魔法学院の百合の花   作:potato-47

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Interlude 人形姫

 小さな窓が一つだけ。

 時間が停止したように、静寂が支配する暗い部屋。

 木製の四脚椅子に一人の少女。

 

「…………」

 

 少女は椅子に浅く腰掛けて、足は床に届かず無造作に投げ出されている。両手は軽く握って膝の上に揃えられ、俯いた視線は何もない床に固定されている。身動ぎ一つ見せず、機能が停止してしまった魔像兵器(ガーゴイル)のように、少女はただただそこに在った。

 その姿はまさしく、人形のようであった。

 

「…………」

 

 コンコン、と控え目なノックの音。

 人形は一切の反応を示さない。

 

「失礼するですよ」

 

 独特な口調で断りを入れて、扉がゆっくりと開いた。

 部屋に入ってきたのは、人形と同じぐらい年齢の少女だった。

 

「おはようです」

 

 朗らかな笑みで人形へ挨拶をする。

 人形は一切の反応を示さない。

 少女は苦笑を漏らすと、人形の正面に回った。膝立ちになり、白魚のような指を自分の指と絡ませて、覗き込むように表情を伺う。

 

「相変わらず綺麗な指ですね。羨ましいです」

 

 人形は一切の反応を示さない。

 

「あっ、そういえばですね、実は今日、大ニュースがあるですよ!」

 

「…………」

 

「なんと、エントール家の祖先が綴った魔術書を発見したです!」

 

「…………」

 

「そこにはですね、エントール家が衰退する前に生み出した禁術がたくさん記してあったです」

 

「…………」

 

「なんとなんと、その中にはずっと探していた術式があったですよ」

 

「…………」

 

「これで、これでやっと、お話できるです」

 

「…………」

 

「これでも無反応だと困るですね。でも、すぐに本当の気持ちが聞けるです」

 

 人形の顔が窓から見える青空を仰いだ。

 

「やっと反応してくれたです! って、ああ……いつも通りですね」

 

 午前9時が回る。行動開始の時間が訪れた。

 人形は少女の手を無造作に振り払い、部屋の隅へ歩いて行く。

 整理整頓の行き届いた作業台には、フラスコや試験官、多数の魔導具が並べられていた。

 人形は黙々と作業に取り組む。

 

「仕方ないです。今日は出直すですよ。また明日です!」

 

 少女は人形の背中に手を振って、部屋を出ていった。最後にチラリとドアの間から覗き込むと、人形は変わらず魔導具を手にとって作業に没頭していた。

 

 ドアが閉じられ、そして世界は人形だけのものとなった。


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