俺、ポニーテールになります。   作:明智ワクナリ

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約3ヶ月ぶりの更新…………。

不定期更新とはいえ少し間隔を空け過ぎですよね。
楽しみにして頂いている方、本当にスミマセン<(_ _)>

もう少し更新ペースを上げられるよう頑張ります!

遅れながらですが、明けましておめでとうございます!今年もどうかよろしくお願いしますね!


『戦士爆誕、ツインテイルズ!』②

これは一体何の冗談だろうか?

 

喫茶店でカレーを食べてたら妙な銀髪少女に絡まれ、いきなり別の場所へ飛ばされたかと思えば怪人と戦うために変身。その結果――――――

 

「どうすりゃいいんだこれ!?なんで俺がツインテ幼女なんかになってんだよ!?何がどうなってんだか意味がわかんねえけどこのツインテールはいいなぁおい!!」

 

「待つんだ総二!確かにツインテールはいいだろうけどそこに呑まれちゃいけない!!」

 

「ハッ!?…………あ、危ねえ。もう少しでこのツインテールに持ってかれるところだった」

 

二人仲良くツインテールの美少女になってしまったのだ。総二は赤い髪の幼女、そして俺は銀髪の少女。恐ろしいことに胸まで存在している。……………どうでもいいけど大きさは愛香より上っぽい。

 

これが夢なら笑い飛ばせる話だろうけど、どうにも夢とは言い難い状況だった。石ころのように転がる炎上した車、辺りを満たす鼻を突くような異臭、そしてこの溢れんばかりの輝かしさを放つツインテール。他のことはどうでもいいにせよこのツインテールが何よりも現実であることを証明しているのだ。こんなにも気高く美しいツインテールが夢であってたまるものか。しかし女体化は夢であってほしい。でもツインテールは現実であってほしい。

 

「ぬうう……………奇襲だったとはいえ少しばかり気を緩めすぎたようだな」

 

と、俺たちが頭を抱えて悩みそうになった時、怪人は頭を振りながらのっそりと立ち上がっていた。どうやら戦闘員たちの活躍によって戦線復帰を果たした怪人は体に付いた埃を払っている。

 

「それにしても凄まじき幼気……………。そうか、貴様らが観測にあった強大なツインテールの正体だな?」

 

ズラリと並んだ牙を見せて笑う怪人。ただ不気味に笑う、それだけで異常なプレッシャーが俺たちに圧し掛かった。遠目で見ていた分にはただの変態としか思えなかったが、こうして対峙することで初めて相手の力量に気付かされる。

 

――――――コイツは強い。

 

異常な威圧感、身に纏う風格。そのどれもが圧倒的で、言うなれば歴戦の猛者を前に立っているような感覚だ。怪人が一歩前に踏み出し、両手をゆっくりと広げる。ただそれだけの行動だというのに空気がビリビリと張り詰めた。

 

そして、

 

「素晴らしい!素晴らしいぞ!!これぞ我らが求め続けている最高にして究極のツインテール!なんと美しく、そして輝かしいことかッ!こうして貴様らを前にするだけでその気迫が伝わってくるぞ!!」

 

ツインテールを前にしてまた騒ぎ始めてしまった。

 

「これほど早く究極のツインテールと相見(あいまみ)えようとは幸先の良きことよ!しかし、しかし解せんぞ!そこの銀色の乙女よ!」

 

「え?お、俺?」

 

「それほどのツインテールを持っていながら成熟した体とは……………。主とは出会う時期が遅すぎたようだな。惜しい、実に惜しい人材だッ!!」

 

血涙を流しそうな勢いで怪人は俺に対して何かを嘆いている。相変わらずわけのわからない日本語のおかげで、俺の背筋は氷河期時代に戻ったかのような寒さを感じていた。

 

「だがしかし!まだ遅くはない!あどけなさの残るその姿ならば間に合う筈!者ども、この者に見合うぬいぐるみを持つのだ!」

 

「モケケェ――――――!」

 

俺たちが自分の姿に困惑してる内に包囲網が完成していたらしく、周囲一帯を黒尽くめの戦闘員たちが陣取っている。その手には様々なぬいぐるみが握られ、見るからに危険な変質者だ。

 

「ど、どうする良人!?」

 

「どうするって言われてもどうしようもできないよッ!?」

 

四方は完全に固められ、ジリジリと包囲網を狭める全身タイツの変質者たち。隙を突いて逃げようにもこっちが混乱しててとてもだけど無理だ。…………どうする良人。考えろ、この場を切り抜ける方法を。

 

(ってこんな状況に遭遇したことないんだからわかるはずないよ――――――ッ!!!!)

 

と、その時、隊列に並んでいた戦闘員の一人が『モケェェッ!』ともっさい雄叫びと共に俺たちに特攻してきた。明らかに人間離れした速度で走る戦闘員はぬいぐるみを振りかざして跳躍する。

 

もうやるしかない!

 

俺は即座に拳を構えた。左手は前に、右手は弓を引くように腰元まで引き絞り、重心を安定させるため腰を落として両足に力を入れる。これは水影流柔術の基本体術である正拳突きの構えだ。しかし基本体術とはいえ水影流、その威力はもちろん折り紙付き。ちなみに愛香がこれを始めてやった時、勢い余って板を構えていた祖父ごと吹き飛ばしたと聞いている。

 

流石にそこまではいかないとしても俺だって一応は経験者だ。使いどころのない殺人拳だと思ってたけど、今まさに使うべき瞬間なんだ。

 

相手との間合いを見切った俺は拳を繰り出そうとしたその時。

 

「うわっ!?」

 

足元がグラつき気付いた時には重心がズレて大勢を大きく崩してしまった。

 

(し、しまった!?俺の体って今女だったんだアアアアアアアアッ!!)

 

そう、俺の体は現在ツインテ少女化している。元の体に比べたら背は低いし体つきも違えば足や手の長さも違う。体格が違えば必然的に構え方も変わってくるのだが、目の前の状況に焦っていた俺はそのことをすっかり忘れていた。

 

前のめりになりつつある俺は反射的に上体を起こそうとして踏ん張り、その結果戦闘員に繰り出した拳の威力を殺してしまい、軽くトンと当たる程度で留まってしまう。

 

(ヤバい、やられる―――――)

 

と思った矢先、戦闘員はバッコーンとでも軽快な音を鳴らしそうな具合で空へと舞い上がった。空中で見事なスピンを決めつつ身体中から青白い電流が走り始め、次の瞬間小さな爆発と共に光る粒子となって音もなく消えていく。例えるなら特撮物でよくある怪人を倒すと派手な爆発が起こるあの感じだ。

 

突然の出来事に唖然とする俺の隣でまたしても戦闘員が打ち上げられ、遠くにそびえる建物に大きなクレータを作り出してさっきと同じように爆散。

 

隣を見てみると俺と同じように茫然と立ち尽くす総二と目が合った。

 

「…………お、俺たちがやったのか?」

 

「…………う、うん。多分そうだと思う」

 

自分でやっておきながら目の前で起こった非常識な出来事に戸惑ってしまう。軽く触れただけで戦闘員はあり合えないほど高く吹き飛んだ。単に戦闘員の体重が軽かったという推測もできるけど、見た感じではそういう風には見えなかった。

 

よくわからないけど…………つまりこれもテイルギアの性能の一部ということだろう。

 

「なんと…………!?戦闘員(アルティロイド)を武器も持たずに素手で退けるとは、なんという凄まじき力!よもやその力、ツインテールだけではないようだな…………!」

 

動揺して腰を引かせる、というより感嘆とした雰囲気で驚く怪人とその取り巻き一同。どうやら恐れるというより俺たちにより興味を持ったという感じだ。

 

「これほどの属性(エレメーラ)を持つ者は世界広しと言えどそうは居ない。貴様ら、いったい何者なのだ!!」

 

『さあお二人とも!相手からのフリです!”お約束”通りにカッコよく名乗っちゃってください!』

 

何故か耳元で俺たち以上に白熱したトゥアールがそんなことを言ってくる。ていうかフリって…………。これ特撮の収録とかヒーローショーとかじゃないんだよ?

 

けど、昔こういうシチュエーションに憧れたこともある。悪の怪人の前でカッコよく名乗るという、まさにこういう展開に一度でいいから立ってみたかった。まあツインテ少女なんだけどね…………。いや、もうこの際そんなのは気にしない―――――

 

 

 

「「……………何者なのか逆に知りたいです」」

 

 

 

なんてことが出来るはずもなく、俺たち二人は上の空でそんなことを呟いていた。

 

だってそうでしょ?女に変身できる男って生物学的にどう分類されるのさ。人類以外の生物なら自然に性転換できる生物もいるって聞いたことあるけど、人類史上そんな臨機応変な種は確認されていない。じゃあ俺たちって今どういう状態にあるんだろうか?

 

ここにきて自分たちがツインテ少女になってしまったという事実を思い出し、そんな事ばかりが頭の中を駆け巡っていく。

 

そのせいで俺たちは敵の接近に気付けなかった。

 

「ふぅむ…………何故かは知らぬが落ち込むその表情もたまらぬ。赤の乙女よ、そのツインテールの両端を指で摘まんで俺の頬をペチペチと叩いてはくれないだろうか?」

 

「イヤアァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

可愛らしく絶叫して尻餅をついている総二の正面にいつの間にか怪人が立っていた。その目は見開かれ、妙に熱の籠った息は荒く、口元から涎が零れるんじゃないかと思うほどにんまりとした笑顔。しかも両手をワキワキと動かしながらそんなことを口走る。

 

「くっ!させない!」

 

俺は二人の間に入り込み、総二を守るように怪人の前へと立ちはだかった。

 

「ぎ、銀のツインテールもいい…………。その毛先で顔を撫でたらどれほど癒されるだろうか…………さあ、貴様も遠慮せずにそうしていいのだぞ!むしろやってくれ!!」

 

「キャアァァァァァァァァァァァァッ!!!?」

 

総二に負けず劣らずの悲鳴を俺も上げてしまった。

 

正面に立つことでその異様さが身に沁みるようにわかる。明らかに異常なツインテールへの愛着と執念、そしてそれに対する羞恥の無さ。羞恥心という名の感情を捨て去った存在がこんなにもおぞましかったなんて……………。

 

「ツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテールツインテール……………」

 

壊れたラジカセのようにその単語だけを繰り返し続ける怪人。正直その姿は酷く痛々しく、常軌を遥かに一脱している。

 

「そ、総二、大丈夫?怪我は―――――」

 

「これが俺、なのか…………」

 

振り向くと総二の表情はさっきよりも弱々しかった。

 

「ははは…………、そうか。皆俺のことを変な目で見てたのはこういうことだったのか」

 

何かを悟ったかのように自嘲気味に笑う総二。その言葉を聞いて俺はその真意に気付く。

 

おそらく総二はこの怪人と自分を重ね合わせてしまったんだ。

 

総二は昔からツインテールについて所構わず誰にでも熱弁してしまう癖があった。今でこそその癖は限りなくゼロに近づいているが、その頃は総二の最盛期だと言っても良かっただろう。

 

そんな総二はいつも奇異な眼差しで周りから見られていた。多分総二の熱弁は周囲の人間からしたらかなり異常に感じていたんだろう。

 

その感覚を総二自身が知ってしまったらしい。

 

確かに総二の熱弁癖は酷かったしそのせいで喧嘩することも多かったけど、でもこの怪人と総二は違う。この怪人は奪うためにここにいるけど、総二は守るためここにいるんだ。

 

『そーじ、りょーと!あんたたち何してるのよッ!!』

 

「愛香…………!」

 

俺が声をかけようとした時、愛香の声がそれを遮った。

 

『ツインテールを守るとか馬鹿なこと言ってたさっきまでの覚悟はどこにいったのよ!あれだけ大口叩いといて今更怖くて戦えないなんて言うんじゃないでしょうね!?』

 

「い、いや。そういうわけじゃ――――」

 

『だったら何よ!?自分とそいつを重ねて気持ち悪いとか思っちゃってるわけ!?だとしたらほんっとに今更ね!言っとくけどあんたはそこのふざけたやつと同じよ!』

 

「……や、やっぱりそうか」

 

愛香の罵倒で更に凹む総二。しかし愛香はそれに対して気にすることもなく続けた。

 

『…………でもね、あんたのツインテールへの想いはそいつとは違うわ。馬鹿みたいにどこまでも真っ直ぐで、絶対に曲がったり折れたりしないもの。あたしたちはそのことをよく知ってるし、なによりそーじ自身がわかってるとはずよ』

 

語り掛けるように話す愛香の言葉に、総二は目を閉じて耳を傾けている。

 

「…………そうだったな」

 

『そうよツインテール馬鹿。胸を張って正面から蹴散らしてやりなさい』

 

『くぷぷぷぷ、張る胸もない人がよくもまあそんなこと言えますね』

 

『負けるんじゃないわよ二人とも!そんなやつら軽く捻り潰してやりなさい!』

 

『お二人に発破かけながら私の胸を捻り潰さないでくださいいいいいいいいいいいいッ!!?』

 

最後に余計な雑音が聞こえたような気がしたけど、愛香の声は確かに総二に届いたようで、立ち上がった総二の瞳には再び闘志が燃え上っていた。

 

「悪かったなりょーと。俺はもう迷わないぜ」

 

「うん、それでこそ俺の心友だ」

 

互いに頷き合った俺たちは再び怪人と相対する。相変わらずツインテールと言う単語を呪文のように唱えながら異様なプレッシャーを放っていた。それを正面から改めて受け止めた俺は、思わず後退りそうになる足をなんとかして留まらせる。

 

(…………あんなの相手にして本当に勝てるのかな?)

 

『…………良人』

 

「え、純…………?」

 

相手の威圧感に飲み込まれかけた意識が純の声によって持ちこたえた。

 

『…………こういう時なんて言えばいいか分からないけど―――――頑張って』

 

訊き零してしまいそうなほど小さなエール、だけどその声は何よりも大きく感じた。

 

「ありがと、純」

 

俺は大きく深呼吸してもう一度怪人を見据える。相変わらずおぞましい威圧感を放っているが、さっきのような恐怖感は無くなっていた。

 

勝てる勝てないじゃない、勝つんだ。そのために変身したのにここで逃げ腰になったら意味がないじゃないか。

 

俺と総二は再び拳を構える。

 

「ほう、なかなかいい目をしている。(たぎ)るような闘志がそのツインテールから伝わってくるぞ」

 

不敵な笑みを浮かべる怪人の威圧感が更に増大し、俺たちと同じように巨大な拳を構えた。

 

「その覚悟、しかと確かめさせてもらおうッ!!」

 

(――――来るッ!)

 

先に動いたのは怪人だった。アスファルトを豪快に踏み砕きながら凄まじい速度で俺たちに突進してくる。巨体に見合わぬ素早さに俺たちは隙を与えてしまい、見逃すまいと怪人は更に加速し、岩のような拳を大きく振りかぶった。

 

「まずは一撃、撃たせてもらうぞッ!」

 

風を砕くような音と共に圧倒的質量の拳が放たれる寸前、俺たちは間一髪その場から飛び退くことに成功する。次の瞬間、耳を突くような炸裂音が走り、俺たちのいた場所には小さなクレーターが現れた。

 

その光景に俺は思わず息を飲んだ。もし今の一撃を受けていたら体が粉々に吹き飛んでたんじゃ………。

 

「初撃を躱すとは流石だな!」

 

拳のアスファルト片を払いながら高揚しているかのように笑う怪人。言うまでもなく本気を出しているようには見えない。

 

「良人、また来るぞ!」

 

総二が声を上げると同時に怪人から攻撃が放たれる。空気を突き破るような拳圧が俺と総二の間を駆け抜け、僅かに大勢を崩した瞬間を狙って再び怪人が接近してきた。

 

「ハアッ!」

 

ボクシングのような隙の無い軽やかなフットワークで拳を撃ち出され、俺たちはその一撃を確実に回避する。拳一つ一つが地面を穿つほどの威力を持っている以上一発でも受けるわけにはいかない。しかも俺たちの攻撃手段は今のところ素手しかなく、怪人を相手にするには少し心元の無いため守りの一手を取るほかなかった。

 

「どうした!守りばかりに徹していてはこの俺には勝てんぞ!」

 

常人離れした拳を連続で放っておきながら、疲れも見せずに怪人は余裕の笑みを浮かべる。

 

「くそっ、何か攻撃する手段はないのかよ!?」

 

『聞こえますかお二人とも!』

 

と、その時トゥアールの通信が入った。

 

「遅いよトゥアール!」

 

『面目ありません。愛香さんが執拗に握りしめてきたので、シャツにアイロンをかけてしわ伸ばしをしていたら遅れてしまいました』

 

「ホントに面目ねえよ!!」

 

こんな状況でも服装に細心の注意を払うトゥアールに総二が思わずツッコんだ。身だしなみは女の子にとって重要だと思うけど、この状況でそれを敢行する彼女の神経の図太さにはある意味感心できてしまう。

 

『っとそんなことより、聞いてください!お二人の頭に装着されているリボン型のパーツに触れてください!あなた方の思い描く武器を念じれば対エレメリアン用の武装が展開されるはずです!』

 

本当に出るのだろうか、と一瞬考えたが迷うような余裕はない。トゥアールの指示通り俺はリボン型のパーツに触れてありったけのイメージを流し込む。

 

(…………守るんだ。愛香も、純も、総二も。俺たちの絆を!!)

 

その瞬間、銀色の閃光がリボンから溢れ出して周囲に銀色の粒子が舞った。雪のように舞う粒子は目の前に集中し始め、徐々にその形を明確にしていった。

 

剣だ。

 

交差する二振りの剣が俺の目の前に浮かんでいる。白く神々しい刀身と一点の曇りも窺えない銀の刃。手を伸ばして握れば呼応するかのようにその輝きを一層強めた。

 

<エクセリオンソード>

 

本来知る筈のないこの双剣の名が頭に流れて来る。

 

ふと隣を見ると、総二は燃え盛る炎を纏う長身の赤い剣――<ブレイザーブレイド>を手にしていた。まるで総二の想いを体現しているかのように炎が煌びやかに燃えている。

 

俺たちがそれぞれの武器を手に構えると怪人は体を身震いさせていた。

 

「なんと美しい戦女神だ………!剣を構え煌びやかなそのツインテールをなびかせる姿、我が魂を揺さぶるほどの絶対的な美に巡り合えようとは!!」

 

大粒の涙を流しながら感嘆の声を上げて号泣する怪人。

 

「行くぞ良人ッ!」

 

「うん!」

 

攻撃の止まった怪人の隙を突いて今度は俺たちが先手を打った。感動してる最中に横槍を入れるのは少し悪い気もするけど、この場が戦場である以上そんな甘い考えは捨てるべきだ。

 

「オラァ!お前の望み通りペチッとしてやるよッ!!」

 

「ぬう!?」

 

総二がブレイザーブレイドを振り上げ上段から斬り下ろすも、怪人は驚異的な速度でその一撃を躱してみせた――――ように見えたが、怪人の頬には総二の気合いの一閃が刻まれていた。

 

「馬鹿な!?軌道は完全に見切った筈!何故――――」

 

完全に躱しきっていたと確信していたらしい怪人は一瞬だが動揺して隙を見せ、俺はその瞬間を見逃すことなく攻撃に出た。

 

「今度はこっちだよ!」

 

「ぐッ!?」

 

エクセリオンソードを交差するように構えた俺は体勢を崩した怪人に斬りかかった。×の字を描くように放った刃は怪人の体を捉える寸前で回避され空振りに終わる。しかし怪人の身に着けていた胸部のアーマーに交差する二つの刀傷が走っていた。

 

「まさか一度ならず二度までもこの俺に刃を当てて来るとは…………」

 

躱しきれなかったという事実に怪人は怒りを露わにすると思いきや、

 

「ハッハッハッハッ!この高揚感、久方ぶりに戦士としての血が騒ぐぞ!」

 

盛大に笑い始めた。しかし口はにやけたままだが、怪人の纏う空気がより鋭く荒々しいものとなっていくのがわかる。

 

「貴様らとは戦士として尋常に相対しようぞ!我が名はリザドギルティ!アルティメギルの特攻隊長にして、人形を抱きしめる幼女にこそ、男子は強き信念と深い愛情を抱けるという思いのもと戦い続ける戦士だ!改めて貴様らに問おう、貴様らの名を!!」

 

「テイルレッド!」

 

「テイルホワイト!」

 

俺たちは肩を並べると剣の切っ先を怪人に向けて言った。

 

 

 

「「俺たちはツインテイルズだ!!」」

 

 

 

意識もしていないのに俺は総二と言葉を揃えてその名を口にしていた。まるでツインテール自身がその名を伝えてきたかのように。

 

「ツインテイルズよ!その名、この魂にしかと刻み込んだぞ!!同じ信念を抱く者同士、尋常なる勝負と行こうではないか!!」

 

「人に自慢できねえ気持ち悪い信念掲げるようなお前と一緒にすんじゃねえよ!!」

 

ブレイザーブレイドの纏う炎が更に増大し、爆発したような衝撃と共に総二が躍り出た。噴出する炎をブースターとして使い自身を加速させてリザドギルティへと突進した総二は、触れた物全てを焦がしてしまいそうな灼熱の剣を振り下ろす。

 

しかし――――

 

「甘い!」

 

「なっ――――――!?」

 

ブレイザーブレイドはリザドギルティに触れる手前で止められてしまった。

 

しかし攻撃事態を止められたことにそこまで驚くことはない。さっきの激しい攻防戦でリザドギルティの戦闘力が非常に高いことは身をもって体験している。だからこそ総二の攻撃が受け止められても当たり前のことだった。

 

けど問題はそれを受け止めている物体だ。リザドギルティが素手で受け止めているわけでもなければ、不可視のバリアや障壁を展開させているわけでもない。

 

総二のブレイザーブレイドを受け止めているのはほんの数分前に見た――――クマのぬいぐるみだった。

 

「えええええええええええええッ!!?」

 

予想外の出来事に総二が物凄い勢いで声を上げた。

 

愛らしいクマさんが可愛いお手て真剣白刃取りなんてやらかしたら驚くのも無理はないだろう。しかもクマさんはブレイザーブレイドの纏う炎が効いていないらしく一向に燃える気配がない。誤算…………というよりこれは流石に予想しようがない、よね?

 

一方にリザドギルティといえば腕を組みながらドヤ顔をしていた。

 

「そう簡単にはやらせんよ。この鉄壁の守護神たるクマさんがいる限りこの俺に刃は届かないと思え!!」

 

やたらとカッコつけたことを言うも、クマさんのおかげで相殺されるどころか酷くシュールなセリフになってしまっている。

 

「う…………おりゃあああああああああッ!!」

 

と、その時。ついに総二のブレイザーブレイドがついにクマさんを押し切り、リザドギルティの懐へと飛び込んだ。

 

「ヘッ、言う割には大したことないクマだったな!」

 

「クマさんの防御を打ち破るとは流石だな!しかし――――」

 

リザドギルティが右手を空へと掲げた瞬間、流星のような光が周囲から飛び出し、総二に目掛けて一斉に降り注いだ。

 

「油断は大敵だぞテイルレッド!」

 

よく見てみると光の正体はぬいぐるみだった。大小様々なぬいぐるみたちは、まるで意志を持っているかのように独立した動きで総二に迫っていく。それにいち早く気付いた総二はその場から後方へ跳躍し、第一波を寸でのところで躱した。

 

「しまっ――――――」

 

しかし着地と同時に第二波が総二の下に押し寄せる。その瞬間、俺の体は自然に動き出していた。

 

「はああああああああああ!!」

 

総二の前に立った俺はぬいぐるみの集団をエクセリオンソードで弾き返した。舞うようなステップを踏みつつ襲い来るぬいぐるみを確実に叩き落としていく。弾かれたぬいぐるみは光を失うと爆発し、煙とその破片が周囲に撒き散らされていった。

 

「なんという素晴らしいツインテールだ!あまりの美しさに身震いが止まらん!!」

 

身悶えするかのように体をくねらせるリザドギルティ。あまりの気持ち悪さに俺は薄ら寒い何かを背筋に感じてしまう。

 

「良人、速攻で倒そう。これ以上アイツを地球に居させたら色々とおかしくなりそうだ」

 

「そうだね。とりあえずそれだけはわかるよ」

 

ふと湧き出てきた使命感に俺たち二人は頷いた。…………あれをそのままのさばらせてたらきっとこの世界によくないものが浸透しそうだし。

 

『…………二人とも、聞こえてる?』

 

「どうしたの純?」

 

『…………トゥアールからの伝言。ツインテールの奪取方法、だって』

 

その言葉に俺たちはハッと気づく。そういえばトゥアールにはまだ間に合うって言われただけで、具体的な説明はまだ聞いてなかったっけ。

 

『…………属性、っていうツインテールの源はあの輪っかに保存されてるから、そこの怪人は倒しても問題ない。倒した後にその輪っかを壊せばその属性はみんなの下に帰る。…………よくわからないけど、今説明した通りにすれば大丈夫みたい』

 

「わかった、後は任せて!」

 

『…………アンタ、姿が見えないと思ったらこの非常時にアイロンなんてかけてるんじゃないわよ!!…………』

 

『…………はあ、やはり胸が更地の蛮族には女の子の嗜みという物がわかりませんギャアアアアアアア………』

 

最後にトゥアールの悲鳴と何かを地面に打ち付けるような音が聞こえたけど気にしないことにしよう。俺と総二は互いに無言で頷き合って聞かなかったことにした。

 

正面では興奮から落ち着いたらしいリザドギルティが再びぬいぐるみを背後に従わせている。

 

「見苦しいところを見せてしまったな。あまりの美に己自身を食い止めることが出来なかった」

 

あの姿をを見苦しい程度で終わらせられるリザドギルティの精神が疑いたくなる。人間が公衆の面前であんな行為に及べば社会的に抹殺されるのは言うまでもない。やはり人とは違う存在だからだろうか。

 

「そろそろこの戦いにも決着をつけなくてはなるまい。できることならば貴様たちと(しば)(たわむ)れたいところだが、重大な任務を(おお)せつかっている身。許せ乙女たちよ」

 

「いや許すも何も俺たちはお前と戯れたくねえし」

 

半眼でツッコむ総二。しかしリザドギルティは気にも留めずに続けた。

 

「記念撮影でもしたい気分だな。恐らく生涯(しょうがい)でこれほどのツインテールに出会えることはもうなかろう。我らの戦いの記念に一枚どうだろうか?もちろんぬいぐるみを持って―――――」

 

「だああああああもう面倒クセえええええええええ!!行くぞ良人!!」

 

「わかった!!」

 

業を煮やした総二がついに爆発した。かくいう俺もこんな戦いはさっさと終わらせたい。

 

「ぬうう…………!やむを得ん!これも我が野望のため!!」

 

俺と総二が飛び出すと同時にリザドギルティもぬいぐるみを飛ばしてくる。

 

三つの剣とぬいぐるみが交錯し、第二ラウンドが幕を開けた。




漢字にルビを振っていますが、『読み方がわからない』『ルビがあった方が良いのでは?』という漢字がありましたらぜひご連絡ください。

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