本編の進行とはまったく関係がないため……。
・この話では既にμ'sが活動している。
・主人公の性別が数名にバレている。
等の要素がありますので、ご了承ください。
……それと言い訳ですが、三時間クオリティなので、矛盾点があったり、文章が支離滅裂かも知れませんがご了承ください。
「だって、仕方ないじゃない。仕事から帰ってきてスクフェス開いて、やっと絵里の誕生日だって思い出したんだもの」by.作者
「……ねぇ、これは何の罰ゲームなの?」
「さ、さぁ、穂乃果達が考えることだからわからないわ」
新曲をレコーディングするからと呼ばれた絵里こと絢瀬絵里と、俺……新垣玲奈はREN繋がりで仲良くなったスタジオのみなさんの異様なまでの協力体制によって、スタジオ入りしていた。
この場にμ'sでない俺がいて、絵里以外のメンバーがいないことに違和感を覚えつつも雑談を行っていた。
気を利かせてお茶や軽い茶菓子を置いていったスタッフの人がいなくなった際に俺はお淑やかな少女を演じるのをやめる。
既に絵里を含めた数名にはバレているので、隠す必要がないからだ。
「あいつら、俺がμ'sでないことわかってるんだろうな」
「……もしかしたら、穂乃果のことだから気にしてないのかも知れないわね」
その可能性が一番あるな。
俺はμ'sに入れないし、入った瞬間にμ'sじゃなくなるっていうのに。
九人の女神という意味でμ'sなのに、十人になったら変わるじゃないか。てか、女の子じゃないから女神の振りすら出来ないけど。
それから数十分程、雑談をしていたら、不意にコンコンとノックの音が響く。
「はい、どうぞ?」
入ってきたのはスタッフの振りをしているであろうことりと希の二人だった。
帽子を深々とかぶればバレないとでも思っているのかも知れないが、バレバレだ。
「何やってるの? ことりと希」
「ことり? 誰のことですか? 私はミナリンスキーですよ」
「巷で有名なメイド風アイドルやねんけど、玲奈ちゃん知らんの?」
「それはもはや、ただのアイドルじゃないのよ」
それを言うならアイドル風メイドでしょう。と付け加えた俺。
このどう足掻いてもことりにしか見えない人と、似非占い師は何を言っているのだろうか。
本来、頭にいくはずの養分が全部胸にいったんじゃないのか?
口に出さずに思うだけに留めたのだが、話題の女子の表情から笑顔が消えーー。
「……そんなにわしわしされたいの?」
――俺にとっては恐怖の一言を告げる。
目の前の女子は、口角を上げ、目もニッコリとしているのだが、笑顔ではない気がした。
「遠慮するわっ!」
急いで絵里の後ろへ隠れ、天敵から距離を取る。
「希ちゃん。そんなことしなくても、この後のことを考えたら……」
「せやね。この後はあれやもんね」
二人の思わせぶりな言葉を聞いた俺らは顔を見合わせながら困惑していた。
この後にいったい何があるっていうのだろうか。
一抹の不安感と何が待ち受けているのかという好奇心が混ざり合って俺の思考回路を麻痺させる。いつもの俺であったならば、後に起こることを少なからず予想出来ていたはずだが、真面目な絵里に対してそんな度の過ぎた悪戯をμ'sメンバーはしない。したら後が怖くなる。と考えてあっても軽い悪戯だろうと高を括っていたのも悪いかも知れない。
◇
「……はい。これが歌詞と音楽だよ」
レコーディングスタジオに入った俺と絵里に手渡されたのは、一つの音楽プレイヤーと歌詞が書かれている紙だった。
とりあえず、音楽を再生しようと俺は絵里に片方のイヤホンを渡し、もう片方のイヤホンを自分の耳に付ける。
彼女が耳に付けたのをきちんと視界に捉えた後、再生ボタンを押す。
「……こ、こんな曲歌えるかーーっ!」
音楽のみだとかなりいい曲なのだが、一番の問題は歌詞だ。
歌詞カードを見た瞬間に俺と絵里の表情が凍り付いた。絶句、と表現した方が良いだろうか。なんて言葉を放てばいいかわからなくなった。
渡された歌詞だが……、なんというか学生である俺らが歌うには不健全な感じだ。しかも、女同士の恋愛っぽい雰囲気が漂ういやらしい曲。
おそらく海未が歌詞を書いたのだろうが、彼女にこんな才能があったとは思わなかったよ。
「こんなのぜったい歌わないからな」
「えーっ! 歌ったらええやん」
作曲や作詞の出来ない俺はRENとして活動していた際、どんな歌詞でも曲でも我儘言わずに歌ってきたよ。でも、この曲だけは絶対に嫌だ。
いくら選り好みしない俺でも、これはさすがに無理だ。
俺と絵里の歌うパートが逆だったなら、まだ歌えるかも知れないけど。
「じゃあ、せめてオ……私と絵里のパートだけ変えてよ」
この曲のコンセプトは、十中八九『女同士の恋愛』……俗に言う『ユリ』だろう。歌詞の中でも「ユリの迷路」ってあるし。
その女同士のカップリングでも、俺は受けではない方がよかった。
勿論、俺と絵里でユリカップルになるなんてことは絶対にないし、あり得ない。けれども、せめて逆転だけはさせて欲しい。
曲の中で男役が絵里で、女役が俺だなんて。そんな逆転は誰も望んでいない。
「お断りやね」
「なんでっ!?」
「それは、メンバー全員の総意だからだよ」
パートを変えてくれたら歌ってもいいよと言っているのに、俺の意見を完全に否定する希に食って掛かる俺だったが、後ろから聞こえた拒否の理由に驚く。
「……ことり」
「あれを見て」
ことりが指差した方向を見た俺は言葉を失った。
何処のスタジオもそうだろうが、レコーディングを行っている歌手の様子を窺えるガラス張りのモニタールームと言ったらいいのだろうか、音響を弄ったり出来る部屋に絵里と首謀者であろう希とことりの二人を除いた他のメンバーがそろっていた。
「マジかよ……」
思わず女の振りを忘れてしまう程、その光景は異様であった。
「……ここまで来たらやるしかないようね」
歌詞がそういう系統のやつなので、歌うのを渋っていた絵里だったが、皆が期待している様子を見て決心が付いたようだ。が、俺的にはもっと渋っていて欲しかった。そしたら、もしかしたら歌う話がなくなるかも知れなかったのに。
◇
「ねぇ、玲奈。どうせだったら穂乃果達に仕返ししない?」
「え? どうやって?」
絵里につられて結果的に歌うことを決めた俺の快い返事を聞いた後、監視目的のために皆の待つ別部屋に向かったことりと希の後ろ姿を見届け、レコーディング準備をし始めた俺にだけ聞こえるような小声で絵里は呟いた。
「……私に合わせてくれたらいいわ」
そういって歌詞カードに目を通し、ある程度の歌詞を覚えようと努力する絵里の横顔を見て、俺は不意にかっこいいと思ってしまった。
こんな風について来いっていう雰囲気を出してくれる人は凄いな。俺には人を引っ張る力なんてないし、皆といるより一人でいる方がいいっていう一匹狼スタイルだからなぁ。
絵里は女の子なので、かっこいいって言われるのは嫌かも知れないけど、男前って感じがするよ。
『二人とも、準備はいい?』
部屋に付けられたスピーカーから穂乃果の声が響く。
おそらく彼女は巻き込まれた感じだろうけど、申し訳ないが、俺らは全員を対象としているので、俺らの仕返しを黙って受けてくれ。
「私はいいわよ。いつでも」
「……ん。いいよ」
許可を出した直後に俺らはヘッドホンをつけ、マイクの前へと向かう。
絵里と俺の了承の声を聞き届けた穂乃果は「じゃあ、いくよー。二人とも、ファイトだよ」と声を掛けてくれた後、デーデッデーという音楽がヘッドホンから流れ始める。
絵里がどういう作戦で、彼女達に仕返しを行うのかわからないけれども、俺はそれに合わせることしか出来ない。
俺にはどうやったら仕返しを出来るかわからないからね。むしろ、この状況になると、自然とアーティストとしてのスイッチが入るので、余計なことを考えられない。なので、俺が作戦を考えて実行しようとしても、音楽が始まると共にスイッチが入り、レコーディングが終わるまで何も実行出来ない気がするし。
◇
レコーディングを始めて、一分ぐらいが経っただろうか。
一番は何の変化もなく終わらせたので、おそらく一分ぐらいだろう。歌詞を間違えて録り直しなんていうトラブルもなく、ここまで順調に終わらせることが出来たのも、俺と絵里が単に努力家で頑張っているからかな。
自分で言うなって話かもだけど……。
(それにしても、絵里はいつ行動するのだろうか?)
「寂しいのよ私と~♪ ここにいてよ、いつまでもっ!?」
これまでと同じように普通にレコーディングを続けるのだろうなと思い込んでいた俺の身に訪れたドッキリ。
急に隣で誰かが動くような気配を感じ、そちらに目を向けた瞬間――。
俺はビックリしてしまい、声を一部だけ荒げてしまった。
驚愕した理由は、何かが動いたなと視線を動かした場所にいたのは、紛れもなく一緒に録音をしていた相手である絵里だと確証はしていたので、人物に驚くことはなかった。けれども、その相手がいる場所に驚いたのだ。
彼女は俺のすぐ近くにおり、距離にして数十メートルぐらいしかなかった。
自分が何故、こんなにビックリしているのか疑問に思えてくるが、たぶん女性恐怖症だからだろうと思いながらも歌を止めることは決してしない。
歌に影響が出ない程度に力を入れて、絵里を離そうとする。
(えっ!? なんで、こんなに強いのさ)
――だが、決して動くことはなかった。
俺が抵抗するのを絵里は良しとせず、俺の腰に腕を回し、逃げ場を塞いだ後、正面から腰を引き寄せる。
後ろへ下がることが出来ない俺は、その力に抗うことも出来ず絵里の誘導のままに……。
「なぜ……、苦しくなるの?」
そりゃあ、力を出して逃げたら別室組に男だとバレる可能性があるから過剰な力押しは出来ないし、このまま超至近距離に絵里がいるという現状も恥ずかしくて死にそうだから苦しいんだろうね。と口に出して歌っている歌詞と今の心境を合わせたり、別のことを考えていないと歌に集中出来ない。
別室の方へ視線を向けて、助けを求めるも、彼女らも結構、大変な状況らしくこっちのヘルプ信号には気づいてくれなかった。
なんで、海未は自分で描いた歌詞なのに、鼻をずっと押しているのかな。なんか赤いの垂れてる気がするし。
そんで、ことり。穂乃果の目を閉じたのはぐっじょぶだ。このまま全員の目も塞いでくれ。本当にお願いだから。
「……玲奈」
「へっ?」
間奏が終わり、ラストサビへ入る前の盛り上がり場所を迎えるかと思った瞬間。
今まで耳に入ってきていた音楽が止まった。
俺が別室に意識を向けていた隙を狙って、絵里が俺の耳からヘッドホンを外したみたいだ。
――何故、この瞬間にヘッドホンを取ったのかと追求したい気ではいたが、今はレコーディングに集中しないと、とヘッドホンを再び付け直そうと手を動かした俺。
しかし、俺はヘッドホンを手に出来なかった。俺が掴んだのは虚空のみ。自分の首元に下ろされていたヘッドホンを取るのにどうして失敗するのだろうかと疑問に思ったのも束の間。
「ひゃうっ!?」
いつの間にか背後に待機していた絵里に腰を抱かれ、引き寄せられる。
その盛り上がるラストスパートを掛けるのは歌詞上でも絵里からだったので、次の歌い出しは絵里からだと覚悟はしていたものの、思いも寄らないスパートの掛け方だったので驚いて変な声をあげてしまった。
吐息混じりの歌声を耳元で浴びせられた俺は体に力が入らなくなり、所謂腰砕け状態に陥ってしまった。
(……こいつ、俺が耳が弱点だということを知ってて)
正しく人形と言ってもおかしくない力の入らない体を支えるために、絵里は後ろから足の間に自分の足を入れ、これ以上崩れないようにし、片腕で俺の手首を抑え落ちないようにしてきた。
挙句の果てには、歌詞通りに髪を撫でてくる。
その歌詞を歌うのは本当は、俺だったはずなんだが、ヘッドホンを取られて音源がない以上、俺が無暗に参加するのはやめておいた方がいいと本能が言っているので、歌うことはしない。現に絵里も自分がやったということもあり、俺のパートも歌ってくれているので、いいや。
力のないお前なんて余裕だといわんばかりに絵里の行動はドンドンとエスカレートしていき――。
『ストップストップ!!』
『ちょっと待ちなさいっ! アンタたち何やってんのよ!! 年齢制限を考えなさい。こっちには子供がいるのよ!』
別室にて待機していた他メンバーが、さすがにこれ以上はダメだと音楽を停止したみたいだ。
ヘッドホンを取られた俺には、音楽が止まった瞬間がいつかわからないけれども、絵里が歌うのをやめた瞬間だろう。
彼女達の反応が余程面白かったのか、俺を支えることをやめ、腹を抑え爆笑していた。
そんな彼女を横目で見ることしか出来ない俺は、地べたに座りながら苦笑を浮かべていた。まさか、絵里があんな行動に走るとは思いもしなかったよ。
生徒会長という役割についている以上、真面目でいやらしいことなんてしないと、こんなファンサービスなんてないと思っていた。
(アイドルとしての絵里を見縊っていた俺のミスか)
男子として、何か大事なものをなくしてしまったのも、絵里を少なからず生真面目で融通の利かない子だとバカにしていた俺への罰なのだろう。
(まぁ、でも……)
別室組に笑いながら謝っている絵里の楽しそうな姿を見ていると、俺はほっこりとした気分になっていた。
今まで気を張って、色んなものを溜めすぎていた彼女。
そんな彼女が自ら歩み寄っていける仲間がいて、その仲間と楽しそうに笑い合うことが出来ているんなら、俺が受けた些細なダメージぐらいいいかな。
途中で流れた曲なんですが、わかりますか?
ヒントは餃子です。
それと、希ファンの皆様、大変すみませんでしたっ!
希の誕生日の際はこれの反対Verも書く予定なので、許してください(泣)
このぐらいの歌詞なら大丈夫ですかね。ダメそうなら消すんですけど。
※とある手書きMADに影響されて書いたものなので、大まかなシナリオが類似していると思いますが、すみません。