年始から仕事が急激に増えまして、時間を見つけながらちょくちょく書いていたのですが、今やっと出来ました……。
「……はぁ」
学校で真姫と想像もしなかった再会をした次の日。
俺は兄貴の車で事務局へと向かっていた。正式に『REN』としての活動を中止する旨を報告するためだ。
別にスランプだなんて勝手に言いふらして抜けてもいいんだけども、それを行うことでまたしても芸能界のゴタゴタに巻き込まれるのはごめんだからね。きちんと行っておくことにする。
「なんだなんだ。物憂いな溜め息を吐いてさ」
「いや、別に大したことじゃないんだけど」
「大したことじゃない割には、結構参ってるじゃないか」
車の運転をしながら俺の話し相手にもなってくれている兄の姿を横目でチラッと見てみる。
顔は良し、性格も良い。器量もあって、会話に置いては凄く聞き上手。ちなみに家事も全般的にいけるし、意外と家庭的。こんだけ出来てる人間なのに、どうして兄貴はモテないのだろう。
――っと、話が逸れてしまった。
「それがさ、学校で思わぬ人物に再会してさ」
「思わぬ人物って、真姫ちゃんか?」
「……なんで、知ってるのさ」
実際に名前を出さずに、思わぬ人物と形容したのにも関わらずいきなり答えを出す兄貴を見る。怪訝そうな表情で見つめてしまっているかも知れないが、それは気にしないで欲しい。
「あー、いや、お前は怒るだろうから言わなかったんだが、俺や母さんは最初から知っていたんだ。お前らは疎遠になったかも知れないが、俺らはずっと関わってきたからな」
「それを最初に言ってくれよ……」
思わず兄貴を睨み付けてしまう俺。
兄が悪いわけでも、母が悪いわけでもないのだが、結果的にあの学校に真姫がいて、あいつに女装がバレてしまった。……けど、あいつは言いふらすことはしない。だからこそ、安心して学校に行けるのだけど、問題はそこじゃないんだよなぁ。
「……まぁ、いいや。んでさ、その真姫が属しているスクールアイドルグループを『
「へぇ。もしかしたら、その子、お前の中にある才能を見抜いているんじゃないか?」
「それこそ、まっさかーだよ」
あの高坂にそんな力があるなんて考えられない。
勉強面でバカ丸出しで、スクールアイドルだって思い付きでやってそうなあんな単純な奴に……。
「……あってたまるか。そんなこと」
小さく口を動かし、呟く。
兄貴とは反対の方向を見ながら発した言葉故に、聞こえなかったようだが、窓に映る俺の微妙な表情や雰囲気でわかってしまったのだろうか、話を変えるように今日の予定を話し始める。
「蓮。今日の予定だけど、これから事務所に行って打ち合わせ、それが終わり次第、生放送な」
「……了解。生放送については予想ついてたし。んで、何曲か歌えば良いって感じでしょ?」
「ああ、そうだ」
短く肯定を示す返事を聞いた俺は、即座に曲はと問い掛ける。
それによって、曲の歌い方や振り付け、歌う順番などを考えなければいけないからだ。
「任せる。蓮の好きなように、好きな曲を歌えって踊ればいい。ただし、時間は限られているから三曲までな」
「……へぇ。じゃあ、本当に俺の好きな曲でいいんだな」
それにしても、三曲も歌っていい時間を作ってくれるなんて随分と事務所は俺を買っているじゃないか。聞いた話によると、某人気動画サイトやとある大通りの大モニターすらも使って配信するらしいし。
引退ってわけじゃないけど、活動を休止する間にもCDやDVDがバカ売れしてくれたら万々歳ってやつかね。
そんなくだらないことを脳裏で考えながらも、自分の曲で特に気に入っている曲をリストアップしていく。
(この中から二曲を選ばないといけないって、結構しんどいなぁ。一応、デビュー当時から人気なあの曲を入れると考えると、あと一曲になるしな)
……っと、大切なことを忘れていた。
俺の後ろで演奏してくれる人達のことを考えて、先に連絡しておかないとな。
「兄さん。俺の演奏を担当する人達って?」
「あ、あぁ、いつもライブでお世話になっている『
「なるほどね」
それから無言で俺はスマホを弄り、ある人物に電話を掛ける。
そいつは今、ちょっとだけ忙しかったのか何回かコールした後に電話に出た。このコールで出なかったら一旦切ろうかなと考えていただけに助かった。
『もしもし?』
「あ、急に電話ごめんね。忙しかったりした?」
『あー、いや、ちょっとな。リハーサルのリハーサルをやってただけだから気にしなくていいよ。それに、メインは君だし』
「……その話なんだけどね。ちょっと無茶を言ってもいいかな?」
今まで、ライブや生放送などで一度も我が儘を言わず演奏に合わせた計画をしていた俺なだけに、今の言葉は相手側にとっては軽く衝撃的だったようだ。
通話中の彼の後ろからカランカランという何か物が落ちたような音が聞こえた。
「ん? 今、何か落ちた?」
『んー、あぁ、気にしないで。ドラムを担当する彼がスティックを滑らせただけだから』
「そうか」
電話中の彼の声に混じって、ドラムの彼から物凄く動揺したような声が発せられているが、気にしたら負けな気がするのでスルーに徹した。
そう。俺が電話を掛けたのは、今さっき話題に出た『Starlight』のリーダー兼ギタリストの『
『で、その無茶の内容はどんな感じなんだい?』
「今は簡単にしか言えないけど、他のグループの曲を演奏して欲しい。アカペラだけなら叩かれるのは俺だけだが、演奏が出来ているってことになると、そっちも叩かれるかも知れない。けど、お願い出来ないかな?」
『別にいいよ。俺らはまだ名も通ってないグループだし』
「ありがとう」
『んで、曲は? 君がそんなことを言うってことは、音源は用意してるんだろうね?』
「あぁ、用意してるにはしてるけど。準備までには時間が掛かるから、打ち合わせ行く前と、二曲やった後にサプライズで一曲アカペラで入れるから、それでいける?」
『十分だ』
「……頼りにしてる」
そういって通話を切る。
スマホをポケットに入れようと手を懐に突っ込んだ際、不意に高坂の姿を思い浮かべた。
今、俺がしようとしていること。それを彼女らに見せつけて、それでも尚、玲奈を勧誘するのであれば――。
(手を貸してやらなくもないかな)
きっと、それは挫折せずに精一杯努力して、頂点を目指す者の気持ちだから。
彼女らにとって目指すのは、頂点ではないかも知れない。でも、本気でやろうとする気持ちがなければ、俺がやることにショックを受けて意気消沈するかもだろうし。
そう考えた俺は、仕舞おうとしたスマホを取り出し、ある人物に向けてメッセージを送る。
内容はこうだ――。
『今から俺は生放送をする。自惚れではないけど、かなりの番組で取り上げられるかも知れないから問題はないかも知れないが、君の仲間に伝えておいてくれ。絶対に見ること』
このメッセージを送り、目を通したことを確認出来る既読マークが付いた直後に俺は一言付け加える。
『……フォローは君に任せるよ。真姫』
おそらく今の時間だと放課後――。
理事長に一応、話は通しているから今回の休みは正当な理由になるだろうから安心だけど。他の連中が不思議に思わないかが不安だ。
親族って設定の玲奈が休んだ日の夕方ぐらいから、蓮の活動中止を報告する生放送が行われるなんてね。
改めてスマホをポケットに仕舞うと同時に兄貴が口を開く。
「まったく……。三曲だと言っただろうに」
「あ、あはは……。ま、まぁ、いいじゃない。アカペラなんて一曲に入らないって……たぶん」
今回の生放送ライブで俺が一番大事にしているのは、ファンの皆には申し訳ないけど、最後の一曲だ。
これを歌えなければ意味がない。
(……これが俺なりの試験。これをクリア出来ないと絶対に手を貸さないからな。高坂さん)
あ、今更ですが、タイトル変えました。
とりあえずスクールアイドルと入れたらラブライブ関連だとわかるでしょうし、タイトルを長くしてもなぁと思ったので、短くしました。