The hunters story―狩人の奏でる旋律―   作:真っ黒セキセイインコ

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第十三話 新たな火種

 その二人への第一印象は、よく似た男女の双子というものだった。

 片方はストロベリーブロンドのケルビ―テールに冴え渡る青空のような色の瞳をたたえる、人形めいた容姿の少女。

 もう片方は少女とは打って変わって、若葉を連想させるような軟らかい緑色の髪で、少女と同じく蒼穹の瞳を持つ少年。

 二人の背丈はほとんど変わらず、あろうことかその体格まで似ており、下手をすればその体重まで同じなのではないかと思えた。

 

 その二人が、ちょうど隣のテーブルに座り、そして、とある少女の名を呟いた。それはさっき昼食に誘い、今は目の前で料理を瞬く間に消化していく、黒髪の少女の名前。

 すなわち。

 

「えっ、私の名前……?」

 

 ユクモ村居着きのハンター、アイン。

 

 彼女が驚いて後ろを振り返ったことに、少なからず二人も驚いたようで、そのそっくりな顔は驚きの表情に固まってしまっている。

 そして、しばしの沈黙。先にそれを破ったのはストロベリーブロンドの少女だった。

 

「あの……ええと、今……、私の名前と仰られましたか?」

 

「うん、……私の名前はアインだけど……」

 

 アインが答えると、またも二人は黙り込んだ。ストロベリーブロンドの少女が何故か肩を震わせており、それを見たエンは何となくだが嫌な予感を感じた。背中を苦虫が這いまわった時ようなむずむず感がする。

 エンの嫌な予感というのは殊更に当たりやすい。内心でそういうことにならないように滅多にやらない神頼みすらエンはする。だが、それもむなしく少女の口より新たな火種となるであろう言葉は飛び出てしまった。

 

「あ、ありませんわ……、貴女みたいな方が迅竜を撃退したっていうんですの……!?」

 

 あーやっぱり、とエンはやけくそ交じりに心の中で叫んだ。ナルガクルガの件に自分の名は出さない様にギルドマネージャーと村長に頼み込んだのは記憶に久しい。そして、その時ナルガクルガの件については(本人の同意は無く)アインの名前のみしか存在しないことになっていた。

 つまり、アインはなし崩し的にクルペッコの狩猟クエストにおいて、クルペッコとアオアシラ、そしてナルガクルガの撃退を行ったということになっているのである。

 そうなれば、必然的にアインには駆け出しであるはずなのにナルガクルガを撃退した『とんでもハンター』という名目で注目を集めてしまっても可笑しくはない。

 

 アインがくるりとエンの方を向く。目の前の二人組がどういう訳でそう言ったのかをどうやらある程度察してしまったらしく、エンに向けられるのは勿論『どういうこと?』であることは言うまでもない。

 眼を合わせずらくなったエンはさらりと顔を背けた。この食事会にはそういう意味も兼ねてしまっていたため、余計に顔を合わせずらいのだ。

 

 しかしながら、二人のそういうやり取りに、そっくり者同士の二人組は気付かなかったようで、さらに少女の方がアインに詰め寄る。

 

「嘘ですわっ! 貴女のような方がナルガクルガを撃退できるわけが無いでしょうっ!?」

 

 少女の張りつめた声が、まるでクルペッコのように大音響で酒場に響き渡る。ついで、少女のか細い腕はアインの肩をつかみブンブンと揺らし、それに合わせアインの頭が長い黒髪と共に前後に振り回された。

 

「ちょっと……待って……何が、何だか……?」 

 

 ガックンガックンと振り回されながらアインが、つっかえつっかえに叫ぶと、さっきまで呆然としたままだった少年とエンが慌ててヒートアップし始めた少女を止めに入り、何とかアインは解放された。

 頭をしこたま振り回されたアインは少し眼を回してしまったようだが、何とか両足でふらつきながらも倒れ込むのを何とか耐え踏みとどまる。

 

「……一体、何なんですか? あなたたちは……?」

 

 ようやくアインが絞り出した声は目の前の二人組への質問だった。怒りは収まらぬようだが、それをなんとか表に出さずに二人組を見る。

 それに対し少女はコホンと咳払いをすると、上品に語り出した。

 

「申し遅れましたわ、わたくし、ハンターしている、サキと申しますの。こちらは双子の兄の――――」

 

「――――同じくハンターのウキだよ。自分の名前ぐらい自分で言わせてよね、サキ」

 

 少女はサキ、少年はウキというらしい。どちらもさっきの態度とは打って変わって大人しい言葉遣いである。しかし、自己紹介を終えた途端、鬼気迫る剣幕でサキはアインに詰め寄った。

 さすがにエンでも、これ以上はアインが気の毒に感じたので、間に入って仲裁する。

 

「とりあえず、両方とも落ちつけよ。こっちも何が何だかよくわからねぇんだから」

 

「なんですの、貴方。わたくし達は、この方に用があるんですの。部外者は下がっててくださいな」

 

「残念、俺は部外者じゃない。こいつと組んでるんだ」

 

 アインを差して言った途端、サキとウキの視線がエンに一斉に向かう。片方は純粋な興味の視線、もう片方はまるで品定めをするかのような視線。

 

「そうですの。なら、貴方に聞けば、事の真相はわかるということですのね」

 

 どうやら矛先がエンへと向いたらしく、今度はエンが顔を苦くする番だった。

 よもや自分の方に向くとは思わなかったエンは小さく舌打ちする。ナルガクルガの狩猟の件はエンはよく知っている。だが、それを説明してしまえば、ようやく落ち着いた話題を掘り返すことになってしまう。

 エンは自分の事情をアインには説明していないが、彼女は自分がどういう人間なのかを聞かないでいてくれている。しかし他人がそれを聞けば疑問を持つのは必然であり、そこから固めたものが瓦解など簡単にありえてしまうのだ。

 さてどう説明するか。エンの無言に疑問を持ち始めている双子に、重い口を開こうとした時、双子の片割れ――――サキが口をはさんだ。

 

「――――とは言っても、お仲間の貴方に聞いたって事実とは限りませんわね。だから試させてもらいますわ」

 

「試すってどうやってだ?」

 

「そんなの決まってますの。わたくし達は何を仕事にしているかといえば簡単なことでしょう」

 

 エンは本日二度目となる嫌な予感を察知した。こう言うタイプが言うことは大体限られてくるからだ。

 以前から――――つまりはあの街に居たころから、エンはこう言う上級階級の使うようなヘンテコ言葉遣いをする者には何時もひどい目にあわされている。やれ退屈だからモンスターを狩ってこいだの、やれ突然変異で小さくなったらしい爆鎚竜を狩ってこいだの、というバカげた依頼者が居たので、エンは上級階級がやるような口調にはやや警戒的なのだ。

 そして、十中八九エンの予想通り、『仕事』から連想させられるに言葉は非常に厄介なものであった。

 

「これから狩猟クエストに行って、確かめさせてもらいますわ」

 

 ビシッとアインとエンに双子の妹――サキは指さしながら高らかに宣言した。断ろうにも断ったって無駄な気質なのは明らかだった。

 どうやらエンとアインの暫くの休暇はここで終了だったようである。

 

 

 

◇ ◆ ◇

 

 

 

「大型モンスターのクエストですか? すみません、今のところその手の依頼は来ていないんです」

 

 あくまでも事務的なギルドガールの言葉に、カッコつけて高らかに宣言した強引少女は黙り込んだ。

 

 

 




 久々の更新、本当に遅れてすみませんでした。しかも今回は短い上、少々強引な持って行き方をしてしまったと思います。

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