ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

25 / 33
第24話:反撃、2人の切り札

時はゲーム以前、合宿中で行った何度目かの午前中の座学にまで遡る。

 

「では、今回は陰陽五行(いんようごぎょう)について学ぼうか」

 

降神されたコンゴウが何時ものホワイトボードにペンを走らせる。

 

そこには1つの五芒星が書かれ、五芒星の点に5種類の文字が書かれ、さらに5角形の様に矢印を文字同士で結んでいた。

 

「わたし達シキガミは陰陽五行を基礎として生を受けている。それにより、わたし達にも得手不得手があるのだが……………では、元神社の子である朱乃くんに問おう。陰陽五行とは何だ?」

 

唐突な問いに朱乃は答える。

 

「この世に存在する万物は、【火】、【水】、【土】、【木】、【金】……5つの属性から成り立ち、全ての存在は【陰】と【陽】の2つの性質を持つという考えですわ」

 

朱乃の言葉と同じ、五芒星の頂点から反時計回りで5つの属性の文字が書かれている。

 

「いい答えだ。ありがとう。――その陰陽五行だが、2種類の考え方がある。それが“五行相剋(ごぎょうそうこく)”と“五行相生(ごぎょうそうしょう)”だ」

 

「そうこくと、そうしょう? どんな意味なのでしょうか……?」

 

まだ日本語に慣れないアーシアは首を傾げる中、コンゴウは説明した。

 

「まずは五行相剋。これは一方が他方を抑制する五行同士の闘争の意であり、所謂属性の相性だ」

 

その言葉を聞き、八雲と朱乃を除くメンバーは属性同士で引かれている矢印の意味を理解した。因みに、八雲はシキガミ達から陰陽五行の事は教えてもらっていたので理解している。

 

コンゴウは矢印をなぞりながら言う。

 

「火は水に消される故に、火は水に弱い。これが“水剋火(すいこくか)”。矢印の方向に従い、一方の属性が他方の属性を打ち消したり、弱らせたりする事が出来るのだ」

 

「……ゲームみたいです」

 

「まぁ、簡単に言えばそうだ」

 

小猫の言葉にコンゴウが苦笑する中、残りの五行相剋の説明は続く。

 

火剋金(かこくごん)”。金は火によって溶かされる故に、金は火に弱い。

 

土剋水(どこくすい)”。水は土に染み込む故に、水は土に弱い。

 

木剋土(もっこくど)”。土は木に養分を吸われる故に、土は木に弱い。

 

金剋木(ごんこくもく)”。木は金によって切り倒される故に、木は金に弱い。

 

という具合に、木→土→水→火→金→木の順に相手を弱める影響をもたらすという事が、“五行相剋”である。

 

「次は五行相生だ。一方が他方を生み出す五行同士の循環を意味する」

 

そう言いながら、コンゴウは五芒星をなぞる様に矢印を引いては説明した。

 

火生土(かしょうど)”。火は灰から土を成す故に、火は土を生む。

 

土生金(どしょうごん)”。土は内部に金属の原石を内包する故に、土は金を生む。

 

金生水(ごんしょうすい)”。金の表面には水滴が浮かぶ故に、金は水を生む。

 

水生木(すいしょうもく)”。水は植物を生長(せいちょう)させる故に、水は木を生む。

 

木生火(もくしょうか)”。木は燃えて火が現れる故に、木は火を生む。

 

「五行相生は、わたし達の力を高める事が出来る。火生土の場合、土を生み出しては土属性の力を強める事が出来る様に、火の技で土属性の要素を作り出せるのだ」

 

一区切り説明し終わると、コンゴウはペンを置いた。

 

「悪魔が使う力は四大元素を軸にしているらしいが、陰陽五行でも一応は対応出来る。例えば相手が四大元素の水を司るのなら、火属性のシキガミには勝るが、土属性のシキガミには劣る。また、司る力が複数あっても相剋も相生も得る事がある」

 

「とすれば、フェニックスは火と風と命を司るから、水剋火が成立するという訳ね」

 

「但し、忘れないでくれ。五行相生は相手を強めるので常によく、五行相剋は相手を弱めるので常に悪い……という捉え方ではない。相手の実力差で、この考えは効かない時もある。だが……」

 

そして、コンゴウは自身の胸を軽く叩いた。

 

「気持ちが……心が強ければ、シキガミは強くなるのだ」

 

 

 

 

 

 

時は戻り、現在。

 

戦場に青い五芒星の結界が神秘的に輝く。

 

フィールドとなったレプリカの駒王学園。その新校舎の屋上で、ライザーはたった1人で八雲、コゲンタ、そして2人の攻撃のタイミングを見計らって水の魔力をぶつける朱乃と、水の魔剣を振るう祐斗の4人の相手をしている。

 

(くそっ、やはりこの結界は俺の力を抑えるのか!)

 

回避しながら内心毒づくライザー。そして、その考えは正解だった。

 

この結界は、合宿で学んだ五行相剋を利用した“【水】の結界陣”。火を司るフェニックス相手にとって有効であり、水の魔力は威力が増す仕様だ。

 

因みに、【水】の結界陣を提案したのは八雲。そして結界陣の各ポイントに闘神符を設置したのはくぅろである。

 

「おぅらあっ!!」

 

「っしゃああ!!」

 

同時に飛び掛かる八雲とコゲンタ。

 

ライザーは避けようとせず、2人が近付く瞬間に膨大な熱波で吹き飛ばそうと考えては魔力を練る。【水】の結界陣で普段より数倍の魔力を消費してしまうが、結界を作り出したであろう八雲を倒せば消えると考え、ライザーは容赦無く熱波を放った。

 

「なっ!?」

 

しかし、ライザーの作戦は成功しなかった。

 

目の前に現れた見覚えのある障壁が……【水】と【壁】の統合符により攻撃を防がれ、八雲は障壁を押し出す様に殴り付けてはライザーに激突させた。

 

「やるじゃないか、人間のくせに……」

 

「そっちもやるな。チャラチャラした印象だったが、改めるよ。――久し振りに燃えるなぁ!」

 

立ち上がり余裕の笑みを見せるライザーに、戦意が高まっている八雲は嬉しそうに微笑む。

 

この時、ライザーは余裕を装うと同時に焦りを覚えていた。

 

ありえないと思いつつも、どうしても脳裏に過る。フェニックスは“不死”であるが、決して“無敵”ではない事実を……。

 

(コイツら……)

 

ライザーは4人の狙いに気付く。

 

フェニックスを倒すには神クラスの圧倒的な力で押し倒すか、起き上がるたびに幾度となく倒して精神を潰すかの2つ。

 

短期戦(前者)持久戦(後者)。4人が選んだのは、後者である持久戦だとライザーは気付いたのだ。

 

現在、ライザーの精神は疲弊している。

 

眷属全員の脱落。一誠、そして八雲達との猛攻。その連続で、ライザーの精神に大きなダメージを与えていた。

 

ライザー自身、初陣の相手に追い詰められるとは予想だにしなかった。しかし、“兵士”の殆どを敵本陣へ向かわせ、“女王”へ“昇格”させては相手に圧倒的な勝利を考えていたが、その事を後悔してしまう。

 

結果、序盤に“兵士”全員と“戦車”1名の大打撃を受け、更に中盤で“女王”をも倒され、残りの眷属も次々と倒されてしまった。

 

まさに、戦況は四面楚歌。

 

「調子に乗るなよ……貴様ら!!」

 

だが、それでも投了する事はプライドが許さないライザーだった。

 

 

 

 

 

 

「フェニックスの涙ですって!?」

 

そんな激戦のすぐ側で、リアスはくぅろの言葉に驚愕していた。

 

一方、くぅろはライザーの放った結界に捕らわれたアーシアの周りを回っている。

 

「はい。御主人様のあのテンションは、恐らくフェニックスの涙を飲んだ事が原因なんです」

 

「ちょ、ちょっと待ってくぅろ。フェニックスの涙を一体どうやって手に入れ……」

 

戸惑う中、リアスはライザーとの戦いの最中に見た光景を思い出す。

 

グラウンドに一瞬だけ見た、【土】の攻撃結界。それを回避した“僧侶”に突っ込み、攻撃で吹き飛ばされたくぅろ。

 

そして、自ずとリアスは答えを見つけた。

 

「まさか、レイヴェルから入手したのね」

 

くぅろは赤い結界を見ながら言う。

 

「乱闘中、いつの間にか私の尻尾に紛れてました。最初は危険物だと思ったんですが、御主人様がそれを見て回復薬だと知っていました」

 

「八雲はルールブックを読んでいたわね。だから初めて見ても、フェニックスの涙だと分かったんでしょう」

 

「でも、飲み干した瞬間にテンションが高くなりました。テニスコート(最後のポイント)に闘神符を設置した後、御主人様はそのまま皆さんの所に向かうと言って一緒に……」

 

「【動】の闘神符で移動して、上空から飛び降りた……と言う訳ね」

 

「奪ってはいけないルールは無かった様ですしね」

 

「でも、フェニックスの涙をねぇ……。浴びるだけでいいのに……」

 

くぅろの肯定にリアスは呆れる様に呟く中、くぅろはアーシアに“闘神銃”の銃口を向けて言う。

 

「アーシアさん。結界陣の効果で力が弱まってる内に破壊します。しゃがんでください」

 

「は、はいっ!」

 

【金】の闘神符を入れて引き金を引く。そして鉄球が撃ち出され、赤い結界はガラスの様にパリンと音を鳴らせて割った。

 

「では、私は御主人様に加勢しますので……」

 

「私も行くわ。アーシア、イッセーをお願い」

 

くぅろとリアスは八雲達に合流する中、アーシアはイッセーに回復を施す。結界内でイッセーの傷付く姿を見て涙を揺らしていたが、遂に涙を流した。

 

「すげぇ……」

 

アーシアに回復してもらう中、一誠が呟いた。

 

最初に思ったのは、圧倒的。

 

リアス、朱乃、くぅろの攻撃で絶えず聞こえる爆音が、加減のない一撃だという事を物語っている。

 

そして、不死身の肉体を持つ相手に果敢に立ち向かう八雲と祐斗とコゲンタの姿。

 

ただ、ライザーもたった1人で6人の猛攻を互角に渡り合っていた。

 

「俺も、こんなとこで……………っ!」

 

自分も加勢しようと体を起こそうとするが、上手く体に力が入らない。

 

「ダメですイッセーさん! まだ傷が、治ってないんですよ……」

 

涙で濡らした顔で珍しくアーシアが高圧的な声を掛けてきた。

 

アーシアの治療を受けながら一誠は何も出来ない歯痒さに悩まされる。それはアーシアも同じだろう。

 

ただ、ここでアーシアが前に出て巻き添えを食らえば本末転倒だ。

 

(どうする? どうすれば――)

 

刹那、諦めずに必死に出来る事を模索している中、一誠はある事を思い出した。

 

「……おい、ドライグ」

 

『何だ?』

 

一誠の呼び掛けにドライグが答えた。

 

「お前、残った力を宝玉に移したとか言ってたよな?」

 

『ああ。だが、さっきも言ったがそれは一時的なもの。フェニックスを倒すまでには至らない』

 

ドライグの復唱する返答に一誠は勝利への可能性を見出しては小さく微笑む。

 

「……でも、それなら“アレ”が出来るよな?」

 

『……なるほど、そう言う事か』

 

一誠の含んだような言い方にドライグも察しがついた。

 

『だが、それで勝てるという保証は無いぞ?』

 

「それでも、やらないよりはずっとマシだ。第一、今まで俺の中にいたのなら分かってるだろ? 俺の性格」

 

『別に止めはしない。俺はお前の選択に従うだけだ』

 

ここでドライグとの会話を打ち切り、一誠はアーシアに視線を向けた。

 

「アーシア。頼みがあるんだ」

 

「え……?」

 

「もう一度、俺に力を貸してくれ」

 

いつになく真剣な表情の一誠。

 

それを見て、心から一誠を慕う彼女が断る筈がなかった。

 

 

 

 

 

 

リアス、くぅろを加えた6人だが、未だに苦戦を強いられていた。

 

半端なダメージを与えてもすぐに回復されてしまう為、手加減などしていられないが、八雲とコゲンタを除く4人の体力は限界に近付いていた。

 

「借りるぞ、ホリン!」

 

『はいな!』

 

瞬間、声と共に左手の“二十四気の神操機”の宝玉が禍々しい輝きを発せられ、柊一族の紋章が浮かび上がった。

 

「はあっ!」

 

同時にライザーへ殴り付けるが、ライザーはその拳を受け止めては八雲を投げ飛ばした。

 

【Capture!!】

 

「何だ……………ぐっ!?」

 

聞き慣れない音声と共にライザーは体から何かを失う感覚に襲われる中、八雲はしてやったりと口元を吊り上げる。

 

「っしゃぁ! 奪取成功!」

 

この技も、“二十四気の神操機”が成せる技である。シキガミが司る同じ力を、相手から奪ったのだ。しかし、相手に直接触れないと発動しないので、使用するタイミングを掴まないといけないが……。

 

『八雲はん。奪った符力はすぐに戻ってまうから、はようして!』

 

ホリンの言葉に促されながらも八雲は辺りを見渡す。

 

結界陣も時間に余裕がない。ライザーを見据えながらどうするか考えていると、通信機からリアスが話し掛ける。

 

『八雲。この結界はどの位までもつかしら?』

 

「もって1分も無いですね。一瞬でも隙が出来れば、俺とコゲンタで何とか出来ると思いますが……」

 

『何か策があるの?』

 

「策と言いますか……」

 

一瞬、八雲はコゲンタを見ては微笑んだ。

 

「コゲンタ曰く、“最強の一撃”と、言ってました」

 

その笑みに、未だに苦悩する表情を含ませながら……。

 

そんな中、リアスは通信機越しで全員に問う。

 

『なら、私は八雲とコゲンタに賭けるわ。皆はどう思う?』

 

『なら、私達は八雲くんのサポートに徹すればいい訳ですね』

 

『御主人様の為なら、頑張ります!』

 

『僕もそれでいいと思います』

 

リアスの言葉に朱乃、くぅろ、祐斗は通信機越しで賛成した。だが、6人の猛攻を1人で防ぐライザーの力に隙が出来るのか疑問だった。

 

「鳥野郎から隙を作るのは難しいぞ。作るにも、皆の技を上げさせないと……」

 

コゲンタが話す中、呼び声がした。

 

「部長ォォォォォッ! 朱乃さぁぁぁぁぁん! 木場ァァァァァッ!」

 

「なっ、イッセー!?」

 

声の聞こえる方を向くと、アーシアに支えられながら身を起こす一誠がいた。

 

「皆の力を、解放しろォォォォォッ!」

 

一誠の叫びに同調する様に、“赤龍帝の籠手”の宝玉が強く輝いていた。

 

「木場ァッ!」

 

最初に名前を呼ばれ当惑する祐斗だが、すぐに真剣な表情に移しては剣を地面に突き刺し、高らかに吼える。

 

「ソォォォド・バァァァス!!」

 

数多の剣の光り輝く地面に一誠は拳を放った瞬間、新たな第2の力を発動した。

 

「ブーステッド・ギア・ギフト!」

 

一誠は“赤龍帝の籠手”で高めた力を地面に流し込む。

 

目的は祐斗の魔剣を創造する能力。

 

【Transfer!!】

 

途端に、金属が激しく擦れる音と一緒に、屋上全域が刃の海と化した。

 

至る所から様々な形状の刀身が天に向かって鋭く飛び出している。その全ては祐斗が創造した魔剣だ。

 

「これは……!」

 

リアスが目の前の光景に驚嘆する。

 

これが、一誠が新たに会得した“赤龍帝の籠手”の第2の力……“赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)”。

 

その効果は、籠手で高めた力を他の者、もしくは物に譲渡し、力を爆発的に向上させる事が出来る。その能力でアーシアの神器の効果を向上させ、再起を果たしたのだ。

 

「ぐぁっ!?」

 

辺り一帯に出現した刃がライザーを空中に突き飛ばした瞬間、結界陣が霧散してしまった。

 

これで、ライザーの力を抑えていた力が解放された。

 

「があああああああああっ!」

 

宙を舞いながら炎の翼を背中に生えさせ、怒り狂うライザーから放たれる爆炎が周辺の魔剣を焼き払った。

 

【Boost!!】

 

だが、一誠の反撃は終わらない。

 

「朱乃さん!」

 

【Transfer!!】

 

「行きますわよ!」

 

籠手から放たれた波動が朱乃を包み、手を天に掲げると巨大な雷が雨のようにライザーに飛来した。

 

「ギニャアアアアア!?!?」

 

炎の翼を広げ回避しようと試みるが、全てを避けきれず、直撃した雷が体を焦がした。

 

「こんな……俺はこんなところで……………負ける訳にはいかないんだよぉぉぉぉぉっ!!」

 

炎の暴風を巻き起こすライザー。その一撃で一誠を倒せば、力の譲渡を阻止出来る。

 

「この婚約は、悪魔の未来の為に必要で大事なものだ!? お前の様な何も知らない小僧悪魔がどうこうする様な事じゃないんだ! それを……………分かれぇぇぇぇぇっ!!」

 

放たれたライザーの一撃が一誠を襲おうと一直線へと向かった。だが、その軌道上にいた者をライザーは気付かない。

 

「阻止します!!」

 

“闘神銃”に装填される【木】、【土】、【水】、【火】、【金】の闘神符。五行の力を一気に解き放つかの様に、くぅろは引き金を引いた。

 

刹那、極太の5色の光線が撃たれ、ライザーの攻撃を相殺した。

 

その光景に驚愕するライザーをよそに、一誠は言う。

 

「あんたの難しい事は分からねぇよ。でもな、これだけは分かってるんだ……」

 

脳裏に浮かぶのはリアスの顔。

 

処女を貰う様に現れた時も、合宿の夜中に話した時も、彼女から笑顔が……………何時も見せていた笑顔が消えていた。

 

「部長の心が泣いてたんだよっ! 涙なんて似合わない。あの人は、威風堂々としてなきゃだからいけないんだ! だから……俺達は部長を絶対に守ってやるんだよっ!!」

 

【Boost!!】

 

「部長ぉっ!」

 

【Transfer!!】

 

もう一度、今度はリアスに高めた力を譲渡した瞬間、一誠は糸の切れた人形の様に膝から崩れ落ちた。完全に魔力が尽きたのだ。

 

「イッセーさん!?」

 

アーシアが急いで一誠の顔を覗き込む。

 

「……へへ。ありがとな、アーシア……」

 

何とか意識を保っていた事を確認して安堵する。

 

後は、天に任すだけ……。

 

一誠の健闘に、リアスは小さく微笑んでいた。

 

「イッセー……。――行くわよ、ライザー!」

 

そして、力強い視線をライザー向けては魔力を集めだした。

 

掌に消滅の魔力が集結し、最終的に黒い巨大な太陽の如く変貌を遂げる中、ライザーも掌に炎を集めていく。

 

「舐めるなァッ!」

 

同時に両者が放った赤色と漆黒の太陽が激突し、辺りに衝撃が渦巻く。

 

だが、力の均衡が崩れ始めるのに時間はかからなかった。

 

「はああああああああっ!」

 

「な……ん……だとっ!?」

 

純血上級悪魔の代表としてのプライドを賭けた魔力の競り合い……勝ったのはリアスだった。

 

驚愕する間もなく黒い魔力に容赦なく蹂躙される中で、ライザーは意識を保つのがやっとだった。

 

魔力の奔流から解放され、上着が消滅したライザーには、すでに体も精神も限界が迫っていた。“赤龍帝の籠手”で高めた力を譲渡されたリアス達の猛攻が、ライザーに予想以上の負担を与えていたからだ。

 

「ライザー・フェニックス」

 

最後に、虫の息状態のライザーの前に現れたのは八雲とコゲンタ。

 

それを見たライザーは戦慄する中、八雲は何かを決心した表情で見つめた。

 

「あんたの敗因は3つある。――1つは、自分の能力に過信し過ぎだ。策や何らかの勝因が崩れたら、最後に待つのは負けしかない」

 

「2つ。イッセー達グレモリー眷属を甘く見すぎた事だ。特に、イッセーの意外性には、オレも驚いたけどな……」

 

「この、人間がぁぁぁぁぁっ!」

 

ライザーが咆哮を上げ、身体に業火を纏う。リアス達に向けて放った業火より勝る火力を持つそれは、次第に大きくなっていく。

 

だが、炎を見据える2人は臆する事なく、八雲は右腕を突き出し、コゲンタは八雲の前に出ては言い放つ。

 

「3つ。人間を――」

 

「シキガミを――」

 

「「侮った事だ!!」」

 

刹那、業火を放つと同時にライザーへと突っ込むコゲンタ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

八雲の咆哮。

 

力強く印を切ると同時に、脳裏にコゲンタの言葉が甦る。

 

――オレの信頼の証と思ってくれ。絶対に勝利へと導いてやるからよ。

 

「離!」

 

――但し、この技を使えばオレは暫く動けないらしい。昔、一部の過激な堕天使達を追い払った際、深く眠ってたんだ。

 

「坎!」

 

――何で知ってるのかって? その時、一緒にいた『ゲンにぃ』に聞いたんだよ。

 

「震!」

 

――でもよ、その一撃を放った威力は“最上級に渡り合える”と言ってたぜ! だから、これはオレの切り札だ。

 

「……震!! 離れろ!!」

 

――その技は……。

 

最後の印が切られた瞬間、八雲はリアス達に指示を飛ばした。

 

「ひっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつッ!!」

 

刹那、八雲が送る印がコゲンタの体を白く輝かせ、咆哮と同時に目が赤く輝く。

 

「なっ!?」

 

荒々しく叫ぶその迫力に当てられたのか、ライザーは顔を強張らせ、コゲンタの一撃を見つめた。

 

百鬼滅衰撃(ひゃっきめっすいげき)ィィィィィッ!!!!」

 

ガォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

放たれたのは、コゲンタの持つ全ての符力。

 

それを攻撃エネルギーへと変えて放たれる際、獣の咆哮に近い放射音と巨大な虎の幻影が、相手が最後に見る光景となる。

 

その威力は凄まじく、シキガミの中で最も強力な必殺技。

 

それがこの……百鬼滅衰撃だ。

 

「まさか、この俺が――」

 

刹那、ライザーの業火と百鬼滅衰撃が激突する。

 

ぶつかり合う衝撃がライザーを、コゲンタを、そして八雲を包み込む。

 

瞬間、新校舎が崩壊する光景を、離れたグレモリー眷属達の視界に映された。




次回、二章が完結です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。