ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

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第11話:聖女の救出、オカ研VS堕天使集団

既に空は暗く、街灯の明かりが道を照らす時間となっている。

 

一誠、祐斗、小猫の3人は、教会の入り口が見える位置で様子を伺っていた。

 

「なんつー殺気だよ……」

 

「この気配からして、堕天使が中にいるのは確実だね」

 

一誠は全身に悪寒が走る事で、祐斗は気配を感じる事でここに堕天使がいる事を確信していた。

 

「神父も相当集まってるようだね」

 

「マジか。来てくれて助かったぜ」

 

「だって仲間じゃないか」

 

祐斗は照れ臭い言葉を満面の笑みを浮かべながら口にするが、次の瞬間には笑顔が完全に消え失せていた。

 

「それに、個人的に堕天使や神父は好きじゃないんだ。憎い程にね……」

 

「木場?」

 

祐斗の過去に一体何があったのだろうかと一誠は考える中、祐斗は教会の見取り図を路面に広げた。

 

「怪しいのは聖堂だろうね。恐らく、この手のはぐれエクソシストの組織は決まって聖堂に細工を施しているんだ。地下で怪しげな儀式を行うものなんだよ」

 

「どうして?」

 

一誠の疑問に祐斗は苦笑する。

 

「今まで敬っていた聖なる場所。そこで神を否定する行為を行う事で、自己満足や神への冒涜に酔いしれるのさ。憎悪の意味を込めて、わざと聖堂の地下で邪悪な呪いをするんだよ……」

 

「イカれてるな……………って、あれ?」

 

すると、一誠は気付いた。いつの間にか小猫が教会の扉の前に立っていたのを……。

 

「小猫ちゃん?」

 

「向こうも私達に気付いているでしょうから……………えい」

 

そして、何の躊躇もなく扉を蹴り飛ばすのだった。

 

窓から差し込む月明かりに照らされた聖堂の内部は、長椅子と祭壇が設置されている、見たところ普通の聖堂だった。

 

ただ1つ、祭壇に位置する十字架に磔となっている聖人の彫刻。その頭部が破壊されている事を除いて……。

 

「何とも不気味な……」

 

聖堂内の雰囲気に不気味がっていた時だった。

 

パチパチパチパチ……。

 

「!?」

 

突然、聖堂内に拍手が鳴り響き、柱の物陰から現れた人物の登場に一誠は気分が胸くそ悪くなった。

 

「ご対面! 再会だねぇ! 感動的だねぇ!」

 

何食わぬ顔で現れたその人物の名を一誠が叫んだ。

 

「フリード!」

 

「俺としては2度会う悪魔なんていないって事になってんだけどさ。ほら、俺、滅茶苦茶強いんで悪魔なんて初見でチョンパな訳ですよ!」

 

すると、フリードは一旦言葉を止めて再び口を開くが、ふざけた笑みは潜めていた。

 

「でもさぁ、お前等が邪魔したから俺のスタンスがごっちゃごちゃ。……………ムカつくんだよ。俺に恥かかせやがった、お前らクソ悪魔のクズ共がよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」

 

再び不気味な笑みを浮かべたフリードは懐から光の拳銃と柄だけの剣を取り出し、柄から光の刃を出現させた。

 

「てめぇら、アーシアたんを助けに来たんだろう? あんな悪魔も助けちゃうビッチな子を救うなんて悪魔様はなんて心が広いんでしょうか!」

 

「おい! アーシアはどこだ!」

 

「んー、悪魔に魅入られたクソシスターなら、この祭壇から通じてる地下の祭儀場だぜぇ。……まぁ、行けたらですけど?」

 

祭壇を指差しながら、あっさりと儀式場の隠し場所を吐いたフリード。刺客の自覚が無いのか、あるいはこの場で一誠達を殺す自信からくるものなのかは分からない。

 

しかし、そんな事を考える暇もつもりも一誠達にはなかった。

 

「セイクリッド・ギアァ!」

 

一誠の叫びに呼応して、左腕に赤い籠手が装着されると、祐斗も鞘から剣を抜き放ち、小猫は近くにあった自身の何倍もあるであろう長椅子を持ち上げていた。

 

「……潰れて」

 

そして小猫はそのままフリードに向けて長椅子をぶん投げた。しかしフリードは投げ飛ばされた長椅子を光剣で両断してしまう。

 

「わーお、しゃらくせぇんだよ! このドチビ!」

 

「ドチビ?」

 

その一言が小猫の機嫌を損ねてしまった。その証拠に、手当たり次第に大量の長椅子を投げまくる。

 

しかし規格外の攻撃方法にもかかわらず、フリードは小躍りしながら長椅子を次々と両断していく。

 

「そこだ」

 

しかし、長椅子の雨の中を祐斗は掻い潜り、フリードに斬り掛かる。

 

「邪魔くせぇ! しゃらくせぇ! てめぇら、何でそんなにウザイのよ!」

 

祐斗の剣とフリードの剣が火花を散らす。たまに音もなく発射される銃弾を自慢のスピードで回避しながら、祐斗は攻撃の手を緩めない。

 

しかし、その全ての攻撃をあしらうフリードの戦闘力も相当のものであり、そうこうしているうちに、遂に鍔競り合いにまで至った両者が睨み合う。

 

「やるね」

 

「アハハ! あんたもやるねぇ! 『騎士』か! 無駄の無い動きでもう最高! マジでぶっ殺してぇなぁ!」

 

「じゃあ、僕も少しだけ本気を出そうかな。――喰らえ」

 

低い声音を発した後、祐斗の剣から黒いモヤの様な闇が出現し、刀身を覆っていき闇の剣となった。

 

その刹那、祐斗の剣の闇がフリードの剣に延び、光の刃を侵食しだした。

 

「な、何だよ、こりゃ!?」

 

目の前の光景にフリードが驚きの声を上げた。

 

「『光 喰 剣(ホーリー・イレイザー)』。光を喰らう闇の剣さ」

 

「て、てめぇも神器持ちか!?」

 

そしてフリードの光の剣は闇に侵食され、遂に元の柄だけの状態になったその時だった。

 

「兵藤くん!」

 

「セイクリッド・ギア! 動けぇぇぇ!」

 

【Boost!!】

 

祐斗の合図で一誠は駆け出すろ同時に、宝玉から音声が発生されて一誠の体に力が流れ込む。

 

「だからぁぁぁ! しゃらくさいんだってばぁ!」

 

その動きに気付いたフリードが一誠に銃口を向け、光の弾丸を連射する。

 

「プロモーションッ! 『戦車』ッ!」

 

しかし『戦車』に昇格し、光の弾丸は一誠の体を撃ち抜く事は出来ずに無へと還った。

 

「昇格! テメェ、『兵士』か!?」

 

「『戦車』の特性! あり得ない防御力と、バカげた攻撃力!」

 

「ちぃっ!」

 

一誠の拳がフリードの顔面を捉えた寸前、フリードは柄を盾にと即座に反応した瞬間、()()()()()()()()()()()()()、フリードは目を丸くした。

 

「マジです――」

 

目の前に迫るは、硬く握り締められた一誠の拳。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、フリードは言葉を遮られる様に顔面……もとい、上半身を捉えられた。

 

「ぎぇあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

柄は盾としての役割を行えずに壊れる。悲鳴を上げながらフリードの体が後方へ大きく吹っ飛び、激突の衝撃で壁にヒビが入った。

 

「それと、これは仲間から託された力だ」

 

【巨】の闘神符を渡してくれた八雲に感謝すると、一誠は息を上げながら笑った。

 

「あの時はよくもアーシアを殴ってくれたな。1発殴れて、少しスッキリした!」

 

【巨】の闘神符の効果が切れ、元に戻る一誠の拳。

 

すると、フリードは怒声を張りながら立ち上がった。

 

「ざっけんな……ざっけんなよっ!! クソがぁぁぁぁぁっ!! 何、悪魔の分際でチョーシくれてんだよぉぉぉぉぉっ! ぶっ殺してやんよぉぉぉぉぉ!」

 

鼻が曲がり、口から血を流すフリード。懐から新たに柄を取り出しては跳び掛かってくる。

 

「えい」

 

「あいてぇ!」

 

しかし、横から飛来してきた長椅子が直撃した。投げたのは勿論、小猫だ。

 

そして今の一撃で冷静さを取り戻したのか、周りを見渡すフリードは苦笑いを浮かべながら懐から球状の物体を取り出した。

 

「おーおー。ピンチってやつですか? 俺的に悪魔に殺されるのは勘弁なのよねぇ。退治出来ないのが心残りだけどよぉ、でも死ぬのが嫌だよね!」

 

球体の物体をフリードは床に叩きつける。

 

瞬間、眩い光が一誠達の目を襲い、視力が回復する頃には既にフリードの姿はなく、何処からかフリードの声だけが聞こえてくる。

 

「おい、イッセーくんだっけ? 俺が絶対にお前を殺すから。絶対だよ? 俺の事殴ったうえに説教たれたクソ悪魔は絶対に許さないよ! んじゃ、ばいちゃ」

 

それを最後にフリードの声は途絶えた。

 

「逃げやがった!」

 

「とにかく、先を急ごう」

 

逃げられたのは気に入らないが、当初の目的を果たすため一誠は祐斗の言葉に同意した。

 

「えい」

 

小猫が祭壇をおもむろに殴り飛ばすと、そこから地下へと続く階段が出現。3人はお互い頷き合うと、隠し階段を下りて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

一誠達の目的地である教会の裏手の雑木林。丁度教会の屋根が見える位置の木の枝に、ゴスロリを纏った少女が腰掛けていた。

 

「あ~あ、退屈ぅ~。どうしてウチが見張りなんて……ん?」

 

少女がぼやいていると、下の地面の一部が赤く発光し、やがて円形の魔方陣を形成してリアスと朱乃が現れる。

 

「これはこれは。私、人呼んで堕天使のミッテルトと申しますぅ~」

 

ミッテルトと名乗った堕天使の少女が、スカートの端を摘み上げ挨拶をする。

 

「あらあら、これはご丁寧に」

 

「下僕があなたを察知したの。どうやら私達に動かれるのは一応は困るみたいね」

 

「ううん。大事な儀式を悪魔さんに邪魔されたらちょっと困るってだけぇ~……ん?」

 

すると、ミッテルトはリアスが投げた闘神符に気付くと、【転】の闘神符から八雲が現れては言い放つ。

 

「残念だけど、今俺の仲間がそっちに向かってる頃だと思うぞ」

 

「ウェ、本当!? うっそ、マジっすかぁ?」

 

八雲の言葉にミッテルトは平常を崩してしまった。

 

「はい、表から堂々と」

 

「しまったぁ! 裏からこっそりやってくると予想してたのにぃ!」

 

ミッテルトが悔しそうに地団太を踏むが、余裕の笑みを浮かべてすぐに止んだ。

 

「……まあ、三下なんざ、何人邪魔しようが無問題じゃねぇ? うん。決めた、問題なし。何せ、本気で邪魔になりそうなのはあなた方お2人だけだもんねぇ~。ウフフ。わざわざ来てくれて、あっざーす」

 

「おいおい、俺は眼中に無いってか?」

 

ミッテルトの態度に若干呆れる八雲。

 

「無用な事だわ」

 

「え?」

 

「私は一緒に行かないもの」

 

リアスが自信満々にそう言い放った。

 

「へぇ、見捨てるの?」

 

「どう解釈するかは、あなたの好きにすればいいわ」

 

「まあ、とにかくあれよぉ~。主のあんたをぶっ潰しちゃえば他の下僕っちはおしまいになる訳だしぃ~?」

 

そして、ミッテルトは指を鳴らした。

 

「出でよ、カラワーナ! ドーナシーク!」

 

直後、リアス達の背後から気配を感じた。

 

「何を偉そうに」

 

「生憎、また見えてしまったなようだな、グレモリー嬢」

 

現れたのはコートを着込んだ男性堕天使のドーナシークと、際どいタイプのボディコンを着た女性堕天使のカラワーナだ。

 

「我等の計画を妨害する意図が貴様らにあるのは既に明白」

 

「死をもって購うがいい!」

 

ドーナシークとカラワーナの両者が毒つく。

 

「朱乃、八雲」

 

「はい、部長」

 

「……………」

 

リアスに促せれ、朱乃と八雲が前に出る。

 

朱乃の頭上に黒雲が現れ、一筋の雷が直撃する。今まで着ていた制服が消滅して一糸まとわぬ姿となるが、それは一瞬の出来事で、瞬時に巫女服へと切り替わっていた。

 

「リアス部長」

 

八雲も拳と掌をぶつけて『二十四気の神操機』を出現させると、リアスに訊いた。

 

「何かしら?」

 

ドーナシーク(あの男)の相手は、俺達に一任させてもらえますか?」

 

「分かったわ」

 

リアスの承諾の後、朱乃は印を結んだ両手をそのまま天に掲げた。

 

「はあっ!」

 

異変が起きた。無数の小さな魔方陣らしきものが周囲を覆ったのだ。

 

「結界だと!?」

 

「これって、かなりやばくねぇ?」

 

閉じ込められた堕天使達が動揺の反応を示した。

 

「ウフフ、この檻からは逃げられませんわ」

 

チロリと指先を舐める朱乃の表情は嗜虐的な笑みで満ちていた。

 

「貴様ら最初から……!」

 

カラワーナが吐き捨てる様に呟く中、八雲は右腕を突き出しながら言い放つ。

 

「大掛かりな掃除に近所迷惑はダメだろ?」

 

「ウチらはゴミかい!」

 

反射的にミッテルトが突っ込むと同時に、八雲はシキガミを呼び出した。

 

「シキガミ、降神!」

 

『窓』から現れたのは、クラゲに似た外見を持った女性シキガミ。クルクルと錫杖を回しては空飛ぶ箒の様に腰掛け、淑やか名乗った。

 

甘露(かんろ)のクラダユウ、見参!」

 

「召喚獣だと!?」

 

驚愕する堕天使達。

 

「頼むぞ、クラダユウ」

 

「お任せくださいませ。――堕天使の方々。そなた達の命運も此処で尽きまする!」

 

その言葉と共に、クラダユウは『陰陽錫杖・祓々(はらはら)』の先を堕天使達へと向けた。

 

「ふん、せいぜい余裕ぶっているがいい」

 

「儀式が終われば貴様達ですらかなう存在ではなくなるのだ」

 

「儀式?」

 

余裕の感情が含まれた言葉にリアスは疑問の声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

祭壇の下にあった地下への階段を下りる一誠達。

 

階段を駆け下りると、目の前に大きな扉が現れた。

 

「あれか」

 

「恐らく、奥には堕天使とはぐれエクソシストの大群が存在すると思う。覚悟はいい?」

 

祐斗の言葉に一誠と小猫は無言で頷き、気を引き締め直しては扉を開こうとした。

 

「!?」

 

だが、扉はひとりでに開きだし、重い音を立てながら儀式場の内部が見えてくる。

 

「いらっしゃい。悪魔の皆さん」

 

部屋の奥からレイナーレが声を掛けてきた。

 

周りには部屋中にひしめき合う黒装束の神父軍団。

 

そして、最奥部には十字架に張り付けられたアーシアの姿を目にして、一誠が叫んだ。

 

「アーシアァァ!」

 

一誠の声に気付き、アーシアが顔を向ける。

 

「……イッセーさん?」

 

「ああ、助けに来たぞ!」

 

一誠が微笑みをアーシアに向けると、アーシアは涙を流した。

 

「イッセーさん……」

 

「感動の対面だけど、遅かったわね。もう儀式は終わるところよ」

 

その直後、アーシアの体が光りだした。

 

「……あぁあ、いやぁぁぁぁぁっ!」

 

アーシアが苦しそうに絶叫を放った。

 

「アーシアに、何をするつもりだ!?」

 

駆け寄ろうとするが、一誠を神父達が囲もうとしていた。

 

「邪魔はさせん!」

 

「悪魔め! 滅してくれるわ!」

 

しかし、一誠達は神父達の猛攻に対抗する。

 

「どきやがれ!」

 

「……邪魔」

 

「最初から最大でいかせてもらうよ。僕、神父が嫌いだからさ」

 

全面戦争勃発。だが――

 

「いやぁぁぁぁぁ……」

 

そうこうしているうちに、アーシアの体から大きな光が飛び出してはレイナーレがその光を掴んだ。

 

「『聖母の微笑』。ついに、私の手に……!」

 

レイナーレは狂気に染まった表情で光で包まれたアーシアの神器……『聖母の微笑』を抱きしめると、途端に眩い光が儀式場を包み込んだ。

 

そして光が止んだ時、全身から淡い緑色の光を放つレイナーレがそこにいた。

 

「遂に手に入れた! これこそ、私が長年欲していた力! これさえあれば、私は愛を頂けるわ! 至高の力! これで、これで私は至高の堕天使となれる! 私をバカにしてきた者達を見返す事が出来るわ!」

 

「ざけんな!」

 

高笑いをするレイナーレに向かって一誠は駆け出した。

 

神父達が立ちはだかるが、祐斗と小猫がフォローで神父達を吹っ飛ばす。

 

祐斗の闇の剣が光を喰らい、小猫の怪力が打倒する熟練のコンビネーションが、一誠の目の前に奥へと続く一本道を作り出した。

 

「サンキュー! 2人共!」

 

それを見た一誠は一気に走り出す。

 

「アーシア!」

 

たどり着いた一誠の目の前では、磔にされたアーシアがぐったりしている。

 

「ここまでたどり着いたご褒美よ」

 

レイナーレが指を鳴らすと、アーシアを捕えていた鎖が解かれ、一誠は拘束から解放されたアーシアを優しく受け止めた。

 

「……イッセー、さん……」

 

「アーシア、迎えに来たよ」

 

「……………はい」

 

返事をするアーシアの声はあまりに小さく、瞳には生気を感じさせなく、今にも消えてしまいそうな程に弱々しかった。

 

「待ってろ! 此処を脱出したら病院に――」

 

「無駄よ」

 

刹那、一誠の言葉をレイナーレは否定する。

 

「その子、死ぬわよ。神器を抜かれた者は死ぬしかないわ」

 

「なっ!? ふざけんな! この子の神器を返せ!」

 

「馬鹿言わないで。返す訳ないじゃない。『聖母の微笑(これ)』を手に入れる為に、私は上を騙してまでこの計画を進めたのよ? あなた達も殺して証拠は残さないわ」

 

一誠が怒鳴るが、レイナーレはただ笑うだけ。

 

そして、一誠は俯きながら呟く。

 

「……初めての、彼女だったんだ」

 

「えぇ、見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったわ」

 

「……大事にしようと、思ってたんだ」

 

「うふふ。私が困った顔をすれば即座にフォローしてくれた。でもあれ、全部私が仕組んでたのよ。だって、慌てふためくあなたの顔が可笑しいんですもの」

 

「……俺、夕麻ちゃんが本当に好きで、マジで念入りにプラン考えたよ。絶対いいデートにしようと思ってさ」

 

涙を流す一誠だが、その一言を聞いてレイナーレが高笑いをする。

 

「アハハハ! そうね! とても王道なデートだったわ! おかげでとってもつまらなかったわ!」

 

「……夕麻ちゃん」

 

「夕麻……うふふ。あなたを夕暮れに殺そうと思っていたから、その名前にしたの。素敵でしょう? なのに死にもしないですぐこんな金髪の彼女作っちゃって、ひどいわイッセーくん……。――またあのクソ面白くもないデートに誘ったのかしらぁ? ああ、でも田舎育ちの小娘には新鮮だったかもね。こんなに楽しかったのは生まれて初めてですぅ、とかなんとか言ったんじゃない? アハハハハ!」

 

その言葉で一誠の怒りは限界を超え、憎悪を増した瞳で睨み付ける。

 

「レイナーレェェェェェェェェェェッ!!」

 

「アハハハハ! 腐ったクソガキが私の名前を気安く呼ぶんじゃないわよ!」

 

嘲笑するレイナーレ。

 

目の前の堕天使が本当の悪魔ではないかと思う程の憎悪が一誠の中で生まれ、流す涙には様々な負の感情が入り乱れた。

 

「兵藤くん! 此処でその子を庇いながらでは形勢が不利だ! 僕達が道を開けるから、さあ、早く!」

 

一誠はレイナーレをひと睨みすると、アーシアを抱えてその場から駆け出した。

 

「小猫ちゃん、兵藤くんの逃げ道を作るぞ!」

 

「……了解」

 

祐斗と小猫の2人が一誠の邪魔をしそうな神父を薙ぎ倒していき、そのおかげで一誠は無事に儀式場の入り口にたどり着くことが出来た。

 

「木場! 小猫ちゃん!」

 

「先に行くんだ! ここは僕達で受け止める!」

 

「でも!」

 

振り返ると未だに神父たちと奮闘する2人の先輩悪魔の姿。

 

「いいから行くんだ!」

 

「……早く逃げて」

 

その言葉に一誠は言った。

 

「木場! 小猫ちゃん! 帰ったら絶対に、俺の事はイッセーって呼べよ! 絶対だぞ! 俺達、仲間だからな!」

 

それだけ告げると2人が微笑んだ気がした。

 

一誠はその場を後にして、そのまま一気に地下の廊下を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

階段を上がりきり、一誠はアーシアを抱えたまま聖堂へと出てきた。

 

こうしている今もアーシアの様子はおかしい。顔を真っ青にしており、一誠は近くの長椅子にアーシアを寝かせた。

 

「アーシア、しっかりしろ! ここを出れば、もうすぐアーシアは自由なんだ! 俺と何時でも遊べる様になれるんだぞ!」

 

一誠の言葉にアーシアは小さく微笑み、一誠の手を取った。しかしその手から生気は感じられず、体温も失われつつあった。

 

「……私、少しの間だけでも……お友達が出来て……幸せでした……。もし、生まれ変わったら、また……友達に、なって、くれま、すか……?」

 

「な、何を言ってんだ! そんな事、言うなよ! これから楽しいところに連れてくぞ! アーシアが嫌だって言っても連れてってやるさ!」

 

笑いながら話し掛けている筈なのに、涙が止まらない。

 

もうじきアーシアが死んでしまうと理解しているが、心がその事実を否定する。

 

「俺ら、ダチじゃねぇか! ずっとダチだ! ああ、そうさ! 松田や元浜にも紹介するよ! あいつら、ちょっとスケベだけど、すっげぇいい奴らなんだぜ? 絶対アーシアと仲良くなってくれる! みんなでワイワイ騒ぐんだ! バカみたいにさ!」

 

「……この国で、生まれて……イッセーさんと同、じ、学校に行けたら……」

 

「行こうぜ、いや行くんだよ!」

 

アーシアの手が一誠の頬を撫でる。

 

「……私の為に、泣いて、くれる……私、もう、な、にも……」

 

頬を触れている手が、静かにゆっくりと落ちていく。

 

「……ありがとう……」

 

微笑みながら逝ってしまった。

 

それが、アーシアの最後の言葉だった。

 

「アー、シア……」

 

力が抜け、一誠はその場で呆然とアーシアの死に顔を眺めていた。

 

「何で、だよ……」

 

一誠の中に様々な『何で』が溢れだす。

 

何で、こんないい子が死なないといけない?

 

何で、そんな子と今まで誰も友達になってあげなかった?

 

何で、今まで俺がこの子の近くにいなかった?

 

『何で』に埋め尽くされた一誠は、天井に向かって叫ぶ。

 

「なぁ神様、いるんだろ! これを見てるんだろ!? この子を連れて行かないでくれよ! 頼む! 頼みます! この子は何もしていないんだ! ただ、友達が欲しかっただけなんだ! ずっと俺が友達でいます! だから頼むよ! この子にもっと笑顔になって欲しいんだ! なぁ、頼むよ! 神様!」

 

無我夢中で天へ訴え掛けるが、応じてくれる者はいなかった

 

「俺が悪魔だからダメなんスか!? この子の友達の俺が、悪魔だからナシなんスか!?」

 

一誠は悔しさに歯噛みした。だが後悔したところで、アーシアは戻らない。

 

「悪魔が教会で懺悔? それともお願いでもしてたのかしら?」

 

その言葉に振り返ると、一誠を嘲笑するレイナーレの姿があった。

 

「見てご覧なさい。ここへ来る途中、下で『騎士』の子にやられてしまった傷……」

 

レイナーレは自身の傷口に手を当てた。その指には指輪が嵌められており、指輪から発する淡い緑色の光が傷を癒していく。

 

「素敵でしょう? どんなに傷ついても治ってしまう。神の加護を失った私たち堕天使にとって、あの子の神器は素晴らしい贈り物だったわ」

 

レイナーレは嬉しそうに嘲笑う。

 

「堕天使を治療出来る堕天使……これで私の堕天使としての地位は盤石。偉大なるアザゼル様、シェムハザ様の力となれるの! こんなに素敵な事はないわ! ああ、アザゼルさま……。私の力を、私の力をあなた様だけの為に……」

 

「知るかよ」

 

一誠はレイナーレを激しく睨み付けながら、そう吐き捨てた。

 

「そんな事、知らねぇよ。堕天使とか、神様とか、悪魔とか……。そんなもの、この子には関係なかったんだ」

 

「いえ、関係あったわ。神器を宿した選ばれた者の宿命よ」

 

「何が宿命だ! それでも、静かに暮らす事だって出来たはずだ!」

 

「無理ね。どんなに素晴らしい力でも異質なものは恐れられ、爪弾きにされるわ。それが人間という生き物だもの。こんな素敵な能力なのにね」

 

「……なら、俺が。俺が、アーシアの友達として守った!」

 

「でも死んじゃったじゃない。その子死んでるのよ? 守るとか守らないとかじゃないの。あなたは守れなかったの! あの時も! そして今も!」

 

悔しさを噛みしめると同時に、一誠は拳を握りしめる。

 

「……知ってるよ。だから、許せないんだ。お前も……………そして俺も! 全部許せねぇんだ!」

 

――想いなさい。神器は持ち主の想いの力で動き出し、その力も決定するわ。

 

リアスの言葉が脳裏を過る。だから一誠は、アーシアを強く想う。

 

「返せよ」

 

――あなたが悪魔でも、想いの力は消えない。その力が強ければ強いほど、神器は必ずその想いに応えるわ。

 

「アーシアを返せよォォォォォォっ!!」

 

【Dragon booster!!】

 

一誠の叫びに応える様に左腕の神器が動き出し、宝玉から眩い光が放たれた。

 

籠手に何かの紋様が浮かぶと同時に、全身に力が駆け巡る。

 

そのまま嘲笑するレイナーレ向かって一気に駆け出し、拳を突き出す。しかし、レイナーレは繰り出された拳を華麗に避けた。

 

「言ったでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って!」

 

【Boost!!】

 

レイナーレの言葉を無視する一誠に、2度目の変化が訪れた。

 

神器の甲の宝玉に浮かぶ文字が『Ⅰ』から『Ⅱ』へと変わり、同時に全身に流れ込んでくる力が増していく。

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

「へえ! 少し力が増したの? でもまだね!」

 

溢れる力を拳に乗せて一気に詰め寄るが、この攻撃も同じ様に避けられてしまい、次の瞬間にはレイナーレの両手に光の槍が形成された。

 

「力を込めてあげたわ! 食らいなさい!」

 

そして、投擲された槍が一誠の両足を貫いた。

 

「ぐぁあああああぁぁあぁっ!」

 

全身に響く激痛に思わず声が漏れた。

 

「光は悪魔にとって猛毒……触れれば忽ち身を焦がす。その激痛は悪魔にとって最も耐え難いのよ? あなたのような下級悪魔では――」

 

「それが、どうした……」

 

嘲笑するレイナーレの言葉を遮った一誠は、両足に突き刺さる光の槍を掴む。

 

手と足から肉を焦がす臭いが鼻につく。

 

「このくらい! アーシアが苦しんだものに比べたら何だってんだよ!!」

 

全身に走る激痛にいつ意識が飛んでもおかしくない。しかし一誠は握る手に更に力を込めては一気に槍を引き抜き、抜いた途端に両足の傷口から鮮血が溢れ出た。

 

【Boost!!】

 

槍に貫かれ、攻撃が止まってしまった今でも左腕の籠手は音声を発する。

 

しかし、ここで限界が来たのか体から力が抜け、その場でしりもちをついてしまう。

 

「……大したものね。下級悪魔の分際で堕天使に作った光の槍を抜いてしまうなんて。そこまで頑張ったのは褒めてあげる」

 

レイナーレはヤレヤレとした口調で言う。

 

「でもそれが限界ね。下級悪魔程度ならもうとっくに死んでもおかしくないのに。でも、今度こそこれで本当のお別れよ」

 

レイナーレは片手を軽く上げ光の槍を作り出し、夕麻の笑顔で言った。

 

「バイバイ、イッセ――」

 

ドガァァァン!

 

「ぎゃふんっ!?」

 

刹那、聖堂内に何かが崩れる音が響いた瞬間、レイナーレの頭上に何かが落下し、何とも間抜けな言葉と共に光の槍が消えた。

 

レイナーレの周りに立ち上る砂埃。その中から何者かが跳び出し、一誠を庇う様に現れた。

 

「……何か踏んだけど、問題無かったか……」

 

そして突然の来訪者の背中を、虚ろな瞳で見つめた一誠はその人物の名前を呟いた。

 

「……吉、川……?」

 

一誠の声に八雲は静かに返す。静かな怒りを内に秘めながら……。

 

「加勢に来たぞ、兵藤」


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