ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第27話:球技大会の闘神士

一誠の家で行ったオカ研会議から数日が経過した頃、昼休みの廊下にて八雲とくぅろが歩いていた。

 

「さてと、今日の放課後は何の練習だろうな?」

 

2人が向かっているのは、無論オカルト研究部の部室。もうすぐ始まる球技大会に向けて部員達は昼休みにミーティングを行っている中、昼食を学食で取る八雲は毎回くぅろに迎えられ、部室に行っているのだ。

 

球技大会の種目には、クラス対抗戦や男女別競技の他、部活対抗戦がある。この手のイベントが大好きなリアスも気合いを入れ、放課後は目ぼしい球技の練習を行っているのだ。

 

「野球、サッカー、バレーボール……。一通りの団体球技はしましたね。私個人としては、サッカーが楽しかったです。走ってボールを追い掛けるのが特に……」

 

「体を動かすのはいいからな」

 

元が犬(?)だからか、くぅろは頬に手を添えては嬉しそうに言う中、八雲も頷いた。

 

「部活対抗戦は余程のヘマしなかったら負けないからな。まあ、俺の場合は個人種目でヘマしない様にしないと……」

 

そう言い、八雲はリアスから借りている本……テニスのマニュアルを読み歩く中、くぅろが声を掛ける。

 

無論、学園内での呼び方で……。

 

「吉川さんって、テニスは初めてですか?」

 

「ああ……。テレビの中継で見た事あるが、ルールはさっぱりだからな。全く、男女個人種目を当日間近で発表すんなよ……」

 

「練習はどうします?」

 

「そうだな。今日の放課後にでも、テニス部に頼んで一戦してもらうか……って、お?」

 

すると、視界に一誠とアーシアの姿が入り、八雲達は声を掛けた。

 

「よー、お二人さん。昼飯は済んだみたいだな」

 

「吉川、お前もか?」

 

「ああ……………って、イッセー? 何故にアーシアの顔が赤いんだ?」

 

「い、いえぇぇ! 何でもありませんので気にしないでくださいぃぃ!」

 

紅潮した顔を横に振るアーシアをよそに、一誠が小声で説明した。

 

松田と元浜と共に悪ふざけした後、一緒に旧校舎へ向かおうとアーシアを呼んだのだが、その時に同じクラスの女子……桐生藍華(きりゅう あいか)が一誠の事を彼氏と呼び、アーシアを動揺させたのだ。

 

無論、いきなりアーシアの彼氏認定されて一誠も相当恥ずかしくなり、アーシアを連れて早足に教室を出たのだ。

 

「あー……なるほどね」

 

そんな騒動を、八雲は想像しては納得した。

 

因みに、八雲も藍華の事は知っている。一誠達(変態3人)を唯一嫌っておらず、普通の友人として接している女子であり、同時に豊富ないかがわしい知識を持つ事から、一部の生徒から『匠』と呼ばれているのだ。

 

「でも、藍華さんの言葉も分かりますね。私も時々、イッセーさんの周りでそんな雰囲気を感じます」

 

「え、えぇぇぇぇ!?」

 

突然のくぅろの発言に一誠も動揺しては顔を紅潮させる中、ホリンも出ては頷く。

 

『それはウチも感じたなぁ。部長はんも恋する乙女の視線を送っとるし……』

 

「な、何で部長が出てくる……………って、まさか、部長に彼氏が!?」

 

『……ほんま、恋愛にどんくさいやっちゃな』

 

やれやれとホリンは首を振りながら戻ると、八雲が手を叩いては一誠達に注目させた。

 

「取り敢えず部室に向かおう。リアス部長達が待ってるだろ?」

 

「……そ、そうだな」

 

「は、はいぃぃ……」

 

「行きましょう」

 

そして、4人は旧校舎へと向かうのだった。

 

(あ、でも、朱乃はんが八雲はんに送る視線もせやったな……)

 

内心、ホリンが思い出した様に思うのを知らずに……。

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

八雲を先頭に部室に入る4人。既に他の部員が顔を揃えていたが、その中に部員ではない人物達がソファーに座っており、一誠が驚きの声を上げた。

 

「せ、生徒会長……?」

 

その人物達とは、ソーナと椿姫だった。

 

「あの、どちらさまですか?」

 

唯一、彼女達の事を知らないアーシアが小声で一誠に尋ねた。

 

「この学校の生徒会長、支取蒼那先輩だよ。隣は副会長の森羅椿姫先輩……ってか、生徒会メンバー勢揃いじゃん」

 

一誠がソーナと椿姫に戸惑う中、付き添いであろう男子生徒が呆れた様に口を開いた。

 

「なんだ、リアス先輩、俺達の事を兵藤に話していないんですか? 同じ悪魔なのに気付かない方もおかしいけどさ」

 

「サジ、基本的に私達は『表』の生活以外ではお互いに干渉しない事になっているのだから仕方ないのよ。それに兵藤くんは悪魔になって日が浅いわ。知らなくても当然の反応をしているだけ」

 

「な、何ですと!? まさか……」

 

今の説明に一誠は理解したのか、八雲が説明した。

 

「察しの通り、会長は上級悪魔シトリー家の次期当主。真名はソーナ・シトリーだ」

 

「なっ……………って、どうして吉川が知ってるんだよ!?」

 

「イッセーが転生する前に紹介してくれたからな」

 

予想外の展開に絶句する一誠。まさかリアス以外にも上級悪魔が存在する事に心底驚く中、八雲と交代する様に朱乃が説明した。

 

「この学園は実質グレモリー家が実権を握っていますが、『表』の生活では生徒会……つまり、シトリー家に支配を一任しております。昼と夜での分担を分けたのです」

 

「そ、そうだったのか……………って、まさか生徒会のメンバーって……?」

 

すると、ソーナが付き添いの男を紹介する様に口を開く。

 

「彼は匙元士郎(さじ げんしろう)。2年生で私の“兵士”です」

 

「“兵士”の兵藤一誠。“僧侶”のアーシア・アルジェントよ」

 

同じくソーナに続いて、リアスが新たな下僕となった一誠とアーシアを紹介すると、一誠は元士郎を見ては口を開いた。

 

「最近書記として追加メンバーになった奴だよな。へー、お前も“兵士”か。それも同学年なんて奇遇だな」

 

「はぁ……。俺としては変態3人組の筆頭であるお前と同じなんてのが酷くプライドが傷付くんだけどな……」

 

「なっ、なんだとこの野郎!」

 

同じ“兵士”同士に一度は嬉しそうな声を上げた一誠だったが、その思いとは裏腹に元士郎が溜め息と共に嫌味を言い、怒りの感情を顔に出していた。

 

「お、何だやるか? こう見えても俺は駒4つ消費の“兵士”だぜ? 最近悪魔になったばかりだが、兵藤なんぞに――」

 

「お止めなさい、サジ」

 

しかし、すぐに挑発してくる元士郎をソーナが鋭い睨みで制した。

 

「今日ここに来たのは、最近下僕にした悪魔を紹介し合う為の、上級悪魔同士の会合です。私の眷属なら、私に恥をかかせないこと。それに、兵藤くんは駒を8つ消費してるのよ。今のあなたでは、まだ勝てません」

 

「駒8つって、全部じゃないですか! こんな冴えない奴なのに……信じられない」

 

「うっせえ!」

 

目元を引きつらせながら見る元士郎に一誠は吠えるが、八雲が肩を掴んでは押さえ付けた。

 

「落ち着けよ、イッセー」

 

「だけどよ、吉川……」

 

「吉川? そうか、お前が……」

 

すると、元士郎が八雲の前に来ては睨み付けた。

 

「初めましてかな。俺は吉川八雲だ。よろしく」

 

「知ってるぜ。会長直々の誘いを拒んだ奴だろ? せっかく会長が練りに練った勧誘プランを台無しにしやがって、どういうつもりだ!」

 

「あら、ソーナ。八雲を勧誘したの?」

 

「ええ。結果はダメでしたけど」

 

リアスの言葉にソーナは苦笑する中、八雲は元士郎を落ち着させる様に言う。

 

「聞いてないのか? ソーナ会長には事情を説明して納得してくれた。色々と協力はするからいいだろう」

 

「うっ……。で、でも、俺は納得しねえぞ!」

 

「なら、どうしたら納得するんだ? 一応言うが、お前に頭を下げるのはゴメンだね。ソーナ会長には納得してくれたんだからな」

 

睨み合う八雲と元士郎。だが、そう長くは続かなかった。

 

『だったら、今度の球技大会で白黒着けたらいいんじゃねえか?』

 

コゲンタが現れ、提案を申し立てたのだ。

 

「うおっ! 何だソイツは?」

 

「あら、コゲンタくん。お久し振りね」

 

『おっす、ソーナのねーちゃんと椿姫ねーちゃん』

 

「て、てめぇ! 会長を変に馴れ馴れしく呼ぶな! 俺がボッコボコにしてやんぞ!」

 

『あ? だったら勝負してやろうか?』

 

しかし、八雲の代わりにコゲンタが一触即発の雰囲気となり、八雲とソーナは2人を静止させた。

 

「やめろ、コゲンタ」

 

「サジ、いい加減お止めなさい。今のあなたでは、絶対に吉川くんにもコゲンタくんにも勝てません。先日のゲームでフェニックス家の三男を倒したのは彼らなのだから」

 

「はぁ!? あのライザーを……フェニックスを、こいつらが倒したんですか!?」

 

信じられないと言う様に、八雲とコゲンタを見つめる元士郎。

 

そんな中、椿姫が思い出した様に言う。

 

「確か、ライザーの“女王”を倒したのも吉川くんでしたね」

 

「「「「「えぇっ!?」」」」」

 

その一言に、一誠、リアス、アーシア、小猫、くぅろは驚愕した。だが、その光景を見た朱乃と、ぼんやり虚空を眺めている祐斗は驚きを見せていなかった。

 

「マジか吉川! 俺はてっきり朱乃さんが倒したものだと……」

 

「……私も驚きです。治療を受けながら眠っていたので、分かりませんでした」

 

「はわわ! 凄いですね……」

 

「はい! やっぱり御主人様は凄いです!」

 

「リアスは知らなかったのですか?」

 

「え、ええ……。あの後、八雲達もすぐに帰ったから事情は聞いてなかったわ……。今度、ゲームの映像を借りないとね」

 

そんな騒ぎの中、コゲンタは再び元士郎に言う。

 

『それで、どうなんだ? 今度の球技大会で勝負して、その結果で勝負を着ける。因みにお前は何に出るんだ?』

 

「テ、テニスだ。個人種目の……」

 

それを聞いて、ニヤリと口を吊り上げるコゲンタは言った。

 

『丁度いいじゃねえか 。八雲(こっち)もテニスだ。これで試合に当たれば正々堂々勝負出来るだろ』

 

「なら、私の方で調整しましょうか?」

 

すると、コゲンタの会話に乗る様にソーナが提案した。

 

「か、会長!? いいんですか!?」

 

「お互い溝を深めて学園の平和に影響するなら、ぶつかり合って和解した方がいいでしょう。その為なら、私も協力します」

 

『ありがとな、ソーナのねーちゃん』

 

「ありがとうござい、ソーナ会長。この貸しは何れ返します」

 

一先ず八雲と元士郎の勝負に一段落したのか、ソーナは一誠とアーシアに頭を下げる。

 

「ごめんなさい、兵藤くん、アルジェントさん。うちの眷属はあなた達よりも実績が無いので、失礼な部分が多いのです。よろしければ新人悪魔同士、仲良くしてあげてください。――サジ」

 

「え、は、はい……………よろしく」

 

ソーナに促され、どこか不満が含まれている様に見えるが渋々と頭を下げた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「悪魔ではありませんが、こちらこそよろしくです」

 

アーシアが屈託のない笑顔を浮かべ、くぅろも微笑んでは挨拶を返すと、元士郎は2人の手を取った。

 

「こちらこそ! いや~、アーシアさんやくぅろちゃんみたいにかわいい子なら大歓迎だよ!」

 

その途端、元士郎は一誠とは正反対の行動を取っては握り返してきたが、すかさず間に割り込んだ一誠が引き離し、思い切り力を込めて握手を交わした。

 

「ハハハ! 匙くん! 俺の事もよろしくね! つーか、アーシアに手を出したらマジ殺すからね、匙くん!」

 

「うんうん! よろしくね、兵藤くん! 金髪美少女を独り占めだなんて、本当にエロエロな鬼畜くんなんだね、兵藤くん! やー、天罰でも起きないものかな! 下校中、落雷にでも当たって死んでしまえ!」

 

お互いに無理矢理な笑顔で見つめながら、暴言を暴言で返しあう光景に、殆どの者が呆れていた。

 

『誰かオレっちを呼んだ?』

 

「呼んでないよエレキテル」

 

「大変ね」

 

「そちらも」

 

『それで、勝負の後はどうするんだ?』

 

そんな珍妙な光景を見ながらリアスとソーナも嘆息していると、2人の間にフジが現れた。

 

「あら。あなたもコゲンタくんと同じシキガミかしら?」

 

『黒鉄のフジと言います。以後、お見知りおきを……。――それで、勝負内容はテニスで決定だ。敗者の罰は如何に?』

 

黒鉄一族が司る力は“勝負”。勝ち負けに拘りを持つと同時に、勝負事の審判役やルールの提案、敗者の罰ゲームを行う事もするのだ。

 

それから暫く、八雲は口元に手を当てて考えると口を開いた。

 

「なら、俺が負ければ匙に頭を下げ、尚且つ生徒会の仕事を1ヶ月間手伝うよ。思う存分、扱き使って構わない」

 

「だったら俺は、お前の命令に何でも1回だけ聞いてやる! 神器無しで、悪魔と人間の圧倒的身体の差に腰抜かすなよ!」

 

2人の間に火花散る雰囲気の中、フジは八雲に言う。

 

『では2人共。俺の言う通りに契約書を書くんだ。八雲、書いたら神器に契約書を近付けてくれ』

 

フジの言う通りに八雲と元士郎は契約書を書いてはリアスとソーナにサインを貰い、“二十四気の神操機”を装着した八雲が契約書を宝玉に当てると、契約書は光の粒子となって宝玉に吸われ、フジの手元へと渡ったのだった。

 

『確かに受け取った。お互い悔いの無い様、全力を出し切れ』

 

そう言い残したフジは戻ると、ソーナ達は立ち上がった。

 

「予定外の事態が起きましたが、お互いのルーキー紹介は十分でしょうね。では、私達はこれで失礼します」

 

「会長……いえ、ソーナ・シトリー様。これからもよろしくお願いします!」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

頭を下げる一誠とアーシアに返事をし、ソーナは微笑んではリアスに言う。

 

「リアス、球技大会が楽しみね」

 

「えぇ、本当に」

 

「逃げんなよ、吉川!」

 

「逃げねぇよ、匙」

 

元士郎の言葉を最後に、ソーナ達は早足に部室を後にする中、八雲はチラリと祐斗の方へと視線を動かした。

 

「……………」

 

祐斗の視線は、やはり虚空を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

元士郎と勝負の約束をして数日後、球技大会前夜。

 

『フンッ、フンッ!』

 

現在、八雲は“二十四気の神操機”の精神空間の南側にて、夏の草木の領域にある広い空間で具現化したラケットを振り、同じく具現化したテニスボールを打ち返していた。

 

この精神空間はシキガミ達が度々集合する中央広場を拠点に、東は春、西は秋、南は夏、北は冬と言った、それぞれの領域があり、シキガミ達は司る節季の領域に留まっている。そして、八雲が来れば一部のシキガミが中央に集まり、談笑や悩み事、または精神空間における鍛練を手伝ったりしているのだ。

 

今回は、元士郎との対戦の為に精神空間での最後の鍛練をしていた。精神空間での鍛練なので、イメージトレーニングに近い扱いであるが……。

 

「ええ調子やな、八雲」

 

すると、新たに目覚めたシキガミが声を掛け、八雲は素振りを止めた。

 

現れたのは、ハリネズミに似た獣人的な外見を持つシキガミ。首に掛けた紐に幾つもの巻物が吊るされ、その1本を手に取りながらシキガミは笑みを浮かべていた。

 

まるで、八雲が鍛練に打ち込む姿を喜んでいるかの様に……。

 

「せやけど、そろそろ明日に備えて寝なアカンで。休むのも鍛練や」

 

『分かったよ、マスラオ。だけど……あと少しだけするよ。練習では編み出せたから、ここで物にしておきたい』

 

八雲の言葉にシキガミ……『繁茂のマスラオ』は感動するかの様に涙を流していた。

 

「く~~~~~っ! 偉いで八雲! ワイは努力する奴がめっちゃ好きや。イッセーにも感じたけど、八雲の周りには努力家が多くて嬉しいで!」

 

因みに、繁茂一族が司る力は“成長”。契約者が成長する事に喜びを感じ、何より繁茂一族自身も努力家集団だ。特に繁茂一族にとって、八雲の様な鍛練を続けている者は至高の喜びなのである。

 

『確かに、イッセーの成長も、早いな。早朝訓練も、最初の頃より、ましになってる』

 

素振りしながら会話する八雲にマスラオも頷くと、暫く八雲は口を閉じてはボールを何回も打ち返した。

 

「……しっかし、ラケットを大きく振り抜くなんて、異常なスピンが掛かるんとちゃうんか? それにトップスピンとスライスも交互に打っとるし……一体どんな技やろ?」

 

そんな中、マスラオは誰にも聞こえない声で呟きながら、八雲の鍛練を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

『リアス・グレモリーさん、支取蒼那さん、同位優勝です!』

 

そして、球技大会開始から数時間が経った。

 

現在、クラス対抗戦が終わり男女別個人種目の時間。3年生が使用しているテニスコートでは、先程まで激戦を繰り広げていたリアスとソーナが健闘を称える様に握手を交わしていた。

 

「楽しかったわ、ソーナ。また機会があればやりましょう」

 

「そうね、リアス。小西屋のうどんは次回に持ち越しね」

 

微笑んでは握手する2人を見て、観戦していた生徒達が歓声を上げる。

 

すると、別のコートからも大きな歓声が聞こえた。

 

「向こうも盛り上がってるわね」

 

「確か、2年生が試合してるコートね。一緒に見に行きましょう」

 

ソーナの言葉にリアスも同意してはコートを出ると、リアスには一誠とアーシアが、ソーナには椿姫が、タオルとドリンクを渡した。

 

「お疲れ様です、部長!」

 

「部長さん。試合、とっても凄かったです」

 

「ありがとうイッセー、アーシア。朱乃達はどうしたの?」

 

「朱乃先輩と小猫ちゃんは、途中から吉川の試合を見に行きました」

 

「確か、木場さんも連れて行きました。くぅろさんは吉川さんの所でずっと見てるはずですよ」

 

「そう……。なら、私達も八雲の試合を見に行くわよ」

 

リアスの言葉に一誠達も了承すると、八雲がいるコートへと向かうのだった。

 

そして、コートに到着したリアス達はすぐに朱乃を見つけた。

 

「あら部長。試合は終わりましたか?」

 

「ええ。同位優勝だけどね」

 

「おめでとうございます、部長……」

 

「ありがとう、小猫。――それで、八雲の状況はどうしてるの?」

 

「あちらを……」

 

朱乃が指差す方へと向けるリアス達は驚愕した。

 

現在、スコアボードは1ー5。

 

八雲の圧勝である。

 

しかし、リアス達が驚いたのはスコアボードだけじゃない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「……………」

 

コートに立つ2人の内、元士郎は息を上げて疲労感が見られ、八雲は少しの汗を流しているだけだからだ。

 

「ちょ、神器無しで匙を圧倒してるじゃないか!?」

 

「くぅろ。あなたは最初から見ていたわね。それまでの八雲の試合状況はどうだったの?」

 

「そうですね……」

 

リアスの言葉に、くぅろは試合報告を語り始めた。

 

長い攻防の果て、最初は元士郎が先取した。だが、特に八雲は焦りもせず、冷静に元士郎の打球を観察していたのが印象だ。

 

そして、それは正解だった。次のゲームからは元士郎の動きを見極めたかの様に、八雲は打球を返しては同点に追い付き、逆転に成功した。

 

それが続いていき、くぅろは気になる事を口に出した。

 

「度々、匙さんの腕が止まっていました。特に御主人様とのラリーが続いた時には……」

 

「それって、今の様な状態?」

 

くぅろの言葉にリアスはコートを見ると、八雲と元士郎がラリーを続けており、八雲の打ち方に気付いたのか小猫が呟く。

 

「……トップスピンとスライス。八雲先輩はそれを交互に打ってますね」

 

「……………あ、そっか」

 

すると、リアスは八雲の行動を見ては、思い出した様に手を叩いた。

 

「何かのスポーツ雑誌で見た事があるわ。相手の筋肉を交互に動かして、一瞬だけ麻痺させる技術……………確か、スポットだったかしら?」

 

「だぁっ!」

 

バシィィィィィッ!!

 

「15ー00!」

 

リアスが語り終えると同時に八雲に得点が入る。その際、元士郎の腕も振る動作の途中で止まっていた。

 

「すっげぇ……」

 

一誠が驚く中、リアスは首を傾げた。

 

「でも、あれは相当な技術よ。数日で物に出来る代物じゃないのに、どうやって覚えたのかしら?」

 

「あ、それは確か、テニス部にあった雑誌を見て真似たら、色々出来たと言ってましたよ……………御主人様が」

 

「……たったそれだけで出来たの?」

 

「あらあら。技を見ただけで出来るなんて凄いですわね」

 

「……眼力が半端ないです」

 

それぞれが驚く中、八雲の技は続く。

 

大きく跳躍してからのスマッシュ。綺麗な弧を描くボレー。ボールの跳ね際を狙って返すライジング。大きく振り抜き異常なスピンを掛けて打つバギーホイップショット。

 

「はぁっ!!」

 

そして、最後に決めた技。トップスピン気味に跳ねては元士郎の顔を横切ったツイストサーブが決まり、審判は声を上げる。

 

「ゲームセット! 優勝、吉川八雲くん!」

 

その瞬間、リアス達の試合に劣らない程の歓声が起こる中、八雲と元士郎はネット前に集合していた。

 

「全く、お前って本当に人間か? 完全に初心者の動きじゃないぞ」

 

「勝つ為に努力しただけだ。楽しかったぜ、元士郎」

 

差し出された八雲の腕を見て、元士郎は頭を掻いては微笑んだ。

 

「……まぁ、勝負云々は置いといて。俺も楽しかったぜ、八雲」

 

そして、2人は固い握手を交わしては、盛大な拍手が送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ。契約書の件、絶対に忘れるなよ」

 

瞬間、笑顔の八雲を見た元士郎は、顔を青ざめてしまうのだった……。


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