ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第16話:悩める紅髪の滅殺姫〈ルイン・プリンセス〉

「……………」

 

結界が張られた学園。旧校舎にある森の中、小猫は辺りを警戒していた。

 

堕天使やはぐれ悪魔の類いが現れたのではない。小猫がある者と模擬戦を行っており、朱乃が結界を張っているからだ。

 

(……何処なの?)

 

眷属の中でも気配に敏感な小猫。しかし気配を探るも相手が見つかる事はなく、知らない内に小猫に焦りが生じていた。

 

(……気配も無い。ここにはいない――)

 

刹那、小猫は思考を無意識に止めた。

 

「……………」

 

何故ならその瞬間、小猫の真後ろから人影が現れ、小猫の首を絞めようと両手を伸ばしては首を掴んだからだ。

 

「っ!!」

 

しかし、それが幸いだった。触れられた瞬間、小猫は反射的に片足で踏ん張り、後ろ蹴りを繰り出した。

 

「……?」

 

だが、蹴りに残った感触に違和感を感じて小猫は後ろを振り返ると、地面に落ちてあったのは制服の上着とブラウス……。先の違和感の正体は、その2着だけを蹴った感触の様だ。

 

「……間一髪でした」

 

「……………」

 

そんな小猫に声を掛ける者。小猫は視線を漂わせ、模擬戦開始以来にその者が視界に入った。

 

木の枝の上。黒いタンクトップと制服のスカート姿で、小猫を見つめるくぅろが……。

 

何故、小猫がくぅろと模擬戦をしているのか?

 

その理由は、くぅろが八雲とひとつ屋根の下で暮らす事となって数日後、くぅろの記憶探しの一環として八雲が一誠達の朝練に参加させた時、高い身体能力を見せたのだ。

 

その身体能力は今の一誠よりも高く、八雲とは互角の組み手をグレモリー眷属に見せており、八雲以外の者と模擬戦をしたいと言ったくぅろに、リアスは眷属達にも手伝わせているのだ。

 

因みに、現在くぅろが模擬戦をしたのは八雲と祐斗であり、八雲は引き分け、祐斗はあと一方の所で負けてしまっている。そして今夜は小猫との模擬戦だ。

 

すると、くぅろは枝から飛び降りて着地しては構える。

 

「そろそろ時間も迫ってます。次で終わらせましょうか?」

 

「……いいですよ、くぅろさん」

 

見つめ合い構える2人。木々が擦れる音のみの空間で、先にくぅろが動き始めた。

 

(……やっぱり)

 

ゆっくりと、ゆらりゆらりと向かうくぅろの歩みに小猫は確信する。くぅろが一歩進む度、足音が聞こえないと同時に、くぅろ自身の気配が薄れていたのだ。

 

「っ!」

 

近付いて来るくぅろに小猫も動く。自身の小柄な体を駆使しては懐に飛び込み、“戦車”の特性である馬鹿げた腕力の拳を与えた……………かに見えた。

 

「え?」

 

しかし、そんな必中の間合いで小猫の拳は空を切った。逆に――

 

ズン!!

 

「か……は……!!」

 

小猫の見える景色が反転。その瞬間、地に打ち付けられては全身に強烈な衝撃が走る。拳を切った瞬間、くぅろが小猫の後ろに周り込み、技を繰り出したのだ。

 

「強固な防御力でも、衝撃は伝わるでしょう。なので、力一杯繰り出させてもらいました」

 

「……負けました」

 

勝負あり。

 

くぅろは仰向けになった小猫を起こすと、両者称える様に握手を交わした。

 

「……まさかのスープレックスとは……。私にも教えて欲しいですね」

 

「さっきのは御主人様から教わったので、御主人様に教えてもらった方が早いですよ」

 

「八雲先輩が?」

 

小猫の言葉にくぅろは頷く。その時、2人の横から拍手が聞こえた。

 

「お見事お見事。いい模擬戦だったよ、2人共……」

 

「御主人様!」

 

「八雲先輩……」

 

現れたのは八雲。その後ろに朱乃と祐斗も現れると、くぅろは嬉しそうに八雲に抱き付いた。

 

「御主人様! 見ててくれましたか!」

 

「ああ、上手かったぞ」

 

「えへへ♪」

 

数日でくぅろのスキンシップに慣れたのか、八雲はくぅろの頭を優しく撫で、くぅろも嬉しそうに目を細めた。

 

そんな中、祐斗と朱乃が小猫に話し掛ける。

 

「どうだった? くぅろちゃん(彼女)の動きは……」

 

「……動きに無駄がありませんでした。私には真似出来ません」

 

「私達も映像で見ました。くぅろちゃんの動きは祐斗くんの様に速度を駆使するのではなく、気配を切り替えて巧みに小猫ちゃんを翻弄してましたわ」

 

「珍しい戦闘スタイルだったしね。気配を消して相手が認識する前に倒す……暗殺者に近かった。あの時、僕の足が滑っていなければ、勝てなかったかも……」

 

「じゃあ、言うなればくぅろの戦闘スタイルは“無音暗殺者(サイレント・キリング)”か……」

 

「“無音暗殺者”……素敵です、御主人様!」

 

祐斗の言葉に八雲は命名すると、くぅろは気に入ったのか頷いた。その際、コゲンタは『中二病みたいだな……』と、内心思ったとか……。

 

「では、そろそろ部室に戻りましょうか。アーシアちゃんとイッセーくんが戻ってくる頃でしょうし……」

 

朱乃の言葉に全員が頷く。

 

因みに、この場にいない一誠とアーシアは悪魔の仕事をしており、アーシアに至っては初めての仕事なのだが、共に暮らしている一誠がアーシアを過保護に心配し、最初の内はアーシアの助手としてリアスに許可を貰い、同行しているのだ。

 

そして、全員はリアスがいる部室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「部長。ただいま帰還しました」

 

一方、オカルト研究部の部室。床の魔方陣が輝き出しては一誠とアーシアが現れた。どうやら、アーシアの仕事を終えて戻った様だ。

 

「……………」

 

しかし、一誠の報告はリアスに届いていない様で、リアスは物思いに耽っては深い溜め息をついていた。

 

「部長、ただいま帰還しました!」

 

そんなリアスに一誠は少し声量を上げて言うと、リアスはハッと我に返った。

 

「ご、ごめんなさい。少しボーッとしていたわ。ご苦労様、イッセー、アーシア」

 

「部長。ただいま戻りましたわ」

 

その直後、朱乃達も部室に戻ってくると、八雲が一誠とアーシアに話し掛ける。

 

「お疲れ様。その様子だと、仕事は上手くいったのか」

 

「はい。イッセーさんにも手伝ってもらった所もありましたが、契約者の方に喜んでもらいました」

 

アーシアの言葉に八雲は納得する様に頷くと、リアスが全員に言う。

 

「皆もご苦労様。――八雲、くぅろ。今日はもう上がっていいわ。お疲れ様」

 

「分かりました。それじゃあリアス部長、皆、バイス!」

 

「バイスです、リアスさん!」

 

2人が出るのをリアス達が笑顔で送る中、一誠はリアスに視線を向けて思った。

 

「……………」

 

その時のリアスの笑顔に、違和感を感じたのを……。

 

 

 

 

 

 

「はふぅ~♪ 御主人様の手、暖かいですぅ……」

 

その日の夜。くぅろは八雲と共に八雲の自室で寛いでおり、八雲はくぅろのご褒美として膝枕をしながら頭を優しく撫でていた。

 

「筋肉ついてるから、硬くないか?」

 

「はい。でも、暖かくって気持ちいいですよ……」

 

「……そうか」

 

そんな中、くぅろは八雲に言った。

 

「……御主人様」

 

「ん?」

 

「今日のリアスさんの様子、変でしたね? 悩んでいると言うか、思い詰めてる様な……」

 

「……そうだな」

 

その事については八雲も気になっていた。最近リアスは考える事が多くなり、目を離しているとボーッとしては溜め息も多くなっていたのだ。

 

「くぅろは気になるのか?」

 

「はい……。リアスさんには、おつるさん達に話し合ってくれた恩がありますしね……」

 

「……じゃあ、鍛練の時にでも然り気無く訊いてみるか?」

 

「……いいんですか?」

 

八雲の言葉に驚いたのか、くぅろは起き上がっては八雲の顔を見つめると、八雲は頷く。

 

「悩み過ぎもよくないだろうしな。理由が分かれば俺達でも役に立てるかもしれない」

 

「……やっぱり、御主人様は優しいです」

 

「ありがとう。――それじゃあ、そろそろ寝ようか」

 

その一言にくぅろは頷いては部屋に戻り、八雲も就寝に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

その日の深夜の事だった。

 

「あー、毎夜心身共に疲れますな」

 

アーシアと共に帰宅した一誠は自室で一休みしていると、突如部屋の床に紅く光る魔方陣が現れた。

 

「……って、俺ら眷属の紋様だ!」

 

現れたのはグレモリー眷属の魔方陣。誰が俺の部屋に……と、一誠が疑問に思う中、魔方陣から人影が現れる。

 

「部長……?」

 

現れたのは、思い詰めた表情を浮かべたリアス。

 

「部長。どうしたんですか?」

 

「……イッセー」

 

何かあったのかと思い一誠は声を掛けたが、リアスは一誠を確認するなり、ズンズンと詰め寄り、開口一番に衝撃的な事を言い放った。

 

「私を抱きなさい」

 

「…………………………はい?」

 

一瞬、リアスは何を言っているのか分からなかった。

 

自分の耳がおかしくなったのではと一誠が思う中、追い打ちを掛ける様にリアスはダメ押しの一声を言った。

 

「私の処女をもらってちょうだい。至急頼むわ」

 

そんな刺激的な言葉に、一誠の思考がショート寸前となった。

 

「ほら、ベッドへお行きなさい。私も支度をするから」

 

戸惑う一誠を前にして、リアスは制服を脱ぎだした。すぐに下着を露にするリアスに、一誠は無意識に生唾を飲み込んでしまう。

 

「ぶ、部長! こ、これは!」

 

「いろいろ考えたのだけれど、これしか方法がないの」

 

気が付くと、一誠はリアスにベッドへと押し倒されていた。

 

「既成事実が出来てしまえば文句もないはず。身近でそれが私と出来そうなのは、あなたしかいなかった」

 

馬乗りになるリアスの紅髪の匂いが鼻孔をくすぐり、一誠の思考を鈍らせる。

 

「まだ足りない部分もあるけれど、素質はありそうだものね。頼んでから数分で情事までいってくれるのは、あなたぐらいだもの」

 

「ぶ、部長……」

 

そしてリアスはブラジャーのホックに手を掛けてはホックを外すと、大きな胸が一誠の前に再び(まみ)えた。

 

「イッセーは初めてよね? それとも経験が?」

 

「は、初めてです!」

 

するとリアスは一誠の右手を取り、自身の胸に当てた。

 

むにっと極上に柔らかな感触。その感触が五指に伝わり、一誠の頭がパンクしそうだった。

 

「分かる? 私も緊張しているわ。胸の鼓動が伝わるでしょう?」

 

その言葉に一誠はリアスをよく見ると、リアスの白く滑らかな肌が赤みを帯び始める中、リアスは一誠の服を脱がしていた。

 

「で、ですが! お、お、俺、自信がちょっとないような!」

 

「私に恥をかかせるの?」

 

その一言で、一誠の頭はボンッと理性が飛んではリアスの肩を掴み、逆に押し倒してしまった。

 

一誠のベッド。一誠の下にほぼ全裸のリアス。処女をもらってくれと言われ、一誠は覚悟を決めた……………その時だった。

 

「……………え?」

 

突然、カッと再び部屋の床に光り輝き、何事かと思い床を見ると魔方陣が浮かび上がっていた。その魔方陣はグレモリー眷属のものだったが、今回のそれは白銀に輝いている。

 

「……一足遅かった訳ね……」

 

それを見たリアスは嘆息しながら忌々しく見つめていた。

 

「……………」

 

やがて魔方陣から現れたのは、銀髪のメイドだった。メイドは一誠とリアスを確認するなり、静かに口を開いた。

 

「こんな事をして破談に持ち込もうという訳ですか?」

 

メイドが呆れた様に淡々と言う中、リアスは眉を吊り上げる。

 

「こんな事でもしないと、お父様もお兄様も私の意見を聞いてはくれないでしょう?」

 

「この様な下賤な輩に操を捧げると知れば旦那様とサーゼクス様が悲しまれますよ」

 

呆然とする一誠に視線を向けながら言うと、メイドの言葉にリアスは更に不機嫌な様相を見せる。

 

「私の貞操は私のものよ。私が認めた者に捧げて何が悪いのかしら? それに、私のかわいい下僕を下賤呼ばわりしないでちょうだい。例え、兄の“女王”であるあなたでも怒るわよ、グレイフィア」

 

それを聞いたメイド……グレイフィアは嘆息しながらも、床に放置されたリアスの制服に手を伸ばしては上着を掛けた。

 

「何はともあれ、あなたはグレモリー家の次期当主なのですから、無闇に殿方へ肌を晒すのはお止めください。只でさえ、事の前なのですから」

 

すると、グレイフィアは一誠に視線を移して頭を下げた。

 

「初めまして。私はグレモリー家に仕えるグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

 

「……………」

 

クールな印象に、美しい銀色の髪と瞳。グレイフィアに見惚れてしまう一誠に、リアスは無言で頬をつねっては半眼で口をへの字に曲げている。

 

「グレイフィア。あなたがここへ来たのはあなたの意志? それとも家の総意? それとも、お兄さまのご意志かしら?」

 

「全部です」

 

グレイフィアの即答に観念したのか、リアスは諦めた様に深く息をつく。

 

「そう。兄の“女王”であるあなたが直々人間界へ来るのだもの。そう言う事よね。分かったわ」

 

そう言って、リアスは制服に手を掛けては袖に腕を通していき、一誠は素晴らしい裸体が隠れていく光景を見ては後で後悔する事が分かってしまった。

 

「ごめんなさい、イッセー。さっきまでの事は無かった事にしてちょうだい。私も少し冷静ではなかったわ。今日の事はお互いに忘れましょう」

 

「は、はぁ……」

 

「イッセー? まさか、この方が?」

 

「ええ。兵藤一誠。私の“兵士”で、“赤龍帝の籠手”の使い手よ」

 

「……“赤龍帝の籠手”。龍の帝王に憑かれた者……」

 

一誠の名を訊いては驚愕した表情で見るグレイフィアだったが、突然異質なものでも見る様な目で一誠を見つめる。

 

そんなグレイフィアに一誠が内心疑問に思う中、リアスはグレイフィアに言う。

 

「話は私の根城で聞くわ、グレイフィア。朱乃も同伴でいいわよね?」

 

「『雷の巫女』ですか? 私は構いません。上級悪魔たる者、“女王”を傍らに置くのは常ですので」

 

「よろしい。――イッセー」

 

チュッ。

 

「……………え?」

 

突然だった。

 

一誠の方に向き直ったリアスは歩み寄り、一誠の頬へとキスしたのだ。

 

「今夜はこれで許してちょうだい。迷惑を掛けたわね。明日、また部室で会いましょう……」

 

そう別れを告げ、リアスはグレイフィアと共に魔方陣の放つ光の中に消えていった。

 

その時、リアスはいつも以上に悲しげな表情を浮かべたのとキスや胸の感触が忘れられず、一誠はその夜は一睡も出来なかったとか……。 

 

 

 

 

 

 

早朝の公園。

 

そこには、鍛練時に着る柔道着姿の八雲と体操服のくぅろの2人だけがいた。因みに、学園指定なのか、くぅろの下はブルマだった。

 

すると、八雲は見ていた携帯の画面を切っては溜め息をつき、くぅろは訊いた。

 

「どうでしたか?」

 

「……今日は来れないとさ。リアス部長とイッセー」

 

「はぁ……。昨夜の作戦が無理になりましたね」

 

がっかりと肩を落とすくぅろ。どうやら、リアスとイッセーが朝練に来れないと断りを入れてきた様だ。

 

『それにしても突然だな。リアスのねーちゃんはともかく、イッセーも来れないなんてな……』

 

「何かあったのか、それとも体調が優れないのか……。何れにせよ、放課後まで待つのは長いしな。昼休みにでも、あの人にリアス部長の悩みを知ってるか訪ねてみよう」

 

八雲の言葉にコゲンタも頷いた。

 

「今日の練習、どうしましょうか?」

 

くぅろの言葉に八雲は答える。

 

「今日は仕方ない。リアス部長達にも見せたかったが、俺達だけでするか」

 

『おっ! それじゃあ、“アレ”をしてみるのか?』

 

コゲンタの言葉に八雲は頷き、唐突に闘神符を数枚取り出すと、くぅろは訪ねる。

 

「御主人様。一体、何をするんですか?」

 

「これか? “闘神符の新しい可能性”を試すのさ……」

 

そして八雲は姿と気配を隠す【隠】の闘神符を数枚、鍛練する場所を囲む様に配置してから鍛練を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

それから時間が経過。朝の学園の廊下で、それは起こった。

 

「イッセェェェェェェェェッッ!!」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

ドゴッ!

 

げっそりとした状態の一誠に、憤怒の形相をした松田と元浜が高速で駆け寄り、首元に2人のラリアットが炸裂したのだ。

 

「ッゲホ、いきなりだな――」

 

「ふ、ふざけんなぁぁぁぁぁ!」

 

「イッセー! お前って奴は!」

 

「……ナンダヨ、イッタイ」

 

わざとらしく知らぬ存ぜぬの態度を取る一誠だが、2人の激昂は止まらない。

 

「ふざけんなよ! 何だ、あれ!? どう見ても格闘漫画の強敵みたいな(おとこ)じゃねぇか! しかも何でゴスロリ着てんだよ! 最終兵器か!?」

 

「どうした、騒々しい」

 

そんな松田が泣きながら訴える中、一誠達の後ろから八雲とくぅろが合流した。

 

「あっ、おはようございます。吉川さん、くぅろさん」

 

「おはよう、アーシア」

 

「おはようです。――あの、これは一体?」

 

くぅろの言葉にアーシアも再度一誠を見ると、松田と元浜にダブルブレーンバスターを食らわされており、2人は一誠に体裁しては教室へ戻った後だった。

 

「……大丈夫か?」

 

「あ、あんまり……大丈夫じゃない……」

 

それから八雲は一誠に理由を訊いた。

 

どうやら、数日前に松田と元浜に教えた連絡先は、悪魔稼業のお得意様であるミルたんであり、ミルたんの事を聞いていた八雲は呆れた顔をして一誠に言った。

 

「そりゃあ、松田達も災難だったな……。ってか、イッセーもふざけすぎだ」

 

「……反省します」

 

反省する一誠に八雲は「よろしい」と頷くと、今朝の事について質問した。

 

「それで、朝練が出来なかった理由は――」

 

「御主人様」

 

すると、くぅろが何かに気付いて話し掛けるが、八雲は一見する。

 

「くぅろ」

 

「あ、ごめんなさい……。――八雲さん」

 

「どうした?」

 

「何か、イッセーさんから漂ってるんですが……」

 

「何がだ?」

 

「微かに匂います。何と言うか、栗のは――」

 

『わーわーわーわーわぁーっ!!』

 

刹那、現れたホリンとクラダユウは声を出してはくぅろの言葉を遮った。

 

「どうした?」

 

『な、何もあらへんよ!』

 

『ええ! 八雲さんには関係無い事ですので!』

 

そう言う中、ホリン達はくぅろに詰め寄っては小声で話し掛ける。

 

『あかんよくぅろはん。女の子がそないな事を言うんはやすけないよ』

 

『そうですよ。あまり下品な事を言うと、八雲さんに嫌われますよ』

 

「っ!? それは嫌だ!」

 

くぅろはイヤイヤと首を激しく横に振る中、八雲は一誠を立たせていた。

 

「それじゃあ、俺達も教室に行こうか」

 

「ああ……」

 

すると、八雲は一誠にだけ聞こえる様に言った。

 

「それと、体に響くまでエロスに没頭するな。注意するんだぞ」

 

どうやら、くぅろの言葉は聞こえていた様だ。

 

「……………」

 

その言葉に、一誠は顔を両手で隠すしかなかった。

 

「……イッセーさん。どうしたんでしょうか?」

 

『いや、アーシアは知らなくていいからな』

 

そして、首を傾げるアーシアにコゲンタは気をつかうのだった。

 

 

 

 

 

 

昼休み。生徒達が昼食やお喋り等を楽しむ時間は、生徒会室でも同じだった。

 

「……………そう言う訳で、リアス部長が何を悩んでいるか、ソーナ会長は知ってますか?」

 

「……そうね」

 

そんな生徒会室に、八雲はリアスの事についてソーナに教えてもらおうと生徒会室に足を運んでいた。因みにくぅろはクラスの女子と交流を深める為に、八雲とは別行動をしている。

 

「……………」

 

そんな中、ソーナ以外にも生徒会メンバーの1人が八雲とソーナの様子を見ていた。

 

「会長。その方が、前に言ってた……」

 

「ええ。――紹介するわ。彼女は森羅椿姫(しんら つばき)。副会長であり、私の“女王”よ」

 

「森羅椿姫です」

 

丁寧に頭を下げる椿姫。

 

「どうも。吉川八雲です」

 

『おっす! コゲンタだ!』

 

八雲達も挨拶し終わると、ソーナは本題に入った。

 

「リアスの悩みですが、恐らく家の事情で悩んでいるのでしょう」

 

「家庭の事情、ですか……。両親と仲が悪いとか?」

 

「いいえ」

 

八雲の言葉にソーナはキッパリと否定しては一言。

 

「婚姻の事です」

 

「婚姻って……リアス部長、結婚するんですか?」

 

「近い内にはするかもしれません。……………内緒にしてもらいたいのですが、個人的にリアスとその許嫁の方とは似合わないんです……」

 

悩む表情をするソーナに、八雲は気付く。

 

悪魔としては種族繁栄に繋がるのでソーナは賛成だが、友人として見ればソーナは反対なのだと……。もっとも、リアスの許嫁を見た事が無いので、八雲としては答えにくいのだが……。

 

「……難しい問題ですね」

 

「ええ。――吉川くん。リアスの眷属の皆と協力して、リアスを支えてください」

 

「もちろん。リアス部長には恩がありますしね。――それじゃあ、俺は戻ります。色々話してくれてありがとうございました」

 

そして八雲は立ち上がると、ソーナにつる屋の和菓子が入った紙袋を渡した。

 

「これは話してくれたお礼です。生徒会の皆さんと食べてください」

 

「ありがとう」

 

「それじゃあソーナ会長、森羅副会長、バイスです」

 

『バイス!』

 

そして八雲は生徒会室を出ると、ソーナと椿姫は扉を見つめては言った。

 

「会長。バイスとは一体……?」

 

「さあ……。ですが、とても信頼感を感じました……」

 

そう言ったソーナの表情は、どこか優しいと椿姫は思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「部長のお悩みか……。多分グレモリー家に関わることじゃないかな?」

 

放課後。一誠とアーシア、八雲とくぅろが旧校舎の部室に向かう途中、祐斗が合流した。その際、一誠はリアスの最近の様子の事を話したのだが、どうやら祐斗にも心当たりはないようだ。

 

勿論、リアス本人に直接聞くという選択肢もあったのだが、昨日の今日なのでちょっと気が引けるというのが、一誠の正直なところだった。

 

最も、昼休みにソーナに話を訊いた八雲は知っているのだが、ソーナの約束を守っているので一誠達には話していない。

 

「朱乃さんなら知っているよな?」

 

一誠の疑問に祐斗は頷く。

 

「あの人は部長の懐刀だから、恐らく知っているだろう……っ!」

 

「ん?」

 

「!」

 

部室の扉前に到着したところで、一誠とアーシア以外が何かに気付いた。

 

「……僕がここまで来て初めて気配に気付くなんて……」

 

「……とても大きな気配を感じます……」

 

目を細め、顔を強張らせる祐斗とくぅろ。

 

「気のせいか、重たい空気を感じるが……」

 

そして、八雲は部室から漏れる空気を感じる中、部室の扉を開けた。

 

室内にリアス、朱乃、小猫が既におり、そしてもう1人……。

 

「グレイフィア……さん?」

 

一誠がその人物の名前を呟いた。

 

「……誰だ?」

 

「誰でしょうか?」

 

「……参ったね」

 

一誠の後ろでは初めてグレイフィアを見る八雲達が疑問に思っていると、祐斗は小さく呟いていた。

 

そんな中、部室内は会話のない張り詰めた空気に支配されていた。

 

機嫌の悪い面持ちのリアスに、いつもニコニコ笑顔の朱乃だがどこか冷たいオーラを放っており、小猫はなるべく関わらないでおこうと部屋の隅で静かに座っている。

 

やがて、メンバーの一人一人を確認したリアスが口を開いた。

 

「全員揃ったわね。では、部活をする前に少し話があるの」

 

「お嬢様。私がお話ししましょうか?」

 

説明をグレイフィアが申し出るが、リアスは手を振っていなした。

 

「実はね――」

 

リアスが口を開いた瞬間だった。

 

突然、部室の床に現れた魔方陣が光り出したかと思えば、突如炎を吹き出しては部室を熱気に包み込んだ。

 

「熱っ」

 

「御主人様!?」

 

チリチリと肌につく火の粉を防ぎながら確認すると、魔法陣に描かれる紋章はグレモリー家のものは異なっていた。

 

「――フェニックス」

 

近くにいた祐斗の呟きが聞こえた瞬間、炎上する魔方陣の中から人影が姿を現した。

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ」

 

そこにいたのは、赤いスーツを着た1人の男性だった。

 

見た目は20代前半。スーツを着崩しているせいか、ネクタイもせずに胸までシャツをワイルドに開いている。

 

(何だかホストっぽい奴だな……)

 

八雲が内心思う中、男性は部室を見渡しては視界にリアスを捉えると、口元をにやけさせた。

 

「愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

一方、リアスは半眼で男性を睨んでおり、どう見ても歓迎してる様には思えない。

 

(……コイツ、もしかして)

 

リアスの態度に八雲は確信する中、一誠は訊いた。

 

「誰だこいつ?」

 

一誠の疑問に男性は少しだけ驚いた様子を見せる。

 

「……あら? リアス、俺の事を下僕に話してないのか? つーか、俺を知らない奴がいるのか?」

 

「話す必要が無いから話していないだけよ」

 

「あらら、相変わらず手厳しいねぇ。ハハハ……」

 

男性は目元を引きつらせながら苦笑する中、グレイフィアが介入する。

 

「兵藤一誠様。この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の御三男……」

 

そして、次の言葉が八雲を除く3人に衝撃を与えた。

 

「そしてグレモリー家次期当主の婿殿。即ち、リアスお嬢様のご婚約者であらせられます」




やっぱり、リアスはイッセーと……。

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