主人公と女の子ロボットの、ほのぼのストーリーです。

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友人から頂いた、「運命」「スイッチ」「コントロール」というお題を元に書いてみました。

良かったら、ご感想、ご批評お待ちしております。


明日もまた会えますように

「ねー、誰か拾ってー」

(……まだ拾ってもらえてないのか)

 高校からの帰り道、僕はいつもの帰路を歩きながら、心の中でそう呟いた。

 一週間くらい前からだろうか、僕の学校から家への道の途中にある、小さな公園で、ロイドが段ボールに入れられて捨てられていたのは。

 ロイドというのは、いわゆるコンパニオンロボットで、十数年前に海外から渡ってきた。

 当時はコンパニオンアニマルに代わる画期的な愛玩生物(厳密にはロボットだが)ということで、爆発的にヒットしたらしい。犬や猫と違って、言葉を話し人語を理解するという、今まで犬猫の飼い主達が叶えたくても叶わなかった夢を、見事に具現化した今世紀最大の発明だ。僕の家でも僕が小さかった頃に飼っていたらしい。よく遊び相手をしてもらっていたようだが、あまりにも小さなときの記憶なので、よく覚えていない。まあ要するに貧乏なうちでも飼っていたほど、社会現象を巻き起こしていたのだ。

 のだが……。

「拾ってくださーい」

 同時に大きな問題も浮かび上がった。大量の欠陥品発見と、極端に寿命が短いこと、である。

 前者は、ちょうどロイドブームが絶頂期を迎えていたころに、運悪く起こってしまった。

 欠陥というのは、何もネジが一本抜けていたとか、そういう可愛いレベルじゃない。大多数のロイドが精製された会社、つまり生まれ故郷に帰ろうとしたのだ。

 何が問題なのかと疑われるかもしれないが、これは非常に危険な出来事で、多くの事件、犠牲者を生んだ。

 この故郷に帰ろうとし始めたロイドは、飼い主の命令を一切聞かなくなり、ただ一直線に故郷の会社へ向かっていく。壁に塞がれたら壁を壊していくし、信号無視は当たり前、もし人が立ち塞がったら、驚くことに必要とあらばその人を殺す。たとえ飼い主であっても、である。

 これを重く受け止めた政府は、ロイドの輸入、精製を一時的に禁止、全面駆除に乗り出した。故郷へ帰ろうと街中に溢れたロイドを、一体残らず破壊したのだ。

そして、運よく欠陥がでなかったロイドにも、いつでも簡単に破壊できるチップを埋め込むことを、義務付けることにしたのである。

 数年後にロイドの輸入、精製の規制が緩和され、これにて残ったロイドの立場は安泰……かと思われたが、まだもう一つの問題が残っていたのであった。

 そう、極端に寿命が短いという問題。寿命が短い、というのは正確に言うと、核パーツ交換の頻度が非常に短いということだ。

 ロイドの核パーツはロイドが作られるほんの数年前、欧米で発見された希少な鉱石を使っているらしい。

 どうやらそれ単体がとても高価なものらしく(ものによってはロイド本体より高いらしい)、しかももし核パーツを入れ替えても、今までの記憶はあやふやな状態になってしまって、完璧に元の状態には戻らない。

 このことから大体の人は一回ロイドを飼って寿命がきたら、核パーツを変えずにそのまま安楽死させる。安楽死といってもさきほど述べた、政府の義務付けた破壊チップを使用することなのだが。ちなみにロイドの寿命は一年半。ハムスター並に短い。

 こうして、ロイドブームは台風のように一瞬で吹き飛んでいき、今はロイドを飼っている人は殆どいない。

 

「私いい子ですよー、誰かー」

 そして、公園の中には捨てられた幼い女の子型のロイドがいる。いわゆる野良ロイドだ。

 このご時世、誰が好き好んでロイドなんか拾うんだろうか。それなりに人通りのある公園前の道路だが、道行く人は皆、野良ロイドなどに見向きもせずに去って行く。

 でも僕は――。

「よっ」

「あ! お兄ちゃん!」

 こういうのほっとけないタイプなのである。

「これ、弁当の残りなんだけど……」

 野良ロイドの近くまで行くと、僕はガサガサと鞄の中を漁り、母の作ってくれたお弁当を取り出した。

「食べていいの!?」

「うん、プチトマト嫌いだから」

 母は僕がプチトマト嫌いなことを知っていて、わざと毎日毎日お弁当に入れてくる。これって一種の虐待じゃないだろうか。

「とってもおいしいよ! お兄ちゃん!」

「そっか、ならよかった」

 小さな両手でプチトマトを持って、これまた小さな口に運んでいく野良ロイドを見ながら、僕はその子の頭をワシャワシャと撫でた。

「あのねあのね、今日おじいさんが近くまで来てくれて、握手してくれたの! ……でも、おじいさん悲しそうな顔してどっか行っちゃった」

「そっか、残念だな」

 チラッと、僕は段ボールに貼ってある紙に視線を落とす。その紙にはこう書かれてある。

『この子は力のコントロールができません』

 よくはわからないが、きっと力加減を調整するのが苦手、ということだろう。きっとそのおじいさんも、握手したときの力が強すぎて、手を痛めたんじゃないかな。

「あっ! プチトマト潰れちゃった……」

 見ると、野良ロイドの手は潰れたプチトマトの色で真っ赤に染まり、まるで出血したようになっていた。

「手、洗おうか」

 僕は鞄から水筒を取出し、野良ロイドの手に中身の麦茶を少しずつかけていった。

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 そう言いながら手を洗う野良ロイド。ちょっと麦茶で申し訳ないんだけど、この公園には水道がないので仕方ない。

 ちょうど野良ロイドの手が綺麗になったところで、水筒も空になった。

「えへへっ」

 綺麗になったー、と言わんばかりに野良ロイドは僕に手のひらを見せてくる。僕は少し笑って、まだ野良ロイドの頭を撫でた。

「なあ……」

「なあに?」

「寿命、あと何日なんだ?」

「三日だよ!」

「そっか」

 唐突な、しかもこの子には残酷な質問を投げかけたのに、野良ロイドは笑顔で答えてくれた。

 ホントは聞かなくてもわかってた。だってここに通うようになってから、毎日聞いているのだから。

「スイッチ、押すか?」

 スイッチとは、政府が義務付けた破壊チップを発動させるためのスイッチである。要するに、安楽死するかどうかということだ。

 その質問に野良ロイドは頭をぶんぶんと横に振り、そしてこう続けた。

「最後の最後まで、お兄ちゃんと一緒にいたい!」

 僕はこの子を飼うことができない。だから貰い手を探すために、毎日喉が嗄れるまで叫んでいるのに、何を言っているのだろう、この子は。もし貰い手が見つかったら、その人の家に毎日にでも会いに行ってあげるのに。

「あの……、おにい、ちゃん」

「ん?」

 この子にしては珍しく、とても小さく自信なさげな声で尋ねてきた。

「抱きしめてもらって……、いーい? わ、私は絶対抱きしめないから!」

 ああ、そうか。自分が力のコントロールができないのを、気にしてるのか。

「いいよ」

 僕はそう言って、野良ロイドを段ボールから取出し、思いっきり抱きしめた。

「ありがとう、お兄ちゃん」

「手、回してもいいよ」

 力が強かろうがなんだ、僕はこう見えて剣道初段だ。関係ないかもしれないけど。

 最初はあたふたと手を行ったり来たりさせていた野良ロイドだったが、次第に落ち着いたのか、僕の背中に手を回した。

 うーん、痛い。でもそんな素振りは見せられない。この子が悲しむ顔なんて見たくないから。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「私ね、夢があるの」

 とても落ち着いた優しい声で、野良ロイドは言った。この子にも夢があるなんて、初耳だ。

「生まれ変わったら、お兄ちゃんのお嫁さんになりたい!」

「そっか、ありがとう」

 随分と遠回りなプロポーズだ。でも、嬉しい。この子にも希望があることがわかったから。

 数十秒抱きしめ合ったあと、僕は野良ロイドを段ボールに戻した。

 戻してすぐ、野良ロイドが口を開く。

「どうやったらお兄ちゃんのお嫁さんに生まれ変われるかな?」

 首を傾げながら聞いてくる野良ロイド。うーん、そうだな、ここはこう言っておこう。

「それはね、運命っていう神様が決めるんだよ」

 かなり臭い台詞だが、この子を納得させるにはこれが一番だろう。

「じゃあお祈りすればいいんだね! 運命さんお願いします、運命さんお願いします……」

 本当に素直な子だなと、僕は一人微笑を浮かべた。

あっ、そういえば今何時だろう、僕は腕時計に目を落とす。

「そろそろ帰るかな」

 時刻は六時を回っていた。母が夕飯を作って待っている時間だ。

「うん! じゃあね、お兄ちゃん!」

「うん、またね」

 そう言い残し、僕は公園をあとにした。

「……僕もお祈りしとくかな」

 なんとなく、本当になんとなくだけど、不意にそう思い、僕はあの子のように心の中でこう唱えた。

 

 運命さんお願いします、運命さんお願いします、また明日も元気なあの子に会えますように……




如何でしたでしょうか?
かなり前に書いた小説なので、誤字脱字等あるかもしれませんが、よかったら指摘して下さると幸いです。

最後に、読んで下さった読者様、ありがとうございました。


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