次の日、俺が風紀委員に顔を出すと御坂と白井を除く全員が嫌そうな顔をする。
……まぁそうだわな。喧嘩を回避するためとはいえ、女子中学生を泣かせたのだ。弾圧されても仕方ない。まぁこれで俺は仕事に専念出来る。俺はいつの間にか自分の指定席となった机でパソコンをいじる。すると、なんとなく怒った様子の佐天が俺の横に来た。
「ちょっと比企谷さん。初春になにか言うことあるんじゃないんですか?」
「……」
俺は視線だけ佐天に向けると、すぐに自分の仕事に戻る。悪いが、昨日の地震のおかげで食器が割れたらしくて若干イライラしている。さっさと解決させたいので仲直りなんてしてる暇はない。
「きいてるんですか!?」
うるせぇな。無視してんのがわかんねぇのかよ。
「文句言う暇あったら仕事しろよ。世の中理不尽なことばかりだ。たかだか不満の一つで突っかかって来たら将来働けないぞ」
「適当なこと言って誤魔化さないで!」
「誤魔化してねぇよ。俺は昨日、間違ったこと言ったとは思ってねぇし、この地震はまだ続いて怪我してる奴も多い。今、俺達がやるべきことはこの事件を早く解決させることだろ」
「……っ」
はい論破。分かったら仕事するか帰れ。元々、風紀委員でもない奴がいていい所じゃねぇんだよ。と、思ったがこの子止まらない。
「違います!今やるべきことは初春と仲直りすることですよ!比企谷さんがあんなこと言わなきゃ…」
「もし、俺が泣かしたのが初春じゃなくて上条だとしたらお前は同じこと言えんのかよ」
「……っ」
「昨日言っただろ。仕事に私情を持ち込むな。てかまず風紀委員でもない奴がここにいんなよ。ここにいるならある程度仕事して見せろ」
「この…っ!」
「佐天さん!」
手を振り上げた佐天さんをメガネさんが止める。つーかいい加減名前覚えたいわ。
「比企谷くん。言い過ぎよ」
「間違ったこと言ってないでしょ。そもそも、こいつ風紀委員じゃないっすよね?もし仮に今回関わってる奴らが俺達の知らない学園都市の事情を知ってる相手だったら、どうするつもりですか?知っちゃいけないことをたまたま佐天が知って狙われるかもしれないんですよ?」
「それは風紀委員だって同じことでしょ」
「違う。風紀委員だから一般人を巻き込むわけにはいかないんですよ。仮に佐天が怪我をしてそのことが俺達より上の連中に知れたら177支部は多分消えるでしょうね」
まぁそうなったらなったで俺の仕事は消えるからいいんだけどね。俺の意見に悔しくも納得したのか、誰も追い討ち掛けて来ない。
「だからまぁあれだ。佐天はこの件に関わらないでくれるとありがた」
「出てって下さい」
シンッとした声がした。幼い声なのに透き通る声。
「う、初春……?」
白井が心配したように声を掛ける。それを気にせずに初春は怒鳴った。
「佐天さんまで傷付けるなら出てって下さい!」
…まぁ、そうなるか。俺は言われるがまま立ち上がり、帰る準備をした。
「ちょっと、初春さん…あんたも本気で帰るの!?」
「あぁ、戦力外通告喰らってまでここにいる必要ないだろ」
御坂に返事だけして俺はさっさと支部を出ていった。
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「ちょっとあんた!」
支部を出てってすぐに後ろから声が掛かった。
「なんだよ御坂」
「いくらなんでもアレは言い過ぎよ!」
「事実を言ったまでだ。それに、お前だって例外じゃない」
「は、はぁ!?私を誰だと…」
「いくらレベル5でも所詮はただの中学生なんだよ。もし、今回の事件に春上ではない黒幕がいるとしたら、すでにお前が風紀委員に協力してることがわれてるかもしんないんだぜ」
「だからなによ!そんなのまとめて…」
「逆だ。向こうが電撃対策を練ってくるかもしれない。もしくは御坂の周りの奴を人質にするかもな」
「……」
「ま、俺は偉そうなこと言うつもりはない。精々、怪我しないようにな」
それだけ言って俺は自分の家へ向かった。御坂もそれ以上はなにも追求して来なかった。
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風紀委員177支部。あ、一応言うけど語りは八幡じゃないからね。
「むかつくむかつくむかつく!」
戻ってきた御坂はご立腹のようで大声を立てながら椅子に座り込む。
「でもあの方の言ってることは間違ってませんわ。言い方はあれですけど…」
「だったら、やっぱり私帰った方がいいのかな…」
佐天が自虐気味に呟いた。そんな佐天の肩をポンっと叩く御坂。
「そんなことないわよ!あんなバカの言うことなんて気にしなくていいわ。それより、これからどうするか決めましょう」
御坂のその一言で全員が機能する。
「私、春上さんともう一度話して来ます!」
「なら、私はテレスティーナさんにレベルアッパーのこと話してくる。もしかしたらなにか関係があるかもしれない」
「私は比企谷さんとパトローr…」
言い掛けた黒子の口が止まる。もう比企谷はいないのだ。
「パトロールに行って参りますわ」
すぐに言い直してテレポートする黒子。まぁ、こんな感じで177支部は動き出す。
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※八幡に戻ります。
「たでーまー」
「おかえりなさい」
家に戻ると、神裂が出てくる。
「どうしたのですか?今日は随分と早いですね」
「追い出されて出禁食らった。明日から行かねーから」
そう言って部屋に上がり込み、ソファーに寝っ転がった。
「なんか…大丈夫ですか?」
「あ?なにが」
「大分疲れてるみたいなので」
「平気だ」
「『救われぬ者に救いの手を』。これが私の魔法名です。なにかあるなら話くらい聞きますが」
「ちなみに俺の魔法名ってなんだったの?」
「えーっと、確か…『魔法名とかポリシーとかモットーとか、そういうのはわざわざ宣言するものじゃなく、自分の中で秘めているべきもの』でしたっけ…」
「実に俺らしい腐った魔法名だな」
なんか逆に安心しちまったよ。
「で、なにか困ったことでもあるのですか?」
「別に。むしろ正規的に仕事が消えてラッキーだな」
「そう、ですか…なら無理には問いません。でもあまり無理しないで下さい」
「……うす」
そう返事をすると、俺はそのまま寝てしまった。
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「……きて下さい」
声がして起き上がると、目の前に神裂の顔がある。俺の体にはタオルが被せられていた。
「夕食、出来ましたよ」
「……うす」
……今なんつった?
「え?夕食?」
「はい」
「今、何時?8時回りました」
やべぇ、完全に寝すぎた。夜寝れねーよ…。
「ほら食べましょう」
「お、おう…」
そのまま食事タイム。黙々と飯を食ってると、インターホンが鳴る。うちは新聞は取ってない。うーわ…嫌な予感しかしねぇ…。そんな俺の気も知らずに神裂は玄関に向かう。
「はい、どちら様ですか」
「おい待て神裂」
玄関を開けるとどっかで見たことあるツインテールがいた。うーわ、よりによってお前か…。
「あら?比企谷さんのお宅ではないのですか?」
「あ、えーっと…比企谷ならいますよ。どうぞ上がって下さい」
そう言って白井を部屋に上げる。
「比企谷さん。少々、お話しが」
そこまで言って言葉を止める白井。なぜ止めたかって?俺がもっさりもっさり咀嚼してたからだ。
「……随分と家庭的な暮らしをしてるのですね」
ちょっとタンマ。今飲み込むから。
「ゴクッ……ふぅ。で、なんか用か白井」
「もう、来ないつもりですか?」
「どうだろうな。ただ今行っても今日みたいに言い合いになるのは目に見えてるしなぁ…黄泉川先生に怒られたら行くかも」
「なんか、嫌にリアルな解答ですのね…」
こめかみに手を当て、頭痛を抑えるように言う白井。
「まぁまったく来ないわけじゃないならいいですの。でもあなたがいなくなると私は困りますわ。だから、なるべくな来て欲しいのですけど…」
「お前が来て欲しくてもまわりがいらないって言ったんだから無理だろ。社会ってのは多数派が勝ち残るんだよ」
「そう、ですか…」
「俺一人が抜けたくらい大した問題は出ないだろ。それに、いらないって言われた以上、むしろいない方が捗るってことだ。俺はしばらく自宅謹慎してるよ」
「……分かりましたの」
しょんぼりした感じで立ち上がる白井。そのままテレポートした。まぁ、結局俺は仲間なんて出来ないということだ。例え掴みかけても必ずどこかで失敗し、落とす。いつか、上条も神裂も俺から離れていくだろう。どうせ失うなら最初から必要ない。だから俺はボッチのままでいい。