ハイスクールD×D ~神操機〈ドライブ〉を宿す者~   作:仮面肆

10 / 33
第9話:はぐれ悪魔祓い〈エクソシスト〉

「はぁ……」

 

はぐれ悪魔討伐から数日が経過した頃だった。

 

放課後、一誠は部室のソファーに座っては溜め息をついていた。

 

「どうした、兵藤?」

 

「ん? ああ、吉川か……」

 

そんな中、2人っきりの部室できんつばを食べる八雲が声を掛けた。因みに、他のメンバーは諸事情により遅れるそうだ。

 

「何度も溜め息なんかしてお前らしくないぞ。何だ? エロスに飽きたのか?」

 

「馬鹿野郎!! あの至高な物を飽きるなんてあり得ねぇよ!!」

 

「お、おう……」

 

八雲の冗談に大声で否定すると、一誠は気まずそうに頭を掻きながら言った。

 

「……………これでよかったのかと思って、な……」

 

「これでって、現状が楽しくないのか?」

 

八雲の言葉に一誠は顔を横に振る。

 

「楽しい……っちゃ、楽しいけど。美女に囲まれた職場だし、悪魔の割には優しいさ。――でも、俺の悪魔街道って波乱尽くめだろ? 魔力が低いから依頼者の下へジャンプ出来ない前代未聞の最低悪魔。しかも1番下っ端の『兵士』から上を目指さないといけないし、正直……不安だらけだよ」

 

「……………」

 

再び溜め息をつく一誠に、八雲は口を開く。

 

「そんなに悩むなよ。最低からスタートなら、後は上がっていくだけだろ。小さな事からコツコツと努力すれば、自ずとそんな不安は解消すると思うぜ」

 

「そう……か?」

 

「そうだよ」

 

謎の説得力に、次第に一誠は前向きに考え始めた。

 

「……じゃあ、まずは魔方陣ジャンプする事を目標だ! これしかない。うん!」

 

「俺も手伝える事があれば協力するよ。まあ殆どが、筋トレや鍛練だけどな」

 

そう言って、八雲は()()()()()()を取り出すと、食べ掛けのきんつばに闘神符を触れさせると、中心に【巨】と書かれた八卦の陣がきんつばを包み、()()()()()()()()()()()きんつばを切り分けては一誠に差し出した。

 

「間接キスじゃない方だから遠慮なく食え」

 

「おっ、おう……」

 

「……ところで兵藤。このきんつばを見て、どう思う?」

 

「凄く……大きいです……」

 

「そうだろう、そうだろう。最近出来た【巨】の闘神符だ。物でも体でも何でもでかくする事が出来るぞ」

 

「なっ、何だって!? それを使えば、小さい胸に悩んでる女性達に幸せを――」

 

「そういうので俺は使わんぞ!」

 

それから部活終了までの間、八雲は一誠との話が弾むのだった。

 

 

 

 

 

 

「……放課後に吉川と話したものの、出世の道は遠いなぁ……」

 

深夜。そんな事を言いながら、一誠は依頼者の場所へと自転車を飛ばしていた。

 

そして今日こそ契約を取ると意気込んで到着したのは、マンションやアパートではなく普通の一軒家だった。

 

(他の人間に認知されないからって、この手の場合は大丈夫なのか?)

 

依頼者の家族に見つからないのか心配するが、一誠は早速ブザーを押そうとした瞬間、ふと気づいた。

 

「玄関が開いてる……?」

 

普通に考えて、深夜に玄関を開けたまま放置していい訳がない。

 

何か言い知れない不安が一誠を襲う中、本当にこのまま入ってしまっていいのだろうかと思いながらも、気付いたら1歩足を前に踏み出していた。

 

玄関から中を覗き込むが、廊下に灯りはついていない。2階も同様のようだが、唯一1階の奥にある部屋から淡い光を確認出来る。

 

異常な空気を感じながらも、一誠は玄関で脱いだ靴を手に持ち、足音を立てないように廊下を進んでいく。

 

抜き足差し足忍び足。奥の部屋に行き着き、一誠は開いているドアから顔だけを出して中を覗き込むと、灯りの正体は電灯ではなくロウソクのものだと分かった。

 

「……ちわース。グレモリー様の使いの悪魔ですけど……。依頼者の方、いらっしゃいます?」

 

自信のない声を出してみるが返事はなく、仕方ないので一誠は意を決して部屋の中へと入る事にした。

 

ソファーやテレビ、テーブル等が置いてあり、何処にでもあるリビングの風景だ。

 

「……っ!?」

 

しかし、一誠がある箇所に視線を向けた途端、思考が一瞬吹っ飛んだ。

 

壁……。リビングの壁に、男性の死体があったからだ。

 

死体が上下逆さまで壁に貼り付けられ、体中を切り刻まれ、傷口からは贓物らしき物が溢れ、巨大な釘が男性の四股と胴体の中心に打ち付けられて磔にされ、床は既に血溜まりとなっていた。

 

「っ……………ごぽっ!」

 

先日のはぐれ悪魔達に食われた犠牲者の方がまだ幾分かマシだとさえ思ってしまう程に、目の前の死体は無残なもので、とうとう一誠はその場で腹から込み上がってくるものを吐いてしまった。

 

「な、なんだ、これ……」

 

そして、口元を拭いながら一誠は気付いた。遺体が打ち付けられている壁に血文字がある事に……。

 

その言葉の意味は――

 

「『悪いことする人はおしよきよー』って、聖なるお方の言葉を借りたのさ」

 

突然聞こえてきた声に、一誠は振り向いた。

 

現れたのは、おそらく外国人であろう白髪の若い男であり、恰好を見て神父だと一誠は判断した。

 

そして神父は一誠を見るなり、ニンマリとイヤらしい笑みを浮かべた。

 

「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんか!」

 

実に嬉しそうに喋る神父。どうやら一誠の事を悪魔と認知しており、一誠にとって最悪の状況だった。

 

「俺は神父♪ 少年神父~♪ デビルな輩をぶった斬り~、ニヒルな俺が嘲笑う~♪ お前ら、悪魔の首刎ねて~、俺はおまんま貰うのさ~♪」

 

突然、神父は訳の分からない歌を歌いだす。そして満足したのか、神父は名乗る。

 

「俺のお名前はフリード・セルゼン。とあるエクソシストの組織に所属している末端でございますですよ。あ、別に俺が名乗ったからって、お前さんは名乗らなくていいよ。俺の脳容量にお前の名前なんざメモリしたくないから、止めてちょ。大丈夫、すぐに死ねるから。俺がそうしてあげる。最初は痛いかもしれないけど、すぐに泣ける快感に変わるから。一緒に新たな扉を開こうZE!」

 

一誠が出会った事のないタイプの人物……フリード・セルゼン。

 

ペラペラと滅茶苦茶な言動をするフリードに戸惑いつつも、一誠は生唾を飲み込んで物申した。

 

「……おい。お前が、この人を殺したのか?」

 

「YES! 俺が殺っちゃいました。だってー、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだしぃ、殺すしかないっしょ」

 

「な、なんだ、そりゃ!」

 

驚愕する一誠に、フリードは実に楽しそうに語る。

 

「あんれ? 驚いてるの? 逃げないの? おかしいねぇ、変だねぇ。――つーかね、悪魔と契約する時点で人間として最低レベル、クズ街道まっしぐらっスよ? その辺ご理解いただけませんかねぇ? あー無理か。お前さん、クズの悪魔ですもんねぇ」

 

「人間が人間殺すってのはどうなんだよ! お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのか?」

 

「はぁぁぁ? クソ悪魔の分際で俺に説教? ハハハ、マジでウケるんですけど。――いいか、よく聞けクソ悪魔。悪魔だって、人間の欲を糧に生きてるじゃねぇか。悪魔に頼るってのは人間として終わった証拠なんですよ。エンドですよ、エ・ン・ド! だから、俺が殺してあげたのさー。これ以上穢れる前に、俺が殺してあげた訳なんですよ。俺、悪魔と悪魔に魅入られた人間をぶっ殺して生活してるんで、お仕事でござんすよ、アーメン!」

 

「あ、悪魔でも、ここまでの事はしないぞ!」

 

「はぁ~? 何、言ってんの? 悪魔はクソですよ。常識ですよ? 知らないんですか? マジ、胎児からやり直した方がいいって。寧ろ、俺がお前さんを退治してやんよ! なーんて、最高じゃね? 最高じゃね?」

 

すると、フリードが懐から刀身の無い剣の柄と拳銃を取り出すと、空気を振動させる音と共に剣の柄から光の刀身が作り出された。

 

「さてさて、ではでは。俺的にお前がアレなんで、斬ってもいいですか? 撃ってもいいですか? OKなんですね? 了解です。今からお前の心臓にこの光の刃を突き立てて、このカッチョいい銃でお前のドタマに必殺必中フォーリンラブしちゃいます!」

 

瞬間、フリードが一誠に向かって駆け出した。

 

光の刀身が真横に振るわれるが、一誠は悪魔化した身体能力のおかげで回避した直後、突然足に激痛が走った。

 

「ぐあぁぁ!」

 

呻きながらその場で膝をつく一誠。見ると、フリードが持つ拳銃から煙が上がっており、どうやら撃たれたようだが銃声はしなかった事に疑問を抱いた。

 

「どうよ! 光の弾丸を放つ悪魔祓い特製の祓魔弾は! 光の弾だから銃声音なんざ発しません!」

 

説明し終わると、フリードは歪んだ笑みをした。

 

「死ね死ね悪魔! 死ね悪魔! 塵になって、宙に舞え! 全部、俺様の悦楽の為にぃ!!」

 

フリードが狂った笑いを発しながら、一誠へ止めを刺そうと迫ってきた……その瞬間だった。

 

「やめてください!」

 

聞き覚えのある声が一誠の耳に飛び込んできたのだ。

 

そして一誠とフリードの視線が声の主の方へと向けられると、一誠は呟く様に言った。。

 

「アーシア……」

 

そこにいたのは、あの日に八雲と共に出会ったアーシアだった。

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。どうしたの? 結界は張り終わったのかな? かな?」

 

しかし、アーシアがフリードの問いに答える事はなかった。

 

「! い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」

 

何故なら、アーシアは壁に磔にされている死体を見て悲鳴を上げたからだ。

 

「かあいい悲鳴ありがとうございます! って、あれれ? もしかして、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてだったのかな? ならなら、よーく、とくとご覧なさいな。悪魔に魅入られたダメ人間さんはそうやって死んでもらうのですよぉ」

 

「……そ、そんな……」

 

恐怖で顔を歪ませるアーシアを見て実に楽しそうにフリードが笑う中、アーシアの視線が一誠の姿を捉えた。

 

「……フリード神父……その人は……」

 

アーシアが一誠へと向ける視線に気付いたフリードは、アーシアの発言を否定する。

 

「人? 違う違う。こいつはクソの悪魔くんだよ。ハハハ、一体何を勘違いしているのかなかな」

 

「……っ! イッセーさんが……悪魔……?」

 

その事実がショックだったのか、アーシアは言葉を詰まらせてしまう。

 

「あっるぇ~? もしかしてキミら知り合い? マジで? わーお。これは驚き桃の木ファンタジスタ! 悪魔とシスターの許されざる恋とかそういうの? マジで?」

 

面白おかしそうにフリードが一誠とアーシアを交互に見る。

 

「アハハ! 人間と悪魔は相容れません! それに俺らは神にすら見放された異端の集まりですぜ? 堕天使様からの加護を受けないと生きてはいけないはみ出し者で半端者ですぞぉ?」

 

「堕天使? それってどういう――」

 

「クソ悪魔くんには関係ねぇぜ。――まぁ、いいや。取り敢えず俺的にこのクソ悪魔くんを殺さないとお仕事完了出来ないんで、ちょちょいと殺っちゃいますかね」

 

光の剣を突きつけるフリード。恐怖が体を支配され、一誠は動けないでいた。

 

そんな2人の間にアーシアが一誠を庇う様に両手を広げて立ち塞がると、それを見たフリードの表情が険しくなる。

 

「……おいおい。マジですかー? アーシアたん。キミは今、自分が何をしているのか分かっているのでしょうかぁ?」

 

「……はい。フリード神父、お願いです。この方を許してください。見逃しください」

 

「……っ!?」

 

その一言に一誠は声を詰まらせた。

 

「もう、嫌です……。悪魔に魅入られたといって、人間を裁いたり、悪魔を殺したりなんて、そんなの間違っています!」

 

「はぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!? バカ言ってんじゃねえよ、クソアマが! 悪魔はクソだって、教会で習っただろうがぁ! お前、マジで頭にウジでも湧いてんじゃねえのか!?」

 

暴言と共に、フリードの表情は憤怒と嫌悪に包まれていた。

 

「悪魔にだって、いい人はいます!」

 

「いねぇよ、ヴァァァァァァカ!」

 

「でも……それでも! イッセーさんは違います! イッセーさんは私を助けてくれました。悪魔だと分かってもそれは変わりません! 人を殺すなんて許されません! こんなの……………こんなの主が許す訳がありません!!」

 

死体を目撃し、一誠が悪魔だと知ってもなお、アーシアは自分の意志を崩す事なくフリードに物言いした。

 

だが、それがフリードの怒りを買ってしまった。

 

「キャッ!」

 

「アーシア!」

 

フリードは銃を持ったままの手でアーシアを殴ったのだ。床に転ぶアーシアに一誠が近付くと、アーシアの顔には大きな痣が出来ていた。

 

「……堕天使の姉さん達からはキミを殺すなと念を押されているけどねぇ。でもそれって、裏を返せば殺さなきゃ何をしてもいいって事なんでござんすよ……」

 

アーシアの怯えた瞳が狂気の笑みを浮かべるフリードを見つめる中、その光景を見ている一誠は体の中で沸々と怒りが込み上げていた。

 

「ああ、そうだ。その前にそちらのクソ悪魔くんを殺さないとダメダメですよねぇ」

 

思い出したかのようにフリードが再度、一誠に光の剣を向けてきたが、今の一誠にアーシアを置いて逃げるという選択肢はない。

 

「庇ってくれた女の子を前にして……逃げらんねぇよな!」

 

一誠は激痛が走る体に鞭を打って立ち上がり構えると、フリードは嬉しそうに口笛を吹いた。

 

「ヒューッ! 俺と戦うの? マジ? 楽に殺すつもりなんて俺様にはないからね? さてさて、どれくらい肉が細切れになるか世界記録に挑戦しましょうかねぇぇぇぇぇ!」

 

不気味に言い放ち、フリードが飛び出してくる……その時だった。

 

「何事さ?」

 

突如、床が光りだした。疑問を口にするフリードをよそに、光は徐々に魔方陣へと形を変えていく。

 

そして、そこから現れたのは見知った者達だった。

 

「兵藤くん、助けに来たよ」

 

「あらあら、これは大変ですわね」

 

「……神父」

 

「み、みんな!」

 

何時ものスマイルを送る祐斗、『S』の笑みを浮かべる朱乃、フリードの存在に嫌悪の色を示す小猫。自分のピンチに颯爽と駆けつけてくれた仲間に、一誠は感動していた。

 

「ヒャッハー! 悪魔の団体さんに一撃目ぇ!」

 

その矢先、さっそくフリードが光の刃で斬りつけてきた。

 

しかしその一撃を祐斗が剣で受け止めると、金属音が部屋に響いた。

 

「悪いね、彼は僕達の仲間でさ! こんなところでやられてもらうわけにもいかないんだ!」

 

「おーおー! クソ悪魔のくせに仲間意識バリバリですか? アツいですなぁ。もしかしてキミ達って、そういう関係? どっちが受けでどっちが攻めなの?」

 

鍔迫り合い合いを繰り広げる最中にも関わらず、フリードは祐斗を馬鹿にした発言をすると、その様子に珍しく祐斗は嫌悪の表情を浮かべた。

 

「……下品な口だ。とても神父とは思えない……。いや、だからこそ『はぐれエクソシスト』をやっているわけか」

 

「あいあい! 下品でござーますよ! サーセンね! でも、俺的にはクソ悪魔を狩って狩って狩りまくって快楽を得る事が出来れば満足満足大満足なんだよ、これがな!」

 

相変わらずフリードはケタケタと不気味に笑う。

 

「1番厄介なタイプだね、キミは。悪魔を狩る事だけが生き甲斐なんて……僕達にとって1番の有害だ」

 

「はぁぁぁぁ!? てめぇらクソ悪魔どもにどうこう言われる筋合いはねぇざんす!」

 

「悪魔にだって、ルールはあります」

 

微笑みながら言う朱乃だが、その視線は明らかに鋭く、敵意と戦意が込もっていた。

 

だが、そんな殺意もフリードには意味が無かった。

 

「いいよ、その視線。お姉さんの殺意がビンビン伝わって来ちゃいますよぉ! やっぱり殺意は向ける方も向けられる方も最高だね! ビンッビンッにイキリタツね!」

 

「なら、消し飛びなさい」

 

フリードが興奮したその時だった。声と共に一誠の隣にリアスが現れた。

 

「ごめんなさい、イッセー。まさか依頼主のもとに、はぐれエクソシストの者が訪れるなんて計算外だったの」

 

謝るリアスは一誠の姿を見るなり、目を細めた。

 

「……イッセー、ケガをしたの?」

 

「あ、すみません……。その、ちょっと撃たれちゃって……」

 

半笑いで誤魔化す一誠。怒られるのではないかと思っていたが、リアスは一誠を咎める事をせず、冷淡な表情をフリードに向けた。

 

「……私の可愛い下僕をかわいがってくれたみたいね?」

 

一誠は一目で分かった。リアスが今、キレている事を……。

 

「はいはい。かわいがってあげましたよぉ。本当は全身くまなくザクザク切り刻む予定でござんしたが、どうにも邪魔が入りまして、それは夢幻(ゆめまぼろし)となってしまいましたぁ」

 

ボンッ!

 

ヘラヘラしていたフリードの後方、リビングの家具の一部が消し飛んだ。

 

リアスが魔力の弾丸を発射したからだ。

 

「私は、私の下僕を傷付ける輩を絶対に許さない事にしているの。特にあなたのような下品極まりない者に自分の所有物を傷付けられる事は、本当に我慢出来ないわ」

 

リアスの迫力と殺意がリビングを包み込む。周囲に魔力の波動を発生させる中、朱乃は言った。

 

「ッ! 部長、この家に堕天使らしき者達が複数近付いていますわ。このままでは、こちらが不利になります」

 

それを聞いてリアスはフリードを一睨みすると、朱乃に指示する。

 

「……朱乃、イッセーを回収次第帰還するわ。ジャンプの用意を」

 

「はい」

 

リアスに促され、朱乃は魔法陣の展開に取り掛かった。

 

「部長! あの子も一緒に!」

 

「無理よ。魔方陣を移動出来るのは悪魔だけ。しかもこの魔方陣は私の眷属しかジャンプ出来ないわ」

 

「そ、そんな……」

 

愕然とする一誠。その視線には、涙を流しながらも笑うアーシアの顔が映った。

 

「アーシア!」

 

「イッセーさん。また……また会いましょう」

 

それが一誠とアーシアが最後に交わした言葉だった。

 

刹那、朱乃の詠唱が終わり床の魔方陣が光りだした。

 

「逃がすかっ――」

 

「えい」

 

「ドゥワッ!?」

 

フリードが切り込んでくるが、小猫が近くのソファーを軽々と持ち上げては投げつけた。

 

だがフリードが光の刃で薙ぎ払う頃、既に転移は完了しており、一誠達は部室に戻っていた。

 

だが、一誠が思い出すのはアーシアの最後の笑顔だけ。

 

これが、一誠が己の弱さを痛感した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「……まさか、そんな事があったんですか?」

 

次の日、部室で八雲は昨夜の出来事の説明を聞いており、説明が終わると八雲はテーブルを叩いた。

 

「どうして呼んでくれなかったんですか! 仲間がピンチだったっていうのに、俺だけ呼ばれないなんて……!」

 

一誠のピンチを救えず後悔する八雲。だが、リアス達が八雲を咎める事はなかった。

 

「あなたが悔やむ必要はないわ、八雲。私達もはぐれエクソシストの存在に気付いた時点で急な事だったの」

 

「だけど……!」

 

『落ち着けよ、八雲。こうして全員無事に生きて戻って来たからいいじゃねえか』

 

「コゲンタの言う通りよ。イッセーを連れ戻す事は果たせたんだから、あなたもこれ以上引きずらないこと。いいわね?」

 

「……………分かりました」

 

「うん。よろしい」

 

しぶしぶだが納得した様子の八雲を見てリアスは微笑むと、八雲はリアスに訊いた。

 

「ところで、さっきから話に出てきたはぐれエクソシストって一体?」

 

「そうね。いい機会だから話しておきましょうか。――まずエクソシストには2通りあるの。1つは神の祝福を受けた者たちが行う正規のエクソシスト。そしてもう1つ、はぐれエクソシストよ」

 

「はぐれ……………はぐれって事はやっぱり……」

 

リアスの言葉の後、朱乃が続けて言う。

 

「ええ。八雲くんが予想している通り、エクソシストの中には悪魔を殺す事に生き甲斐や悦楽を覚えてしまう輩がいます。そうなれば、彼らは例外なく神側の協会から追放されてしまいますわ。でも、神の加護を得られなくなった彼らは今度は堕天使のもとへ走る。その集団が、はぐれエクソシストですわ」

 

「……それって、はぐれ達と堕天使の悪魔を滅ぼしたいっていう利害が一致してるって事ですか?」

 

八雲の言葉にリアスは頷く。

 

「そうよ。そして堕天使の加護を得た彼らは、悪魔と悪魔を召喚する人間にまで手を掛けるの。正直、正規の連中よりも性質が悪いわ」

 

「……はぐれは悪魔だけかと思ったんですが、まさか人間でそんな奴らがいるなんて……。厄介だな……」

 

悪魔や堕天使ならシキガミ達と共に戦える。だが、例え外道なはぐれエクソシストでも人間だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、いくら八雲でも渡り合えるか分からなかった。

 

ふと、八雲はリアスに訊く。

 

「そういえば、兵藤の容態はどうですか?」

 

「体の方は完治とは言えないけど心配ないわ。でも、問題は心の方ね……。あのシスターを助けられなかった事がよっぽどショックだったようね。でも、あの子には頭を冷やす必要があるから、念の為に大事を取って学校を休ませたわ」

 

「そう、ですか……」

 

一誠の事を考えると、八雲は何も言えなかった。

 

だがそれ以上に、仲間の危機に駆け付ける事が出来なかった自身が惨めだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。