憑依者がいく!   作:真夜中

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お久しぶりです。


48話 暗雲はどこに行く

西の異民族に渡っていた帝具の回収は僅か2日で終了した。

 

この結果は予想してた結果の中でも早い方であった。

 

特別何か起こったわけではなく……ただ単に長距離射撃によって使い手が死亡しただけだ。

 

運が良かったのか悪かったのか頭部に銃弾を受けてだ。俺としては時間をかけずに終わったので運が良かったと言えるだろう。

 

回収した帝具はすでに帝都へと輸送している。

 

向こうに着くには時間はかかるだろうが途中で奪われることはあるまい。

 

護衛は普段の倍にしてある。

 

並大抵のことでは問題ないよう手を打つのは当たり前のことだ。

 

何事も正攻法は強い。

 

正攻法で物事に対応できた時点で大抵のことはどうにか出来る。

 

正攻法で勝てないから奇策等を用いるのだ。

 

「…………どうするか」

 

予想外に早く終わったため、すぐさま帝都へと帰還すべきか迷っている。

 

何故迷っているのかと言えば……安寧道についてだ。

 

こことは正反対の場所に本山があるため向こうの情報が中々こちらに入ってこない。

 

来たとしても距離の関係上どうしても古くなってしまう。

 

これを解消するすべがあれば大いに助かるのだが……無い物ねだりをしてもしょうがない。

 

あるものでどうにかしなければならないのが現実だ。

 

仮に遠方の状況を知るすべがあったとして、それがこちら側のみであるとは限らない。

 

一般に普及していたら敵側と情報を得る条件はそう変わらないものとなる。

 

歯痒いが……この不便さに救われている部分もあるのが現実だ。

 

情報情報が拡散するまで多少なりとも時間がかかる故に

情報を封じ込めやすいのだ。便利さだけを求めるとそれに足元を掬われる可能性がある。

 

難しいものだ。

 

ただ、大臣を始末し終えた後でならドクターに作らせるのもありだと考えている。

 

あまり先のことを考えていても仕方がない。

 

……既に大臣へ嫌がらせ以上に影響を与えつつエスデスを始末し、エスデスの率いていた軍を使い潰すための策は俺とエスデスの2人がいればすぐに決行できる。

 

エスデスは戦力的には惜しいが……大臣に負けず劣らずの危険人物であることは明白だ。

 

故に殺すのだ!

 

行方不明になっていようがエスデスがの垂れ死ぬ所など想像出来ない。

 

きっと帝都に帰ってくるだろう。……いや、既に帰ってきているかもしれない。それならそれで……決行のタイミングを何時でも作れる。

 

 

 

 

帝都……イェーガーズ本部会議室。

 

「……ついにナイトレイドが尻尾を出したか」

 

帝都周辺の賊を軒並み討伐し終えると日に日にナイトレイドと思わしき人物たちの目撃証言が報告されてくるようになった。

 

まるで、この時を待っていたかのように……。

 

そして、この会議の内容は完全に筒抜けであった。

 

開かれた会議室の窓辺に止まる小鳥。何の珍しくもない帝都に多く見られる種類の鳥だ。

 

だからこそ、誰も気に止めない。

 

時折、動いている様子が見られるが何ら気にされることのない動作だ。

 

故にイェーガーズはナイトレイドの後手に回ることになる。

 

 

 

「流石だなチェルシー」

 

ナイトレイドのアジトにある会議室でチェルシーの報告書を読んだナジェンダ。

 

「どもども。これくらいなら余裕よ」

 

それもそうだろう。この報告書の内容はランスロットからリークされた情報を元にチェルシーが最新版に手直ししたものなのだから。

 

「でだ、次のために我々はイェーガーズを討たなければならない。そのための準備を頼めるか」

 

「任せといて」

 

チェルシーの脳裏にイェーガーズの面々が過る。

 

「…やってもらうことは…」

そして……これがとてつもない事態を引き起こすことになろうとは誰にも予想出来なかった。

 

ランスロットの組み立てていた予定を思いっきりぶち壊すと同時に大きな手間を省くことになる。

 

後にチェルシーは語る。

 

「……まさか……こんなことになるなんて思いもしなかった」

 

 

 

 

数日後。

 

イェーガーズ本部。

 

「隊長」

 

会議室にて手帳を見ているエスデスへとランが声をかけた。

 

「ナイトレイドのアカメやマインと思われる人物が東のロマリー街道沿いで目撃されたそうです」

 

エスデスは見ていた手帳を閉じ、帽子を被ると立ち上がり、命令を下す。

 

「イェーガーズ全員を召集しろ」

 

ナイトレイドとイェーガーズの死闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 

帝都から出ていく、7つの馬に乗った人影。

 

それを見ていた革命軍の2人の諜報員。

 

「エスデス達イェーガーズだ。7人とも馬で東へ向かっている」

 

「ナジェンダさんの作戦がズバリ的中だな!」

 

諜報員の1人が素早く情報を紙に纏めると伝達用に調教していたマーグファルコンを呼ぶ。

 

「頼むぜマーグファルコン。この情報をナイトレイドへ!」

 

脚に紙を結ばれたマーグファルコンが飛び立つ。

 

それを見送る諜報員の2人はこれから起こるであろうイェーガーズとナイトレイドの激突に思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

翌日。

 

ロマリー街道。

 

「ナジェンダはそのまま東へ、アカメは南へ! ここに来て一行は二手に分かれて街を出ていったところを目撃されている」

 

エスデスの読み上げる情報を聞くイェーガーズの面々その手には軽食が握られている。

 

「東へ行けば安寧道の本部であるキョロクへ。南へとずっと行けば反乱軍の息がかかっているであろう都市へ…いずれにしてもキナ臭いですね」

 

ボルスの言うとおりキナ臭いのは事実だ。

 

「そうよねぇ……でも、これはチャンスでもあるわ!」

 

眼鏡の位置ををくいっと片手で調整するスタイリッシュ。

 

「急げばすぐに追いつけますよ。行きましょう!」

 

東と南のどちらに行くにしてもまだ、追いつける距離であるためすぐにでも出発するように促すウェイブにエスデスが待ったをかける。

 

「まあ、待て。ナイトレイドは帝都の賊……地方までは手配書が回っていないので油断して顔を出したところを追跡され、あげくに二手に分かれたところも目撃されている。都合が良すぎるな?」

 

「はい。高確率で罠だと思います」

 

あまりにも出来すぎた状況であるためランはそう言った。

 

「わざと人目についたのでは?」

 

「私達を帝都からおびき出して倒そうということでしょうか?」

 

ボルスとサヨが自身の考えを述べる。

 

エスデスはナジェンダのことを思い浮かべながら口を開く。

 

「ナジェンダはそういう奴だ。燃える心でクールに戦う」

 

「ってことは追うと危ないですね」

 

腕を組、顎に片手を当てて悩ましげに言うウェイブ。

 

それに少しばかり間を開けてエスデスが言う。

 

「……いや、この機は逃さん。今まで巧妙に隠れてきたナイトレイドがご丁寧に姿を出してきたんだ。罠を覚悟した上で――――それごと叩き潰す!」

 

そして、エスデスがイェーガーズのメンバー全員の顔を一瞥―――

 

「私とスタイリッシュとランはナジェンダを追う。クロメとウェイブとボルスとサヨはアカメを追え」

 

アカメを追うと聞いたクロメの口角が上がる。

 

「常に周囲を警戒しておけ、そして相手があまりに多数で待ち構えていたようなら退却して構わん。ガンガン攻めるが特攻しろと言っている訳じゃないからな」

 

威圧感を滲ませるエスデスが顔の高さまで片手を上げるとぎゅっと握り拳を作る。

 

「帝都に仇なす最後の鼠だ。着実に追い詰め仕留めてみせろ!!」

 

「了解!!」

 

同時に返事を返すイェーガーズの面々。その表情には一点の曇りも存在していなかった。

 

 

 

 

「帝都最強のナイトレイドが相手か…私なんかで勝てるのかな…」

 

アカメを追うボルスが気弱なことを口走る。

 

「大丈夫ですよ。隊長も言ってたじゃないですか……あまりに多数で待ち構えていたようなら退却して構わないと」

 

「そうですよ、ボルスさん。私達はチームです! 皆で力を合わせればきっと大丈夫です!!」

 

「だね。ボルスは気弱になりすぎ。相手が帝都最強の暗殺集団ならこっちは帝都最強クラスの将軍と隊長がいる精鋭部隊だよ」

 

ウェイブ、サヨ、クロメが口々にボルスを励ますように声を上げる。

 

「そうだよね。ここには私だけでなく皆がいるもんね!

むしろ、年長者として私がしっかりしないといけないのに」

 

気合いを入れ直すボルス。

 

その直後……無数の人影が現れた。

 

「おおっと……情報通りイェーガーズの面々がやって来たじゃねぇか」

 

「……ナイトレイドじゃない」

 

クロメの言うとおり。現れたのはここら一帯を根城とする賊の集団であった。

 

「っ!! ここにナイトレイドの姿が無いってことは隊長達の所にナイトレイドが全員揃ってるてっことじゃ……すぐに援護に行かないと!」

 

「そうしたいのは山々なんだけど……どうやら私たちを逃がす気は無いようだよ」

 

ウェイブの言葉に頷きつつも、ボルスは周囲を取り囲む賊の集団の一角に帝具『ルビガンテ』の噴射孔を向ける。

 

「……みたいですね。コロちゃん……鎧を」

 

「きゅッ!!……グルロォォォォォォ!!!」

 

サヨの言葉にビシッと敬礼を決めると、生物型帝具であるコロがその身体を巨大化させると口のなかに両腕を突っ込み、そこから東洋の鎧を取り出すとそれを身につける。

 

胴体と下半身を覆い隠す黒色の鎧を身に纏い。両腕には片刃の大振りの剣を持ち。両肩には泰山砲。

 

これらは全てスタイリッシュが作製した物だ。

 

「馬鹿だね。数で押せば勝てると思ってるんだ」

 

クロメが帝具『八房』を構える。そして、能力である骸人形は出さない。

 

理由は賊の集団が数を減らし、逃走し始めた時に使うため。

 

初めから超級危険種を出せばナイトレイドならいざ知らず、ただの賊相手では最初から逃げ出してしまう確率が高い。

 

そうなってしまうと逃がしてしまう賊が出てくるだろう。そうならないようにするためには数が減り、不利を悟って逃げ始めた時に使う方が良いと考えたからだ。

 

「怯むことはねぇぞ! 数では此方が上だぁ」

 

 

 

 

「やれやれ……ナイトレイドが勢揃いか」

 

自分達を囲むように布陣するナイトレイドのメンバーを見渡し、肩を竦めるエスデス。

 

「……撤退は難しいですね」

 

そう言うランの見据える場所は高台であり、そこにはかろうじて2つの人影が見える。

 

遮蔽物のない見渡しのよいこの場所では下手に飛ぼうものなら的にしかならないだろう。

 

個としての力であればナイトレイドの誰にも負けることはないと自負しているエスデスであるが人数差や部下の力量から今は撤退すべきだと判断する。

 

だが、この場にいる時点でエスデスは……いや、イェーガーズはナイトレイドの術中に嵌まっていた。

 

「ちっ!? 」

 

突如として弾ける地面。

 

立ち上る砂煙。

 

音こそ凄まじいが、爆風の弱い爆発が幾度となく繰り返される。

 

スタイリッシュ、ランの姿が砂煙によりエスデスの視界から消えるだけでなく、爆発により発生する音により声も届かない。

 

砂煙によりイェーガーズの姿をナイトレイドの面々も見失っているはず……だが、エスデスは違和感を感じていた。

 

何かがおかしい……。

 

「……っ!?」

 

咄嗟に氷の盾を頭上に張る。

 

だが……それは悪手であった。

 

…………氷の欠片と共に赤が舞い散る。

 

 

 

 

数日後。

 

帝都に戻ると帝都の様子がおかしい。だが、その事に関して調べるよりも先に報告に行かねばならないため急ぎ宮殿に赴く。

 

「……騒がしいな」

 

宮殿に着くと随分と慌ただしく文官や武官が動いていた。何やらただ事ではないことが起こっているらしい。

 

「……っ! 将軍!!」

 

「何があった?」

 

焦った様子の文官に訪ねれば……。

 

「は、はい……実は帝具の保管庫から帝具が1つ盗まれました」

 

「何?」

 

「……こ、この事が分かったのは昨日です。その前にも大きな事件が発生してしまい、帝具が盗まれたことが発覚するまでに時間がかかりました。」

 

「ブドー大将軍は何と?」

 

ブドー大将軍のことだすでに動いていることだろう。

 

「ブドー大将軍は宮殿の警備の人数倍に増やし、侵入したであろう賊の正体を近衛兵に捜索させています。」

 

「分かった」

 

多分、これだけでなくブドー大将軍も独自に動いているだろう。

 

この状況を利用しない手はないな。

 

今ならば陛下を外に連れ出し、自分の目で外のことを見てもらうことが可能だ。

 

先ずはブドー大将軍に話を通さなければな。

 


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