ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第25話:芽生えた想い

2つの力がぶつかり合い崩壊していく敵本陣。その衝撃は次第に広がり、グラウンドをも飲み込んでいく。

 

「御主人様!?」

 

「ダメだ、くぅろちゃん!」

 

「行けば、くぅろちゃんも危ないですわ!」

 

そこへ突っ込もうとするくぅろを止める為、祐斗と朱乃が押さえていた。

 

「吉川……」

 

そんな中、リアスに肩を借りて見つめている一誠が呟いたその時だった。

 

「あ、あれは!」

 

何かに気付くアーシア。その声色に歓喜が含まれるのに気付くと、アーシアが指差す方向へと視線を向けた。

 

「……………ぉーぃ……………」

 

崩壊した新校舎から聞こえる声。

 

リアス達は目を凝らすと、空中に漂う者を見つけた。

 

「おーい! おーい!」

 

【動】の八卦の魔方陣に乗り、コゲンタを背負う八雲の姿があった。

 

「八雲!」

 

「吉川!」

 

「八雲さん!」

 

「八雲くん!」

 

「御主人様!」

 

「八雲くん!」

 

一斉に八雲の名を呼ぶリアス達。降り立った瞬間、くぅろが八雲に抱き付いては涙を滝の様に流した。

 

「うわぁぁぁぁぁん! 御主人様ぁ!」

 

「心配掛けたな、くぅろ。取り敢えず泣き止めよ」

 

コゲンタが落ちない様にくぅろを撫でていると、近付いた朱乃が訊いてきた。

 

「あの衝撃の中でよく無事でしたわね。一体、どうやって抜けたのですか?」

 

「そうですね……」

 

すると、八雲はゆっくりとコゲンタを降ろしては話した。

 

コゲンタの百鬼滅衰撃であるエネルギーの放流が収まってはコゲンタが倒れた後、八雲は崩壊寸前で【動】の闘神符を発動。瓦礫の山に潰されずに済んだ。

 

崩れていく新校舎の中、落下するコゲンタを無事に回収したが、衝撃で一時的に動きが止まってしまい、【壁】の闘神符で衝撃を防ぐ事にし、収まった所で脱出したのだ。

 

説明しながらコゲンタを戻し終えると、八雲は見上げながら言った。

 

「……それで、判定はどうですか? ライザーが光に包まれたのを、俺は見ましたよ。審判(アビーター)

 

すると、八雲に言われて気付いたのか、本日最後のアナウンスが流れた。

 

『……ラ、ライザー・フェニックス様の脱落を確認。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です』

 

思わぬ事態で若干グレイフィアの言葉が詰まるのを、内心リアスは珍しく思った。

 

「……勝った」

 

だが、このアナウンスを聞いた瞬間、誰かが呟いた。

 

それは次第に伝染し、リアス達に歓喜が涌き出ていた。

 

『『『勝ったぞぉぉぉぉぉ!!』』』

 

そして八雲が、グレモリー眷属が、シキガミ達が歓喜の声を出していた。

 

(よかった。本当に、よかった……)

 

誰もが喜ぶ中、一誠はリアスを見つめて思っていると、リアスも視線に気付いたのか、一誠に笑顔で返した。

 

久し振りに見た笑顔は、心の底から喜んでいたのを、この場にいた者達は理解したのだ……。

 

 

 

 

 

 

その一方、観客席である一室に見知った人物がいた。

 

「よかったですね、会長」

 

「ええ。彼に託したのは正解でした」

 

その人物とは、ソーナと彼女の『女王』である椿姫だった。リアスの友人として見届ける為、今回のゲームを観戦していたのだ。

 

すると、ソーナは席を立って観客席から出ようした際、椿姫に訊かれた。

 

「会長。リアスさんの所へ向かうのですか?」

 

椿姫の言葉にソーナは振り返り画面を見るが、否定する様に小さく首を横に振った。リアス達は既に戻る準備をしていた。

 

「今の幸せはリアス達だけのもの。私達が入っては、何かと問題があるでしょうしね。それよりも……」

 

そんな中、ソーナは八雲の姿をジッと見つめては小さく微笑んだ。その顔は、椿姫でも見るのは珍しいと言われる程だと……。

 

「……会長?」

 

「何でも無いわ。リアスには、時を見てから祝いの言葉を掛けましょう」

 

そして、ソーナは観客席を出たのだった。

 

(交渉の準備も進めておかないとね……………吉川くん)

 

1つの決意を考えながら……。

 

 

 

 

 

 

同時刻、別の観客席の一室。どうやら観客席は、一室毎に区切られている様だ。

 

「……………」

 

そこにいたのは、画面をジッと見つめている1人の男。見た目は一誠や八雲達と同い年。しかし筋肉質な体格が年上の様に錯覚し、まるで武闘家の様だった。

 

「……真終牙黄流」

 

すると、男は呟き目を閉じては先程の戦いを思い返す。

 

(棍を破壊した『鬼更危』。受け流しては投げ飛ばす『夜酔津鬼』。そして拳圧を飛ばした『武津鬼』。()()()()()()()()()()()()()()……)

 

そう思い、男は昔を思い出す。

 

数年前、男が人間界へ修行へ赴いた際に出会った人間。力を欲していた男はその人間に手合わせを願い勝負をしたが、結果は惨敗。

 

しかし、その人間は男との勝負を気に入り、少しだけ男の修行に付き合ったのだ。その結果、男は今の様に強くなり、真終牙黄流拳法も把握したのだった。

 

「……冥界へ戻る時、名字は聞いたが名前を聞くのを忘れていたな。だが、あの拳法は正真正銘、あの男の親族しか知らない技だ。それに名字も同じで確定だな……」

 

すると、男は観客席を出ては言葉を呟いた。

 

「機会があれば手合わせ願いたいな、吉川八雲。この俺と……」

 

八雲の戦いに魅せられて感化したのか、武闘家特有の覇気を流しながら……。

 

 

 

 

 

 

初勝利を飾り、早々に部室に戻ったリアス達は改めて押し寄せる疲労感を感じている中、八雲とくぅろは立ち上がった。

 

「リアス部長。俺とくぅろは先に帰りますので……」

 

「ええ、お疲れ様。2人が参加してくれて本当に助かったわ」

 

「うふふ。今回は八雲くんとイッセーくんの活躍のおかげですからね」

 

リアスと朱乃が話していると、八雲の袖を引く者がいた。

 

「……八雲先輩」

 

小猫だ。

 

「ん?」

 

「……お疲れ様です。それと、最後の戦い見ました。凄かったです」

 

「ありがとな」

 

そう言って八雲は小猫の頭を撫でると、表情は変わらないが、小猫の頬が赤く染まっていた。

 

小猫の頭から手を離し、八雲は自室に繋がる【転】の闘神符を出しては八卦の転移魔方陣を出現させた。

 

「それじゃあ皆、また明日。――バイス!」

 

「バイスです!」

 

「「「「「「バイス!」」」」」」

 

魔方陣と共に消えた八雲とくぅろを見届け終えるリアス達。すると、交代するかの様に別の魔方陣が現れた。

 

「皆様、お疲れ様でした」

 

出現する魔方陣から現れたのはグレイフィアと、彼女が付き添っている紅髪の男性。

 

その人物を確認した途端、リアス、一誠、アーシア以外の人物がその場で跪く中、リアスは困惑を隠せないでいた。

 

「お兄様!?」

 

「お兄様って……じゃあ、この人が……!?」

 

「魔王、サーゼクス・ルシファー様!?」

 

リアスの言葉に驚く一誠とアーシア。

 

そう……目の前の男性こそ現四大魔王の1人であり、リアスの実兄であるサーゼクス・ルシファーその人だった。

 

「お兄様、どうしてここへ?」

 

驚愕の声でリアスが訪ねると、サーゼクスはにこやかに微笑みながら答えた。

 

「妹の勝利を直接祝いたくてね、改めて言わせてもらうよ。――リアス、初勝利おめでとう」

 

「い、いえ。そんな……」

 

珍しくリアスは冷静を忘れていると、不意にサーゼクスがリアスに訊いた。

 

「ところでリアス? 確か、吉川八雲くんと、狗牟田・O・くぅろくんだったね。彼らはいないのか?」

 

「入れ違いで、既に帰っていきました」

 

「そうか。彼らにも礼を言いたかったのだが……」

 

肩を竦めると、サーゼクスはリアスに知らせた。

 

「私の父も、フェニックス卿も反省していたよ。お互いの欲が強すぎたと、ね……。当然、この縁談は破談が確定した。それもみな、君達のおかげだ。兄として礼を言わせてもらいたい。本当に、ありがとう……」

 

そして、サーゼクスはリアス達に頭を下げたが、その行為にリアス達が対応に困るのは必然だった。

 

「頭を上げてください、お兄様! 魔王であらせられるあなたが、こんな事で頭を下げられたら――」

 

だが、リアスは最後まで言えなかった。

 

「さっきも言っただろう? 今は魔王としてではなく、1人の兄として私はここにいる」

 

サーゼクスが言葉を遮ったからだ。

 

「兄が妹の幸せを喜んで何か問題でもあるのかな?」

 

そして、その時のサーゼクスの表情はとても晴れやかなものだった……。

 

 

 

 

 

 

軽い挨拶を済ませ、サーゼクスとグレイフィアは冥界に帰還していた。冥界も今は夜であり人間界とは違う夜空だが、星々はとても美しく輝いていた。

 

すると、サーゼクスとグレイフィアは夜空の下で話し始めた。

 

「まさか、『赤 い 龍(ウェルシュ・ドラゴン)』がこちら側に来るとは思いもよらなかったな」

 

「『白 い 龍(バニシング・ドラゴン)』。2匹が出会うのも、そう遠い話ではないのかもしれません」

 

「ああ。だが、もっと重大な事が……」

 

「吉川様の事……ですね?」

 

グレイフィアの問いに頷きながら、サーゼクスは今回のゲームを思い返していた。

 

サーゼクスはグレモリー家とフェニックス家の親族と一緒に今回のレーティング・ゲームを観戦していた。サーゼクス本人も含めて、その場にいた全員がライザーの勝利を確信していた。

 

しかし、その確信は特例で参加したゲストの1人……闘神士によって覆された。

 

確かに『赤龍帝の籠手』の『禁手』も、リアス達の勝利の要因の1つであるが、それ以上に闘神士の戦いに目を奪われていた。

 

相手を奔走させる巧みな拳法。

 

札を用いた未知の魔力。

 

彼が使役する召喚獣……否、絶滅したと思われた神々達と、未知の魔力を感じた犬耳の少女。

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それらがライザー眷属の半数以上を倒し、ライザーを倒したのも闘神士の彼とシキガミだ。

 

正直、彼らがいなければリアス達の勝利は難しかっただろう。それほどの戦いを繰り広げた彼らに衝撃を受けたのだ。

 

ただ、両家の親族が騒然とする中で、サーゼクスはシキガミを見ては懐かしんでいた。

 

「まさか、シキガミもリアスのもとにいたとは……………懐かしいな」

 

そう呟くサーゼクスは、戦前を思い出しては言葉に出した。

 

「私とグレイフィアが両派閥に追い詰められた時、目の前に現れたのだったな。覚えているかい、グレイフィア」

 

「ええ。あの光景は、忘れる訳がないわ……」

 

思い出すのは、光と闇を放つモノ。多くいた両派閥の刺客をひれ伏させ、若かった2人を祝福しては消えた。その光景を知る者が劇を作り、今でも冥界では伝説になっているのだ。

 

「シキガミが復活した今、何処かで現れるかもしれないな……」

 

「『審 判 の 四 季 龍(ジャッジメント・ドラゴン)』コウリュウ。何処かにあるとされる『シキガミ界』の初代統治者……」

 

そして、()()()()()()()姿()()()()()姿()を、サーゼクスは重ねては呟いた。

 

「吉川八雲くん。シキガミ達と共に行く先は光か、はたまた闇か……」

 

期待する様な面持ちで、サーゼクスはグレイフィアと共に夜空を見上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

ゲームが終わって暫くして、部室にはリアスと一誠だけが滞在していた。どうやら、他の者は先に帰った様だ。

 

「バカね」

 

苦笑しながらも、何処か安堵の表情を浮かべるリアス。しかし、一誠の左腕に視線を移しては言葉を失い、沈痛な面持ちで擦っていた。

 

「腕をドラゴンに支払って、あの力を借りたのね?」

 

「はい。俺みたいに才能の無い奴が、片腕で最強の力が手に入ったんです! まあ、ライザーを倒したのは八雲達ですが、おかげで部長を守る事が出来ました」

 

「……でも、本当にそれでよかったの?」

 

無理矢理な笑みを浮かべる一誠に、リアスは訊ねた。

 

「もう、この左腕は元に戻らないのよ? 今回は破談に出来たけど、何時かまた婚約の話が来るかもしれないのよ?」

 

その顔は、どこか悲痛で歪んでいる様に見えた。今回のゲームで一誠の戦う姿を見て、彼に罪悪感を自覚してしまったのだ。

 

悲哀に暮れるリアスに、一誠は笑って答える。

 

「だったら、次は右腕を支払います。その次が来たら目を、足を、体を支払います。何度でも何度でも、部長を守り抜いてみせます! 俺はリアス・グレモリーの“兵士”ですから」

 

「……っ」

 

その笑顔にリアスは見とれた。見とれてしまった。それと同時に芽生えた罪悪感が消え去り、代わりに新たに芽生えた思いが溢れてきた。

 

一度その思いに気付くと、抑えが利かなくなる。

 

そして、リアスの迷いは消えた。

 

「……イッセー」

 

擦っていた腕を止め、一誠の頬にその手を添えた。

 

「――っ」

 

次の瞬間、一誠の唇が何かに塞がれた。

 

リアスが一誠の首に手を回し、唇を重ねたからだ。

 

所謂、キス。接吻。チュー。

 

その行為を理解した時、一誠の視界は頬を染めるリアスの顔で埋まっていた。

 

柔らかな唇の感触と紅髪の甘い匂いが一誠の思考を止める。リアスの想いが伝わるには十分な程だ。

 

1分程唇を重ねた後、リアスは唇を離してはフッと笑う。

 

(……………キ、キスゥゥゥゥゥ!?)

 

内心、リアスとキスした事実に一誠の頭は弾け飛びそうだった。

 

「私のファーストキス。日本では、女の子が大切にするものよね?」

 

「……………え? ファ、ファーストキスゥゥゥゥゥ!?」

 

驚愕に重ねてまた驚愕。一誠は声に出して心底驚いていた。

 

「いい、いいんですか! お、俺なんかで?」

 

「あなたは私と唇を重ねるだけの価値のある事をしたのだから。ご褒美よ」

 

微笑みながら頬を撫でるリアス。

 

その時の笑顔は、今まで見た中で1番だったと一誠は心の中で思っていた。

 

 

 

 

 

 

この一件の後、周りに変化が訪れた。

 

まずはライザー。生涯初めて味わった敗北のショックで寝込んでしまい、長い間塞ぎ込んでしまった様だ。

 

次にコゲンタ。ゲームから約2日後、コゲンタは眠りが覚めた。特に体に変化は無い様で、八雲達は安堵した。

 

さらにくぅろ。ゲームで頑張ったくぅろは願いを聞き入れてもらい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。無論、それなりの条件を八雲はくぅろに出したが……。

 

そして一誠。ドラゴンの腕と化した左腕だったが、リアスと朱乃、そしてヒヨシノのおかげで見た目を元の腕へと戻せる事に成功した。ドラゴンの力を散らせば、見た目だけでも戻る様だ。

 

最後に、リアス。

 

「と、その様な感じで私、リアス・グレモリーもこの兵藤家に住まわせてもらう事となりました。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いしますわ」

 

一誠の家に住む事となった。その際、一誠はリアスの突然の提案に首を傾げ、アーシアはリアスの気持ちを悟っては深刻そうに呟いたりしていた。

 

最も、一誠の両親は女の子が増える事に賛成の様で、すぐに了承したのだが。

 

「イッセー。荷物の整理が終わったらお風呂に入りたいわ。――そうね……。背中、流してあげるわね」

 

「マ、マジっすか!?」

 

「もう! 裸のお付き合いなら私もします! イッセーさんも部長さんも、私だけ仲間外れにしないでください!」

 

周りが変化する中、分かる事がある。

 

「アーシア。悪いけど、そう言う事だから。宣戦布告って事でいいかしら?」

 

「うぅ、負けたくないけど、負けそうです!」

 

どんどん賑やかになっていく様だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いい意味でも、悪い意味でも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘校舎のフェニックス

~謎の少女、現れます!~

 

【完】




今回は短め……かな?

色々と出てきましたね。勧誘を考えるソーナ、八雲の拳法を知る人物、そしてコウリュウとは一体……?

まあ、その辺りは後々と言う事で……。

次回、3章に突入。球技大会(テニヌ)(仮)をお楽しみに。

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