ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第12話:目覚めし黒き白虎

「加勢に来たぞ、兵藤」

 

天井を突き破り、その穴から降り注ぐ光がスポットライトの様に照らされている教会内。

 

何故、八雲が天井から現れたのか?

 

リアスと朱乃、堕天使達はどうなってしまったのか?

 

それを知る為には、一誠が地下の儀式場に突入した頃まで遡らなければならない……。

 

 

 

 

 

 

協会の裏手の雑木林。既に堕天使との戦闘は行われていた。

 

「はあっ!」

 

飛び出したのは八雲。自慢のフットワークを駆使してドーナシークの懐に飛び込んでは拳を突き出すが、避けられてしまい空を切る。

 

「人間にしてはいい動きだ。だが、前回の様に不意を突かれなければ……」

 

「えーい!」

 

そう言い、ドーナシークは回避先にいたクラダユウの攻撃を片手で受け止めた。

 

「どうという事はない」

 

「それはどうでしょうか?」

 

「何……………ぐっ!」

 

刹那、クラダユウの言葉と共に祓々から電撃が発生し、ドーナシークは感電してしまった。

 

「何やってんの!」

 

2本の光の槍が八雲に向かって飛んで来るが、すぐに【壁】の闘神符を投げて障壁を張り攻撃を防ぐ。

 

「やってくれちゃうじゃん」

 

「しかし、その程度の障壁が何時まで保てるか」

 

近くの巨木に腰掛けるミッテルト、カラワーナが見下す様な視線を向ける中、ドーナシークは八雲らと離れる。無論、その際に投げ付けられた闘神符に当たる事なく、ドーナシークはミッテルト達の側に戻る。

 

「貴様達の張った結界が仇となったな」

 

「ああ、それとも結界解いて逃がしてくれちゃう~? ノンノン、ウチらがあんたらを逃がさないわよぉ~。あんたの下僕っちも、今頃ボロッカスになってる頃だろうしねぇ~。特にほらぁ~、レイナーレ姉様にゾッコンだったあのエロガキ。あいつなんてとっくに――」

 

「イッセーを甘く見ない事ね。あの子は私の……最強の『兵士』だもの」

 

ミッテルトの言葉を遮ったリアスは余裕の表情を浮かべている。

 

「『兵士』? あぁ、あんた達って下僕をチェスに見立ててるんだっけぇ~? 『兵士』って前にズラァ~って並んでるアレでしょ~?」

 

「要するに捨て駒か」

 

堕天使たちが皮肉を口にするが、リアス、朱乃、八雲の3人は特に取り乱す様子もなく、ただ無言で堕天使たちを見上げていた。

 

「あらあら、うちの部長は捨て駒なんて使いませんのよ」

 

「坎兌震離!」

 

朱乃が言い終わる瞬間、八雲は空に印を切る。

 

「必殺、五色雲天竺雨(ごしきぐもてんじくう)!!」

 

クラダユウの言葉と共に、祓々から虹が放たれ空に掛かると、結界内に暗雲が発生しては虹色の雨を降らした。

 

「なーんだ~。ただの雨じゃ……!?」

 

ミッテルトは目を見開く。結界内に降り注ぐ雨に当たる木々が雨に当たる度に溶けていき、ただの雨ではない事を知った。

 

「ちょ、マジ~!?」

 

雨を避けるにも範囲が広い。唯一、リアス達が立つ場所へは雨が降っておらず、ミッテルト達は酸の如く溶かす雨を浴びてしまう。

 

だが、咄嗟に張った光の障壁を傘の様に張り、少量の雨しか浴びずに済んだミッテルト達は暗雲を払う様に光の槍を空に放ち、クラダユウの技を掻き消した。

 

「これで空は我らの自由だ!」

 

ドーナシークの言葉と共に、堕天使達は黒い翼を広げてリアス達を見下す。

 

「貴様らは余程あの小僧をかっている様だが、能力以前にあいつはレイナーレ様に勝てやしない」

 

「だって元カノだもんねぇ~。レイナーレ様からあいつの話を聞いた時は、もう大爆笑!」

 

「言うな、ミッテルト。思い出しただけで腹が捩れる」

 

「まあ、酒の肴にはなったがな」

 

堕天使達はおかしく笑いながらも光の槍を作り出して投擲し、その向かう先にはリアスがいた。

 

「部長!」

 

「リアス部長!」

 

朱乃と八雲が叫んだ直後、リアスから放たれた赤いオーラが堕天使達の光の槍を弾いた。

 

「弾いただと!?」

 

「……笑ったわね?」

 

放出されるオーラが、リアスの美しく長い紅髪を逆立てる。

 

「私の下僕を……笑ったわね?」

 

今のリアスの声色や雰囲気には明らかに怒気を含ませており、それに察した朱乃は言った。

 

「あらあら、怒らせる相手を間違えた様ですわね。お馬鹿さん」

 

刹那、リアスの黒い魔力の波動が堕天使達に目掛けて放たれ、悲鳴すら与えずにカラワーナが飲み込まれた。

 

「カラワーナ! やってくれたな、グレモリー嬢……っ!」

 

仲間を倒され、リアスに憎悪を向けるドーナシークはある事に気付く。

 

「あの人間がいない?」

 

周りを見るドーナシークとミッテルト。だが、ドーナシークを覆う影にミッテルトは気付いた。

 

「上よ!」

 

「何――」

 

「遅いんだよ!」

 

「がはっ!?」

 

ドーナシークの顔面を捉えた八雲の鉄拳。カラワーナがリアスの魔力に飲み込まれた瞬間、八雲は【動】の闘神符を解放しては瞬時に空へと上がったのだ。

 

「震坎兌震!」

 

そしてドーナシークが地面に叩き付けられる瞬間、八雲は印を切り、クラダユウは祓々をドーナシークの頭上目掛けて振り降ろした。

 

「悟りの境地に誘いまする! 必殺、煩悩滅却打(ぼんのうめっきゃくうち)!!」

 

ゴォォォォォンッッ!!!!

 

凄まじい轟音。見た目はただの打撃技だが、本当の狙いは別のところにあった。

 

「……………ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

一拍の間の後、全身から浄化の光に包まれたドーナシークは頭を抑えながら強烈な苦痛に悶え苦しみ、地面を転がった。

 

これこそが、煩悩滅却打の能力。相手が持つ邪な悪意や欲望が大きく、多ければ、その威力は高まるのだ。

 

「これがあなたの煩悩です。悪意と欲望(あなた自身)の力で身を滅ぼしなさい」

 

その言葉を最後に、ドーナシークの体は灰となりこの世から消滅した。

 

「ちょちょちょちょ、チョ~ヤバいんですけど!?」

 

最後の1人となったミッテルト。一か八かと思ったのか、自分が持つ全ての魔力を込めた光の槍を結界へと投げ付けると、結界が破壊された。

 

「きゃあっ!」

 

「朱乃先輩!」

 

結界が破壊された影響で朱乃が地面に膝をついてしまい、心配した八雲は朱乃の側に寄っては手を取って立ち上がらせる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、何とか……」

 

「……チャ~ンス!」

 

すると、その隙にミッテルトは逃亡を図る。

 

「逃がさないわ!」

 

リアスは黒い魔力を飛ばすが、ミッテルトは回避してしまう。

 

「最初は驚いたけどぉ~、そんな単調な軌道だったら簡単に避けられるわよ~!」

 

そして月をバックにし、ミッテルトは逃亡した…………………………かに見えた。

 

「ねぇねぇ、おねーさん」

 

「へっ?」

 

ミッテルトは振り向く。この場にいる者以外の声が聞こえ、初めは地面を見下ろすが、八雲の側に『窓』が閉まる瞬間しか変わっておらず、リアス達3人しかいなかった。

 

()()って……あの女は何処よ?」

 

「こっちだよ、おねーさん」

 

「ウェッ!?」

 

クラダユウを探すミッテルトは声の方へと振り向くと、ミッテルトの頭上にその者はいた。

 

透明な羽を羽ばたかせる、オニヤンマに似た機械人的な外見を持つシキガミ。手にはボーガンを持つが、特に構える事なく、速度を落とさないで近付くミッテルトに語る様に言った。

 

「ねぇ知ってる? トンボってさー、瞬間的に時速100kmも出す種類もいるらしいよー。あんな小さな体で速いんだから、人間サイズのトンボはもっと速いんだろうねー」

 

「どくんだよぉ、虫けらがぁ!!」

 

速度を上げながら光の槍を出すミッテルトにシキガミは難色を示した。

 

「ちょっ!? ボーガン相手に接近戦なんて……!」

 

そして、ガキンと金属音が鳴り響いた瞬間、ミッテルトは目を見開く。

 

「……まあ、接近戦(こんなの)も得意なんだよねー。ボクは」

 

そのシキガミは背中に備えていた短剣を抜き、光の槍を防いだのだ。

 

「とりゃ、とりゃ!」

 

そして、シキガミはミッテルトが見せた隙を逃さず、無防備となった腹部に強烈な多段蹴りを食らわし、地上スレスレまで押し戻した。

 

「もう逃がさない」

 

ミッテルトが押し戻された瞬間、八雲は指をパチンと鳴らす。刹那、ドーナシークに投げ付けた筈の闘神符が反応し、()()()()()()()()()()()()がミッテルトをいやらしく縛り上げた。

 

【木】の闘神符。主に捕縛に使われる闘神符であり、八雲は万が一、堕天使が逃亡したらと思い投げ付けたのだ。

 

「んぁ……っ。た、助け、て……」

 

「嫌だね」

 

悩ましい声を出すミッテルトだが、八雲は容赦なく空に印を切る。

 

「それじゃあ呑気にー」

 

そして、シキガミはゆっくりと『陰陽ボーガン・三毬杖(さぎちょう)』の矢先を地上へ向けて矢を落とした。

 

「必殺ー、死線上鞠矢(しせんじょうまりや)!」

 

しかし、その軌道はミッテルトに直撃する事なく、数本の矢はミッテルトがいる近くの地面に当たった。

 

その刹那――

 

チュドォォォォォン♪

 

「きゃぁぁ――」

 

チュドォォォォォン♪

 

チュドォォォォォン♪

 

チュドォォォォォン♪

 

チュドォォォォォォォォォォン♪

 

様々な音符を出す爆発が発生してはミッテルトを飲み込み、爆発が止んだ時には既にミッテルトの黒い羽しか見当たらなかった。

 

「すいません、リアス部長。2人も貰っちゃいました」

 

【動】の闘神符の八卦の陣に乗る八雲の謝罪に、「別にいいわ」とリアスは顔を横に振る中、地上に降り立つシキガミを見ては朱乃が口を開く。

 

「あのシキガミ……初めて見ますわね。それに先程の爆発は一体……?」

 

「さっきの爆発は竜脈を狙ったんだー。魔の力を持つ相手に効く様にした矢で射ったから、堕天使には強力なんだよー…………………………あ」

 

すると、朱乃の疑問に答えたシキガミはハッと思い出す様に名乗った。

 

「遅くなったけど、別にいっか。――青錫(あおがね)のナナヤ、けんざーん……………してたよ」

 

話は変わるが、ナナヤは語学に優れて通訳としての才能を持つ。そのおかげもあり、八雲は悪魔と同じ“言語”が備わったので、初対面のアーシアと話す事が出来たのだ。

 

そんな中、堕天使達の羽を回収したリアスが八雲に問う。

 

「私と朱乃は祐斗達のところに行くわ。八雲はどうする?」

 

「いえ、俺達は別方向から突入します」

 

「分かったわ。――行くわよ、朱乃」

 

「畏まりました。――八雲くん。気を付けてくださいね」

 

「はい、朱乃先輩」

 

リアス達は魔方陣ジャンプを行い姿を消すと、八雲はナナヤを戻しては【動】の八卦の陣で再び空を飛び、教会の屋根の上で止まるとコゲンタが話し掛ける。

 

『それで、何処から突入するんだよ?』

 

「入り口だと待ち伏せてる可能性がある。だったら……」

 

決意し、八雲は新たな闘神符を持つと、勢いよく【動】の八卦の陣から飛び降りた。

 

「屋根をぶち破る!」

 

上空約20mからの飛び降り。物や地面に激突すれば大怪我間違いなしの所業を八雲は躊躇なく行った。

 

無論、八雲はただ飛び降りた訳じゃない。新たに取り出した闘神符を八雲自身に当てた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これぞ【金】の闘神符。この闘神符に影響したものは金属の様になり、重さも通常の数倍になる風変わりな闘神符だ。

 

ドガァァァン!

 

そして、八雲は【金】の闘神符のおかげもあり、無傷で教会から突入したのだった。

 

「ぎゃふんっ!?」

 

その際、前話終盤の様な間抜けな声が聞こえたが……。

 

 

 

 

 

 

「怪我してるじゃないか!?」

 

そして場面は戻り、一誠の状態に気付いた八雲は慌てて駆け寄ると、足から大量の血を流す一誠の姿がとても痛々しかった。

 

「……笑えよ、吉川」

 

一誠がやけくそ気味に笑いながら呟くが、その頬には溢れる涙が流れている。

 

「守るって決めたのに……結局、死なせちまった。俺が……俺が弱いから、あの子を死なせちまった……」

 

一誠の心は重症だった。今にも後悔の念に押しつぶされてしまいそうな程に……。

 

「俺……もう悲しくて……悔しくて……涙が、止まらねぇんだ……」

 

「……………」

 

暫くして、そんな一誠に八雲は肩に手を置いては声を掛けた。

 

「兵藤……」

 

そして、一誠の虚ろな瞳にそれは映った。

 

「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇぇ!!!」

 

八雲の固く握った拳を……。

 

ドガッ!!

 

「ぶっ!?」

 

そんな八雲の行動に、一誠は頬を殴られては後ろに吹っ飛んでは仰向けになり、いきなりの事で一誠は動きを止めてしまった。

 

「……い……いきなり何すんだよ!?」

 

暫くして一誠は上半身を起こしては八雲を涙目で睨む。その際、虚ろな瞳に少しだけだが光が戻っていた。

 

「……目が覚めたか、兵藤?」

 

「え……?」

 

「悲しかったり、悔しかったりすれば思う存分泣けばいい。だけど、それらに押し潰されそうになるのだけはやめろ。アーシアもそれは望んでないだろう……」

 

そして一誠を見ていた八雲は振り返り、背中越しに言い放った。

 

「押し潰されそうになったら何時でも言え。殴ってでも、お前を引きずり戻してやるからよ!」

 

「吉川……」

 

一誠は呟いた瞬間、立ち上っていた砂埃が止んではレイナーレが八雲を睨み付けて立っており、八雲に踏まれた傷痕は『聖母の微笑』で消えていた。

 

「……よくも私に傷を負わせたわね」

 

「あんたが親玉か。兵藤の友達を解放しな」

 

「ふーん……どうやらそこの下級悪魔の仲間みたいね。でも残念ね。そのシスターはそこで死んでるわ」

 

レイナーレの言葉に八雲は視線を巡らせては止まり、その先に静かに眠るアーシアの姿が視界に入った。

 

「でも仕方ないわ。それが彼女の運命……。至高の存在となる私を輝かせる為に必要な道具だったのよ!」

 

「……ふざけるなよ」

 

レイナーレの言葉に、八雲は今までにない怒気を込めた鋭い視線を向けながら否定する。

 

「運命だと? 人の命を奪った奴に運命を語るな。運命ってのはな、他人が奪っていいものじゃないんだ! 誰も人の運命を奪う事は出来ない!」

 

そして、ゆっくりと構えながらレイナーレに言い放つ。

 

「お前がアーシア(彼女)神器(運命)を奪ったなら、俺達がお前の野望を砕いて奪い返す! 全身全霊、全骨、全肉、全血を以て、お前を倒す!!」

 

「っ!?」

 

一瞬、レイナーレは八雲の覇気に恐怖を感じた。だが、すぐに不快な表情を浮かべては声を荒げた。

 

「だ、黙りなさい! 低級の存在が2人になったところで、至高の存在となったこの私に敵うわけ―――」

 

――2人? いや、3人だ。

 

「ん?」

 

レイナーレの言葉を遮る様に、教会内から知らない者の声が響いた時、八雲は右腕の『二十四気の神操機』に視線を向けた。

 

甲に嵌め込まれている宝玉が輝いている。その意味を、八雲は知っている。

 

「いつの間に目覚めてた?」

 

――お主が部室で決意を表した時だ、八雲よ。あの時に感じた激昂の(パゥワー)に、どれ程お主が仲間を大事にしているか分かった。ワシ達が司る信頼を上回る程にな……。

 

「そうか……。なら、俺に力を貸してくれるか?」

 

――無論だ。異論は無いな、コゲンタ。

 

『……いいぜ。但し、絶対に負けんなよ……ランゲツ』

 

「ランゲツ……いい名前だな。――シキガミ、降神!」

 

『窓』が開き、燃え盛る炎の玉を纏うシキガミが現れると、八雲は右腕を十字に動かす。

 

左右上下の動きに連なり、炎の玉を四股で砕き、咆哮と共に全体が姿を現した。

 

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

現れたのは、黒い毛並みを持ったコゲンタと同じく虎に似た獣人的な姿のシキガミ。巨大な剣の先を地に刺し、低く迫力のある声色で名乗った。

 

「白虎のランゲツ、見参!」

 

「びゃっ……こ……!?」

 

瞬間、レイナーレは恐怖した。発せられるランゲツの闘志に当てられ、知らず知らずに額から汗が流れていた。

 

「ぬどりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!?」

 

そして、ランゲツは『陰陽剣・曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』を構えてはレイナーレに突っ込むと、レイナーレは光の槍で防ごうとした。だが、ランゲツの腕力に耐えきれず、レイナーレは宙に弾き飛ばされた。

 

「至高の存在となった私に……よくも!」

 

「言っただろ。俺達が、お前を倒すってなぁ!」

 

「行こうか、八雲!」

 

起き上がったレイナーレに再度睨み付ける八雲とランゲツは、レイナーレに向かって同時に駆け出すのだった。

 

「……………」

 

同時に、目の前の戦いを見つめていた一誠は視線をアーシアの方へと動かすと、脳裏に皆の顔が浮かび上がった。

 

アーシア救出を許してくれたリアスと朱乃。自分のわがままに付き合ってくれた祐斗と小猫。悲しみから這い上がらせてくれた八雲。

 

そして、悪魔である自分に最後まで笑顔を向けてくれたアーシア。

 

みんなの顔が、一誠の脳裏に浮かんでいたのだ。

 

(このままじゃ、ダメだよな……)

 

いつの間にか、一誠はそんな事を思っていた。

 

(せっかく皆が協力してくれてるのに、俺がへばってたんじゃ格好がつかないもんな。――うるさくてごめんな、アーシア。俺はもう、大丈夫だから。アーシアが悔しかった分は、俺が少しでも晴らしてやるから……)

 

瞳に宿る小さな光が、段々と元に戻っていく。

 

(神様……じゃダメか。やっぱ、悪魔だから魔王か? いるよな、きっと……)

 

そして、天井を見上げながら一誠は独り言の様に呟く。

 

「魔王様……。俺も一応悪魔なんで、ちょっと俺の願いだけでも聞いてくれませんかね?」

 

当の昔に限界を迎えた体に力を入れる。

 

「頼みます……」

 

少しでも体を動かそうとすれば全身を激痛が襲う中、それでも一誠は少しずつ体を床から持ち上げる。

 

「後は何もいりません。ですから……」

 

とうとう立ち上がった一誠の姿に、レイナーレが驚愕の表情を浮かべた。

 

「だから、あいつを……あのクソ堕天使を、1発殴らせてください!」

 

瞬間、叫ぶ一誠の背中に悪魔の羽が広がり、その姿が威圧感を放ってはレイナーレに恐怖を与える。

 

「っ! う、嘘よ! 立ち上がれる体じゃないのよ!? 全身を内側から光が焦がしているのよ!? 光を緩和する魔力を持たない下級悪魔が耐えられるはずがないわ!」

 

「あー、痛ぇよ。すっげー痛ぇ。今にも意識がどっかに飛びそうだ……」

 

足をガクガクと震わせながらも、一誠は一歩ずつ、着実にレイナーレに近付いていく。

 

「でもよ、それ以上に、てめぇがむかつくんだよ!」

 

【Explosion!!】

 

その機械的な音声と共に、一誠の神器に嵌め込まれている宝玉が一層と光り輝く。

 

その輝きはアーシアの癒しの光に似ており、当たっているだけで安らぎ、力が溢れ、一誠の体に流れ込む。

 

今なら目の前の堕天使を倒せる、と思える程の力強さだった。

 

「凄い……」

 

『この光……まさか……!』

 

「まさか、あの時の奴が神器にされたか……」

 

八雲が感嘆の声を漏らし、コゲンタとランゲツが光に懐かしさを感じている側で、レイナーレは明らかに一誠に怯えていた。

 

「この肌に伝わる魔力の波……魔の波動は中級……いえ、上級クラスのそれ……。――あ、あり得ないわ。たかが『龍の手』なのに、どうしてあなたの力が私を超えているの!?」

 

咄嗟にレイナーレは光の槍を作り出しては勢いよく投擲したが、その攻撃はあっさりと一誠の横殴りの拳に払われた。

 

その光景を見たレイナーレの表情が更に青ざめた。

 

「う、嘘よ! こんなの嘘だわ! 至高の存在となった私が! シェムハザ様とアザゼル様に愛される資格を得た私が! あなたの様な下賤な輩に――」

 

「っ!」

 

しかし、レイナーレの言葉は一誠の一睨みによって続かなかった。

 

「い、いや!」

 

危機感を本能で悟ったレイナーレは黒い翼を広げこの場から逃げ出そうとして飛び出した。

 

「少しでも勝てないと分かると撤退か……? 逃がすかよ!」

 

しかし、その行動は阻まれた。八雲の驚異的な跳躍でレイナーレの頭上まで上がり、八雲は踵落としの要領でレイナーレを墜落させた。

 

「……加減はしてやろう。止めはそこの小僧だからな」

 

その真下に、拳を構えるランゲツがいる事を狙って。

 

「兌坎震離!」

 

そして、空中で八雲は印を切った。

 

【零発】

「必殺、爆砕牙点穴(ばくさいがてんけつ)!!」

【零点零零零秒】

 

【壱発】

瞬間、ランゲツの目にも止まらぬ拳の乱舞がレイナーレを捉える。

【零点零零零秒】

 

【捌発】

「てどりゃぁぁぁぁぁっ!!」

【零点参参伍秒】

 

【拾陸発】

片腕のみで、この速さ。

【零点伍弐伍秒】

 

【弐拾肆発】

1秒間に35発もの拳を叩き込むこそ、爆砕牙点穴の極意なのだ。

【零点陸陸零秒】

 

【参拾肆発】

無論、八雲によって態勢の取れないレイナーレは、ランゲツの全ての拳を食らってしまう。

【零点玖零参秒】

 

【参拾伍発】

「はぁっ!!」

【壱点零零零秒】

 

そして、最後の拳が当たった瞬間、レイナーレは一誠に向かって吹っ飛んでいく。

 

「行け、小僧!!」

 

「食らわせろ、お前の一撃を!」

 

叫ぶランゲツと八雲。

 

あっという間に、一誠とレイナーレの距離が縮まる。

 

「わた、しは……至高、の――」

 

「吹っ飛べ! クソ天使っ!」

 

何かを言いかけていたレイナーレに、一誠は解放した全ての力を左腕に終結させ、左拳にそれらを乗せて振り切った。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ゴッ!!

 

正確に真っ直ぐ打ち込まれた拳が、レイナーレの顔面に食い込ませ、力強く押し出した。

 

ガッシャァァァァン!!

 

真っ直ぐな直線を描きながら、大きな破砕音を立てるステンドグラス。それを突き破り、レイナーレは夜空の彼方へと飛んで行った。

 

壊れたステンドグラスから射す月明かりが一誠を照らす。宛ら勝者に送られるスポットライトの様に……。

 

「ざまーみろ」

 

一矢報いた事実に、一誠は達成感を感じて笑みが溢れるのだった。




次回、一章完結です。

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