マイナー好きの彼は無双を試みた   作:赤須

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長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
ハードでスイーツなお仕事に中々合間が取れず、更新が遅れてしまいました。

そして今回はバトルではありません、バトルは次話です。
まぁ、闇墜ちといっても鬱になるだけだしね! (シンェ……




第9話

 

 

 

「―――はぁ、ユウキ先輩が……まさかの出場辞退だなんて……」

 

 準々決勝。これが終わったら次に戦うべき相手だったイオリ・セイとレイジのタッグコンビは1人の宿敵とも、目標とも言えるユウキ・タツヤの失踪に、彼らの抱くこの疑念はすぐに途絶えるモノではなかった。

 あれだけ再戦をしようと言葉にしていたユウキ先輩が、突如となって消えたのだから。

 それは無理もないだろう。

 

(……だけど、今はそんな事を気にしてはいられない。次の対戦相手はあのムロト先輩だ)

 

 ユウキ先輩ほど友好的だったとは言えなかったが、面識はある。

 初めて会った時のあの人の雰囲気は、怖ろしくも、冷たくもあったが……

 あの瞳だけは違っていた。

 あれは、ガンプラに対する熱い闘志を抱いた目だったのだ。

 彼の『紅の彗星』ことユウキ先輩と双璧を成す『緋色の流星』と謳われたムロト先輩のそれは、正しくファイターとして、ビルダーとしての格がイオリに伝わっており、試合で見えるとしたら、勝てる保証はほとんど無いと見て間違いないだろう。

 

「……うーん、レイジもあの調子だからなぁー」

 

 自分の相方、レイジと呼ばれる少年の存在はイオリ・セイにとって奇跡と言っても過言ではなかった。

 年齢不明・身元不明、しかも神出鬼没で風来坊。

 もはや謎そのものであるレイジなのだが、とあるきっかけを基にガンプラバトルというのを勧め、タッグを組み始めたセイとレイジの2人は、幾多における強敵たちと戦い、ここまでの試合で勝利を掴み獲ってきた。

 ただそれは、ユウキ・タツヤという宿命の相手が存在していたからである。

 特に、レイジ。サザキやゴンダ先輩を打ち破った事に自信家となっていた彼はユウキ先輩に手も足も出ず、まるで赤子を捻るかのように敗れたのだから、レイジこそが一番彼との再戦を望んでいたはずなのだ。

 それなのに、そのユウキ先輩がいなくなった事で、レイジはきっと……

 

「……」

 

 ―――サザキとの試合で、どうしようもなく絶対的なピンチに現れたレイジ。

 

 ガンプラバトルに対する知識は無いにも拘らず、その類稀なる戦闘技術と順応性はイオリも驚くことばかりだった。

 もしもあのまま現れず、ただ臆するだけの自分のままだったら、きっと今のビルドストライクはサザキの手に渡っていただろう。ゴンダ先輩とのバトルも、ユウキ先輩とのバトルも、彼が現れなければ起こり得なかった。

 そして感じる。

 彼となら、レイジと一緒なら、世界と渡り歩けるかもしれない、と……

 

「レイジ……」

 

 ……レイジがいたからこそ今の僕がいる。

 だけど、それはレイジがいるから、今の僕がいられるのだ。

 このままユウキ先輩のようにいなくなったりでもしたら、そしたら僕はまた逆戻りになってしまう。

 

「……いや、そうじゃない。僕がもっとしっかりするべきなんだ! ここで立ち止ってたって、しょうがない。進むべき道は、進まないと……でないと僕はいつまで経ってもあの頃のままだ」

 

 そう、いつまでもレイジに甘えてばかりではダメなんだ。

 確かに僕は操縦がヘタだから、父さんのようにはなれないけれど、それでも僕はガンプラが好きだ。

 だから、少しずつでもいい。

 強く、なりたいんだ。

 

「……でも、できる事ならレイジと一緒に強くなりたい。次の試合はどうなるかは分からないけれど……レイジ、君はユウキ先輩がいなくとも来るよね、そういうヤツだ」

 

 待ってるよ、という言葉を最後に、イオリ・セイはビルドストライクに続き、組み立てられた1機のガンプラ……ビルドガンダムMk-Ⅱを見据えた。代用品といえども、その性能や出来栄えはイオリ自身も傑作に値するMSだと数えている。

 だがしかし、それでは彼のユウキ先輩と並び立つムロト先輩には勝てない。

 なればこそだ。

 

「……だから僕も強くなる前に、新たにもう1機。ガンプラを作ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ―――!!」

 

 ブッピガンッ! と音を立てながら爆散する倒れた軍事列車のあるフィールド。そこで1人の少年ムロト・エイキが息を荒立てながら、戦闘レベルの高いAIが搭乗するモビルスーツを薙ぎ倒すが如く蹂躙していた。

 

 ―――それは、緋いモビルスーツ。

 

 4基の大型ファンネルを背負い、左腕にシールド。右腕にビームサーベルとバランスの整った上に、寄せ付けぬ分厚い装甲。腰にはビームライフルが提げられている。

 

「足りない!」

 

 修羅と化していくエイキは緋いモビルスーツを駆けて迫り来る敵にサーベルを納め、取り出したビームライフルと大型ファンネルで敵を撃ち払う。

 まるで緋い悪魔とでも思うかのように……

 

「物、足りないっ!」

 

 高い機動力を誇る緋いモビルスーツは敵の攻撃を掠りもしない。そして撃ち抜かれ、次々と撃墜されていく。圧倒的な火力を前に、AIたちは成す術も無く爆風に吹き飛んで藻屑と化する。

 

 

 

 ―――……ボクは、いったい何をやっているんだろうか。

 

 

 

 ああ、確か……大会に出て、色んな人とバトルをするために出場したんだっけ? 世界ともう一度戦ってみたいからだっけ? 成せれなかった世界の頂点に立ちたかったからだっけ?

 

 

 

 ―――否!

 

 

 

 ―――断じて否だ!

 

 

 

 タツヤと本気で、ボクの本気のMSと本気の技術、本気の力を以てして、全身全霊の勝負をしたかっただけなんだ、ボクは。

 

 再戦を望むためにボクは待ち続けてきたんだ。

 

 前世界大会のあの時から、ずっと……

 

 それを、それを……ああ、ああ、嗚呼……

 

 

 

「―――……無様だな、少年。今のキミを見ていると滑稽とさえ思えてくる。ガンプラが泣いているぞ?」

「あ、貴方、は……!」

 

 その声に反応して、振り返ると思わずボクは見開く。

 フィールドの外に立っていた1人のサングラスを掛けた青年。ガンダムに登場するシャア・アズナブルを彷彿させるかのような金色の明るい髪をしたその人は、ボクに向かって話しかけてきた。

 そして同時に見知った人物だと認識する。その人はエイキにとって、最も偉大で、崇拝すべき人。限りなき極致に至ったガンプラ道の頂点。又の名を―――

 

「……ボリス、さんっ?」

 

 ボリス・シャウアー。ガンプラ道において、古今東西……彼に並ぶ者、メイジン・カワグチをおいて他になしと謳われた―――世界最高にして最強の『ガンプラマイスター』。同時にエイキの最初の師匠でもある。

 

「久しいな、我が弟子よ。しかしまぁ、やはりキミはやさぐれてたか。準々決勝で()の紅の彗星と決戦を迎えようとしたが、紅の彗星は不在。そして不戦勝という形で少年は勝ち上がってしまった……キミのその様子を伺うに、随分と酷く荒れているようだな」

「別に、ボクはやさぐれてなんか……」

「なら何故、キミはフィールドでAIなんかと戯れている? しかも、こんなズタズタにするまで蹂躙に破壊とは、店泣かせにも程があるよ。ガンプラ道を極める私からすれば……少年、キミのそれはガンプラを持つに値しない男だ。その器は高が知れるぞ。と、叫ぶだろうな」

 

 それを聞いて、ボクは思わず「うっ」と呻く。

 確かに、フィールドを見れば模擬戦用に用意されていたプラモ店サービスのMS全部が全部、真っ二つだったり、消し飛ばされていたりの幾多における残骸で撒かれていた。

 しかもボリスさんの言う通り、これだけのガンプラをここまで破壊されては、これらを元の姿に直す事は到底不可能である。

 何故なら、それほどまでに戦闘という蹂躙の破壊を繰り返していたのだから。

 それをボクは悪くない、なんて言ったらボクの目はきっと節穴なのだろう。

 だけど、これは仕方ない。仕方なかったんだ。

 タツヤが、あの戦いから降りてしまったのだから。

 

「……」

「……ふむ」

 

 だんまりを決めていたボクの様子に呆れたのか、ボリスさんは溜息を吐く。

 

「やはり少年、キミは戦いたかったんだな、紅の彗星とは……」

「……ッ」

 

 突然の言葉に、ボクは驚きの表情を隠せないでいた。

 そして合っている。ボリスさんの言う通り、ボクは、タツヤと……戦いたかったんだ。

 全身全霊を賭けた、本気という名の遊びを、心から楽しみたかった。

 そのために何年間も我慢してきたし、最高の舞台で戦おうと約束して待っていたボクに、タツヤが突然と消えて舞台から去っていたのを知った時にはショックを受けたよ。

 だけど、それは過ぎた話。ボクは、マイナーな機体を使って世界の頂点に立とうと決めたんだ。

 ならばやり遂げなければならない。

 有名で、強いガンプラじゃなくて、界隈では知られざる機体で、弱い、それでもやり方次第で勝てるんだと、ビルダーやファイターに知ってほしくて、試そうと思ったボクの挑戦。それがまだある。

 

 

 

(でも、それでもボクは……)

 

 

 

「だからとて、ガンプラに自らの憎悪をぶつけるのは些か度が過ぎるな。少年、今のキミはバトルに熱を入れすぎて、まるでガンプラへの熱意が全く伝わらん」

「……っ」

 

 バッサリと言い放つボリスの覇気のある言葉に、ボクは狼狽える。

 

「それではいずれ、その熱意を持ったキミがこのままバトルに燃やせば燃やすほど……キミの好きなガンプラを、キミの好きなガンダムを……穢していってしまうだろう。ああ、そうなったらキミ自身が苦しむ事になるかもしれんな」

「……そんな」

 

 ではどうすればいいと言うんだ。せっかくここまで来たと言うのに、決着を付けられるチャンスだったのに、長年待ったというのに、それを空かされては最早どうしようもないじゃないか。

 やりようが、ないじゃないか……

 

「少年、別にバトルを嫌いになれとは言わない。それに、ガンダムを想うその気持ちは……私も十分に図っているつもりだ。ただパーツを素組みしただけの機体……それもごく少数でしか知られていない機体を使って、今まで多くの幾人と超える強敵たちと戦い、そして勝ってきた事も、私は知っている。とても素晴らしい事だが、今のキミの姿を見れば一目瞭然だ。ただ1つの、ただ1人の宿敵相手にしか目を向けていない。同時にガンプラを見てすらいなくなっている。そんなキミでは……この私どころか、紅の彗星の足元にも及ばんよ。

 

 

 

 ……キミは、ファイターはおろか、ガンダム失格だな」

「……ッッッ!?」

 

 あらゆる点を付いてくるボリスさんは、悉く言葉を口に出していく。

 それに対してボクは何も言えないでいた。返す言葉も無いからだ。

 

(……タツヤ、ボクは)

 

 キミと、キミのガンプラと戦って、ボクは満足したかったんだ。

 

 勝っても良い。負けても良い。

 

 ただ一時の情熱を、ボクは味わいたかった。今まで戦ってきたファイターたちとは似て、似て非ず。ガンプラに対する本気の熱さを、タツヤは持っていて、そんなキミの本気をボクはぶつかりたかった。

 

 ガンプラを愛する者同士、全てを超越した何かとぶつかり合えば、きっと分かり合えるんだと、そんなニュータイプ染みた発想を持つボクは、きっと……

 

 昔に戻りたかったんだと、あの楽しかったガンプラ塾やまだ自分がガンプラに触ったばかりの日々を、もう一度味わいたかったんだと思ってしまったのだろう。

 

 今のバトルでは、物足りないから。

 

 だからボクは……

 

 

 

「……ふざ、けるな」

 

 

 

 ……タツヤとバトルで、―――で勝ちたかった。

 

 何故ならムロト・エイキは、ボクは、彼を嫉妬していたから。

 

 あんなに楽しそうで、嬉しそうに戦っているタツヤが……ボクは気に食わず、苦手だったんだ。

 

 誰をも圧倒できる強さを持ち、それでいてガンプラとバトルを嬉々として遊んでいる。そんな姿が……

 

 羨ましかったんだ。

 

 

 

「ほう……では聞こうか、少年。キミ自身のその想い、ファイターとしての想い、図らせてもらう」

 

 

 

 好きな、―――で。―――が好きだからこそ、バトルも好きになる。―――で勝てば、バトルも―――もより好きになる。

 だから、今までバトルし、学び、研究し、好きな―――と共に、勝利を掴めとボクの中で轟き叫んできた。

 

「ボクは……」

 

 だから―――で勝った時、どれほどの感動と満悦を抱いたのだろうか。きっと、自分でも予想を遥かに上回る喜びがあったのだと、ボクは思う。

 そして敗北すれば次にどこを改善すれば勝てるのか、どうすれば負けなくなるのか、自分の作ったのが最強であると、証明するために……そう考えれば考えるほど奥深く、ワクワク感が募ってくる。

 ―――はそれだけに魅力があった。魅力があったからこそ、ボクは……

 

「―――だよ!」

 

「……聞こえんよ」

 

「―――だよ!!」

 

「聞こえないぞ、少年ッ!!」

 

「ボクは……」

 

 普段のボクとは思えない、今までにこれほどの声を出したことが無い。と、断固出来るほどの声を張り上げた。人気のない店内は響く、店長は突然の熱狂な叫びに思わず見開く。

 

ガンプラ(・・・・)が、バトルが好きだよ!! ガンプラがあるからバトルが出来る。バトルがあるから好きなガンプラが輝く! そして同時にボクはガンダムの全てが好きなんだ、大好きなんだぁ!!」

 

 だがそんなのは最早どうでもいい、このボクの想いを、師匠に伝えなければ、ボリスさんに、世界最高にして最強のガンプラマイスターに届かなければ、ボクはボクでなくなる。

 だから伝えなければ、と口から轟き叫んだ。

 何度でも、何度だって、ボクは……

 

「だいすk―――」

 

 しかし、言葉が遮られた。ボクの口元をボリスさんがオープンフィンガーグローブの手で、蓋い伏せる。

 

「もういい、十分に図らせてもらった……」

「……!」

 

 声音が低く、とても静かな雰囲気が込められた声だった。

 その感じだけでも、ボクは悟り始める。

 

 

 

 ああ、ダメだったのか、と―――

 

 

 

「フッ……」

 

 だが世界最高にして最強のガンプラマイスターは笑う。

 ボクの肩に手を置き、そして……

 

 

 

「……見事だ、少年。流石は私の弟子だ」

「え……?」

 

 

 

 その言葉に一片の曇りが無い、ボリス・シャウアーの一言にボクは驚いた。

 自分の伝えたいというガンプラ……ガンダムに対する気持ちは全てぶつけたはず。それを彼はどう受け取ったのか、ボク自身知るまでもなく、ただ答えを待っていたのだが……

 ボリスは、師は今、なんと言ったのだろうか。

 そんな苦悶な表情をするボクの様子に、ボリスは察し、我が子のような笑みを浮かべて、

 

 

 

「聞こえなかったか? ならばもう一度言おう、ムロト・エイキ。流石は私の弟子だ―――『二代目(・・・)・ガンプラマイスター』として名乗る事を、私が許そう」

 

 

 

 





大人気ない初心者狩りマンことボリスさんの登場です。

正直、ガンプラバトルで誰が最強かと問われた時、作者はこの人を推すでしょう。
あの人のプラモ道は廃人の極みですからね。

ビルドファイターズも面白いですが、何気にガンプラビルダーズの続編とか見てみたいという気持ちもある。



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