ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第18話:修行の始まりin人間界

「やっほー」

 

『やっほー』

 

どこかの誰かの山彦が聞こえる。

 

リアスがライザーに宣戦布告した翌日、八雲達オカルト研究部全員は山にいた。昨夜、リアスからグレモリー家が所有する別荘がある山で修行をすると連絡があり、朝早く部室に到着しては山の麓まで転移したのだ。その際、学園についてはリアスが話をしたので問題無く、八雲の祖父母に関しても話をして許可を得たとリアスが語った。

 

「ヒー……」

 

快晴な青空。生い茂る自然豊かな木々。小鳥達の囀り。まさに山の風景としては最高だった。

 

「ヒー……」

 

そんな中、一誠はヒーヒーヒーと言いながら、尋常じゃない量の荷物を背負っては山道を登っていた。しかも舗装されていない土肌の山道を歩く度に体力を奪われ、沢山の汗を流しながら……。

 

「ほら、イッセー。早くなさい」

 

遥か前方でリアスが笑顔で檄を飛ばす中、隣にいるアーシアは心配そうに見ていた。

 

「部長、山菜を摘んできました」

 

涼しい顔をして山菜を抱える祐斗が横を通り過ぎる。彼も一誠の様に多くの荷物を背負っている。

 

「……お先に」

 

さらに、一誠の横を倍以上の荷物を背負った小猫が、何時もの無表情で通り過ぎる。その物量差に圧倒され、一誠は言葉を失った。

 

「御主人様、頑張れ!」

 

「八雲くん、大丈夫ですか?」

 

そんな時、前方にいる朱乃とくぅろも檄を飛ばしており、一誠は後ろを向いた。

 

「大丈夫です!」

 

朱乃達の言葉を返し、八雲も一誠と大差ない荷物を背負っているにもかかわらず、しっかりとした足取りと気分爽快な表情をして山道を登っていた。

 

「……う、おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

それを見た一誠は負けず嫌いな性格が発動し、再び全身に力を入れては一気に山道を駆け登っていった。

 

 

 

 

 

 

「ゼー、ゼー……」

 

グレモリー家が所有する木造の別荘に到着した一行がリビングに荷物を置く中、一誠は床に倒れ込んでいた。

 

「それじゃあ、着替え終えたらここに集合よ」

 

リアスの言葉に各自移動を開始する。女性陣は2階へ、八雲と祐斗も着替えを持って移動しようとした。

 

「覗かないでね」

 

「マジで殴るぞ、この野郎……」

 

祐斗の冗談に一誠はそのまま殺意のこもった目で睨むが、祐斗は八雲と共に浴室へと向かった。

 

浴室へ到着すると、着替え始めた祐斗は八雲を見て気付く。

 

「八雲くん。その体にある物って、もしかして……」

 

祐斗の言う通り、八雲の体に巻き付かれているのは、黒いベルトの様な物だった。しかも服で隠れていたのか、両手足にも巻き付かれていた。

 

「重りだ。全部で30キロはあるかな?」

 

その言葉に祐斗は唖然とする。先程の荷物を合わせれば50キロ以上にもなるであろう重量を、人間である八雲は山道を登ったのだ。いくら何でも無理がある。

 

「まあ、昔の親父との修行じゃあ半分の重りだったけどな。俺も成長したのかって実感するなぁ、本当に……」

 

うんうんと1人で頷く八雲に祐斗は悟った。どうやら、無茶な鍛練を八雲は小さい頃からしていた、と……。

 

そして祐斗は青いジャージに、八雲は鍛練時の柔道着を着るとリビングに向かう。既に他のメンバーもリビングへと集結していた。

 

「さて、早速外で修行開始よ」

 

こうして、八雲達の修行は始まった。

 

 

 

 

 

 

Leesson.1

 

「よっはっ」

 

「おりゃ! おりゃぁぁ!」

 

現在、八雲達の目の前では一誠と祐斗が剣術の修行をしていた。

 

ただ木刀を振り回すだけの一誠に対し、祐斗はそれを的確に往なしていた。

 

「そうじゃないよ。剣の動きを見るだけじゃなく、視野を広げて相手と周囲も見るんだ」

 

軽やかな動きで一誠の背後に回り込み、木刀を叩き落とす。

 

「さすが祐斗だな……」

 

祐斗の動きと技量に改めて凄さを感じた八雲を他所に、一誠の一瞬の気の緩みを祐斗は見逃さずに木刀を振り下ろす。

 

バシッ!

 

「あたっ!」

 

咄嗟に一誠は白刃取りを試みたが失敗に終わり、脳天に一撃を喰らってしまった。

 

そんな光景をリアス達はやれやれと見ていると、八雲はリアスに声を掛けた。

 

「リアス部長。この周辺を見て回っていいですか?」

 

「どうしたの?」

 

「日課の鍛練の為に、この辺りの地形を覚えておきたいんです。お願いします」

 

頭を深く下げる八雲をリアスは見つめると、置いている荷物から地図を取り出した。

 

「……そう、分かったわ。これがこの周辺の地図よ。迷わないで、納得するまで見て回りなさい」

 

「ありがとうございます。それじゃあ、行ってきます」

 

リアス達に一礼した八雲が、その場を離れようとした時だった。

 

「御主人様! 私も行きます!」

 

紺色のジャージを着たくぅろが手を上げて言った。

 

「ダメだ」

 

「ガーン……」

 

しかし八雲は即否定してくぅろは肩を落とす中、八雲は言う。

 

「どの位で戻れるか分からないからな。それまで、リアス部長達に色々と教わっておけ。教わった事を物にした分、頭撫でて(何かして)やるから」

 

「本当ですか! 分かりました! 頑張って教わります!」

 

最後の一言にくぅろは敬礼して喜ぶと、八雲はその場から離れた。

 

遠ざかる八雲を見送る皆の中、リアスは手を鳴らしては言う。

 

「さあ、再開するわよ!」

 

そして、一誠は再び祐斗と剣術の修行に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

『それにしても、いい山だ』

 

「ん?」

 

地図や看板で森の中を探索し始めた頃、不意にコンゴウが話し掛けた。

 

『木々も元気に生い茂ってるのは土がいい証拠。木の属性であるわたしにとって、とてもいい環境だ』

 

『そうか? オレとしては、木に沢山の養分を吸われるからいまいちだな』

 

『確かに……。土の属性である我輩達としては、もう少し土肌が多い場所が良いであります』

 

コンゴウの言葉に現れたのは、げんなりして返すコゲンタと同意して頷くブリュネだった。

 

「……最近、俺の神器も賑やかになったな」

 

そんなシキガミ達の会話を聞きながら、八雲は聞こえない様に呟いた。

 

最初の頃は八雲の生年月日の関係で、コゲンタだけが霊体で活動出来た。しかしシキガミ達も徐々に目覚め、柊一族であるホリンが目覚めてから、コゲンタ以外のシキガミ達も霊体となる事が出来たのだ。

 

因みに、柊一族が司るのは“霊感”。相手の霊感や魔力、気、内なる力を高める事が出来る一族であり、大昔の戦争で多くの種族とも契約した事があるのだ。

 

それから暫く、八雲はシキガミ達の会話を聞きながら歩き続けた。

 

 

 

 

 

 

Leesson.2

 

剣術の修行を終え、一誠はアーシア、くぅろと共に、朱乃の指導で魔力の修行を行っていた。

 

「魔力は体全体を覆うオーラから流れる様に集めるのです。意識を集中させて、魔力の波動を感じるのですよ」

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

朱乃から丁寧に説明してもらう3人。しかし、一誠はなかなか魔力が掌に集まらない。

 

「出来ました!」

 

そんな中、アーシアは掌に魔力の塊を掌に作り出していた。

 

「あらあら。やっぱり、アーシアちゃんは魔力の才能があるかもしれませんわね」

 

朱乃に褒められて頬を染めるアーシア。

 

「こっちも出来ました!」

 

一方、くぅろも掌に魔力の塊を作り出しており、次第に球体から鋭く細い形へと変わると、様子を見ていたリアスが言った。

 

「上手ね、くぅろ。教わってすぐ別の形に変えるなんて……」

 

「もしかしたら、以前くぅろちゃんは魔力の扱いに長けていたかもしれませんわね」

 

リアス達の会話にくぅろは嬉しく思った。

 

「これで御主人様に褒めてもらえます!」

 

それよりも、八雲のご褒美を目指している様だが、くぅろはもっと上達する様に修行を再開した。

 

「魔力の源流はイメージです。とにかく頭に思い浮かんだモノを具現化させる事が大事なのです。得意なモノ、何時も想像しているモノならば、比較的早く具現化出来るかもしれませんわ」

 

「はい!」

 

朱乃の説明の後、アーシアが気付いた様に言った。

 

「……それにしても遅いですね、吉川さん。もうすぐお昼ですし、何かあったのでしょうか?」

 

「……………もしかしたら、アレかしら?」

 

「アレって、何ですか、部長……」

 

集中し過ぎて疲労の色を見せる一誠の言葉に、リアスは答えた。

 

「この山にね、凶暴な熊が出没するらしいのよ」

 

 

 

 

 

 

その頃、八雲は別荘から少し離れた場所にある広場に到着した。

 

「……ここなら色んな鍛練が出来そうだな」

 

辺りを見渡しながら八雲は呟く。

 

小川が流れ、側には岩場と山肌がある場所や古い炊事棟があり、どうやらここは以前キャンプ場として機能していた場所の様だ。

 

そして偶然なのか、シキガミに関係する“五行思想”が揃っていた。

 

『看板には閉鎖って書いてあったけど、何でだろうな?』

 

「……多分、あれだろうな」

 

コゲンタの疑問に八雲は指で一点を示すと、そこには巨木があった。

 

しかし、実際は巨木を指しているのではなく、巨木に付けられた爪痕を八雲は指差していた。

 

「多分、巨大な野生動物がキャンプ場に現れたから来なくなったんだろう。それで経営も悪化して、やむを得ずキャンプ場を閉鎖した……と思うな」

 

『なるほど…………………………って、八雲』

 

「ん?」

 

コゲンタの声色が変わった事に八雲は気付くが、特に驚く事なく巨木の爪痕に触れていた。

 

『気付いてるかもしれないが……』

 

「気付いてるよ。ってか、これだけ大きな影を落とされてるんだ。気付かない奴はいないって……」

 

そう言って、八雲は後ろを振り向いた。

 

「グルルルル……」

 

そこにいたのは、全長3メートルはある巨大な熊だった。

 

「ガァァァァァッ!!」

 

そして、熊は凶刃な爪を八雲に向けた。

 

 

 

 

 

 

Leesson.3

 

「ぬががあああああ」

 

正午が過ぎた頃、一誠は今日10回目の巨木との熱い抱擁に成功……もとい、小猫のパンチで吹っ飛ばされていた。

 

「……弱っ」

 

「ぐふっ!」

 

小猫の痛烈な一言にショックを受ける一誠だが、小猫は気にせずに腕を振り回しては説明する。

 

「……打撃は体の中心線を狙って、的確かつ抉り込む様に打つんです。……さ、もう1セットです」

 

そして小猫の拳が一誠に照準を定めた瞬間、一誠は悟った。

 

(あ、死んだな……)

 

そしてまた、一誠は巨木まで吹っ飛ばされた。

 

「……………」

 

そんな中、くぅろは心配そうにソワソワと右へ左へウロウロしていた。

 

「……くぅろ。少しは落ち着きなさい」

 

そんなくぅろにリアスは落ち着く様に言うが、くぅろは止まらずに言う。

 

「ですが、御主人様にもしもの事があったら……。そう考えてしまうだけで、落ち着く事なんて出来ません」

 

「確かに遅すぎますね……。部長、私が探して行きましょうか?」

 

「っ! だったら私も探しに――」

 

朱乃の言葉にくぅろも便乗が、その必要は無くなった。

 

「おーい!」

 

何故なら、遠くから聞こえる八雲の声がしたからだ。

 

「あ、吉川さ……………ひっ!?」

 

アーシアが声を掛けながら八雲に振り向いた瞬間、それを見て驚愕する。

 

アーシアだけではない。リアスとその眷属達も、“八雲が乗っているモノ”を見ては様々な反応をして驚いていた。

 

「御主人様! 心配しましたよ!」

 

唯一、くぅろだけは何時も通りに八雲に寄り添っていたが……。

 

「ごめんごめん。コイツと組み手をしてて遅くなった」

 

そう言いながら、八雲は乗っているモノの頭を優しく撫でた。

 

「グ~~~~~ン♪」

 

嬉しそうに反応する中、それを見ている一誠は訊いてみた。

 

「よ、吉川……」

 

「何だ、イッセー?」

 

「何だ、じゃねえよ!? どうしたんだよ、その熊は!?」

 

一誠の言葉にリアス達も頷く。

 

そう……八雲は熊に乗りながら戻って来たのだ。しかもその熊、リアスが言っていた凶暴な熊であり、危険な動物である。

 

すると、一誠の問いに八雲は簡潔に説明する。

 

「歩いてたらコイツと出会した」

 

「それで?」

 

「襲ってきた」

 

「マジか!?」

 

「勝って仲良くなった」

 

「え?」

 

「……どうやって仲良くなれたのよ?」

 

ヤレヤレと溜め息を溢すリアスに答えたのはコゲンタだった。

 

『襲われたのは事実だぜ。そんで、襲われたから力で捩じ伏せて気絶させて、その間に傷を治したら熊が目覚めて、いきなり懐かれたんだよ』

 

「……懐かれたと言うより、殺されない様に従った方がいいと悟ったのね」

 

リアスの言葉に全員が納得する中、八雲はリアスに言う。

 

「リアス部長。修行中、コイツも参加していいですか?」

 

「参加って、その熊は何か出来るの?」

 

「まあ、重りには使えますよ。勿論、皆を襲う事があれば食材にしましょう」

 

「ッ!?!?」

 

八雲の言葉を理解した様に熊は物凄い速さで首を横に振ると、八雲は一言。

 

「冗談だ」

 

優しく言葉を掛けながら頭を撫でると、熊は安心したかの様にホッと溜め息を吐いた。

 

「でも、襲うなよ」

 

「ッ!」

 

しかし野生の勘が反応したのか、最後の八雲の言葉に凄みを感じて熊は頷いた。

 

そして、八雲もリアス達の修行にやっと参加するのだった。

 

(……しかし、神器もオレ達も闘神符も使わずに熊を撃退したのは驚いたな。まあ、親父さんも素手で同じ事をしたのを、小さい頃に見てたしな……)

 

そんな中、コゲンタは八雲を見て内心思いながら、シキガミ達に伝えた。

 

(もしかしたら、八雲は“アレ”を出来るかもしれないな。機会があれば、夜中にでも教えてみるか?)

 

コゲンタの思いに、シキガミ達は頷いた……。

 

 

 

 

 

 

「美味い!」

 

「うんめぇぇぇぇぇ!」

 

初日の修行を終え、全員は別荘の広間で夕食をいただいていた。

 

祐斗が採った山菜のおひたし、リアスが仕留めた猪を使った牡丹肉の料理、魚の塩焼き等々、各種色とりどりの料理が並んでいた。

 

「あらあら。おかわりもあるから沢山食べてくださいね」

 

そう言いながら、和風エプロンを着けた朱乃は八雲にご飯を盛ると、八雲はご飯を受け取っては箸を動かす。

 

「美味しいです、朱乃先輩。こんな美味い料理は毎日食べたい程ですよ」

 

「うふふ、困っちゃいますね」

 

八雲の言葉に朱乃は微笑む中、お茶を飲んだリアスは一誠に訊いた。

 

「さて、イッセー。今日一日修行してみてどうだったかしら?」

 

一誠は一度箸を置いて正直な感想を口にした。

 

「……俺が一番弱かったです」

 

「そうね。それは確実ね」

 

リアスがハッキリ言い、更に続ける。

 

「朱乃、祐斗、小猫はゲームの経験が無くても実戦経験が豊富だから、感じを掴めば戦えるでしょう。八雲とくぅろは3人より経験は少ないけど、身体能力と戦闘センスが高いから同じね。それに対してあなたとアーシアは実践経験が皆無に等しいわ。それでもアーシアの回復、あなたのブーステッド・ギアは無視出来ない。相手もそれを理解してるはず。最低でも相手から逃げる位の力は欲しいわ」

 

「逃げるって……。そんなに難しいんですか?」

 

一誠の質問にリアスは頷くと、聞いていたシキガミのフジとブリュネが一誠とアーシアに言う。

 

『逃げるのも戦術だ。態勢を立て直し、勝利を得る方法もある。だが、相手に背を向けて逃げるのは難しいものだ』

 

『特に実力の差が開いてる者に背を向けるのは、殺してくれと言っている様なもの。イッセー殿とアーシア殿には、そんな相手からの逃げ時や面と向かって戦う術を、リアス殿達から教わる事がいいだろう』

 

「了解っス」

 

「はい」

 

シキガミ達の言葉に一誠とアーシアが同時に返事をする中、一誠はアーシアを戦いに巻き込んだ張本人としての覚悟を一層自覚する。

 

「さて、食事を終えたらお風呂にしましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

「お、お風呂っ!?」

 

真剣な面持ちから一変、リアスの言葉で一誠の意識がエロい思考に塗り替わり、どうやって覗こうか瞬時に考え始めた。

 

「僕は覗かないよ、イッセーくん」

 

「合意が無ければ、同じく」

 

「バッカ! お、おまえらな……!」

 

しかし、祐斗のスマイルと八雲の頷きで先制されて動揺してしまう。

 

「あらイッセー。私達の入浴を覗きたいの? なら、一緒に入る?」

 

「なっ!」

 

クスッと小さく笑うリアスの一言により、一誠に衝撃が走る。

 

「私は構わないわよ。朱乃はどう?」

 

「うふふ。殿方の背中を流してみたいですわ。特に……」

 

「ん……?」

 

朱乃が満面の笑みで肯定し、誰にも知れずに視線を八雲に向けていた。

 

「アーシアだって、愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」

 

リアスの問い掛けにアーシアは顔を真っ赤にして俯くが、確かに小さく頷いていた。

 

「私は御主人様がいいと言えば大丈夫です!」

 

「こら」

 

くぅろは相変わらず、八雲が絡めば問題無いらしい。

 

「最後に小猫。どう?」

 

「……嫌です」

 

バッサリと否定する様に、両腕を交差してバツ印を作る小猫。それが有頂天気味の一誠を奈落の底に叩き落とした。

 

「じゃ、無しね。残念、イッセー」

 

クスクスと悪戯っぽい笑みでリアスが言った。

 

「……覗いたら、恨みます」

 

「ぐはっ!」

 

小猫の先制により、一誠の野望は完全に潰えてしまった。

 

「……イッセー」

 

膝を付いて落ち込む一誠に、八雲が肩に手を置いて言った。

 

「また機会があるさ。修行中は諦めろ」

 

「うっせぇぇぇぇぇっ! 機会って、何時あるんだよぉぉぉぉぉっ!」

 

「そうだイッセーくん。僕が背中を流すよ」

 

「マジで殺すぞ、木場ぁぁぁぁぁ!」

 

この時、一誠の怒りの慟哭が別荘に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

「……………それで、こんな時間に何だよ、コゲンタ?」

 

それから時間が経過し、修行初日の深夜。八雲はコゲンタに話があると言われ、別荘の外に出ていた。

 

『八雲。今、目覚めてるシキガミは把握してるか?』

 

「コゲンタ、ブリュネ、ナナヤ、フジ、ヒヨシノ、クラダユウ、ランゲツ、コンゴウ、ホリン。そこから新しく目覚めた奴らを足せば、合計“15人”だな」

 

八雲の答えにコゲンタは満足に頷く。

 

『八雲はすげぇよ。既に2割も仲間を目覚めさせてるんだぜ。本当、お前がオレ達の契約者でよかった』

 

「……いきなり何だよ――」

 

『そこでだ!』

 

八雲の言葉を遮る様に、コゲンタは八雲に力強く指差した。

 

『これから教えるのは、ゲームの勝敗を左右する事になる。ゲームだけじゃない。これからの行く末も左右される事態となる。それでもいいか?』

 

「……………」

 

コゲンタの言葉に暫く考えるが、八雲の答えは決まっていた。

 

「……言っただろ。俺は守る為に戦いたいんだ。もう、戦えない人達だけじゃない。困ってる奴なら、悪魔でも手助けするよ」

 

『悪魔でも、か……。さすが、でっかい目標だな。気に入った!』

 

そして、コゲンタも決心した。

 

『これから教える1つは、オレの信頼の証と思ってくれ。絶対に勝利へと導いてやるからよ』

 

コゲンタの言葉を皮切りに、目覚めているシキガミ全員が霊体として現れて頷いた。

 

こうして、八雲は遅くまでシキガミ達にある事を教わるのだった。

 

 

 

 

 

 

八雲達が外にいる頃、アーシアの眠る寝室の扉が静かに開いた。

 

「……………うみゅう、イッセーしゃ~ん……」

 

慣れない事をしたせいか、アーシアは寝言を言いながらすやすやと心地よく寝ていた。

 

そんな彼女に足音を立てる事なく人影が忍び寄り、その人物はゆっくりとアーシアに手を伸ばしては肩をゆすった。

 

「アーシア……。アーシア……」

 

名前を呼ばれ、アーシアが目を覚ました。

 

「……………イッセーさん?」

 

寝ぼけ眼を擦りながら起き上ると、目の前に一誠がいた。

 

思わず声を上げそうになったが、咄嗟に一誠が人差し指を立てて沈黙を促す。

 

「こんな時間にごめん、アーシア。こんなこと頼めるのアーシアしかいなくて……」

 

そして、一誠は真剣な表情をしながら小声で言った。

 

「アーシア、服を貸してほしいんだ」

 

「……………はい?」

 

対して、アーシアは戸惑う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

アーシアから服を借りた一誠は、暗い森の中で自主練を始めていた。

 

「……絶対に、出来るはずだ!」

 

今日の修行で何かを掴んだのか、そのイメージを確実なものにする為に、自分の望みの為に奮闘する。

 

「はあっ!」

 

一誠の放つ魔力が風となり、目の前にあるアーシアの服を被せ、木の枝に吊るした丸太に向かっていくが、結果は服が僅かに揺らめく程度で終わってしまう。

 

「くそっ! まだまだぁ!!」

 

それでも諦めず、何度も魔力を放っては服が揺らめく繰り返しだった。

 

一方、アーシアは居ても立ってもいられずに一誠の元へ向かっていた。

 

「イッセーさん。あんな真剣な顔で一体何を……?」

 

アーシアには一誠が何やら切羽詰っている様にも見えていた。湧き上がる不安感を抑えきれず、アーシアは既に日にちが変わった真夜中の山道を駆ける。

 

そして、アーシアはやっと一誠の姿を見つける事が出来た。

 

「このイメージなら、イケる! はあああああっ!」

 

「イッセーさん!」

 

「あ」

 

しかし、一誠の側に行こうと草むらから飛び出した瞬間、一誠の魔力がアーシアを巻き込んでしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の少年の深夜の修行が行われた。

 

1人は自分の目標の為に……。1人は自分の望みの為に……。

 

しかし、願いは違うが現時点で目指す所は同じだった。

 

今はただ、リアスの助けとなる為にと……。




15体中の6体は後々出します。取り敢えず、この章には絶対に……。

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