俺、ポニーテールになります。   作:明智ワクナリ

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『戦士爆誕、ツインテイルズ!』③

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「はあああああああああああッ!!」

 

高速の弾丸と化して襲い来るぬいぐるみを弾き飛ばしながら、俺たちはリザドギルティと激しい攻防戦を繰り広げていた。

 

総二―――テイルレッドのブレイザーブレイドがリザドギルティに降りかかるも、相変わらずの俊敏さでそれを難なく躱し、隙を突いてレッドの背後からエクセリオンソードによる連撃を叩きこむが、強固な腕のアーマーで全てを弾き返されてしまう。それどころか俺たちの連携の隙を突いてぬいぐるみを襲い掛からせ、大勢を崩したところで拳を振り放ってくる。

 

二対一、俺たちが有利になる筈だったこの戦いは互いに均衡していた。いや、それどころかリザドギルティの方が押しているかもしれない。

 

「フハハハハハハッ!まだまだぁ!!」

 

また笑ってるよこの怪人。

 

テイルギアのおかげでリザドギルティとの力は均衡しているはずだけど一向に押しきれる気配がない。それどころかさっきよりもリザドギルティの反応が早くなってるような気がする。このまま行けば俺たちの方が崩される可能性が高い。一度距離を置いて体勢を立て直す必要があるだろう。

 

隣に視線を向けると同じことを考えていたらしいレッドと目が合う。俺たちは互いに小さく頷き合うと、リザドギルティが拳を構える僅かな隙を見て後方へと跳躍した。

 

しかし、その判断が誤りであったことに気付いたのはリザドギルティの不穏な笑みを見た瞬間だった。背中に怖気が走り抜け本能的に回避しようと体が僅かに動くが、空中に身を投げ出した俺の軌道は寸分も変わらない。

 

刹那、拳を構えていたリザドギルティが凄まじい移動速度で俺たちの差を詰めてきた。まるで映像を早送りさせるように自身を加速させて接近したリザドギルティは、弓を引くように溜めていた拳を俺たちに向けて躊躇なく放つ。豪速とも言える拳は空気の層を打ち破りながらさらに加速し俺たちの眼前へと迫っていた。

 

よもや空中での回避は不可能、そう直感した俺は半ば無意識に両腕を体の前でクロスさせガードの姿勢を取り、レッドも同様に構える。

 

次の瞬間、今までに感じたこともない圧倒的な衝撃が全身を貫き、俺たちは紙切れ同然に吹き飛ばされた。

 

飛び跳ねるボールのように地面へと体を打ちつけられるが、放たれた拳の威力が相当のパワーだっただけに止まらず、最終的には駐車場の隅に設置された塀にぶつかることでようやく停止した。

 

「う、ぐ……………」

 

半壊した塀の瓦礫に埋もれた体を起こそうとして激痛が走る。

 

それでも四肢に力を入れてなんとか立ち上がった俺の横で、小さな体のレッドもまた顔を苦痛に歪めながら立ち上がっていた。

 

「怪我は、ない…………?」

 

「あ、ああ。とりあえず怪我はねえよ。身体中が激痛って以外はな」

 

テイルギアで身体能力が人間とは比にならない程向上しているおかげで外傷はないものの、痛覚によるダメージだけは相当に大きい。まるでアクセル全開のダンプに正面から突っ込まれたような衝撃は確実に俺たちの精神に傷を与えていた。その証拠に全身を強打した体は軋むような痛みで支配されている。

 

立ち上がるだけで精一杯の俺たちは離れた場所から悠然と歩み寄ってくるリザドギルティに目を向けた。

 

拳を鳴らしながらさっきと寸分違わぬ笑みを浮かべるその姿はまさに屈強なる戦士そのもの。幾つもの戦いを超えてきたであろうリザドギルティの体から発せられるオーラは、長い時を経て練りに練り込まれた本物に違いなく、土壇場で力を手にした俺たちとは比較の対象にすらならない。

 

普通ならばそんな圧倒的な力を身をもって知れば誰もが諦めていることだろう。恐怖に駆られてこの場から衝動的に逃げ出したくなるのは必然だと思う。

 

けど俺たちは違った。

 

「はは、やっぱそう簡単にうまく行くわけねーよな」

 

「まあそうだろうね。ゲームじゃあるまいし、敵の大将がそんな簡単に打ち破れる筈ないよ」

 

圧倒的な力の差を目の当たりにしても尚、俺たちの闘志は燃え尽きていない。むしろ沸々とその勢いが増していくのがわかる。

 

「敵は現役の戦士でこっちはただの高校生、おまけに二人そろって満身創痍なんてホントに最悪だね。こんなんでアイツに勝てるのかなあ?」

 

「どうだろうな。やってみなきゃわからねえけど、こういうのって大抵は負ける方だよな」

 

レッドの言う通り、普通に考えてここからの逆転劇なんてことはまず起こらないだろう。ここが漫画やアニメの世界ならまだしも現実に起こってしまっていることだ。現実でそう都合良く奇跡が起こるはずもない。だからきっと戦っても負けるのが現実的だと思う。

 

普通ならね。

 

「けど――――こういう展開って燃えるよな」

 

レッドの燃えるような赤い瞳が俺に向けられる。あちこち埃まみれで立っているのもギリギリだというのに、小さな少女が浮かべている表情はそれを微塵も感じさせない挑戦的な笑みだった。これだけ派手にやられておいてまだ戦おうというのだから呆れる他ない。

 

「昔から憧れてたからね」

 

勿論、相棒の馬鹿げたセリフに笑顔で答えてしまった他ならぬ俺自身もなんだけど。

 

「さてと、インターバルもこの辺にしてそろそろ行こうか」

 

「ああ、そうだな。あの野郎の鼻っ柱を叩き折ってやるぜ」

 

エクセリオンソードとブレイザーブレイドをそれぞれの手に持ち直した俺たちは、悠然とこちらに歩いてくるリザドギルティを再び見据える。

 

がむしゃらに突っ込んで勝てるような相手じゃない。少なくともレッドと俺の連携攻撃がなければ勝機すら見出せそうにもないだろう。でも仮にうまく連携が出来たとしてもこっちは戦いの素人、プロを相手に善戦できるとは到底思えないしヤツとの差は依然として縮まらないはず。

 

けど最も注意すべきはあの並外れたパワーと防御力、そして巨体に見合わない機動力だ。この際他はガン無視するとしてもあの機動力だけは何とかしないといけない。

 

「…………何か足止めする方法は」

 

その時、俺の頭の中に一筋の閃光が走る。

 

飛来する四つの剣閃が浮かび上がり、同時にそのイメージが勝利の鍵になり得ると直感した。レッドも同じようなイメージを見たのか焔を思わせる瞳を俺に向けている。

 

「ホワイト、今のって…………」

 

「うん。このオーラピラーってやつでいけると思う」

 

戦術アシスト機能、ヘルプフォルダという機能から頭に直接文字出力を送り出されて再生される。ある程度のイメージさえ浮かべればあとはシステムが自動で処理を行い、反映させるというかなりの優れものらしい。ということは、今の瞬間的なイメージはシステムが見せてくれたものだったのか。

 

「行くぜ!オーラピラー発動!!」

 

レッドが構えるブレイザーブレイドの炎がその色を一層濃くしたかと思うと、剣先に炎が渦巻くように凝縮され始め、やがてバスケットボール程度の大きさへと変化していった。レッドはブレイザーブレイドを上段に大きく振りかぶり、そして思い切り振り下ろす。

 

「いっけえええええええッ!!」

 

レッドの放った球体はリザドギルティ目掛けて一直線に飛んでいった。球体自体が銃弾のように回転することで推進力が増し、後続に伸びる真っ赤な閃光がアスファルトを焦がす。その速度は凄まじく、リザドギルティとの差を一瞬で埋めるほど。俺がやっとの思いで視認で来た頃には球体は既にリザドギルティの眼前まで迫っていた。

 

「ぬっ!?」

 

しかしリザドギルティはチートとしか思えない反応速度でそれを躱してみせた。

 

「なかなかいい球を投げるではないかテイルレッドよ!しかしこの程度の攻撃、既に読んでいたぞ!!」

 

「悪いが俺も読んでたぜ―――お前の行動をなッ!!」

 

レッドがブレイザーブレイドを横凪に振るった瞬間、リザドギルティに回避された球体が背後で爆散し、四方にばら撒かれた閃光が周囲を取り囲むように螺旋を描き始め、リザドギルティを中心に真っ赤な円柱が立ち上った。

 

そうか、これがレッドのオーラピラー。敵を拘束し、尚且つ柱の内側に閉じ込めるバインド能力なんだ。

 

「グウウッ!?おのれッ、今の技は砲撃ではなく拘束結界だったか!!やってくれるなテイルレッド!!だがこの程度でこの俺を止められると思ったら大間違いだ!!」

 

強引に腕を空に向けてかざすリザドギルディの頭上に、またしてもあのファンシーな人形たちが集結していた。しかしその数はさっきまでとは比べ物にならない量に増えていて、おそらくこの辺一帯にある人形を総動員させたのだろう。集結を確認したリザドギルティは再びその手を俺たちへと向ける。

 

「行けッ!我が秘奥義、『愛と勇気のパペットストーム』!!」

 

名状しがたいセンスの秘奥義名を厳つい声で叫ぶリザドギルティ。よくもそんな痛々しくてこっ恥ずかしい秘奥義を自身気に――――ってそんなことは今どうでもいいって!

 

気を取り戻した俺が再び空を見上げた時、とんでもない数の流星もとい人形が降り注いできた。

 

「お、おいおい嘘だろなんなんだよこの数はァ!?」

 

あまりの物的質量にレッドは顔を青くした。

 

その数は到底二人で捌ききれる量じゃないし回避しようにも範囲が広すぎる。しかもこのままじゃ周囲で倒れてる女の子たちにまで被害が出かねない。

 

(そんなことは絶対にさせない!!)

 

エクセリオンソードを強く握りしめた俺は、頭の中にもう一度四つの煌めく剣閃を思い描きながら流人形群へと突っ込む。

 

「ホ、ホワイト!?」

 

レッドの呼ぶ声が微かに聞こえるもそれすら置き去りにしてイメージを完成させることに集中した。そして―――、

 

「オーラピラー発動!!」

 

エクセリオンソードの刀身が激しく明滅し、それと同時に遥か上空で何かが煌めいた。その煌めきは瞬時に巨大化し、超高速で飛来する閃光は眼前に迫る人形を一瞬で全滅させる。そして辺りを満たす黒煙を払うかのように吹き飛ばし、その奥から姿を現したのは俺の身長ほどもある巨大な四本の剣だった。

 

これが俺のオーラピラー、閃光の如く空を駆け巡り全てを切り裂くオールレンジ型の遠隔操作武装だ。

 

俺はすかさず地上に立つレッドへ叫んだ。

 

「今だレッド!倒すんだ!」

 

「おう!!」

 

レッドが跳躍すると同時にブレイザーブレイドの炎が巨大化し、各部の装甲のスリットから炎が溢れんばかりに漏れ出す。

 

「これで終わりだアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

炎を纏う剣と化したレッドは凄まじい気迫と共に業火に包まれたブレイザーブレイドを振り降し、リザドギルティは頭から一刀両断された。

 

「ぐあああああああああッ!?ば、馬鹿なああああああ!!?」

 

荒ぶる炎が静まったレッドの隣に着地した俺は、二人でリザドギルティの最後を見届けるためその場に留まる。そんな俺たちにリザドギルティはどこか満ち足りた声で言った。

 

「ああ…………ついにここで俺も果てるか…………だがこれでいい。こうして最後にそのツインテールで俺を優しく包み込んでくれたのだ…………これ以上を望むのは欲が過ぎるというもの。長き戦いの果てに会い見えたのが貴様らで良かったぞ…………ツインテイルズ…………」

 

「お、おい!ちょっと待ってくれ!!」

 

息も絶え絶えというリザドギルティは途切れ途切れの言葉を紡ぎ、レッドは散り行く命を前に手を伸ばして叫んだ。

 

「…………フッ、テイルレッドよ。出会いとは別れと表裏一体、こうして出会った以上別れもまた必然。…………別れを惜しむなツインテールの戦士よ」

 

そしてついに最後の時はやって来た。

 

「さらば、美しき戦士たちよ!!」

 

漢は声のあらん限りに生涯の全てを込めて叫ぶ。

 

 

 

 

 

「幼女サイコォォ――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!」

 

 

 

 

史上最低な魂の叫び声だった。

 

「俺たちで妄想したまま勝手に死んでんじゃねえええええええええええええ!!!!!」

 

こうして記念すべき俺たちの戦いは心に多大なダメージを受けて幕引きとなるのだった。

 

 




後半がかなり早足になってしまいました。悪い癖です………。

次話はできるだけ早く投稿できるよう努力します!というわけで次回はヒロイン3人によるカオスパートですね!

では!!

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