「ちょっと待てえええええええええええい!!」
ここにきてついに愛香のツッコミが火を噴いた。頑張ったね愛香、記録更新だよ。
一方、顔も見知らぬ銀髪少女は心底不思議そうな顔で愛香を見る。
「え、どうかしましたか?」
「え、じゃないわよ何なのアンタは!」
「私ですか?何って、どこからどうみても人間じゃないですか」
「くだらない所で人の揚げ足取る中学生みたいな答えを返してんじゃないわよ!!アンタは一体どこの誰よ!!」
「ああ、そういうことでしたらどうぞお気になさらず」
「気にするわよ!」
「いえ、用があるのはそこのお二方なので」
と、笑みを崩さずに俺と総二を指さす。え?なんで俺たちなの?
少女は戸惑う俺たちを他所に隣から椅子を持ってくると、そのままテーブルの端に椅子を着ける。
「まあまあ、そう熱くならずに。どうぞ、まずは珈琲でも飲んでリラックスしてください」
「そう、ありがと―――って騙されるかあああああああ!!どうしてアンタが仕切ってるわけ!?」
まるで何事もなかったかのように珈琲を勧める少女に、愛香は全力でツッコミを入れた。
「何なのよもう!胸ばっかり強調させた服着て腹立つのよ!!ちょっとりょーと、この店に杵と臼ないの!コイツの胸で餅つきしてやるわ!!」
「お、落ち着こうよ愛香。これじゃあこの人が誰だか聞きたくても話が進まないよ」
それにマジ切れしてもその絶望的な差は埋められないんだから、などということは言わない。それを言ったが最後、明日にはミンチになった俺が破格の値段で売り出されるだろう。そんな人生の終わり方は迎えたくない。
俺の言葉は愛香に届いたらしく、表情を憤怒に歪めながらも震える拳を引いてくれた。
もしこのまま続いていたら被害者は俺ではなく彼女だったかもしれない。俺は今一人の尊い命を救済したんだ。
と、ここでだんまりを決め込んでいた純が唐突に口を開いた。
「ところで貴方は何者?そもそも要件はなに?」
「え、要件ですか?」
「そう。貴方はさっき良人と総二に用があると言った。二人に何の用があるのか、そして貴方の身分を説明してほしい」
淡々と表情一つ変えずに言葉を並べていく純。心なしか純の声がいつもより怒気を含んでいるように感じる。表情も普段より不機嫌だ。とはいってもほとんど無表情に近いんだけどね…………。
少女は思い出したかのように手をポン、と叩いて俺たちの方に身を乗り出してきた。
「そうですそうです。実はお二人にとても重要且つ早急な用があるんですよ」
「………………お、俺たちにか」
「あ、自己紹介が遅れました。私はトゥアールと申します」
「そ、そうか…………よろしく」
明らかに嫌そうな顔をする総二。かくいう俺もきっと同じ表情をしているに違いない。忘れてたんならそのまま帰ってほしかった。
そんな俺たちを見て少女はやんわりとした笑顔を浮かべながら両手を軽く振って続ける。
「お二人ともそんな顔をなさらなくても大丈夫ですよ。別に何かをしようっていうわけではないですから。ただこの腕輪を着けていただくだけなので」
と、そう言ってトゥアールと名乗る少女は白衣のポケットから文字通りの腕輪を二つ取り出した。燃えるように煌めく赤い腕輪と透き通るような美しさを纏った銀色の腕輪。何となく高そうなイメージを感じさせるその腕輪―――もといブレスレットを、トゥアールは俺たちの前に差し出した。
「あの、一つよろしいでしょうか」
「な、何かな」
「お二人はツインテールがお好きですか?」
時間が止まったかのように感じた。いや、停止したのかもしれない。主に俺の体内時計とか。愛香は思いっきり顔を引きつらしてるし、純に至ってはシベリアの吹雪を連想させるくらいの冷たい視線を放っている。
そんな中、総二は間髪入れずにこう答えた。
「大好きですっ!」
おそらくツインテールという単語に反応して答えたのだろう。事実、ハッと我に返った総二は気まずそうな顔をしている。
俺にもわかるよその気持ち。もしも彼女が『ツインテール』ではなく『ポニーテール』と言っていたら間違いなく総二と同じ行動を取った筈だ。自分の気持ちに嘘はつかない、それが俺と総二の美徳なんだから。その答えをトゥアールは笑顔で了承し、彼女の視線が今度は俺に向けられる。
「貴方は、どうなんですか?」
トゥアールの真剣な眼差しを受けて俺は思わず背筋を伸ばした。
なんだろうこの重みは……………。
意味不明なふざけた質問とは裏腹に彼女の言葉にはどことなく重みが感じられる。もしかしたら俺は今、今後の人生を大きく変える分岐点に立たされているのかもしれない。とはいえ、なんとなくそう感じただけで何の根拠もないけど。
俺は呼吸を整えてからトゥアールの瞳をしっかりと捉えて答えた。
「俺も大好きです」
偽りのない俺の気持ちを。
確かに俺はポニーテールが好きだ。これだけは絶対に揺らがない。でも、ツインテールも同じくらい大好きなんだ。何故なら、ツインテールは俺と総二のかけがえのない絆の証なのだから。それにきっと立場が逆だったら総二も同じことをしていた筈だろう。
「そうですか。お二人の意志はわかりました。では何も言わずに、この腕輪をつけてください」
「待て待て待て待て!脈絡無いにも程があるわよ!一体どんな展開でそういうことになるのか説明しなさ――――って言ってる傍からつけさせようとするなあああああああああああああああああ!!」
愛香は強引に腕輪をつけさせようとするトゥアールから俺たちをひっぺ返し、物凄い形相でトゥアールを睨みつける。今の愛香と睨めっこしたら例え百獣の王と称されるライオンでも尻尾を巻いて逃げ出すだろう。一方、そんな視線を全身に浴びているトゥアールは、平然とした表情で愛香と対峙している。
「そんなに睨まないで下さいよぉ、別に怪しい者なんかじゃ――――」
「怪しいでしょうが!アンタの行動を一部始終見て怪しくないなんて思うヤツがいるわけないじゃない!!」
「そこまで否定しなくても………え~と………あっ」
問答無用で切り捨てる愛香に初めて焦りを見せるトゥアールは、少し唸ってからポンと手を叩いた。
「良人君、総二君。私よ私」
「……………はい?」
またしてもトゥアールから何の脈絡もない会話がぶっ飛んできた。急に馴れ馴れしい口調で話しかけられて俺たちは若干動揺する。
「あれ、二人とも覚えてないの~?私よ、トゥアール。あ、もしかして、会うの久しぶり過ぎて私の顔忘れちゃった?」
「……………どういうこと良人。詳しく説明して」
「いやいやいやいや!!おかしいよ純ツッコむところがズレまくってる!!」
ここにきてまたしても純が話に割り込んできた。というか、純の顔がさっきより若干怖いけど気のせいだろう。…………きっと背後が奇妙に揺らめいてるのも気のせいに違いない。というよりそうであってほしい。
しかしトゥアールは純の横槍を物ともせずさらに言葉を続けていく。
「もう、二人して酷いなぁ。女の子の顔も覚えてないなんて。でも、これも何かの縁だろうし………………このうで―――じゃなくてブレスレットをつけてくれるかな?」
「対面でオレオレ詐欺してんじゃないわよ!っていうかセリフ長いのよおおおおおおおおお!!」
「ヒギャアアアアアッ!!?」
突如としてトゥアールが断末魔を残して俺の視界から消え去り、代わりに愛香の姿が目に映る。
走り抜ける疾風。それがトゥアールの頬へ放った愛香の平手打ちの余波だと気付いたのは、トゥアールが再び床にぶっ倒れてからだった。
「何やってんだよおおおおおおおお!?お前、見ず知らずの他人をマジでぶん殴るなって!!」
「というか今物凄く嫌な音してたよね!?平手打ちじゃ絶対に聞こえちゃいけない鈍い音がしたよね!?」
気付いた時にはもう手遅れ。
俺たち二人は目の前で起きた惨状にただただ頭を抱えるしかできない。対面でオレオレ詐欺を強行した少女に、幼馴染が尋常ならざる平手打ちでノックアウト。難事件に幾度となく直面してきた高校生探偵も驚きの展開だ。
「良人、まだ詳しい説明を聞いてない。………………早く吐いて」
「まだ続いてたのソレ!?って何で手刀を喉元に突き付けて脅迫するのさ!?」
一瞬の隙も窺えない完璧な構えで俺の自由を奪う幼馴染。その目はまさに獲物を仕留めにかかろうとする狩人の瞳だ。
流石、としか言い様がない。
愛香の放った殺人級の平手打ち、そして純の暗殺術のような構えは随分と前に亡くなった愛香の祖父が伝授した水影流柔術という流派だ。相手を気絶させず、その上で確実なダメージを与えるというある一種の拷問に近い武術。しかもその技のほとんどが格闘技では反則技だと聞く。
使い方を一つでも変えれば殺人拳にもなる、そんな極めて危険な技を女子高生たちが何の躊躇もなく人に使っているのだから世も末と言えよう。日本は安全だというのに俺たちを取り巻く環境と治安は悪くなる一方だ。
「そーじ、気を付けて!こいつ詐欺師よ!ブレスレットを着けさせて無理やり金を巻き上げようとするヤツに違いないわ!きっと逃げられないように外の入り口で顔中ピアスだらけのモヒカン野郎が大勢待ち伏せてるのよ!!」
「ねーよ!前半はあっても後半はねーよ!!」
もはや愛香の言い分は妄想の域に達しているが、それにしてもうら若き乙女の想像とは思えない。
「うぅ…………痛いですぅ」
瞳を潤ませながら頬を押さえるトゥアールが鼻声で呻き、俺と総二は二人して彼女の傍に駆け寄った。
「あ、あの、大丈夫?」
「悪いな。こいつ、怒ると見境がなくなっちまうんだ」
心配になって俺たちが声をかけると小さく頷くトゥアール。下手に起訴されたりしたら国際問題として俺たちが色んな意味で有名人になってしまう。そんな事態だけは絶対に避けなければならない。
流石の愛香たちも心配になったのかトゥアールの下へやって来た。
「べ、別に大したことないでしょ?ちゃんと手加減だってしたんだし」
あの威力で手加減をしていたというのだから驚きだ。もし愛香が本気でぶっ叩いていたらどうなっていたことやら。
凄惨な事件現場を想像しつつ俺は床でうずくまる少女に手を差し伸べる―――――
「ちょっと待ったぁ!!」
寸前で愛香に腕を掴まれこれまた強引に引き戻された。驚いた俺はとっさに愛香を見ると、人間に宿る生来の野生本能が目覚めたのか物凄い形相でトゥアールに威嚇している。もはや人間という枠から外れかけている愛香の視線を辿っていくと。
あははは、とぎこちない笑みを浮かべるトゥアールの手には銀色のブレスレットが握られていた。
「ふぅん、やっぱり演技だったわけね」
「クッ…………!!」
なぜか悔しそうに下を向いて唇を噛み締めるトゥアール。何故ブレスレットを着けられなかった程度でそこまで悔しがるんだろうか。謎は深まるばかりだが、とりあえず確かなことは俺と愛香を除く2名が軽く引いているくらいだ。かくいう俺も彼女とは物理的に距離を取りたいのだが、愛香に腕をホールドされているせいで動けない。
「お願いです、着けてください!着けるだけでいいですから!お代だっていりません!むしろ差し上げますよ!なんだったら私をお代にしたっていいんですから!!」
地べたに這いつくばりながら上目づかいで懇願してくるトゥアール。物理的には離れていなくとも精神的には地上と大気圏くらいの差が開きつつある。そんな俺の心の内を知る由もなくトゥアールは消え入りそうな声で続けた。
「…………お願いですよぅ。なんでもしますから。だから…………」
「……………………(ピクリ)」
不覚にも俺はその魅惑的な日本語につい反応してしまった。
「なんでも、してくれるの?」
「え………、あ、はい。私に出来ることであればどんなことでも」
「どんなことでも…………」
次に反応したのはやはり総二だ。二人して彼女の鮮やかな銀髪に目を移す。
「「(この髪をポニーテール《ツインテール》にしたい…………)」」
「アンタたち、願望がダダ漏れよ」
「「ハッ――――!?」」
愛香の呆れ果てたツッコミで我に返った俺たちは前のめりになった体を直立させる。あ、危ない危ない。もう少しで銀髪ポニーの妄想に憑りつかれるところだった。それは総二も同じだったようで額の汗を拭っている所だ。
「あう…………踏みとどまっちゃうんですかお二人とも。今ならどんなことでも受け入れられますよ。お二人が望むのならどんな偏った道でも…………むしろ道を逸れた方が私好みで…………グフ、グフフフフフ」
顔を赤らめて妙な笑い方をするトゥアール。どうしてだろう、こんなにも可愛いのに今はとっても気持ち悪い。四つん這いで締まりのない笑顔を浮かべる彼女に、俺はついそんなことを思ってしまった。
「勘違いしてるようだから忠告しとくけど、アンタが想像してるようなことはないわよ。こいつらが望むとしたらポニーテールかツインテールにしてほしいってとこだろうし」
「その通り(コクコク)」
「えっ!?そんな馬鹿なっ!?お、男の子ですよ!しかも思春期真っ盛りの欲望溢れる野獣のような年頃なのに!?」
愛香と純の回答に驚愕するトゥアール。
あれ?やっぱり異国の地だとこういうところって違うのかな?もし知らないのなら覚えておいてほしい。なんでもするって言ったらもちろんポニーテールかツインテールでしょ。これは日本の常識だからね。
「さて、これでわかったでしょ?あたしたちもいることだしそろそろ諦めてくれないかしら」
「…………そういうわけにはいきません。もう次の適合者を捜している時間なんてありませんから」
後半から意味不明なことを言いながら立ち上がるトゥアール。しかしさっきまでとは違い、その顔は死地へと赴く兵士のような覚悟で染まっている。纏っていた雰囲気すらも様変わりしたように凄味を感じた。
その変化にいち早く気付いた人間レーダーこと愛香は少しだけ後ろに下がる。
「な、なによ。あたしとやろうっての?」
「いえ、今さっき申し上げた通りそんなことをしている余裕と時間はもうないんです。何故なら――――」
そこで言葉を止めたトゥアールは意を決したように衝撃の言葉を口にした。
「もうすぐこの世界からツインテールが消滅してしまうからです!」
「「――――――――――――っ!!?」」
その瞬間、俺の頭が真っ白になった。
ツインテールが消えるだって?なんだよそれ、意味が分からないよ。ツインテールが消えたら俺と総二の夢はどこに行っちゃうのさ。いや、そんなことよりも――――――
「「どういうことだよ説明してくれ今すぐに!!!!!!」」
俺と総二の声が重なり二人してトゥアールに詰め寄る。後ろから愛香たちの制止する声が聞こえたが、今はそんなものに耳を傾ける暇はない。何故ならたった今、目の前の少女がツインテール滅亡宣言をしたからだ。そんな事態に形振りかまっていられるはずがない。
と、その時だった。
「はいー♪ではお二人にはこれを差し上げまーす♪」
ガチャッ、ガチャリ
やっとの思いで顧客を捕まえたセールスマンのような笑顔で俺たちの腕に装着させた。あの手この手で付けさせようとしていたブレスレットを。
「「あ」」
気付いた時にはもう装着させられていた。俺には銀色のブレスレット、そして総二には赤いブレスレット。俺たちはお互いにお互いのブレスレットへと視線を向け、そして同調したような動きでそのままトゥアールへと移す。
そしてその先に立つトゥアールと言えば。
「いやー間に合いました。最初からこう言っておけば簡単に済んだかもですね。でも結果的にうまく行ったわけですし、これでやつらが来ても大丈夫そうです」
と一人でぶつくさと喋りながら、一仕事終えたーと言わんばかりに晴々とした笑顔を浮かべていた。
「ちょ、だから待てって言ったじゃない!二人とも早く外しなさい!」
一拍遅れてやって来た愛香たちが俺たちの元に駆け寄り、腕に嵌ったブレスレットを外そうとするが。
「なに、これ?外す部分がない」
外そうとした純が信じられないと言わんばかりに呟く。俺も吊られるようにブレスレットを確認してみると、純の言う通り接合面が見当たらなかった。手に力を込めてみるものの微動だにせず、よく見ればブレスレットがガッチリと隙間なく腕に張り付いている。まるで俺の腕の形状に合わせて作られたかのように。
「なによこれ外れなさいよ!ただの腕輪のくせに生意気ね!!」
「やめろ愛香それ以上は俺の腕が外れるうううううううううううううッッッ!!!?」
それは総二も同じだったようで凄まじい悲鳴を上げていた。なんというか、俺の所に純が来てくれてよかったよ。
「仕方ない。良人、キッチンに行くから待ってて」
「何故キッチン!?そのフレーズからしてここで大人しく待つ必要ないよね!?一体俺に何をするつもりなの!?」
「外れないなら腕を落とせばいいじゃない、的な?」
「なにそのマリー口調!?あの人も大概おかしかったけどそこまでの狂言者じゃないよ!?」
「大丈夫。縫えばくっつく」
「俺は人形かっ!!」
前言は撤回します。誰にも来てほしくなかった。
おぞましい狂言を吐き散らす幼馴染みを他所に、俺はもう一度腕に嵌められたブレスレットに目をやる。着けられたということは外す方法もあるということ。俺はそれを模索しようと――――
「く、くそホントになんだよこれ!無理やりはめ込んで取れなくなった結婚指輪みたいじゃねーか!!」
「なっ、結婚指輪ですってえええええええ!?もう総二の腕なんか気にしてる場合じゃないわ!!意地でも外すわよ!!!」
「いや気にする場合だろ!俺の腕をなんだと―――――っぎゃあああああもうやめてくれええええええええええッッッ!!!!?」
してその思考を根源からバッサリと却下することにした。
総二の腕を抱きかかえながら必死にブレスレットを外そうとする愛香。普通なら嫉妬心で強引な行動に出てしまった幼馴染み、という仲睦まじい青春溢れるシーンになる筈なのだが、愛香というフィルターを通しただけで青春から血みどろの地獄絵図と化してしまう。もはやブレスレットじゃなく総二の腕を引き抜こうとしているように見えるのは、気のせいではないのかもしれない。
総二が自らを犠牲にして俺の有り得る未来を再現してくれてるんだ。俺はその意思を汲み取って違う選択肢を選ぶとしよう。
「良人、やっぱり落とすしか――――」
「はーいはーいあのトゥアールさんッ!このブレスレットの外し方ってどうやるんですかね!?」
またしても湧いて出た狂言をスルーし、俺は最も正攻法と言えるブレスレットの持ち主に訊くことにした。
これ以上方法を模索していると、おままごとセットの人参やピーマンよろしく切ってくっつけてを本当に実践されそうで恐ろしい。何故か俺の隣に居る純が残念そうに眉を八の字にしてるけど、なにが残念なのか俺にはさっぱりわからないよ。
とりあえずトゥアールの返答を待ったのだが、返って来た答えは期待とは真反対のモノだった。
「すみません、それはできないんです」
申し訳なさそうに謝るトゥアール。できないって、どういう…………。
「ちょっと待って、できないってつまり外せないってことなの?」
「いえ、厳密には私が外さない限り外せません。皆さんの、現在の科学力ではその腕輪の解除は到底困難です。それにその腕輪はあなた方が着けていなければ意味のない物ですから」
「?俺たちじゃないと意味がないってどういう――――」
「申し訳ありませんが今細かい説明をしている暇はありません。やつらがもうすぐ現れる時間です」
時計を鋭く睨むトゥアールに吊られて後ろの時計を見ると、時計は午後の1時半を指していた。
謎の少女と謎のブレスレット。そして頻繁に気にしている時計と彼女の言う『やつら』。その単語だけを繋ぎ合わせると尚のこと意味が分からない。こんなわけのわからないブレスレットを着けられた挙句、俺たちが着けないとツインテールが消えるだなんて。
と、そこで俺は重大なことを思い出した。知恵の輪みたいな外し方のわからないブレスレットに気を取られ過ぎて、最も大切なことを訊きそびれていたのだ。この銀髪少女さんは俺たちに言った『ツインテールが消滅する』というその言葉の真偽を確かめていない。
「そんなことよりツインテールが無くなるって―――――」
もしもブレスレットを着けさせるための口実ならば、到底許される嘘ではない。俺はそれを確かめるべく正面を見た瞬間だった。
「うわ―――――!!?」
トゥアールを中心に光が迸り、瞬く間に閃光が眼前に迫ってくる。
愛香たちの悲鳴が響く中、鮮烈なまでの白色が視界を埋め尽くし、俺たちは光の渦に飲み込まれていった。