「虚刀流、七代目当主‼ 鑢七花‼ 参るっ‼」
「
by 鑢七花、鑢七実(刀語)
※推奨BGM『美シキ歌』(『NieR:Automata』)
結社《
ゼムリア大陸全土、否、全人類最強と言っても差し支えない伝説の”絶人級”の武人。
その強さは最早人に非ずとまで称された彼女が、《結社》にて率いた部隊こそが《鉄機隊》。
かの《獅子戦役》の折に率いた一騎当千の《鉄騎隊》に肖るようにして組織されたそれは、250年前からの唯一の戦友である《爍刃》カグヤを筆頭として長い間《結社》最強を謳ってきた。
《侍従長》リンデンバウムを筆頭とし、主に《盟主》の傍回りを固める鉄壁の守護者―――《
執行者No.Ⅴ《神弓》アルトスクが率いる、《結社》に仇為す”裏切者”を確実に抹殺する白の懲罰部隊―――《
執行者No.Ⅺ《天剣》レイが揃え上げた、後に大陸最強クラスの猟兵団と相成った《月喰らいの神狼》を掲げる強化猟兵団―――《独立遊撃強化猟兵中隊《第307中隊》》。
それらの魑魅魍魎の集まりであるかのような怖ろしいまでの強さを持つ部隊の中ですら、彼女たちは”最強”と謳われていたのだ。
そんな《鉄機隊》の歴史の中でも、特に黄金期と呼ばれていた時期。―――今現在、”
主と同じ”絶人級”の武者を筆頭に頂き、そして―――ある一人の騎士を副長に据えていた時分、《鉄機隊》はまさしく最強であった。
その騎士は、過去に類を見ない程に《鋼の聖女》に才覚を見出され、武にも文にも突出した実力を開かせた才媛。
慈悲深く、正義を誇り、無用な殺生は決して好まず、しかしこの世の厳しさと不条理を酸いも甘いも噛み分けていた。―――かの《剣帝》レオンハルトと同じく、僅か20代という若さで武人の道の深淵のその先、《理》に至った実力者。
そんな彼女が《鋼の聖女》より直々に承った二つ名は―――《
その騎士としての生き方は後進の騎士達に多大な影響を与え、そしてまた、その死は一癖も二癖もある《結社》に属する者達を大勢嘆かせた。
その者の名は、ソフィーヤ・クレイドルと言った。
―――*―――*―――
「若気の至れる卿からは『”自愛”を貰おう』。―――何、驕った卿から再び全てを奪うのも、また一興というものだ」
力に驕る―――という感覚を、レイは抱いたことがなかった。
何せ、武術の師として仰いだのがあの色々な意味で常識外れの女傑だ。少しでも力に溺れようものならば、そんなものは
だから、もし”驕っていた”事があったのだとしたら、それは”力”ではなく”生き方”にだろう。
武人として少しはまともになったのであれば、今度こそは何かを守れる生き方が出来るという―――人生とはそんなに甘くないのだが。
故にこそ、イルベルトには
愚かに過ぎる。
殺すのも、斃すのも、容易い事だ。―――”護る”事に比べれば。
『―――そうだ。お前のその驕りが、”何かを救おう”などという曖昧な想いが……あの人を殺したんだ』
全く以て忌々しい、憎いと、殺意の言葉が脳裏を過る。
それを煩いと謗る権利は、レイにはなかった。なぜならそれは、本当の事なのだから。
『故にこその、その罪だ。一生を掛けて償い―――しかしそれでも償いきれない程の』
「そうだろうな」
言われずとも、この慙愧は墓場の棺桶の中まで持っていくと決めている。
「だからこそ、奴の奸計に踊らされたまま此処で死ぬわけには行かねぇ。……折角生かされた命だからな」
『なら、尚の事此処で姉さんに殺されれば良い。生かされた命なら、奪われるのもまた道理の筈』
「そんな親不孝―――いや、姉不孝な事できるかよ」
先程涙を拭った眼尻は、もう既に乾いていた。
眼前で闘気を振り撒いているのは、確かに義姉であり―――しかし当の本人とは異なる存在だ。
これは、慙愧の起源を現した、泡沫の夢。
醒めて覚ませば、
だからこそ、剣鋩を向けるに迷う時間は、ただの一瞬だけで済んだ。
普段は自然体こそが《八洲天刃流》の正式な”構え”であるが、今回ばかりはその長い刀身を地面に向け、腰だめに構えるような形をとる。
そして、まるでただの気まぐれであるかのような動きで、ソフィーヤは漸く振り向いた。
長いそれを後ろで優雅に結び上げた蜂蜜色の髪、悍ましい色が蠢く煉獄の中に在って、まるで宝石のように煌めく群青色の双眸。
普通の感性ならば、それを美しいと言えない筈は無いだろう。だがその顔には、嘗てレイが良く見ていた柔らかな笑みはない。
そこにあったのは「無」であった。何も考えず、何も感じず―――まるでそんなモノであるように。
だがしかし、だからといって容易く突破できるような存在ではない事もまた分かる。
”達人級”―――それも《理》に至った武人だ。”絶人級”という、ヒトである限りは決して辿り着けないような未知の領域に足を踏み入れている出鱈目な者達を除けば、武芸の頂点の一角に座する者なのだから。
「《八洲天刃流》レイ・クレイドル―――推して参る」
最初の名乗りだけは、正々堂々と。
例えそれが義姉の耳朶に届いていなくとも、この女性と手合わせをする際の始まりは、いつもこうであったのだから。
それと同時に、ソフィーヤが携えた
右に大盾、左に
「【滾れ我が血潮。
自己暗示の文言を口にして、レイは初手から【静の型・
闘気に黄金色が混じり、一息を吐くごとに全身を巡る血の流れも早くなる。此処に至って様子見などは不要であり、初手から全力を出して行かねば一瞬でペースを持って行かれかねない。
次いでレイは、丹田に氣を込めて、溜まった闘気を口から一気に放出する。
「
【静の型・
やはり無理か、とやや自虐気味に笑う。そうだ、この人はこの程度でどうにかなる武人ではないのだから。
踏み込みは、一歩。
【瞬刻】を発動させればその一歩でソフィーヤを斬撃の圏内まで収めることが出来る。
初撃から遠慮など一切ない。再度鞘に仕舞い込んでいた白刃を引き抜いて、正面から神速の連撃を叩き込む。
【剛の型・散華】。優に三桁に上る斬撃が縦横無尽に空間を埋め尽くす中―――しかしソフィーヤは、その光景に眉一つたりとも動かさない。
右手に携えた大盾を、前に。僅かの間断もなく繰り出された、一撃一撃が必殺に成り得るそれらを残らず弾き返していく。
”盾”を扱う際の、基礎技能である。―――彼女はその”基礎”を”達人技”にまで昇華させただけ。
ソフィーヤ・クレイドルの戦い方は昔から何一つ変わっていない。右の盾で攻撃の全てを受け止めてから、左の
しかしその戦法に、”達人級”らしい不条理さが無いと判断した者から、彼女の”不条理さ”に溺れていく。
「防御優先の”達人級”」―――それがどれだけ怖ろしいものかを初見で理解できるのは、同じ階梯に立った者だけだ。或いは……彼女の伝説を知っている者だけ。
『《鋼の聖女》に膝を付かせた事のある武人』―――それは大陸全土を見渡してみても片手の指で数えられる程にしか存在しない。
そんな中ソフィーヤは、その偉業を成し遂げた武人の一人であった。本気の殺し合いではない、という条件こそ付いていたが。
その防御は基礎の延長線上ながら、頂点に至った者の超常的な攻撃すらも凌ぐ堅牢の最たるモノ。
その盾は神速の剣ですら容易く防ぐ。《鋼》より賜った槍の武技は、あらゆるものを貫き徹す。
聖楯《エイジス》―――ソフィーヤ・クレイドルという武人が携える事によって何物も通さぬ盾となった
その武装と武技を以てして―――しかしそれでも彼女は死に至ったのだ。
レイは思う。
もしあの時、”自愛”を奪われた自分が、それでも自分を律し続ける強さを持っていれば。
自分の命と引き換えにソフィーヤがイルベルトに聖楯を奪われる事もなく、煉獄に引きずり堕とされる事もなく―――イルベルトと手を組んだザナレイアに殺されることも無かった。
強い
いずれは真っ当なヒトの身のままに”絶人級”に至れる可能性があった武人を目の前で散らせてしまった罪悪感……も勿論あったが、何より自分が姉と呼んで慕っていた
もしも義姉が煉獄で自分への呪詛を吐き続けているというのなら、その全てを受け止めよう。もしも自分が没した後に煉獄に堕ち、そこで彼女に永劫殺され続ける未来が待っているのなら、それも受け入れよう。
何故ならそれだけの事をしでかしたのだ。因果があるのならば応報が待っているのはこの世の摂理である。
だが今は、今だけは。
死神に魂を渡すのは、それからだ。死者の業が渦巻くこの世界に身を置き続けるのは
「―――らァッ‼」
【剛の型・
決して筋肉に塗れた躰では無かった。寧ろ細身と言っても差し支えがなかった肢体の何処にそんな力が有るのかと改めて疑問に思ってしまう。
だがそれも当然の事だ。今は”
直後、放たれた
間合いを詰めて戦う剣士としてはここで自ら間合いを開けるのは愚策なのだが、彼女を相手にする時に中途半端な躱し方はそれこそ愚策になる。
その理由は、《鋼》譲りの攻撃の余波。重量級の武器を空間すら抉り取りかねない速さで以て刺突する際、その余波は左右に拡がっていく。
生半可な武人が放ったものであればわざわざ躱すまでもないそれだが、ソフィーヤが生み出すそれは、”余波”という言い方こそすれど、それだけで氣で強化した人体をズタズタにする程度はしてみせる。
実際、完全に躱した筈のレイの頬と肩口の皮膚が時間差で裂かれ、生暖かい血が滲む。これだけの完璧な回避をしてもなお、その攻撃を躱しきる事は出来ないのだ。
こちらの攻撃は牽制の一撃に至るまで完全に受け潰され、逆にあちらの攻撃は回避、防御共に困難を極める。―――そうした戦いを続ければ、どれだけ強靭な精神力を持っている武人であっても、いつかは必ずどこかのタイミングで
そうなれば、刈り取るのは容易い。つまるところ彼女が最も得手としている戦いは一対一。―――その長期戦だ。
それをレイは良く理解している。し過ぎていると言っても過言ではない程に。
基本的に短期戦を想定する《八洲》の剣と、ソフィーヤの戦い方は相性が悪い。生前に数多くこなした仕合の全てが受け潰されて負けたものであったのだから。
その二の舞になるわけには行かない。弱いままの自分の姿を、この
まずは一撃。それが《イージス》の表面に吸われて防御されるのは想定内。
そして次いで放たれる刺突。槍の穂先に直撃する事だけを避け、最低限の回避で真横へと回り込む。
だかそれだけでは、余波を躱す事はできない。だが今は、回避するつもりは最初からなかった。
「【静の型―――
それは剣撃ではなく、
”達人級”にまで至った剣士が放てば弾丸ですら弾く程の強烈な剣圧を生み出す事が出来るが、それを以てしてもソフィーヤが放つ余波を防ぎ切れるかどうかは賭けのようなものであった。
最適な刹那のタイミングを見極め、最も剣圧が厚くなるように調整して技を放つ。―――そこまでの配慮を一瞬で行っても尚、余波の一部は【風鳴】を貫いて再びレイの体を裂く。
裂かれた制服の隙間から血が噴き出す度に激痛が走る。が、それがほぼ気にならない程度には、レイもこの剣戟に入り込んでいた。
或いはこんな状況でも尚、嬉しかったのかもしれない。
武人として嘗ては高嶺であった人物にこの刃を届かせることが出来るかもしれない。己の慙愧の起源を見せつけられるこの場に於いてそれは不純な想いであったのだろうが、ただそれでも、一人の武人として、”達人級”として、もう二度と会う事が叶わない筈の人と再び会えたのだから。
「【剛の型・
そして、肉を斬らせて骨を断つ覚悟で放った刃は大気を切り裂きながら、鎧の継ぎ目になっていた部分を的確に貫いた。
その影響でソフィーヤの頬に自らの血が僅かに張り付き―――何故だかその瞬間、光が宿っていなかったその群青色の双眸に、一条の魂が戻ったような感覚が届く。
「―――『ディザーズ・ロザリオ』」
その玲瓏とした声を聞くのもとんと久方振りであったが、それに乗せた言葉がどれだけ危険なものか。それが理解できていたからこそ、【瞬刻】を使って飛び退こうとして―――。
横っ腹を、抉り貫かれたかのような衝撃が襲う。
「ガ……ッ⁉」
まるで蹴り飛ばされた小石のように何の抵抗もできずに吹き飛ばされ、煉獄に生え連なっていた岩に当たったことで改めて体に重力が戻る。
空気が、漏れる。
大量出血の所為で意識が朦朧としながらも右の脇腹に手を当てると、案の定、肋骨の部分までが抉り取られていた。
早急に氣を操って出血を最低限に留め、零れ落ちそうになる内臓を縫い止めておく。―――こうなってしまっては、もはや先程までのように速さで掻き回しながら戦い続ける事は出来ない。
幸い、ここは深層心理の奥の奥だ。こちらでこの体が死に至らなければ、現実世界の肉体に影響はない。
ならばすべき事はただ一つ。―――死に至る前に倒せばいい。
「(……ま、安易にそれが出来りゃ苦労しねぇけどなぁ)」
喉に溜まった不快な血を吐き出しながら、レイはシャツの裾で口元を拭い、再び刀の柄を握り締める。
そうして僅かに震える足に渇を入れながら立ち上がり、前を見据えると……。
「――――――」
「……ぁ」
ソフィーヤの双眸から一筋ずつ―――恐らくは彼女自身意図していないであろう涙が垂れていた。
その様相は茫然としているように見えて、思わずレイは口を開く。
「姉、さ―――」
「『ディザーズ、ロザリオ』っ‼」
対処は、一瞬だけ遅れた。
しかしそれでも辛うじて自分の身に槍の穂先が届くまでに技が間に合ったのは、ソフィーヤの初動がその時だけ分かりやすかったからだろうか。
【静の型・
ここだ、とレイは確信する。
今だけだ。ソフィーヤ・クレイドルという鉄壁の牙城を突き崩すタイミングは、今この時を置いて他にはない。
「
吼える。己の中に残った全ての氣を燃やし尽くして、ただの一瞬に全てを賭ける。
それこそが、八洲天刃流【静の型・
どれだけの時間、燃やし続けていられるかは分からない。ただ一つ分かるのは、次に振るう一刀に全てを乗せ、それで勝利を掴み取らねば……その時点でレイの敗北は決定する。
まさに諸刃の剣だ。八洲の剣士がこの技を使う時は即ち、自らの敗北の可能性が濃厚であると悟った時に他ならない。
だからこそ、それだからこそ、レイはこの場面でこの技を使用することに躊躇いはなかった。
こうまでして、ここまでして―――それでも手が届くかどうか分からない領域に立っていた義姉。その強さを、骨の髄まで再認できるのだから。
「罷り―――通る‼」
下段に長刀を構え、そして残った闘気を惜しみなく注ぎ込む。
すると、純白の刀身が氣力を吸ってその長さが際限なく伸びる。伸びた分の刀身は鋼のそれではなく、触れただけであらゆる物を斬り裂き断つという―――ただそれだけの概念が付与された圧縮された氣力である。
「奥義―――【閃天・
ただ、横に薙ぐ。
それだけだというのに、刀身に触れた煉獄のモノの一切が紙細工のように儚く切れ―――空間さえも真一文字に裂けていく。
斬れろ、斬れろ、斬れろ斬れろ斬れろ斬れろ―――届け、届け、届け届け届け届け届け届け届け届け――――――
文字通り死力を振り絞ったその表情を見て、果たしてソフィーヤが何を思ったのかは誰も知らない。
ただそれでも、自らに迫りくる星々の輝きよりも尚美しく、そして力強い純白の刀身を見やって―――まるで愛おしいものを見るように微笑んだ。
「『聖技・ヘヴンズクロス』‼」
だからこそ、だろうか。
彼女も、彼女が放てる最強の技を以てそれを迎え撃った。
白と金が交叉して、まるでこの世界を構成している全てが捻じ切れてしまいそうな圧力が生まれる。
盾ではなく、槍で以て迎え撃つ―――それは、後の先を掲げているソフィーヤが普段取るべき行動ではなかった。
これが他の相手であったのならば、例え”斬る”という概念そのものが付与された刃が迫ろうとも、それでも彼女は自らの聖楯で以て受け止めにかかっただろう。そして、もし今それをされていれば、レイは間違いなく負けていた。
恐らくソフィーヤ自身も、それを十二分に理解していた。今のレイでは、自分の防御を貫ける奥義を二度放つのは不可能。だからこそ、この奥義を凌いでしまえば”勝つ”のは容易い、と。
だが、彼女はそれをしなかった。何故か。
「……弟の全力も受け止められずに、何が武人ですか。何が―――姉ですか」
その口から紡ぎだされた言葉は、極限の技の凌ぎ合いの音に完全に搔き消され―――レイの耳には届かなかった。
レイ・クレイドル 戦技詳細(原作ゲーム上における性能)
■静の型・風鳴
CP:25
硬直:20
移動:なし
範囲:円LL(自己中心)
効果:DEF+40%(3ターン)、封技(100%、5ターン)
■静の型・修羅軍
CP:50
硬直:40
移動:なし
範囲:自己
効果:STR/SPD/DEF/ADF/MOV+200%(1ターン)、「全状態異常・能力低下」無効
2ターン後に「気絶」(10ターン)※
※このクラフトは「気絶」が解消できるまで重ね掛け不可能。また、この「気絶」は「グラールロケット」等で防ぐ事はできない。
■Sクラフト■閃天・十束剣
CP:100~
硬直:50
移動:なし
範囲:全体
効果:即死(100%)※
※この「即死」は「グラールロケット」等で防ぐ事はできない。
■ソフィーヤ・クレイドル 戦技詳細(原作ゲーム上における性能)
■セント・エイジス
※この戦技(クラフト)はパッシブスキルである。
※《ブレイク》状態でない限り、被ダメージ-99%。
■ディザーズ・ロザリオ
CP:50
硬直:40
移動:あり
範囲:直線LLL(地点指定)
効果:気絶(100%)、DEF-75%
■Sクラフト■ヘヴンズクロス
CP:100~
硬直:50
移動:あり
範囲:全体
効果:-