ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~ 作:仮面肆
それは、八雲がリアス達に昨夜の事を説明している少し前まで遡る。
「はぁ……」
昼時の公園。一誠はベンチで項垂れていた。
先日のはぐれエクソシストであるフリードにやられた銃傷が思いのほかダメージが残っており、悪魔の仕事も出来ないだろうとリアスから休む様に言い渡されてしまったのだ。
こうしている今も、一誠はアーシアの事を考えていた。
どうやってアーシアを助けようか……。そもそも今の環境をアーシアが憂いているのか……。様々な事を考えているのだが、一誠の心中を支配する思いがあった。
「……………強くなりてぇな」
その呟きが、短い悪魔人生で一誠が感じた思い。
強くならないと、自分の生きる道を進めない。仲間に迷惑を掛かる。女の子を守ってやれない。
そして次第に、一誠は前向きに考えていった。
「……よっしゃ! 傷が癒えたら、吉川に筋トレを教えてもらおう! んで、部長と朱乃さんに魔力の使い方を教えてもらおう!」
取り敢えずの目標が出来た。あのフリードよりも強く、最低でも堕天使と出会って逃げられる位は強くなるべきだと……。
ぐーっ。
「あ……」
すると、一誠の腹が鳴った。朝から色々考えたせいで朝から何も食べていなかったからだ。
目的も新たにし、何処かで昼飯を買って帰ろうと重い腰をベンチからあげた……その時だった。
「……イッセーさん?」
聞き覚えのある声と共に、一誠の視界に金色が映り込んだ。
ハッと思い、一誠は顔を向けると、そこには見知った金髪の少女が立っており、お互いがこの出会いに驚いていた。
「……アーシア?」
◆
「姫君、こうやって包み神を少しだけずらして一気にかぶりつくのですよ」
一誠はアーシアと共に近くのハンバーガーショップで昼食を取る事にし、食べ方の分からないアーシアの為に、手本としてハンバーガーにかぶりついた。
「そ、そんな食べ方があるなんて! す、凄いです!」
何とも新鮮な反応が返ってきた。すぐさまアーシアも一誠に習い、ハンバーガーに小さくかぶりつく。
「お、美味しいです! ハンバーガーって美味しいんですね!」
目を輝かせながら感想を口にした。
「ハンバーガー食べた事ないの?」
「はい。テレビではよく見ていたのですが、実際食べたのは初めてです……」
そう言い、今度はポテトを口に運ぶアーシア。
「感動です! 美味しいです!」
「……………」
美味しいに食べるアーシアを眺めながら、一誠は考えていた。
なぜ彼女はあの公園にいたんだ、と……。
休み時間だから出てきたと言っていたが、再会した時はどう見ても何かに怯えていた様に見え、一誠を見掛けた瞬間、気が抜けた様に安心していた。
話を聞きたいが、アーシア自身から話してくれた方がいいかもしれない。だがリアス達の事もあり、なかなか気軽に訊けない。
「どうかしましたか?」
しかし、嬉しそうにハンバーガーを食べるアーシアの姿を見て悩んでいても仕方がないと思い、一誠は1つの結論を出した。
「アーシア」
「は、はい」
「今日は遊ぶぞ」
「え?」
「次はゲーセンだ」
◆
それから一誠はアーシアを連れてゲームセンターで思いっ切り遊んだ。
「峠最速伝説イッセー!」
「速いです! 速いです、イッセーさん!」
レーシングゲームで新記録をたたき出したり……。
『はい、チーズ!』
一緒にプリクラを撮ったり……。
「よっしゃぁ!」
クレーンゲームで財布の大半を生贄に人形を獲得した等々、楽しい一時を送った。
「ほら、アーシア」
そして手に入れた人形をアーシアにプレゼントすると、心底嬉しそうに人形を胸に抱いた。
「ありがとうございます、イッセーさん。この人形、大事にしますね」
「おいおい。そんな人形ぐらいだったら、また取ってあげるよ」
一誠の言葉に、アーシアは首を横に振る。
「いえ、今日いただいたこのラッチューくんは今日の出会いが生んだ素敵なものです。この出会いは今日だけのものですから、一生大事にしたいです」
何とも恥ずかしい台詞だが、アーシアが言うと様になる……と、一誠は思う中、アーシアに話し掛ける。
「よし! まだまだこれからだ! アーシア、今日は遊び尽くすぞ! ついて来い!」
「は、はい!」
そう言い、一誠はアーシアの手を引いてゲームセンターも奥へと向かった。
◆
「あー、遊びすぎたな」
「は、はい……少し疲れました……」
茜の空の下、2人は苦笑しながら歩道を歩いていた。
ゲームセンターやいろんな店に赴くと、その度にアーシアの反応が新鮮で、一誠は横で見ていても飽きなかった。まさか夕麻とのデートで役立てようと蓄えた知識が存分に発揮出来たとは人生分からないな……と、一誠は思った。
「痛たた……」
すると、一誠は不意に訪れた足の違和感に躓きそうになると同時に、痛みも走った。どうやら昨日受けた銃創がまだ完治には至っていない様だ。
「……イッセーさん、怪我を? もしかして、先日の……」
アーシアの表情が曇る。まずい事をしたと一誠が思う中、アーシアはその場で身を屈めて一誠の患部を調べると掌を当てた。
「ちょっと失礼します」
そして、患部に温かく優しい光が照らされる。
「これでどうでしょうか?」
アーシアに言われ、一誠が軽く足を動かしてみた。驚く事に、既に痛みは無かった。
「すげえよ、アーシア。全然痛くない!」
大袈裟に足を動かす一誠の姿を見て、アーシアも嬉しそうに微笑んだ。
「治療の力、凄い力だよ。……これって、神器だよね?」
「はい。治癒の力を持った神器です」
「実は、俺も神器を持ってるんだ。今のところは、大して役に立ってないけど……」
一誠の告白にアーシアは目を丸くする。
「イッセーさんも持ってるんですか? 全然、気づきませんでした」
「まだ効果がよく分からないんだ。それに比べたら、アーシアの力は凄いよ。これって、人や動物、俺みたいな悪魔でも治せるんだね」
「……………」
何気に呟くが、アーシアは複雑そうな表情をして、少しだけ俯いた。
そして、彼女の頬に一筋の涙が流れる。その量は次第に増していき、とうとうその場で咽び泣きだしてしまった。
一誠はどうしたらいいか分からなかったが、取り敢えずアーシアと一緒に街路樹に設けられたベンチに腰を下ろした。
そこでアーシアの口から語られたのは『聖女』と祭られた少女の末路だった。
◇
欧州のとある地方で生まれた少女は生まれてすぐに両親に捨てられてしまった。
教会兼孤児院でシスターと他の孤児達と共に育てられ、少女が8つの時に偶然、負傷した子犬を不思議な力で治療した事がカトリック教会の関係者に知られた。
それから少女の人生は変わりだし、多くの人から『聖女』として崇められた。
待遇に不満はなく、教会の関係者もよくしてくれる。それに少女は怪我した人を治す事に嬉しさを感じ、神様が授けてくれた力を少女は感謝した。
しかし、同時に寂しさを感じていた。この頃から少女には友達と呼べる者が1人もいなかったからだ。
理解していた。彼等が裏で少女の力を異質なモノを見る様な目で見ている事……。人ではなく『人を治療出来る生物』の様な感じで……。
そしてある日、少女に転機が訪れた。
たまたま少女は、近くに現れた悪魔を治療してしまったのだ。
それは少女が持つ優しさ故の行動だったが、その行動が少女の人生を反転させてしまった。
その光景を偶然見ていた教会関係者の1人が内部に報告し、司祭達はその事実に驚愕した。
「悪魔を治療出来る力だと!?」
「そんな馬鹿な事があるはずがない!」
治療の力を持つ者は世界各地にいた。治療の力は悪魔と堕天使には効果が無いと、教会内部では常識であり認知されていた。
しかし事例は過去にもあったようで、それは『魔女』の力として恐れられていた。
そして司祭達は少女を異端視する様になった。
「悪魔を癒す魔女め!」
それを切欠に少女は『聖女』から『魔女』と罵られ、呆気なく教会から捨てられた。
行き場を無くした少女が辿り着いたのは、はぐれ悪魔祓いの組織。つまり、堕天使の加護を受けなければならなくなった。
間違っても少女は1度も神への祈りも、感謝も忘れた事などない。
なのに、少女は捨てられた。神は助けてはくれなかった。
しかし1番ショックだったのは、教会で少女を庇ってくれる人が誰もいなかった事……。
少女……アーシアの味方は誰もいなかった。
◇
「……きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私、抜けているところがありますから……」
「……………」
語り終えたアーシアは笑いながら涙を拭う中、想像を絶するアーシアの過去を知った一誠は言葉を失っていた。
「これも主の試練なんです。私が全然ダメなシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。今は我慢の時なんです」
笑いながら、自分に言い聞かせるようにアーシアは言う。
「お友達も何時かいっぱい出来ると思ってますよ。――イッセーさん。私、夢があるんです。お友達とお買い物したり、おしゃべりしたり……お友達と、いっぱい、いっぱい……」
嗚咽を漏らすアーシアの目には涙で溢れていた。
そんな彼女の姿が見ていられなくなり、一誠はアーシアの眼を真っ直ぐ見つめながら言った。
「アーシア、俺が友達になってやる。いや……俺達、もう友達だ!」
「え?」
一誠の言葉にアーシアはキョトンとなる。
「今日いっぱい話して、いっぱい遊んだ! これからも買い物だって何だって付き合ってやるさ! だから!」
一誠は自分の気持ちをアーシアにぶつける。
すると、一誠の気持ちが届いたのかアーシアは口元を手で押さえながら再び涙を溢れ出させていた。でも、今の涙は悲しそうなものではないと一誠には分かった。
「……イッセーさん。私、世間知らずです」
「これから俺と一緒に町へ繰り出せばいい! いろんなものを見て回れば、んなもん問題ないさ」
「……日本語も喋れません。文化も分かりませんよ?」
「俺が教えてやるよ! ことわざまで話せるようにしてやらぁ! 俺に任せろ! なんなら日本の文化遺産でも見て回ろうぜ!」
「……友達と何を喋っていいかも分かりません」
アーシアの手を一誠は強く握る。
「今日1日、普通に話せたじゃないか。それでいいんだよ。俺達はもう友達として話していたんだ」
「……私と、友達になってくれるんですか?」
「ああ。これからもよろしくな、アーシア」
アーシアの辛い過去の出来事。一誠にはどれ程辛かったのかは分からないかもしれない。
しかし、これからアーシアを楽しませる自信はあった。相容れない関係だが、今の一誠にはどうでもいい。
(アーシアが笑ってくれるんなら、それでいい……。俺がアーシアを守る!)
そして、一誠はアーシアの手を握りながら、心の中で決意した……………その時だった。
「無理よ」
一誠の気持ちを否定するかの様に、第3者の声が耳に入った。
声がした方に顔を向けた時、一誠は絶句した。
「ゆ、夕麻ちゃん……?」
そこにいたのは一誠を1度殺した張本人……天野夕麻だった。
「へぇ、生きてたの。しかも悪魔? 嘘、最悪じゃないの」
一誠の驚いた声音に、夕麻はクスクスとおかしそうに笑いを漏らすと同時に、大人びた妖艶さを含む声音に一誠は違和感を感じた。
「……レイナーレ様……」
アーシアが怯えた顔で堕天使の名前を呟くと、夕麻……もとい、レイナーレは漆黒の翼を広げた。
「アーシア、逃げても無駄なのよ」
「嫌です。人を殺めるような所には戻れません」
レイナーレの言葉に明らかに嫌悪の反応を見せるアーシア。やはり、アーシアははぐれ悪魔祓いの組織から逃げて来たようだ。
「ごめんなさい、イッセーさん。私、本当はあの教会から逃げ出して――」
「分かってるよ」
「え?」
アーシアの言葉を遮ると同時に、一誠は前に出る。
「ア―シアがこんな、ろくでもない連中と一緒な訳がないもんな!」
背後に隠れ恐怖するアーシアを安心させる様に、一誠は強気の態度で接する。
「悪いけどその子、アーシアは私達の所有物なの。返してもらえるかしら?」
「ふざけんな! どう見ても嫌がってるだろ! あんたこそ、この子を連れて帰って何をたくらんでんだ? レイナーレさんよ」
「汚らしい下級悪魔が気軽に私へ話し掛けないでちょうだいな」
2人に近付いてくるレイナーレは、心底汚らしいものを見るかの様な侮蔑的な目で一誠を睨む。
「邪魔をするなら、今度こそ完全に消滅させるわよ?」
レイナーレが一度、一誠を殺した光の槍を形成する。
「セ、セイクリット・ギア!」
負けじと一誠が天に向かって叫ぶと、左腕を覆う光が赤い籠手へと変貌する。
「よし、成功!」
陰ながら練習した成果か、初めて神器を出す為に行ったポーズを取らなくても発動に成功する一誠。
そして一誠の神器を見たレイナーレは一瞬虚を衝かれるが、すぐに哄笑をあげた。
「何かと思えば、ただの『
心底おかしそうにレイナーレが嘲笑う。
「トゥワイス……?」
「別名、龍の手。力を一定時間倍加する能力しかない下級悪魔にはお似合いの有り触れた神器よ。上からあなたの持つ神器が危険だからと言われて、あんなつまらないマネまでしたのに……。――好きです。付き合ってください……………なんてね。あの時のあなたの鼻の伸ばしようと言ったら……アハハハハ!」
「うるせえ!」
「そんなものでは私にかないわしないわ」
レイナーレのおちょくるような態度に声を荒げる一誠に、今度は見下すような視線を向ける。
「素直にアーシアを渡して立ち去りなさい」
「断る! 友達くらい守れなくてどうするんだ! 動け、神器! 力を倍にしてくれんだろ!? 動いてみせろ!」
【Boost!!】
一誠の叫びに応えるように、神器の甲部分にある宝玉が光りだして音声が発せられた。
「力が、流れ込んで……」
瞬間、一誠は体に力が流れ込んでくるのが分かった時だった。
ズンッ!
鈍い音と共に、あの時と同じ様にレイナーレの光の槍が一誠の腹部を貫いた。
「イッセーさん、イッセーさん!」
衝撃により吐血しその場で倒れ込む一誠にアーシアが駆け寄る。
「わかった? 力が倍になっても……
「ク……クッソ……」
皮肉をぶつけられ、悔しがる一誠は激痛と死を覚悟したが、体に痛みが走る事はなかった。
「アーシア?」
見れば、一誠の体は緑色の光に包み込まれており、アーシアが神器の力で治療してくれているのだ。
「大丈夫ですか、イッセーさん?」
「あ、ああ……。――すげぇ、光の痛みが消えていく……」
アーシアの温かさがだんだんと腹部の傷口を塞いでいき、やがて一誠が感じていた痛みは一切感じなくなった。
「アーシア。大人しく私と共に戻りなさい。あなたの『
黙ってその光景を見つめていたレイナーレが冷酷に提示してくる。
「やはり、あなた方は私の力が必要なだけだったのですね?」
「言うことを聞けば、その悪魔の命だけは取らないであげるわ」
「ふ、ふざけんな! お、お前なんか――」
「分かりました」
一誠の言葉を遮ってアーシアはレイナーレの提示を受け入れた。
「アーシア!」
「イッセーさん。今日は1日ありがとうございました。本当に楽しかったです」
満面の笑みを浮かべたアーシアがいやらしい笑みを浮かべるレイナーレのもとに歩いていく。
「いい子ね、アーシア。それでいいのよ。問題ないわ。今日の儀式であなたの苦悩は消え去るのだから」
不吉な単語を聞き、一誠は必死に叫ぶ。
「アーシア! 待てよ! 俺達、友達だろう!」
「はい。こんな私と友達になってくれて、本当にありがとうございます」
そして、アーシアは一誠に振り返った。
「さようなら」
別れの言葉。
涙を流しながら笑みを浮かべるアーシアに、一誠は一瞬見入ってしまった。
すると、レイナーレの黒い翼がアーシアを覆った。
「この子のおかげで命拾いしたわね、下級悪魔。次に邪魔をしたら今度こそ本当に殺すわ。じゃあね、イッセーくん」
それだけ言い残し、レイナーレはそのまま空の彼方へと消えて行った。
後に残されたのは、黒い羽と地面に転がるラッチューくんのぬいぐるみ。
そして地面に膝を付き、悔し涙を流す一誠だけだった。
「ちくしょう……………何が、守るだよ……」
今の一誠には神器を纏った拳で地面を殴るしか出来ず、空を見上げて叫んだ。
「アーシアァァァァァァッッ!」
自分の非力さを呪いながら……。
「兵藤」
「!?」
刹那、声を掛けられて一誠は振り返る。
「……………」
そこにいたのは、拳をキツく握る八雲だった。
「吉、川……。どうして……?」
「下校中、人払いの符力を感じたとコゲンタが教えてくれた。それに、今飛び去ったのは堕天使だよな。何があったんだ?」
その言葉に、一誠は先程の詳細を八雲に話した。
話を聞き終えると、八雲は一誠を立ち上がらせて歩み始める。
「……行くぞ、兵藤」
「行くって……何処にだよ?」
「決まってんだろ。リアス部長に報告だよ」
そして、2人は学園へと向かった。
◆
パン!
部室に乾いた音が響いた。
音がした方を向くと、険しい顔をしたリアスと頬が赤く腫れた一誠が向かい合っていた。
あの後、八雲と一誠は部室に赴いて事の詳細を報告し、その上で一誠は教会に行く事を提案したのだ。
しかし、リアスが一誠の提案を受理する事はなく、勿論その答えに納得出来なかった一誠が詰め寄り、その結果に頬を叩かれたのだ。
「何度言えば分かるの? ダメなものはダメよ。あのシスターの救出は認められないわ」
しかし、それでも今の一誠には譲れないものがある。
「なら、俺1人でも行きます。やっぱり儀式ってのが気になります。堕天使が裏で何かするに決まってます。アーシアの身に危険が及ばない保証なんて何処にもありませんから」
「あなたは本当にバカなの? 行けば確実に殺されるわ。もう生き返る事は出来ないのよ? 出来る訳ないでしょう」
リアスは冷静を装いながら、諭す様に一誠へ言う。
「あなたの行動が私や他の部員にも多大な影響を及ぼすのよ! あなたはグレモリー眷属の悪魔。それを自覚しなさい!」
「では、俺を眷属から外してください。俺個人であの教会へ乗り込みます」
「おだまりなさい!」
しかし、なおも食い下がる一誠にリアスは遂に激昂してしまった。
「そんな事が出来る筈ないでしょう! あなたはどうして分かってくれないの!?」
「俺はアーシアと友達になりました。アーシアは大事な友達です。友達を見捨てられません! それに、アーシアは敵じゃないです!」
「……………」
睨み合う2人。しかしそれは長く続かず、リアスは一誠に言う。
「イッセー。あなたに幾つか話しておく事があるわ。まず、あなたは『兵士』を弱い駒だと思っているわね? どうなの?」
一誠はリアスの問いを肯定する様に静かに頷く。
「それは大きな間違いよ。前に『悪魔の駒』は、実際のチェスの駒と同様の特徴を持つと言った筈よ」
一誠は以前、はぐれ悪魔討伐時にリアスの言っていた事を思い出す。
「実際の兵士の特徴って……」
「『
「俺が、他の皆の力を持てるって事ですか?」
「主である私がその場所を敵陣地と認めればね。そう……例えば、教会の様にね」
一誠は自分の中で希望が生まれるのを感じ、僅かだが表情に生気が戻った。
「それともう1つ。神器について。イッセー、神器を使う際、これだけは覚えておいて」
リアスが一誠の頬を撫でる。
「想いなさい。
「想いの……力……」
すると、そこへそそくさと現れた朱乃がリアスに近付き、耳打ちする。
「……………そう」
耳打ちをする朱乃の表情は険しく、その報告を耳にしたリアスの顔も一層険しくなった。
そしてリアスはちらりと一誠を見た後、今度は部員を見渡すように言った。
「大事な用が出来たわ。私と朱乃は少し外へ出るわね。八雲、あなたも付き合いなさい」
「え、俺もですか?」
突然の指名に八雲が疑問の声を上げると同時に、この状況を放っておく事に抵抗を持った。
しかし、八雲が何時もの笑みを浮かべる裕斗と無表情を浮かべる小猫の顔を見つめる。そして先程のリアスと一誠の会話に何かを察したのか、視線を一瞬だが一誠に向けた後、2人に無言で頷いた。
「分かりました。じゃあ、また後で……」
八雲の言葉に、リアスと朱乃は魔方陣に足を向けた。
「部長! まだ話は終わって――」
「最後にイッセー。これだけは絶対に忘れないこと」
一誠の言葉を遮り、リアスは語り続ける。
「『兵士』でも『王』を取れるわ。チェスの基本よ。それは『悪魔の駒』でも変わらない事実……。あなたは、強くなれるわ」
それだけ言い残し、リアスは朱乃と共に何処かへ向かう様に魔方陣が消えた。
部室に残ったのは一誠と八雲、祐斗、小猫の4人だけとなった。
そして一誠は大きく息を吐いた後、その場から去ろうと足を動かした……その時だった。
「行くのか?」
部室を出ようとする一誠を、八雲が呼び止めた。
「ああ、行く。行かないといけない。アーシアは友達だからな。俺が助けなくちゃならないんだ」
「……殺されるよ。いくら神器を持っていても、『昇格』を使っても、はぐれエクソシストの集団と堕天使を1人で相手には出来ない」
祐斗の正論をぶつけられても、一誠の意志が揺らぐ事はなかった。
「それでも行く。たとえ死んでもアーシアだけは逃がす」
「いい覚悟……と言いたいけど、やっぱり無謀だ」
「うるせえ! だったら、どうすりゃいいってんだ!」
一誠が怒鳴りながら振り向くと、目の前には剣を携えた祐斗の姿があった。
「僕も行く」
「なっ……」
予想外の一言に言葉を失う一誠だが、祐斗は話し続ける。
「部長も『昇格』についておっしゃっていただろう? これって、遠回しに教会を敵陣地として認めたんだよ」
「あっ」
一誠はやっと気付く。『昇格』の発現条件と、リアスの懐の深さに……。
「勿論、それは僕にフォローをしろって指示でもあるからね。じゃなければ、部長はキミを閉じ込めてでも止めていた筈だからね」
すると、苦笑いを浮かべる祐斗の横で八雲が1歩前に出ては手を差し出した。
「持っていけ」
八雲が一誠の手に渡したのは、1枚の闘神符だった。
「役に立てる筈だ。俺は共に行けないが、俺の分まで殴ってくれ」
「吉川……」
そんな中、小猫も1歩前に出る。
「もしかして、小猫ちゃんも?」
「……2人だけでは不安です」
一誠は心の中でリアスと目の前の3人の優しさに深く感謝した。
「これならいける! んじゃ、3人でいっちょ救出作戦といきますか! 待ってろ、アーシア!」
こうして一誠達3人は教会に向かって動き出す為、部室を出るのだった。
◆
「……行きましたね」
一誠達が部室を出てすぐ八雲は呟くと、床から魔方陣が現れてはリアスと朱乃が八雲の後ろに現れた。
「何時から気付いたの? 私達が魔方陣ジャンプではなく、実際は姿を隠していた事を……」
「兵藤との会話辺りですね。あからさまに教会を敵地にしてましたし、何より仲間を傷付けさせた相手を、リアス部長は許さない」
八雲は振り返ると、リアスに訊いた。
「行くんでしょ。俺達も
その言葉に頷くと、リアスは八雲に訊く。
「これから行く場所は、はぐれ悪魔討伐よりも厳しいわ。あなたを連れて行くのは、出来れば――」
「構いません」
リアスの言葉を遮り、八雲は拳をキツく握りながら話し続ける。
「兵藤の友達なら、俺の友達でもあります。絶対に助けてやりたい。そして――」
八雲は拳と掌を殴る様にぶつけて神器を現すと、決意の炎が宿った瞳を真っ直ぐリアス達に見せた。
「俺の『
八雲は内心激昂していた。3度に渡る一誠の負傷時に八雲はその場におらず、役に立てなくて惨めな思いをしていた。
しかし、この機会に巡り合わせた瞬間、八雲は内心に積もらせた感情が漏れ始めた。
友を救い出せる決意と、敵を倒せる怒りの感情を……。
「分かったわ。あなたの決意も硬い様ね。――朱乃」
「畏まりました」
「八雲。すぐに来なさいよ」
「言われなくても!」
そして、リアスと朱乃は魔方陣ジャンプを行い、それに追う様に八雲も【転】の闘神符でジャンプするのだった。
――この
『とあるシキガミ』が目覚めた事も知らずに……。
あと2、3話で1章を終わらせないと……。