俺、ポニーテールになります。   作:明智ワクナリ

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『次元を渡り歩く痴女』

リザドギルティとの激戦を勝利しなんとか総二の実家に辿り着いた俺たち一行。

 

トゥアールの認識攪乱によって無事に辿り着けたはいいものの、着いた頃には日が沈み始めようかという夕方。辛くも勝利を収めた俺と総二ではあったが、想像を絶する変態との戦いは予想以上に俺たちの体力を奪っていた。

 

途中で唯一元気溌剌としていたトゥアールは愛香と純の手によって松葉杖と化し、肩を貸すという行為に新たなレパートリーが生まれた歴史的瞬間の目撃者となったが、残念ながら疲労困憊の俺たちにはそれを祝福する力すらなかった。

 

しかし、やっと戻ってこられたという安息の時間もつかの間、新たに浮上したある問題を前に俺たちは喫茶店の裏口で緊急会議を開く羽目になっていた。

 

「まずいな…………やっぱり母さんが帰ってきてる」

 

そう、その問題とは総二の母・未春さんである。

 

諸々の事情を聴くためにトゥアールを連れてきたまでは良かったが、彼女を未春さんにどう説明するかが問題となっているのだ。いきなり接点もない美少女を堂々と連れて行くわけにもいかず、かと言って『異次元からツインテールを狙ってやってきた怪人を倒す為に力をくれた人なんです』なんて突拍子もない馴れ初めを話すわけにもいかないだろう。

 

なにより、

 

「まあッ!総二様のお母様が帰っていらっしゃるんですか?善は急げと言いますし早速ご挨拶を――――」

 

「せんでいいわァッ!!」

 

「ご両親よりも敷地への挨拶が先なんて固過ぎですうううううううううううううううッ!!?」

 

愛香の剛腕によって顔面から地面にご挨拶しているトゥアールを未春さんに会わせるのは少し危ない気がする。その懸念は総二も同じだったらしく、

 

「やっぱり母さんにはトゥアールのことを伏せておこう。…………というより母さんに会わせるのは色んな意味でまずい」

 

真に迫るような真剣な表情で作戦を立案する。しかしその一方で、

 

「でもどうやって連れて行く気?おばさんに気付かれないようにって言っても結構なリスクがあると思うわよ」

 

「た、確かに…………」

 

愛香の意見に俺はつい頷いてしまった。

 

彼女と知り合ってまだ二四時間も経っていないというのに、愛香の懸念しているリスクがありありと想像できてしまう。

 

しかし、かといって他に方法があるわけでもない。さっきまで使用していた認識攪乱はエネルギー切れで使えないみたいだし、ここは多少のリスクを踏んででも未春さんに気付かれぬよう侵入する他ないだろう。

 

そこで愛香が恐ろしいことを呟き始めた。

 

「いっその事バッグか何かに詰め込んでやろうかしら」

 

人差し指を顎に添えるという非常に女の子らしい仕草を取りながら、平然と猟奇的な作戦を口にする我が幼馴染。

 

…………おかしい。花の女子高生というのはもっとこう清らかな存在じゃなかっただろうか。俺のイメージ像では間違ってもこんな言葉を使っちゃうお転婆っ子ではない。

 

しかし現実とは常に非情なもの。第三者の介入によって俺の桃源郷は一瞬にして打ち砕かれる。

 

「…………愛香、ナイスアイディア。トゥアールそこに座って」

 

「何を言ってるんですか純さん、冗談にも程がありますよ~。確かに体の柔らかさには自信がありますけど、モノには限度というものがあるので手際よく梱包しないでくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!?」

 

我が軍最強武将の一人、純が愛香の思想に賛同してトゥアールを梱包し始めてしまったのだ。

 

同時に俺の中の『花の女子高生像』は大気圏を超え、太陽系すらも通り抜けて遥か宇宙へと飛びだってしまう。

 

さようなら輝かしい青春、ようこそ混沌の世紀末。人の心というのはこうやって荒んでいくのだろう。

 

「ちょっと二人とも、いつまでも遊んでないで早く行くわよ」

 

後ろから愛香に声をかけられ、黄土色の荒野と化した世界から現実に引き戻される。振り向いてみると総二が裏口のドアに鍵を差し込んでいる姿が見えた。慎重に行動し過ぎているせいかピッキングを試みている空き巣に見えてしまう。

 

「…………よし、鍵は開いた。それじゃあ行くぞ。母さんにはバレないよう、そっとな」

 

まずドアを開けた総二が先手を切り、次に俺、愛香という順で潜り抜けていく。しかし四番手に差し掛かったところで俺たちの危惧していたことが現実となる。

 

「いやあ、とてもいい裏口ですねえッ!この木目の柱のデザインなんか―――デュフゥッッッ!?」

 

突如として自宅訪問番組のリポーターと化したトゥアールの両脇腹に、愛香と後ろに控えていた純が流れるような無駄のない動作でコンマ一秒のズレもなく同時に肘鉄を突き刺す。

 

必殺仕事人もかくやと思わせる二人の活躍によってホッと胸を撫で下ろす俺と総二。しかしアクシデントはこれで終わりではなかった。

 

「あら~、総ちゃん帰ってきたの?」

 

「―――――――――ッ!?」

 

未春さんに気付かれるという最も恐れていたことが起きてしまったのだ。

 

いつもならばここで普通に挨拶が出来るものの、後ろめたさがあると判断が鈍るのが人間というもの。しかもトゥアールというとびきりの隠し事を抱えている俺たちにとって、この不意打ちにも等しい未春さんの声は効果覿面だった。

 

「こ、こんばんはおばさん!愛香です!ちょっとおじゃましますねッ!」

 

「―――うおッ!?」

 

戸惑う俺たちを他所に愛香が大きな声で挨拶をしながら総二の腕を引っ張って台所に向かう。どうやら愛香が機転を利かせて未春さんの意識を逸らす作戦に切り替えたらしい。

 

その行動にいち早く気付いていた純がトゥアールを引っ張りながら俺にアイコンタクトを送ってくる。俺はそれに無言で頷き返し、愛香たちが未春さんと談笑している隙に階段を上って総二の自室へと急いだ。

 

◇◆◇

 

「そわそわ、そわそわ」

 

なんとかして当初の目標である総二の部屋に辿り着くことに成功した。純と俺も未春さんに軽く挨拶をしておき、紅茶やらお菓子をテーブルに広げたところで全員同時に脱力する。

 

「そわそわ、そわそわ」

 

なぜ友人の家に上がるだけでこんなにも緊張しなくてはいけないのだろうか。そう思うと紅茶を啜る度に今までの行動が馬鹿らしくなってきてしまった。

 

「そわそわ、そわそわ」

 

「うるっさいのよあんたッ!擬音を一々口に出すんじゃないわよ!!」

 

「なんですかもう。私と違って胸すら擬音がつかない程地平線だから怒ってるんですか?大丈夫です、そんなあなたにも擬音はちゃーんとありますよ。そうですねえ…………ゴリゴリとか」

 

「アンタの胸からその擬音が聞こえてくるまで磨り潰してやるわ」

 

「あああああああときめきよりも摩擦熱で胸がバーニングウウウウウウウウウウウウッッ!!!?」

 

部屋に入った時から寸分違わぬトゥアールの姿勢に業を煮やした愛香が鉄拳制裁を下した。

 

どうにも男の部屋が気になるのか、トゥアールはここに来た時からずっと辺りを見回しているのだ。もしかしたら異性の部屋に入るのはこれが始めてなんだろうか?

 

「…………それにしても随分元気、あの技で倒れなかったのはあなたが初めて」

 

「っと、言われてみればそうね、割と本気でブチ込んだのに。普通だったら二日は気を失う一撃よ」

 

さらりととんでもないことを口にする幼馴染たち。二日は気絶を強いられるような強烈な一撃を躊躇わず使える彼女たちに畏敬の念すら覚える。

 

一方、そんな少女たちの狂言を真正面から受けてもビクともしないトゥアールは、誇らしげにえっへんと大きな胸を突き出してみせた。

 

「ふっふ~ん。そりゃそうですとも、このトゥアールさんはその程度の攻撃で気を失う程弱くはありませんよ。これからいろんな経験を経て総二様と良人様のあつ~い洗礼をブチ込んで――――」

 

「…………私の洗礼を今ここでブチ込んでもいいよ?」

 

「もらうなんておこがましくてできませんねえHAHAHAHAHAHA」

 

純の瞳からスッと光がなくなると同時に、何かを言いかけたトゥアールは命の危機を察知したのかワザとらしく笑い始めた。

 

「それより本題に入ろうよ。時間だってそんなにあるわけじゃないんだし」

 

何故か背中に妙な寒気を感じたところで俺は慌てて本題へと話しを戻す。これ以上この二人にトゥアールの相手をさせていたら日が暮れるどころか明けてしまいそうだ。

 

「…………すみません、お恥ずかしいところばかり見せてしまって。お、男の人の部屋にお邪魔するのが初めてだったので、その、つい…………あはははっ」

 

と、照れたようにはにかみながらねぶるような視線でがっつりと室内を観察していた。…………女の子にとって男の部屋とはそんなに気になるものなんだろうか。言動と行動が噛み合っていない彼女に俺はそんな疑問を浮かべる。

 

「と、とりあえず落ち着いてきたところだし、そろそろ俺たちの状況について説明してもらえるかな」

 

「…………どうしよう、二人分の愛なんて私に受け止めきれるかな…………」

 

「そうだな。俺たちが貰った力とあのわけのわからない変態について聞かなきゃいけないことがたくさんある」

 

「…………ううん、挫けちゃダメよトゥアール。貴方ならきっとできるはず、これまでだってずっと頑張ってきたじゃない。さあ勇気を出してもう一歩踏み出さなきゃ…………!」

 

「話が噛み合わないとかそんなレベルじゃないわねこれ」

 

あまりに呆れすぎてツッコむ気すら起きない愛香。

 

(あ、あれ?おかしいな…………俺、ちゃんと日本語で話してたよね?)

 

愕然とするほど会話のキャッチボールが成り立っていない。投げたボールがことごとく場外ホームランとなってしまうという状況に俺は困惑せざるを得なかった。

 

すると、突然トゥアールが佇まいを直し真剣な表情で正面を向いた。

 

「オホン、では前座はこれぐらいにして本題に入りましょう。ですが、愛香さん純さん、お二人はお疲れでしょうし帰ってはどうですか?明日にでも書面にしてポストに投函しておくので」

 

「…………帰らない、私たちにも聞く権利はある筈。それとも―――居られると困るようなことでもある?」

 

カクン、と糸が切れた人形のように首を傾げる純。その姿を目にした俺の背中は再び悪寒に襲われ、急いでトゥアールとの間に入り込む。

 

「ほ、ほら。二人ともあの場に居たわけなんだし、この場で説明を聞く権利はあると思うよ」

 

「むう…………良人様がそこまで仰るなら仕方ありませんね。と・く・べ・つにそこのお二人も同席することを認めます。いいですか、と・く・べ・つですからね!本来なら同席なんてもっての外ですが良人様のおかげでここに座れているんです。そのことを重々承知して――――」

 

「早よ説明せんかい!!」

 

「ぎゃあああああああ骨格成型はお呼びじゃありませんんんんんッ」

 

再び大噴火した愛香が獲物を狩るが如く目にも止まらぬアイアンクローを繰り出し、トゥアールの顔が万力のように締められていく。

 

程なくして愛香の手から逃れたトゥアールはやれやれ、といった具合でポケットから小型端末を取り出しテーブルの中央に置いた。

 

「…………全くこれだから節操のない蛮族は困るんです」

 

「何か言ったかしら?」

 

「さあてそれではまずテイルギアから説明致しましょうかスイッチオーンッ」

 

ボソッと何かを呟いたトゥアールに愛香が無言で手を見せると、捲し立てる様に物凄い勢いで端末を起動させた。

 

すると何もない空間に画面が立体投影され、テイルレッドとテイルホワイトの全身図が映し出される。各部に名称とそれに関する簡潔な説明文も書かれていた。

 

「おお、なんか近未来っぽくていいな」

 

身を乗り出して興味深そうに未知なる立体投影装置を観察する総二。その姿は新しいおもちゃを見つけた子供のように見える。かくいう俺もこのオーバーテクノロジー感に興味津々なんだけどね。

 

「さあさあ場の雰囲気も乗ってきたところで説明を始めますよお!」

 

こうしてトゥアール教授によるテイルギア大説明会が始まったのだった。

 




お久しぶりです。

約一年ぶりの投稿となってしまって本当に申し訳ありません。

スランプからの脱却になんとか成功しましたので投稿を再開したいと思います!

重ね重ねご迷惑をお掛けしますが、俺ポニを今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m

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