The hunters story―狩人の奏でる旋律―   作:真っ黒セキセイインコ

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第五話 紅く煌く流星

 何処を目指すかを決めたエンとポップは拠点を出て、ガーグァ達がたむろしている小さな河原のエリアを通り抜けると、大きな原っぱが広がっており、どれくらい前に打ち捨てられたかもわからない建造物の並ぶエリア4へ辿り着いていた。

 

 エンは辺りにモンスターが居ないかと周りに目を凝らすと、建物の間を紫色の影が行き交っていた。

 その紫色の影はエン達にとったら見慣れた小型の肉食モンスターであるジャギィだ。

 しかしどういう訳か、5頭いるその全ての視線が森の方へと集中している。

 嫌な予感を感じたエンはとっさにジャギィ達が見ている森の方に目を向けると、ちょうど流星のように尾を引く紅い光が通り過ぎて行った。

 しかもエンたちが向かっているエリア7にである。

 

「だ、旦那さん、まさかアレって……」

 

 ポップが顔を青くしながらポツリと呟やいた。

 

「こりゃあ……、まずいな」

 

「早く行かないと本気で手遅れになるニャ!」

 

「――――嗚呼、わかってる!」

 

 そう言うとエンはポップを小脇に抱き抱えると、そのまま走り出した。

 ジャギィ達は走ってくるエンに気付くと、エン達に吠えかけながら襲いかかってくる。

 だがエンは、ちょうど目の前にいるジャギィを思い切り蹴飛ばし、そのままエリア7へ続く坂へ走っていく。仲間を蹴り倒されたジャギィ達はエンを敵と認識し追いかけてくるが、エンはそれを無視してそのまま走り続けた。

 走り回るのが得意なジャギィ達でも追いつけない速さでエンは疾走する。

 

 それほどエンは切羽詰まっていたのだ。

 それもそのはず、あの紅く輝く流星は本来このランクのクエストに出現することは、ほぼあり得ないモンスターだ。いや有って良い訳が無い。

 

 通常、クエストはギルドの念入りな調査が行われた後、依頼として成立する。

 ハンターたちはギルドにとったら貴重な宝にも等しい、そんなハンターをむやみやたらに死なせていたら、ギルドとして機能ができなくなりその結果、力のない人々を危険にさらしてしまう。

 そのため狩り場の調査は、ギルドが責任を持って行われる。

 ただし例外があり、ギルドから信頼のあるハンターしか受けることの出来ない、上位クエストやG級クエストにおける狩猟環境不安定と呼ばれているモノもある。

 狩猟環境不安定というのは、事前にその狩り場の調査をして、『調べはしたが、他のモンスターが乱入する可能性を拭い切れない』と言う時の言わば警告のようなものだ。

 そしてこの狩猟環境不安定とは、別に上位クエストなどだけに限られた話ではない。

 たとえ下位クエストだとしても、クルペッコという例外が存在する。

 そして下位のクルペッコと上位のモノでは、呼び出されるモンスターの次元も違う。

 そのためクルペッコ種の狩猟は特に念入りに調査され、狩り場周辺にその時に生息している大型のモンスターも調べ上げられ、依頼として成立する。

 

 そしてユクモ村居着きのハンターは、まだ駆け出しのハンターだと村長に説明された。

駆けだしのハンターが受けるクルペッコのクエストでは、せいぜいその周辺に住む危険度(ランク)が低めのモンスターぐらいが現れる程度で、あのランクのモンスターが現れるはずが無い。

 

(ジンオウガとか言うのじゃなくて良かったとも言えるが、どっち道そのハンターが危険なのは変わらねぇじゃねぇか!)

 

 エンはエリア7へと続く坂道を疾走する。途中でぬかるみに脚を捕らえられながらもエンは走り続けた。

 

 

 

 そしてエリア7の入口に差し掛かった時、血の匂いが鼻へ飛び込んできた。

 

 エンは最悪の展開を想定しながらエリア7へと飛び込んだ。

 ポップを地面に下ろし、まず目に入ったのは、胸元に黒い刺が突き刺り、鮮血をまき散らしながら飛び立つクルペッコだった。

 次に、その先に一人の少女がいた。腰に届くほど長い黒髪を泥だらけにしながら、地面に横たわっている。その数メートル離れたところに大剣が転がっていて、それが彼女をハンターだと物語っている。

 

 そして、その少女から10メートル弱離れたところに、ブレード状の翼をもつ黒い竜が佇んでいた。

 竜の眼は紅く輝いており、長くてよくしなる鞭のような尻尾を地面にたたきつけ、威嚇の姿勢をとって唸り声を上げている。

 

「オイオイ……、こう言う時に限って悪い予感っつうのは当たるのかよ……」」

 目の前の惨事に、エンは冷や汗を掻きながらその竜を見すえた。

 

 その黒い竜の名は【迅竜(じんりゅう)―ナルガクルガ―】。

 黒い疾風とも謳われ、木々の多い陸上での生活に特化した飛竜種である。

 特に原始的な飛竜種である【ティガレックス】に近い骨格を持っているため、【リオレイア】などのように飛行するのはあまり得意ではない。

 しかし、その代りに優れた視覚・聴覚で獲物を補足し、その凄まじい俊敏性をもって木々の間を縫うように移動し、獲物へと襲いかかるのだ。

 

 エンも何度かはナルガクルガと狩猟したことはあったが、その速さにいつも手を焼かされたおり、このモンスターの厄介さは身をもって知っていた。

 しかも、今装備しているのはにアロイシリーズと言うあまりにも貧相な装備だ。

 

(上位個体だとすると本気でヤバイな……)

 

 モンスターの攻撃を受けた時もする時も、全て装備によって結果は変わってしまう。

それほどモンスターの力は強大なのだ。

 だからこそハンターは、強い武具を作り出し、その牙・爪を阻む鎧に身を包み、その鱗を貫く刃を持ってモンスターを狩る。

 そしてエンが装備しているアロイシリーズは、下位防具の中でもかなり弱い部類でナルガクルガの攻撃には耐えられる訳が無い。つまり一撃でも重い攻撃が当たったら、アロイシリーズは衝撃に耐えきれず、エンの身体は重大なダメージを受けてしまうということである。

 そしてエンの頭がネガティブな思考に囚われて行く中、ナルガクルガが動きを見せた。

 片方の前脚を突き出し、もう片方片方の脚を引き、そして身体を屈め出したのだ。全身の筋肉をバネのように力を加えて行き、今にも爆発させようとしていた。

 

 ――――飛び掛かり攻撃。ナルガクルガとの戦闘では注意しなければならない攻撃の一つで、ジグザグに標的に襲いかかっていくというものだ。細い樹木などがあってもブレード状の翼で斬り倒しながら突っ込んでくるため動きを予想しないと避けきれず、その翼で斬り裂かれるだろう。

 そして、その飛び掛かりの標的は未だに身動きをとれないハンターの少女だった。

 溜めが終わり飛び掛かりをするまでは、もう十秒も無い。

 

「迷ってる暇は無いか……!」

 

 ナルガクルガの動きを見たエンはさっきまでの思考を断ち切り、背中に括り付けてある己の武器を構えた。その武器は狩猟笛の下位武器である【ボーンホルン改】。ナルガクルガと対峙するにはあまりにも頼りない武器だ。

 それでもエンは臆せずボーンホルンをその場で出来る限りの速さで規則的に振り回してから、柄頭にある小さな穴に口をつけ思い切り息を吹き込んだ。すると、中で空気が流れる音がした後、辺りに甲高いキィィィーンという音が鳴り響いた。

 

 これこそが狩猟笛の特徴である演奏だ。振り回すことにより旋律を集め、それを演奏により力にするという摩訶不思議な技である。それは傷を癒す優しげなものや、自信の移動速度を速めるとても速いテンポのもの、闘争心を掻き立てるものなど様々な物があり、狩猟笛によって演奏できる物も違うのだ。

 

 そしてこのボーンホルンは高周波という、音爆弾と同じ効果を持つ音を出すこともできるのである。つまり、音に弱いモンスターに対しての音爆弾の代わりとして使うことができるのだ。

 そして高周波をモロにくらった聴覚の良すぎるナルガクルガは、その体勢を大きく崩しジタバタともがいていた。

 

「今だ! あのハンターを連れてずらかるぞ!」

 

 今は部が悪い、アレをどうにかするにしてもこの状況で無策で戦うなど馬鹿げている。

 エンは倒れている少女に近づき、肩に担ぐとその場から脱兎のごとく逃げ出した。後ろからポップが少女の武器であろう大剣と呆然としているアイルーを担いで走ってくる。

 さらに後ろで怒り状態になったナルガクルガが咆哮を上げるが、体制を整える前にエンたちは一番近くにあったエリアの入口に飛び込んだため、ナルガクルガの獲物を取り逃がしたことによる咆哮がエリア7に虚しく響き渡った。

 

 エン達が飛び込んだ先は滝のある浅い川のエリア6であった。まずはこの少女の治療をしなければならない。何をするにしてもそれからだ。そう考えエン達はあたりを警戒しながら、ベースキャンプへと帰還することにした。


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