい事は神器(コッチ)で。お客さんだよ』

 

「何だ客か……………って、え?」

 

キバチヨの言葉に、八雲は首を傾げるしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、八雲殿」

 

『二十四気の神操機』の精神空間。

 

八雲はキバチヨに誘われは精神空間の中央に現れると、そこにはブリュネの姿もあったが、八雲の視界に()()が入った。

 

『……………えーっと、ソレって何だ?』

 

普段なら野点が行われているその場所に、赤い光がフワリと浮かんでいたのだ。

 

「キバチヨ。オレが八雲と話してた間、何があったんだ?」

 

「ぶらぶら歩いてたら、シキガミじゃない何かの力を感じてね。向かったらこの赤い光が現れていたんだよ」

 

「我輩はこの場所にいたので、最初に発見したのであります。八雲殿に知らせる様に、我輩が指示を出したのだ」

 

『なるほど。――それにしても、これがシキガミじゃないとすると一体……』

 

八雲は赤い光をジッと見つめた。

 

『久し振り……と言えばいいか、闘神士』

 

そして、赤い光から声が発せられた。

 

「その声は……!?」

 

『知ってるのか、コゲンタ!』

 

八雲の言葉に頷くコゲンタ。そして、赤い光が声を発した。

 

『おいおい、一度だけ俺の所に入って来た奴が忘れたのか? まあいい。改めて名乗らせて――』

 

「こやつはドライグ。『赤い龍の帝王』と恐れられた、二天龍の一角であります」

 

『……おい』

 

だが、ブリュネに名乗りを中断させられた赤い光……ドライグから不満の声が聞こえた。

 

『ドライグって、イッセーの神器に封じられたドラゴンじゃないか! どうしてこんな所に現れたんだ?』

 

その疑問はシキガミ達にとって最もだった。

 

一部の強力な神器には、封じられた魂が宿っている。『赤龍帝の籠手』もその1つであり、例外とすると複数のシキガミを宿らせた『二十四気の神操機』である。

 

何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな疑問を浮かぶ中、ドライグは言う。

 

『俺にも分からん。相棒と話し終えてから懐かしい力を感じてな。そしたら何故か此処に来ていた』

 

『懐かしいって……ドライグはこの景色を知ってるのか?』

 

『ああ。シキガミ達が暮らしていた『シキガミ界』と同じだ』

 

「え? ドライグ。お前はオレ達の居場所に来た事があるのか?」

 

コゲンタの問いに答えずドライグは浮かび上がる。まるで辺りを全て見渡せる様に。

 

『分からん。だが、何だろうな。貴様の持つ神器から発せられる僅かな魔力が、俺を導いたんだろう。そしてこの四季折々の風景……断片的にだが、懐かしさを感じるんだ』

 

『懐かしさ、ねぇ……』

 

「まあ、確かに似てるけどな……」

 

腕を組む八雲と顎に手を当てるコゲンタ。

 

疑問と納得。互いが違う反応の中、ドライグは八雲の前に降りては語る。

 

『ところで闘神士。お前が現れるまで、この神器に刻まれた記憶を少しばかり見させてもらったが……なかなか面白い生活だな』

 

『人の個人情報を勝手に見るなよ……』

 

『ククク、しかし相棒と同じ色を知らないか。今日、相棒もグレモリーとその眷属の元シスターの事で悩んでいたが、そこはお前さんも似た様なものだな』

 

『童貞で悪いかよ……って、ドライグ』

 

微笑するドライグだが、その赤い光が次第に薄れていくのを八雲は気付いた。

 

『お前、消えるのか?』

 

『どうやら、この場所にいるのも時間がない様だな。まあ、ドラゴンの力が高まれば来れる事が分かっただけでもよしとしよう』

 

そして完全に消える前、最後にドライグは八雲に言った。

 

『また機会があれば会おう、闘神士。俺と出会えたのなら、『白 い 龍(バニシング・ドライグ)』の奴とも出会うと思うぜ……』

 

そう言い残し、ドライグは精神空間から完全に消えてしまった。

 

そんな中、八雲はキバチヨに語り掛ける。

 

『キバチヨ。最後にドライグが言ったのって……』

 

「二天龍の最後の一匹さ。――しかし赤龍帝か。本物を見たのは久し振りだね」

 

「大戦の最中で見た時以来だしな。その二匹が大喧嘩した際、三種族も鬱陶しそうにしてたな」

 

キバチヨの言葉にコゲンタも懐かしむ様に、腕を組んでは頷く中、ブリュネだけはドライグの言葉を思い出していた。

 

(ドライグ殿はこの光景を見て懐かしんだ。それはシキガミ界に来たか見た事があると同じ意味。だが、シキガミ界に来るには統治者の許可、又はシキガミ界出身の者でなければ来れない。……まさか、ドライグ殿は……)

 

しかし、その可能性をブリュネは否定した。

 

(……あり得んな。二天龍がシキガミ界出身であれば、『ツイガ様』も知っている筈だ……)

 

そう思い、ブリュネは襖障子の空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……………はぁ」

 

次の日の放課後。神器を装着している八雲はソファーに座り、誰もいない部室の天井を見上げては溜め息を吐いていた。

 

ドライグとの話を終えてすぐに就寝した八雲は、何時もの様に起きては鍛練し、その後くぅろと共に登校した。

 

鍛練の際、一誠達にドライグの事で話したところ驚愕していたが、何故その様な事が起きたのか分からず、結局その話題に進展は無かった。

 

しかし、今の八雲はドライグと『二十四気の神操機』の関係で気掛かりになっていなかった。

 

気掛かりにしているのは、祐斗の事だ。

 

あの後、祐斗がフリードを追い掛けてどうなったのか分からない。だが、今朝見掛けた祐斗に外傷は無く無事だとホッとしたが、代わりに誰が見ても分かる程の憎悪と怒りの表情を露にし、その日祐斗が笑顔を見せる事はなかった。

 

因みに、昨日の事を八雲はリアスに伝えていない。祐斗を心配しているリアスに新たな心配事を与えれば、心も参ってしまうだろうと思っての事だ。

 

それが本当にリアスの為なのか、自信を持っていないが……。

 

『あまり考え過ぎると、様々な事に支障をきたしますよ』

 

進展しないままの状況に八雲が頭を悩ませている中、クラダユウが心配そうに話し掛けた。

 

「心配掛けたな」

 

『いえ。八雲さんが友達を大事にするのは、よく知ってますから……。しかし考える事も大事ですが、時には息抜きをして気分をリフレッシュするのも大事ですよ』

 

「ああ。ヒヨシノが戻って来たら何かするか。くぅろは小猫と外で模擬戦中だし……」

 

顎に手を当てては思考を始める八雲。すると、部室の扉が開いては振り向いた。

 

「ただいまー、やくも!」

 

「お帰り、ヒヨシノ」

 

現れたのはヒヨシノだった。

 

部室に入るなり、ヒヨシノは八雲に近付いては膝へと抱き付いてきた。

 

「イッセーの儀式はどうだった?」

 

「うん! あけのおねーちゃんがしてくれたから、うまくいったよ! あとは、ぼくのおくすりをのんだあとにりあすおねーちゃんがきて、いっしょにどこかいっちゃった!」

 

「そっか。ご苦労様」

 

「にへへー!」

 

犒いの言葉と共に八雲が頭を撫でると、ヒヨシノも嬉しそうに笑顔を向けた。

 

因みに八雲の発した儀式の内容とは、一誠の左腕に溜まったドラゴンの力を散らすというもの。

 

数日前に行われたレーティングゲーム。一誠がライザーとの一戦を交わした時、一誠は不完全とはいえ『禁手』を得たが、その代償として左腕を一誠の神器に宿るドライグに支払った。

 

つまり、今の一誠の左腕はドラゴンの腕と言っても過言ではない。

 

それ故、定期的に儀式を行っては一誠のドラゴンの腕を一時的に元の状態を保っているのだ。

 

そして、その儀式を行えるのは現在2人。ヒヨシノが言った朱乃と、上級悪魔であるリアス。尚、ヒヨシノは儀式後に一誠の魔力を安定させる薬を飲ませるだけであり、直接儀式に関わる事はないのだ。

 

ヒヨシノはシキガミの中では最年少であり、癒火一族が司る力はまだ未熟なもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だが、ヒヨシノはまだ儀式を行う事が出来ず、今はそれを勉強して努力するのだった。

 

「それじゃあ、ぼくはかえってあたらしいくすりのちょうごうをためすね!」

 

「分かった。頑張れよ」

 

頷くと同時に襖障子が現れ、ヒヨシノが戻るのを確認した八雲は神器の装着を解除した。

 

「……しかし、儀式はどうやって行うのだろうか?」

 

その呟き通り、儀式の具体的な内容を八雲は知らない。ドラゴンの力を散らすと聞かされただけであり、どの様に力を散らすのか見た事がないのだ。

 

そんな事を思っていたせいか、はたまた悩み事が多いせいか、注意力は八雲自身も知らない内に著しく落ちていた。

 

その結果、後ろにある部室の扉が開いた事に遅れてしまった。

 

「あらあら、何か考え事ですか?」

 

部室に入ってきたのは、朱乃だった。

 

「ん? ああ、朱乃先輩。おつ――」

 

後ろを振り向き、朱乃の姿を見た八雲は言葉が止まってしまった。

 

何故なら、今の朱乃は制服姿ではなく白装束の着物で身を包んでおり、何時もはポニーテールで括ってある艶のある黒髪を下していた。

 

「オ、オツカーレ……」

 

そこまでならまだ大丈夫なのだが、実際はそうではなかった。

 

今の朱乃の肢体を包み込んでいる白装束の布が濡れており、肌が透けて見えていたのだ。おまけに水気で長い黒髪が張り付き、官能的な雰囲気を醸し出していた。

 

そんな朱乃の姿を八雲は無意識の内に凝視してしまい、やっとの事で八雲は犒いの言葉を出すのだった。

 

「うふふ。そんなに見つめられると、何だか恥ずかしいですわ」

 

「すすす、すみません!!」

 

八雲の視線に気付いた朱乃は、わざとらしく豊満な胸を強調する様に手を回してその身を捩らせる中、我に返った八雲はすぐに視線を逸らした。

 

しかし、朱乃は八雲の隣に座ってしまい、結局八雲は目のやり場に困るのだった。

 

さすがに沈黙にしたくなかったのか、八雲は戸惑いがちに訊いた。

 

「……えっと、朱乃先輩。その格好って……」

 

「これですか? 実は先程、ヒヨシノちゃんと一緒にイッセーくんの儀式を行っていたものですから」

 

「ま、まさか、儀式の時は何時も……」

 

「ええ。水を浴びて精神を統一してから行いますの」

 

「そ、そうですか……」

 

男の性か、八雲は極僅かに一誠の事を羨ましいと思ってしまったと同時に、そんな考えが思い浮かんだ事に不謹慎と思ってしまった。

 

そんな考えに染まる前に、八雲は改めて訊いてみた。

 

「と、ところで、儀式ってどんな風にしてるんですか? ドラゴンの力を散らすと聞きましたが、どうやって散らすのか知らないんで……」

 

「そうなのですか? では、教えて差し上げますわ。こんな風に……」

 

すると、朱乃はおもむろに八雲の手を取った。

 

「え?」

 

ちゅぷ。

 

「うぇっ!?」

 

動揺していたせいか、気付いた時には卑猥な水音を立てて、朱乃が八雲の指を口に含んだ。

 

「んっ……ちゅ……」

 

何とも言えない感覚が指から伝わってくる。

 

「ほ、ほわぁあああああぁぁあぁあ朱乃ののせせんぱぱい!?」

 

顔を真っ赤にする八雲は今にも爆発しそうに叫んでしまうが、依然としてその指は朱乃の口に含まれたままだ。

 

「ちゅぴ、ちゅぱ……ちゅっ……んん、ちゅぷ、ちゅる……んふっ……」

 

八雲の反応を楽しむかの様に、朱乃は卑猥な音を立てては吸引し、指の腹をチロチロと舌先で舐めてきている。

 

その瞳に宿るSの光と悪戯っぽい笑みを見れば、その行為はわざとだと分かるだろうが、今の八雲にはそんな余裕がなかった。

 

「ぁふっ」

 

やがて、唇から離れた指には朱乃の唾液の糸がツーッと垂れ、その際に八雲は変な声を出してしまった。

 

「あらあら。そんなウブな反応を見せられると、こちらとしてもサービスしたくなってしまいますわ」

 

「はぁ……はぁ……サ、サービス?」

 

「ええ。私も後輩をかわいがってもバチは当たらないと思いますもの」

 

そう言うと、朱乃は妖艶な微笑を浮かべては八雲に体を近付けてきた。

 

「ちょ、ちょっと……って、おわっ!?」

 

反射的に下がろうとした八雲だが、ソファーから手が滑り落ちては体ごと床に落ちてしまった。

 

「うふふ……………えい♪」

 

むにゅ。

 

「!?」

 

突然、床を背にする八雲の体に冷たい感覚が走り、そしてすぐに温かい感覚と同時に柔らかな感触を覚えた。

 

「あ、朱乃しぇんぷぁい!?」

 

構図としては今、八雲は覆い被される形で朱乃に抱き付かれていた。その為、視線を落とすと八雲の胸板に押し付けられている朱乃の柔らかな胸で出来た谷間が、これでもかというぐらい強調されていた。

 

(あ、ヤバい……立つ、たっちゃう、タッちまう)

 

これも男の性か。八雲は朱乃を離せず、かつ視線を逸らせず、己の欲望が膨張しそうになっていた。

 

そんな中、八雲の耳元で朱乃が艶っぽい声で呟いた。

 

「私、これでも八雲くんの事、気に入ってますわ」

 

「お、俺の事、ですか?」

 

欲望と戦いながら疑問を返す八雲に、朱乃の吐息が掛かる。

 

「ええ、最初はかわいい後輩でした。でも、最近は違うの。特にこの間のフェニックスとの一戦。相手の『女王』から私を守ってくれた姿もそうですし、何度も諦めずに拳を振るい、ついには不死身と呼ばれるフェニックスを打ち倒した時の姿も……。――あんな素敵な戦いを演じた殿方を見たら、私も感じてしますわ」

 

「か、感じる……?」

 

八雲を直視して「うふふ」と笑う朱乃。

 

「時折、あなたの事を考えると胸の辺りが熱くなってきて、どうしようもない時があります。それにこうして八雲くんを楽しませていると、いじめっ子としての本能が疼きますわ。……これって、恋かしら?」

 

「い、いや、俺に言われても……。ってか、俺、いじめられてるんですか!?」

 

残念ながら、八雲は朱乃の疑問に対する回答を見つける事が出来ず、いじめられている事に驚愕してしまった。

 

「でも、あなたに手を出すとくぅろちゃんが怒りそう。あなたの事をとても慕っていますもの……。うふふ、罪な男の子ですわね、八雲くんは」

 

と、朱乃は八雲の首に手を回し、更に距離を詰めてきた。しかも白装束をわざとはだけさせ、大胆に胸を見せていた。

 

そんな事態に八雲は声を上げる間もなく、互いの鼻先が触れ合った時、朱乃の視線と合った。

 

吸い込まれそうな程に澄んだ瞳に狼狽する八雲(じぶん)が映り込み、あと少し力を加えるだけでキスしてしまう程の距離に迫り、朱乃はゆっくりと艶のある唇を動かした。

 

「ねえ、八雲くん」

 

「あ、はいっ……」

 

「浮気、私としてみる?」

 

「はい……………って、ふぇ?」

 

朱乃の言葉に八雲は何度目かの思考停止をした。

 

え? 何? 浮気ってどゆこと?

 

様々な疑問が浮かぶ中、朱乃が口を開く。

 

「これから起こる事を内緒にしてあげますわ。部長にも、イッセーくんにも、そしてくぅろちゃんにも……。燃えるでしょ? 二人だけの秘密って」

 

(こ、これはあの風呂場での出来事に近い! たた、助けてコゲンタ! クラダユウ! ホリン! フジ!)

 

心でシキガミ達を呼び掛ける八雲。だが何故か、八雲の言葉に応答せず、どのシキガミも霊体として現れなかった。

 

(……え? どうして誰も出ないの?)

 

――す、すまねえ、八雲。

 

(コゲンタ! 何だか弱々しいぞ)

 

――ついさっき、朱乃のねーちゃんが指吸ってただろ。無意識だったんだろ。符力が吸われてよ……霊体になれず、八雲にしか声が届かないんだよ……………すまん。

 

(ま、マジか……)

 

偶然起こった事態に困惑しながらも、八雲はこの状況の打開案を考えようとした。

 

ちゅっ。

 

「ふぁっ!?」

 

だが頬に何か触れた瞬間、思考する事を止めては視線を向けると、朱乃の唇が八雲の頬に触れており、八雲の唇に2~3センチは離れていた。

 

唇を離した朱乃が再度口を開く。

 

「私も一度体験してみたいの。年下の男の子に肉欲のまま貪られるのって。意外とMの気もあるのよ、私。それにそろそろ一度ぐらい男性のを受け入れてみてもいいと思いますし」

 

一誠が聞いたら必殺であろう単語が発せられる中、八雲は気付いた。

 

「そろそろって? え? も、もしかして朱乃先輩……」

 

「ええ、私、処女ですわよ。うふふ、この事は殿方の方が経験豊富と聞きましたし、リードしてくれると嬉しいですわ」

 

「そんな噂はでたらめです! お、俺だって……む、無経験……ですし……」

 

朱乃の聞いた噂を否定しつつ、八雲は恥ずかしい告白をしては次第に声音は小さくなっていた。

 

「あらあら、意外ですわね。毎日くぅろちゃんを撫でてますから、てっきり()()()()()を毎晩してあげてると思っていたのですけれど……」

 

「いや、寧ろ欲望を抑えるのに精一杯と言うか、手を出さない様にしてると言うか……大変でした。今は慣れましたが……」

 

「なるほど……。だから、ここが大きかったんですね」

 

納得した瞬間、朱乃の視線は既に八雲の下半身を見ていた。

 

「あああああバレたぁぁぁぁぁ!!」

 

恥ずかしさに耐え兼ね叫ぶ中、朱乃は右手を八雲の体をなぞる様に撫で、ある部分で動きを止めた。

 

「ひぅっ!? そ、そこは……」

 

「うふふ……だんだん硬くなってますね。――かぷ」

 

「耳ッ!?」

 

外をチロチロ、中をクチュクチュ。

 

八雲の耳を舐める朱乃の目にSの光と燃え上がる劣情を宿しては楽しみ、遂にズボンのベルトをゆっくりと解いていこうとした……………その時だった。

 

「とぅわあぁぁぁぁぁっ!!」

 

ガシャアァァァァァァァン!!!

 

「うおっ!?」

 

「……あら?」

 

窓が勢いよく割れては誰かが飛び込んで部室に入り、八雲が驚くのに対して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、2人は侵入してきた人物に視線を移した。

 

「ふー……ふー……!」

 

ゆっくり立ち上がるのは、半獣人化状態のくぅろ。

 

旧校舎の外で小猫と模擬戦中に聞こえた叫びと気配を感じたくぅろは、旧校舎の壁に手を掛けて窓から部室を覗き込んでは朱乃に押し倒された八雲を見た。

 

そこからの会話も聞き入ってしまい、不快さと羨ましさが爆発してからのくぅろの行動は素早く、旧校舎の壁を蹴っては後ろの木に足を触れた瞬間、弾丸の様に飛び出しては窓に突っ込んだのだ。

 

顔を真っ赤にしては尻尾の毛を逆立つくぅろは、ジト目で視線を2人に向けた。

 

「一体、これはどういう事ですか?」

 

明らかに激怒しているくぅろに対し、朱乃は淡々と答える。

 

「うふふ。八雲くんにドラゴンの力を散らす儀式を教えていただけですわ」

 

(絶対違うでしょ!?)

 

心で突っ込む八雲。もし口に出していたら、何とも言えないプレッシャーに耐えれないだろう。

 

「嘘ですっ!! 儀式は私も見た事がありますもん! どう見ても過激なスキンシップじゃないですかぁ!」

 

「あらあら、本番をするつもりはありませんわよ?」

 

「限度を弁えてください! と言うか、本番って何ですか!」

 

「限度って……くぅろちゃんも最初の時はペロペロと舐めてたではありませんか」

 

「うっ……と、とにかく!」

 

刹那、くぅろは朱乃の反対方向へと陣取っては抱き付き、八雲は2人に挟まれてしまった。

 

「ひぇ!?」

 

そして、そのまま反対側の耳をくぅろは舐めて言う。

 

「ご、御主人様を取らないでください!」

 

嫉妬を含んだその言葉に感じたのか、きょとんとした表情の朱乃は微笑んだ。

 

「嫉妬だなんてかわいいですわ。じゃあ、時々でいいので、くぅろちゃんが毎晩八雲くんにしてもらっている事を、私にも体験させてください。そうすれば、本番の事を教えてあげますから……」

 

「だ、だから朱、乃……せん、ぱい……」

 

さすがに限度が来てしまったようだ。

 

妖艶な姿と吸い付きに興奮し、押し倒されて過剰なスキンシップに加速し、最後に2人の柔らかい体に挟まれてしまった結果……。

 

「ご、御主人様!?」

 

八雲の鼻から血が吹き出す事態へと発展してしまった。

 

「……何これ」

 

そんな光景を、後から入ってきた小猫がそう呟いた。




アニメじゃ青い肌のキバチヨですが、ここでは公式サイトの絵と同じ肌色と妄想。


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