俺、ポニーテールになります。   作:明智ワクナリ

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初見の方考慮で最初は原作通りです。


『ポニーテールな俺とツインテールなアイツ』①

高校デビュー。

それまでの自分を卒業し、新たなる自分に生まれ変わることを指す。

そしてこのデビューを目論んでいる学生は、百パーセント知り合いの居ない遠く離れた高校に入学する傾向がある。

 

まあそれもそうだよね。昔の自分を知ってる人がいたら、元も子もないわけだし。成功すれば何の問題もないけど、一度でも失敗すれば地獄行き。そう考えると高校生活って結構難しいなあ。

 

と、俺――一ノ寺(いちのじ)良人(りょうと)は幼馴染の観束(みつか)総二(そうじ)津辺(つべ)愛香(あいか)周防(すおう)(じゅん)たちと喫茶店『アドレシェンツァ』で一息つきつつ、高校生活の厳しさを噛み締めていた。

 

周りを見ると客の姿はどこにも見当たらない。ドアに『CLOSED』の看板が立てかけられてるんだから当たり前なんだけど。それじゃあ何で俺たちはここに居られるのかというと、この喫茶店が総二の実家だからだ。俺たちは幼馴染の特権でこうしてのんびりとしている。周りに誰も居ない空間で、四人仲良く食事をしてるように見えるだろうけど、俺と総二の状況は見た目以上に切迫しているんだなあこれが。

 

「…………何であんなことを…………」

 

「…………どうしてだろうね本当に…………」

 

「ツインテール部とポニーテール部とか。流石にないわよそれ、ねえ純?」

 

「ユニークだった…………」

 

正面で面白そうに笑う幼馴染と、反応の薄いもう一人の幼馴染。

 

「し、仕方ねえだろ。俺だって書きたくて書いたわけじゃねえ、無意識に書いちまったんだよォ!!」

 

「そうだよ、これは不可抗力なんだ!濡れ衣だってば!!」

 

「まったく、何が濡れ衣よ。無意識に自分の好きな髪型書くとか、アンタたち相当ヤバいんじゃないの。ま、でもよかったじゃない、最初の内にツインテール馬鹿とポニーテール馬鹿が暴露されて」

 

「それがよくねーんだって言ってんだよ!」

 

「どうしよう、明日から『よう、ポニーフェチ』とかって言われたら俺は、色んな意味で死んでしまう…………」

 

脳裏に浮かぶ恐ろしいシチュエーションに、俺は耐え切れずに頭を抱えたくなる。

学校で通りすがる度に皆からそんなことを言われるとか、一体どんな羞恥プレイだよ!

 

「今更後悔したって仕方ないじゃない。元々アンタたちにまともな高校生活が送れるとは思ってなかったけどね」

 

なんとも得意げに言う愛香。挑発するように左右に垂れた髪を俺たちに向かって振ってくる。

 

相変わらず腹立つくらいに綺麗なツインテールだ。

 

振る度に美しい曲線を描いて、しなやかに揺れる二つの髪。その度に光を浴びた髪が艶やかに輝き、幻想的な美しさを放っている。ポニーテール好きの俺ですら、目を奪われるほどの光景なんだ。隣に座っている総二には俺以上の素晴らしい光景が映っているはずだろう。

 

俺が横目で盗み見てみるとやはり想像通り、総二の双眸は力強く輝いていた。

 

観束総二。総二は俺の心友であり、おそらく世界最高のツインテール愛好家だ。

その証拠に、視界に映した女性の髪型を瞬く間に脳内変換でツインテール化させるほどの実力を持つ。きっと総二の右に出る人は居ないだろう。まさに世界最高の名に相応しい力だ。そう思いつつ隣の純を見る。

 

そしてこう思うんだ、やっぱり俺はポニーテールが好きだって。

 

特に飾り気もなく、ただ後頭部で結わえただけのポニーテール。ただただシンプルで、そして純粋だからこそこの髪型は輝く。腰まで伸びる艶々の髪は、純が頭を動かすたびに柔らかく揺れ、見ているだけで心が洗われていくよ。

 

そう、俺はポニーテールが好きだ。

 

そして総二はツインテール好き。お互いにぶつかり合うこともたくさんあった。ほら、よくあるでしょ?絶対に譲れない信念とかって。俺たちの場合、ただそれが髪型だったってだけで、俺たちはそれをおかしいとは思わない。

 

俺と総二は譲れない思いを胸に何度も何度もぶつかり合った、数え切れないほどに。その結果、俺たち二人は互いの思いを尊重し合い、手を取り合えたんだ。だから今の俺と総二は宿敵であり、同時に心から信頼できる『心友』なんだよね。

 

はい、俺と総二の関係終了。

 

挑発的な行動を取る愛香に総二は言い返した。

 

「まるで俺たちが普通じゃないヤツみたいな言い方だなおい」

 

「いや、普通に考えて普通じゃないわよアンタたち」

 

「普通普通ってうるせーんだよ!!そういうお前だって十分普通じゃ―――――」

 

「何か言ったかしら?」

 

「スミマセンデシタ。ナニモ イッテマセン ハイ」

 

愛香の放つ殺人級の視線に打ち抜かれた総二は、テーブルに額を擦り付けて謝罪した。

変わり身早いな、お前には男のプライドが無いのか。なんてそんな野暮なことは言わない。

誰だって命は惜しいだろう?

 

俺はそんな二人から視線を外すと、正面に座っている純と視線がぶつかった。

 

「皆、元気なのはいいこと」

 

「え、ああ。そうだね」

 

柔らかい笑顔を浮かべる純。隣で展開されている一瞬でも選択を間違えれば即処刑の状況を見て、何故そんな笑顔を保てるのか是非とも訊いてみたい。

 

が、しかし。俺も正直この展開にはもう慣れている。俺とこの三人は小学校からの付き合いで、どういうわけかクラスもずっと同じメンバー。高校ですらこの摩訶不思議な引力が働いたらしく、今年も四人全員が同じクラス。

 

そう、俺たちは今日から晴れて高校生だ。

 

私立陽月学園、俺たちがこれから三年間通う母校の名だ。初等部から大学部までがエスカレーター式で進学できる、割と有名な学校だったりする。

 

そして俺と総二の二人は高等部登校初日でやらかしたのだ。

 

部活の希望入部アンケート、それが全ての原因だった。特に入部したい部活もなくどこにしようかなぁ、と考えてたけど結局答えは出ずに時間切れ。慌てた俺はアンケートを急いで書いて出したのはいいものの、それが間違いだったんだなあ。俺がアンケート用紙に書いた回答は『ポニーテール部』、そして総二が『ツインテール部』という何ともカオスな部活名を書いてしまったんだ。

 

しかもそれに気付いたのは担任のやる気のない口頭、しかもクラス全員の前で暴露ときた。顔も名前も知らない、これから仲良くなれたかもしれないクラスメイトたちの前でこの羞恥。生殺しですよホントに。

 

流石の俺も穴があったら飛び込みたい気分だったよ。

 

「ってなんでオメーは人の苦悩を聞き流して俺の分のカレーまでがっついてんだよ!」

 

「仕方ないじゃない、だって足りないんだもん」

 

「『もん』じゃねーよ!なんでもかんでも語尾に『もん』つければ許されるとでも思ってんのか!世の中そんなに甘くねーぞ!!」

 

「うるさいわね。食事中のマナーもわからないわけ?」

 

「平然と人のカレーをパクるやつより、それを抗議してる俺の方がマナー違反なのかッ!?」

 

知らない内にまた言い争いが勃発していたらしく、またしてもギャーギャーと騒いでいる。俺はそんな二人を微笑ましく思いながら、愛香に残りを取られないよう食べようとした時、ふと視界の端に人影のような何かが見えた。

 

「…………人?」

 

注意深くその場所に視線を移すと、女性が一人だけカウンターに座っているのが見える。

 

(なんだ、ただのお客さんか)

 

と納得しかけたところで、いやいやいやと頭を振った。店はとっくに閉店してるし、外にも看板が立てられている。つまりこの店に入ってくる客はいない。仮に入って来たとしても、扉のベルが鳴って気付くはず。だとすれば、ここのオーナーである総二の母が気付かずに店を閉めてしまったのだろう。昔からどこか抜けている人だからあり得なくはない。

 

知らなかったとはいえ、ちょっと騒ぎ過ぎたかな。この二人もいい加減静かにさせないと。

 

未だに客の存在を知らず、大いに騒いでる二人を宥めようとした時、奇妙な視線を俺は感じた。気のせい―――というより明らかに女性がこっちをチラチラと盗み見ている。こっそりと見ているようだが俺からの位置ではバレバレだ。もしかしたら、静かにしてほしいけど言い出せない気の弱い女性なんだろうか?

 

と、一瞬考えもしたが、時折女性から放たれるまるで何かを見極めるような視線に、俺は言い様のない胸騒ぎを感じた。

 

「そ、そーじ…………また触ってる」

 

「あ…………わ、わりぃ、ついな」

 

総二を見れば、いつもの癖でテーブルの上に乗せられた愛香のツインテールを触っていた。総二は子供の頃から悩み事や何かがあると、無意識に愛香のツインテールを触る癖がある。本人曰く、愛香のツインテールを触っていると落ち着くらしい。

 

ちなみに愛香がテーブルに髪を乗せるのは、地面に着かないようにするため。それなりの長さがあるため、座った時に着いてしまうそうだ。

 

俺が総二をちらりと見ると、総二も怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

 

「(な、なあ良人………。あの人、最初から居たか?)」

 

「(わからない。俺も今さっき気付いたんだ)」

 

女性に気付かれぬよう小声で話し、再び女性の方を見てみる。すると、やはり女性は俺たちが気になるのか、さっきと同様にチラチラとこちらを見ていた。

 

怪しい。何なのかはわからないけど、とにかく怪しい。と、そこで俺たちの異変に気付いた純が不思議そうに訊いてきた。

 

「二人とも、どうかしたの?」

 

「え、あ………いや」

 

「なによ、随分と歯切れが悪いわね。…………ははーん。さてはりょーと、アンタまたポニーテールのことでも考えてたんでしょ」

 

「ち、違うって。別にそういうのじゃないけどさ」

 

俺は慌てて頭を振る。というか愛香の言い方だと、まるで俺が毎日ポニーテールのことしか考えてないやつみたいじゃないか。まあ、事実だから否定は出来ないけど。

と、ちょうどその時、愛香も店内に居る客の存在に気付いたらしく、顔を大袈裟に強張らせた。

 

「冗談でしょ、さっきまで何の気配も感じなかったのに…………!?」

 

「私たちが来たときは居なかったはず」

 

愛香に続いて純も気付いたようで、おっとりした目を大きく見開かせている。俺としては毎日周囲の気配を察知して生きてる愛香の方に驚くよ…………。

 

改めて店の奥に座る女性を見る。すると女性は姿を隠すかのように新聞を広げ、それでもなお俺たちを見ていた。

 

新聞紙に穴を空けて覗き見るという、なんともベタな技を使って。

あまりのベタベタな仕込みに、俺たち一同は椅子から転げ落ちそうになる。

 

「(と、とりあえず無視しときましょ。関わらないのが一番よ)」

 

一様に頷く俺たち。

愛香の判断は賢明だろう。下手に関わって面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 

と、その時だった。

 

女性は新聞紙をカウンターに置くと、そのまま立ち上がって出入り口の方へと歩いていく。何をしたかったのか結局わからず終いだったが、どうやら帰る気になってくれたらしい。その姿を確認した俺たちは安堵の息を漏らした。

 

が、しかし。そのまま帰ってくれるかと思いきや、女性は出入り口を素通りして俺たちの方へと歩み寄って来た。徐々に近づいてくる女性に対して、俺たちの警戒心は強まる一方。

 

が、距離が縮まるにつれて明らかになる女性の容姿に、俺はつい目を奪われてしまった。

 

そこにいたのは、今までに見たことないがないくらいの美少女。

 

とりあえず見た目でわかるのは、彼女が日本人ではなく外国人だということ。その証拠に彼女の髪は、日本人ではありえない銀色だ。窓から差し込む午後の日差しが彼女の髪を照らし、揺れる髪先が流星の如く輝いている。あの美しさは染髪などではなく、きっと本物なのだろう。

 

小さい顔には長い睫と、サファイアの大きな二つの瞳。桜色の小さな唇が綺麗に収まっている。

そして何と言っても一番に目を惹くのは、歩く度に揺れている圧倒的なボリュームの胸元だ。

 

なんという大きさなのだろう。

 

見た目から察するに俺たちと然程変わらない年齢だろうに、そこの発達だけは凄まじく進んでいる。愛香とは比べ物にならないほど絶望的な差だな。しかも彼女の服装は、視線のやり場が困るような肌色の多い服装だ。胸元を強調するような薄手の上着、超がついてもおかしくないほどのミニスカート、そしてなぜか白衣。

 

どことなくミステリアスで妖艶な雰囲気の彼女は、女神のような笑顔を浮かべたまま、優雅な足取りで俺たちの方に向かってくる―――――

 

「フギュウッ!」

 

その途中で盛大にズッコケた。しかも顔面から。

 

「「「(えー…………)」」」

 

「…………………」

 

あまりの衝撃に俺たちは揃って声を出してしまった。純に至っては眉ひとつ動かさない。あれだけ決まっていたというのに、今ので色々とぶっ飛んでしまったような気がする。

 

少女は「イタタタ………」と可愛らしく鼻を擦りながら起き上がり、俺たちの視線に気づいたらしく物凄い勢いで体勢を立て直した。そしてそのまま何事もなかったかのように俺と総二に微笑む。

 

「すいません。相席、よろしいですか?」

 

…………………はい?




オリキャラ説明の要望がありましたので記載します。

周防 純

性別・もちろん女の子。

総二やオリ主たちと同じく幼馴染みです。基本的に物静かなオリ主のヒロイン1号、愛香と仲良く水影流柔術やってたので事実上愛香に次ぐ殺戮マシーンです。意外と巨乳っ娘なので愛香に妬まれがち。あと天然属性、これ鉄板。

と触りはこの辺で終了です。

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