ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第2話:グレモリー眷属との出会い

「……………マズイな」

 

リアスと別れてから暫くのことだった。

 

現在、八雲は祖父母が経営している和菓子店の前で悩んでいた。時間帯のこともあり辺りに人はおらず、店は既に営業時間が過ぎて閉まっているのだが、八雲は一向に入る気配が無かった。

 

原因は、両腕に装備された手甲だ。一応制服の下で隠しているが、何時までも制服を着ている訳にはいかず、どのようにして祖父母に気付かれないようにするかが問題としていた。

 

「この手甲の使い方は頭の中に流れて来たけど……何で戻し方は教われないんだよ。――思えば消えるのか?」

 

そう言って一拍置くと、八雲は心の中で何度も消えろと唱えた。

 

(――消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……)

 

何度も――

 

(――消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……)

 

何度も何度も――

 

(――消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……)

 

何度も何度も何度も――

 

『だああああっ! うるせーよ八雲!』

 

「へっ?」

 

刹那、八雲の頭をコゲンタの声が響き渡った。

 

「コゲンタ? 一体何処にいるんだ?」

 

『キョロキョロすんな。不審者だと思われるぞ。それにオレは目の前にいるぞ』

 

「目の前って……………うぉっ!?」

 

コゲンタの言葉に従い八雲は真っ直ぐ目の前に向くと、確かにコゲンタはいた。だがコゲンタの体は向こう側がうっすらと見える程に透けており、下半身に視線を移すと足元が漂う煙の様になっており、八雲は驚いてしまった。

 

「ゆ、幽霊!?」

 

『幽霊じゃねえ、シキガミだ! コゲンタ様だ! それに何だよ消えろ消えろって……ついさっき言った礼は偽りだったのかよ!?』

 

若干涙目のコゲンタに対し、八雲は発する。

 

「いや違う、誤解だ! この手甲が消えなくて家に入れないから、念じれば消えるかなーっと思って試しただけだ! それにコゲンタは俺の命の恩人だし、さっきの感謝は偽ったりしないぞ! 絶対に!」

 

『……そう面と向かって言われると、やっぱ照れるな』

 

視線を逸らしながら照れ臭げに頬をポリポリと掻くコゲンタに、八雲は質問する。

 

「ところでコゲンタ。手甲(これ)を外す事って出来るのか?」

 

『え? そうだな……外すって言うより、物を大切に仕舞う様に思えばいいんじゃねえの?』

 

「仕舞う様に、か……。やってみよう」

 

コゲンタの助言を信じ、八雲は手甲を大事にするイメージをした。すると手甲は光の粒子となって消え、何時もの両腕となったのだった。

 

「おお、戻った! ありがとうコゲンタ」

 

『構わねえよ。――ああ、それとな八雲。普段オレ達は戦いに呼び出されない限り、こんな風に霊体として現れてんだ。霊体状態のオレ達と話す際は、さっきの消えろみたいに心の中で言えよ。そうじゃないと周りから変人だと思われるかもな』

 

(……そうか、気を付けるよ。――これでいいのか?)

 

『飲み込み早いな、おい』

 

そう言うとコゲンタは姿を消し、八雲はやっと家へ入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あ! 吉川先輩、おはようございます!」

 

「ああ、おはよう」

 

「おっはよー、吉川くん♪」

 

「おはよー」

 

「おーっす、吉川」

 

「おはようございます、先輩」

 

翌日、学園に来た八雲はすれ違う生徒達に――主に女子が多いが――挨拶を交わしており、暫くして教室へと到着した。

 

『相変わらずだな。昨日転校したばっかなのに、もう女共に人気じゃねえか』

 

コゲンタの言葉に、八雲は苦笑しながら席についた。

 

(男冥利に尽きる……………と言いたいけど、実際は男の転校生が珍しいからだろ。卒業するまで、皆とはいい関係を築きたいけどな)

 

『なるほど、八雲らしいな……って、アイツ……』

 

(どうしたコゲンタ?)

 

反応が気になったのか、八雲はコゲンタの視線を辿ると――

 

「~♪」

 

鼻歌まじりで教室に入る一誠を見つけ、一誠は自分の席に座った。因みに、八雲の席の隣でもある。

 

「おはよう、兵藤」

 

「ん? おお、確か……………吉川だったな」

 

「ああ。それにしても、朝からご機嫌だな。何かいいことでもあったか?」

 

「っ!!」

 

八雲の言葉を聞いた瞬間、一誠は満面の笑みをした。

 

「何かいいことだって? そうなんだよ! 可愛い女の子に出会ったんだよ!」

 

(……ある意味、『可愛い女の子と((かわ)いい(おんなの)こと)』だよな)

 

「名前は天野夕麻ちゃん。ツヤツヤで綺麗な黒髪、スレンダーにも関わらずなかなかのおっぱい、彼女いない歴=年齢の俺にも、遂に……彼女ができましたぁ!!」

 

「おー、おめでとう」

 

「しかも次の休み、夕麻ちゃんと初デートなんだよ! あぁ~、楽しみ過ぎて脳内妄想やべぇよ。洋服の店とか雑貨店とか入って楽しんだり、昼はレストランでカップルがストロー2本で飲むジュースなんか頼んじゃったりして、デートのクライマックスには別れ際のキスなんかしちゃったりして――」

 

「取り敢えず落ち着け」

 

そう言うなり、八雲は一誠の頭にチョップを喰らわすが、一誠のテンションは維持されたままだ。

 

「おやおや~? 彼女いない歴0年の俺にジェラスィーかい? まあ、俺みたいに彼女作って頑張りなよ!」

 

(……うぜぇ)

 

今の一誠に何を言っても駄目だ。そう確信した八雲は、授業開始まで延々と一誠の話し相手をするのだった。

 

コゲンタの呟きに気付かない程に……。

 

『……………何だよ、こいつに隠れてる『符力(ふりょく)』は?』

 

 

 

 

 

 

「ここが旧校舎か……」

 

放課後、八雲は昨日リアスに言われた通り、学園の校舎裏手にある旧校舎へと足を運んでいた。

 

人気(ひとけ)が無く、木々に囲まれた2階建て木造校舎は、見た目だけだと学園七不思議がある程の不気味な佇まいだった。

 

「旧校舎って言う割には、掃除が行き届いてるな。窓ガラスも割れてないし綺麗だ。――『KEEP OUT(キープアウト)!!』のテープが貼られた教室が気になるが……」

 

旧校舎に足を踏み入れ1階を探索する八雲。だが1階には誰もおらず階段に向かっていると、コゲンタが話し掛ける。

 

『気を付けろよ八雲。1階もそうだが、2階に強い符力を感じるぜ』

 

ふりょく(浮力)? 浮くのか?」

 

『字がちげぇよ。()()()()()()()()()()だ。――簡単に言えば魔力の事だ。シキガミ(オレ)達は魔力の事を符力と呼んでんだよ。符力が強い奴程、潜在能力が強いんだ』

 

「へぇ~……………っと、ここか?」

 

そうこうしている内に、八雲はある一室の前で足を止めた。

 

『オカルト研究部』と書かれたプラカードが戸に掛けられた一室。八雲はコゲンタに視線を送ると、コゲンタは頷いて確信した。

 

『ここがあの女のハウス(部室)だ』

 

そして八雲は扉をノックして言う。

 

「吉川です。約束通り来ました」

 

「どうぞ」

 

中から返答が返り、八雲は扉を開けた。

 

「お邪魔しまー……………おぉ」

 

オカルト研究部の室内に入った瞬間、八雲は驚いた。

 

床、壁、天井の至るところに八雲が見たこともない面妖な文字が記されており、中央には部室の大半を占める巨大な魔方陣が目立ち、そして隅には小さなバスルームが何故か設置されていた。

 

「いらっしゃい。待ってたわよ、吉川くん」

 

その言葉に八雲は振り向くと、ソファーには八雲を呼びつけた張本人であるリアス・グレモリーが座っていた。

 

「どうも……」

 

「フフッ、そんなに緊張しなくてもいいわよ。適当な場所にでも座ってちょうだい」

 

「は、はい」

 

リアスと対面する様に八雲もソファーに座り室内を見回すと、リアスの他にも人物がいた。

 

「君だね、部長が言ってたお客さんは。よろしく」

 

1人は、爽やかに笑顔を向ける少年であり、制服から察するに八雲と同学年だ。

 

「……………」

 

もう1人は、綺麗な銀髪をショートカットにした小柄な体の少女であり、黙々と羊羮を食べながら八雲を見つめていた。

 

そんな2人を見て、八雲は学園の人気者達の噂を思い出した。

 

(確か同じ学年の木場祐斗(きば ゆうと)と、後輩の塔城小猫(とうじょう こねこ)か。ここにいるって事は、リアス先輩と同じ部員みたいだな……)

 

『初めて会うのに分かるのか?』

 

(遠目で見掛けたことはある。それに噂と特徴を照合すれば、な……)

 

そう言って、コゲンタに2人の噂を教えた。

 

木場祐斗。爽やかな笑顔で多くの女子達のハートを魅了する学園一の『イケメン王子』であり、男子達――八雲は除く――にとって羨ましい存在である。

 

塔城小猫。一部の男子に人気が高く、女子の間でも可愛いと評判で、『学園のマスコット』と言われる程に皆から愛されている。

 

『ふ~ん……』

 

説明に納得したのか、コゲンタは祐斗と小猫を見ていると、八雲のもとに別の女子が歩み寄って来た。

 

「あら、あなたが吉川八雲くんね。リアスから聞いてますわ。初めまして、姫島朱乃(ひめじま あけの)と申します」

 

「あ、どうも……」

 

姫島朱乃。長く美しい黒髪をひとつに束ね、リアスと共に『駒王学園の二大お姉様』と称されており、性格も外見と違わず落ち着いた物腰は大和撫子を体現している。

 

(確かこの人、リアス先輩と一緒にいたよな……)

 

「朱乃、彼に紅茶でも出してあげて」

 

「畏まりました」

 

リアスの言葉に朱乃は部室の奥に引っ込むと、八雲はリアスに訪ねた。

 

「えっと、3人はここの部員ですか?」

 

「ええ。それと、私の下僕悪魔達でもあるのよ」

 

「下僕悪魔?」

 

「今から説明するわ」

 

その後、八雲は朱乃が入れてくれた紅茶を飲みながら、リアスの口から様々な説明を受けた。はぐれ悪魔という存在……。悪魔、堕天使、神の存在と三者の関係性……。そして神 器(セイクリッド・ギア)について説明した。

 

「……取り敢えず、これらがあなたの知りたがってた事よ」

 

「……………何と言うか、複雑ですね」

 

八雲は腕を組んで首を傾げる中、リアスは立ち上がり、祐斗、小猫、朱乃もリアスの横に並び立った。

 

「それじゃ、改めて自己紹介させてもらうわ。――祐斗」

 

「はい」

 

そして、3人はそれぞれ自己紹介した。

 

「僕は木場祐斗。吉川八雲くんと同学年だよ。えーと、僕も悪魔です。よろしく」

 

爽やかな笑顔を向ける祐斗。

 

「……1年生。……塔城小猫です。よろしくお願いします。……悪魔です」

 

小さく頭を下げる小猫。

 

「3年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長も兼任しております。今後ともよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」

 

礼儀正しく深く頭を下げる朱乃。

 

そして、最後にリアスは紅い髪を揺らしながら堂々と言う。

 

「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね」

 

瞬間、リアスたちは背中から悪魔の翼を広げた。その光景により4人は完全に人間ではないという証明になり、八雲は唖然と見つめると、暫くして自身の頬を引っ張った。

 

「……夢じゃ無いんですね」

 

「まぁ、それが普通の反応よ……」

 

そしてソファーに座り直すリアスは紅茶を一口飲むと、八雲の横に視線を向ける。

 

「それで、あなたの横にいるのは昨日の猫ちゃんね」

 

「っ!」

 

その発言に八雲はピクリと反応した瞬間、コゲンタはリアスを睨んでいた。

 

『……やっぱり見えてやがったのか』

 

「見えるって、全員コゲンタが見えてるんですか?」

 

八雲の質問に全員が頷く。

 

「幽霊や悪霊の相手もした事があるからね。――それで、君が持つ神器(セイクリッド・ギア)なのだけど、もう一度見せてもらえるかしら?」

 

リアスの言葉に八雲は申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「あー、それなんですが……………出ないんですよ」

 

「出ないって……出せないの?」

 

リアスの言葉に八雲は頷く。実は今朝、八雲はもう一度手甲を出せないかと試したのだが、結局は出せなかったのだ。

 

『昨日は八雲がピンチだったからな。オレ達が強制的に呼び出した分、まだ自在に出せねえんだ』

 

コゲンタの言葉にリアスは口元に手を当て考えると、暫くして八雲にある提案をした。

 

「なら、ここで出してみない? 私が教えてあげるわ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

『いいんじゃねえのか。いつまでもオレ達が呼び出す訳にもいけねぇだろうし……』

 

「分かったよ。――それじゃあリアス先輩、お願いします」

 

そして、八雲はリアスから神器の出現方法を教わり始めた。

 

「それじゃあ、まずは手を上げて。それから目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい。想像出来たら、それが一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

(一番強い存在、か……)

 

八雲は想像する。数年間、今の自分に鍛え上げてくれたその人を……、その者が得意としている技を……。

 

『……ちぇっ。オレじゃないのかよ』

 

「静かにして。――想像することが出来ればゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がって。そして、それの一番強く見える姿を真似るの。強く思いながら」

 

「……………」

 

リアスに従い、八雲は動きを見せる。

 

両足を横に向かせ、体を縮こめる様に腰を落とし、その上で胴体を思い切り捻り、正面にいるリアスに殆ど背中を晒してしまっていた。そして八雲は片方の拳を握り締め、もう片方の手で拳を包み込む様にして構えると、暫く体勢を保った。

 

「……………ふっ!」

 

刹那、八雲の体が動き目を開く。足を横に向けたまま、捻っていた胴体を一気に元に戻し、構えていた拳を開放し、リアスの後ろにある窓の外に見える木へと向けた。

 

砲台から発射された弾丸の如き拳の速度は、リアスと朱乃の髪を揺らしており、2人は唖然と見つめていた。

 

(あの拳の速度、『騎士(ナイト)』の僕でも避けきるのは難しそうだ……)

 

武術に心得のある祐斗も八雲の拳を見て感嘆に思う中、八雲に変化が生じた。両腕が光り出して次第に形を成していき、光が収まると両腕には昨夜の手甲が装着されていたのだった。

 

「おお! 出来ましたよ、リアス先輩!」

 

「一度ちゃんとした発現出来れば、後はあなたの意志で何処にいても発動出来るわ……」

 

言い終わると、リアスは八雲の右腕を取りつつ、ゆっくり優しく擦っていた。

 

「えっと、リ、リアス先輩?」

 

「見た目は『龍 の 手(トゥワイス・クリティカル)』に近いけど、触れると何だか不思議な感覚ね。悪魔が嫌う光を感じられるし、逆に好む闇も感じられるわ……」

 

戸惑う八雲をよそに、リアスは手甲に触れながら自身の感想を言うと、八雲の腕を離して視線をコゲンタに向けた。

 

「コゲンタと言ったわね。吉川くん、この場に彼を呼べるかしら? 直接話してみたいわ」

 

「いいか、コゲンタ?」

 

『……別にいいぜ』

 

「分かった。――シキガミ、降神!」

 

右腕を突き出しながら八雲は唱えると、目の前には昨日と同じ八卦の陣と襖障子が出現し、昨日とは違いゆっくりと開いてはコゲンタが現れた。

 

そして八雲はソファーに座り直すと、その隣にコゲンタがドサッと座り、リアスへと口を開いた。

 

「……それで、聞きたい事って何だよ?」

 

「シキガミの存在について。朱乃に聞いた事のある『式神』とは違うし、何より微量だけど、悪魔、天使、堕天使の魔力を感じたわ……」

 

「つまり、リアス先輩は3種族の力を感じるコゲンタの正体を知りたいんですか?」

 

八雲の言葉にリアスは頷くと、コゲンタは答えた。

 

「……節季(せっき)って知ってるか?」

 

「せっき?」

 

聞き慣れない言葉にリアスは疑問符を浮かべると、朱乃が答えた。

 

「確か、季節の運行を表す二十四節季(にじゅうしせっき)でしたわね。太陰太陽暦において月名を決定して、季節とのズレを調整する為の指標として使われていると……」

 

「へぇ、そこのねーちゃんは詳しいんだな」

 

「これでも神社の娘ですので、その辺りの知識はある程度分かりますわ」

 

(姫島先輩って神社の関係者なのか。道理で皆から大和撫子と言われる訳だ……)

 

八雲が朱乃の出身を知る中、コゲンタは言った。

 

「オレ達シキガミは節季とかを司る荒神や精霊の総称だ。季節である四季の神だからシキガミ。まあ、魔界や天界の住人と比べたら、勢力は約500程度と極僅かだけどよ」

 

「確かに少ないわね。でも、私はシキガミなんて存在は知らないわ。もしかして、大昔の大戦で……?」

 

リアスが察すると、暫くしてコゲンタが頷く。

 

「……………ああ。種族の8割以上は滅んだ。3種族に力を提供して、それに巻き込まれた」

 

「力の提供って、あなたも大戦に参加したのね」

 

「参加っても、直接の戦闘はそんなに無かったぜ。力を与えたから狙われたり、拉致られたりして減っていったんだ」

 

「力を与えるって、何か特別な力があるの?」

 

「ああ。オレ達シキガミは()()()()()()()()()()()()()。――例えばオレは“秋分”を司ると同時に“信頼”も司っている。信頼があれば戦場の士気を上げさせ味方を有利にさせるのも出来るしな」

 

コゲンタの言葉に、リアスはシキガミの絶滅を悟った。

 

司る力を与える力を持つシキガミ。その力に目を付けた3種族はシキガミを自軍に入れ、力を無理矢理に行使した挙げ句、敵軍のシキガミを滅ぼしてを繰り返し、遂に絶滅してしまったのだと……。

 

すると、リアスはコゲンタに頭を下げた。

 

「ごめんなさい、コゲンタ」

 

「な、何だよ急に……?」

 

「理不尽に滅ぼされたのね。許されないことだけど、私たち悪魔にも責任があるわ。本当にごめんなさい……」

 

「……別にいいぜ。シキガミは使われてなんぼの存在だ。だから頭を上げてくれよ」

 

コゲンタの言葉にリアスは頭を上げる中、小猫が口を開いた。

 

「……シキガミは、あなただけなの?」

 

しかし、小猫の言葉にコゲンタは否定した。

 

「いや、オレを含む残り72体のシキガミは全て、神がこの『二十四気の神操機(シーズン・ドライブ)』に宿したんだ。完全に滅んだ分けじゃねえよ……」

 

コゲンタの言葉に、八雲を含む全員が両腕の神器……二十四気の神操機(シーズン・ドライブ)に驚愕の視線を移すと、八雲は口を開いた。

 

「そんなに宿っているのか。でも、姿が現れないのはどうしてなんだ?」

 

「オレが先に目覚めたのは、八雲が生まれた節季に関係あるぜ。一部の奴等も目覚めても普段は中にいるんだが、そのおかげでオレが霊体になれる切っ掛けでもあるんだ」

 

「じゃあ、残りのシキガミを目覚めさせる事って出来るのか?」

 

「簡単だ……。強くなるんだよ、八雲」

 

そう言った瞬間、コゲンタはソファーを立ち上がると襖を出現させた。

 

「そろそろ戻るぜ。じゃあな、リアスのねーちゃん」

 

「……ええ、また話しましょう」

 

徐々に襖障子が閉まる中、最後にコゲンタは振り向いて言った。

 

「あ、そうだ。――グレモリー卿のおっさんにもよろしくな」

 

「え?」

 

その言葉を最後に、コゲンタは戻っていったのだが、リアスだけが目を丸くして襖障子があった空間を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方。八雲に事情を説明してから少し時間が経っており、夕暮れの光が照らす部室にはリアスと朱乃だけが残っていた。

 

「吉川八雲と、シキガミのコゲンタ、か……」

 

そう呟くと同時に、リアスはコゲンタが最後に言った言葉を思い出す。

 

──グレモリー卿のおっさんにもよろしくな

 

そう発したコゲンタは、確実にリアスの実父を知っている口振りであり、恐らくグレモリー家とシキガミは何か特別な繋がりを持っている証拠だった。

 

そんな考えをよそに、朱乃が紅茶をリアスに渡して言った。

 

「不思議な方々でしたね」

 

「不思議どころか異常よ」

 

「と言うと……?」

 

首を傾げる朱乃に、リアスは紅茶を一口飲んでから言った。

 

「昨日の今日で、私達やコゲンタの説明も理解してくれてよかったわ。でも、72なんて数の荒神や精霊(シキガミ)達を宿してる事を知っても受け入れるなんて、普通は恐怖や不安で押し潰されると思うわよ」

 

「確かに……コゲンタちゃんの説明で驚いた顔をした部長、初めて見ましたわ」

 

「自己紹介の時だって、もうちょっと怖がってもよかったと思うわね。まるで夢でも見てる様な感覚で現実なのかと確認してたし……」

 

「あらあら。これでは公爵家の面目丸つぶれですわね」

 

「……うるさいわよ、朱乃」

 

「あら、照れてらしゃるのですか? 顔が赤いですわよ?」

 

「ち、違うわよ! 夕日のせいよ、夕日の! ほら、紅茶おかわり!」

 

「うふふ。はい、かしこまりました」

 

その場を離れた朱乃を見送ったリアスは席を立つと、窓から茜色の空を見上げた。

 

「本当、変な子だったわ」

 

そう言いながらリアスは視線を正面に向けると、ある事に気付いた。

 

「あれって……?」

 

リアスの目に見えるのは、旧校舎の周りにある木々。その木の1本だけ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「……………まさか、吉川くん?」

 

直径が拳並みの大きさを持つ凹み傷。その傷を見たリアスは、神器を呼び出した際に放った拳を繰り出す八雲の姿を思い出していたのだった。

 

「……………そう言えば、吉川くんに聞くのを忘れたわね」

 

そして、リアスは八雲に聞いておこうとした質問を思うのだった。

 

(結局、バイスって何だったのかしら……?)


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