憑依者がいく!   作:真夜中

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久々すぎる投稿です


46話 あっけない結末

「待ちなさい!」

 

かつて帝都のスラム街だった所にボルスの声が響く。

 

ボルスの視線の先には誘拐犯だと思われる3人組と肩に担がれた女性が1人。

 

徐々にその3人組との距離を摘めていくボルス。何故なら普段背負っている帝具ルビガンテを背負っていない状態故に身軽になっているからだ。

 

ボルスに追いかけられる方も方でかなり必死になって逃げていた。単純に恐怖故に……。

 

ガスマスクを着けた筋骨隆々の巨漢が追いかけてくるのだ……恐くないわけがない! レオーネに担がれているチェルシーが若干涙目なのもしょうがない。

 

そして、そんなチェルシーの様子を見てボルスは……誘拐された恐怖で怯えているのだと思い、より力強く走る。

 

純粋に助け出すという善意のみの気持ちなのだが……それがチェルシーを涙目にしているのだとは思いもしないだろう。

 

「っ……姐さん! どんどん追いつかれてきてる」

 

チラッと後ろを見るとすぐさま前を向きタツミはどうする? と視線だけでラバック、レオーネに問いかける。

 

「追いかけてきてるのが1人だけなら……帝具を持ってない今ならすぐに殺れると思うんだけど」

 

「今、足を止めるとヤバイって私の感がいってる」

 

獣化により野性の直感を得ていたレオーネ。それがレオーネ達を救っていた。

 

追手はボルスを含めたイェーガーズ(エスデスとDr.スタイリッシュを除く)と帝都警備隊、貴族の私兵。

 

圧倒的な数で攻めてくる相手から逃れるための生命線として力を発揮していた。

 

直感に従いつつも強化された嗅覚、聴覚それらを駆使して逃走を続けるレオーネたち。

 

だが、この逃走ルートは意図的に作り出されたものであることを彼女らは知らない。

 

住民からの証言を元に潜伏しているであろう場所を大まかにではあるが特定したランによって誘導された逃走ルートを使っていることを……。

 

「……各員、現在標的はこちらの作戦通りのルートで逃走中。このまま追いたてて行きます」

 

帝都の上空から逃走するレオーネたちを見ながら、ランはDr.スタイリッシュの発明品である小型通信機から帝都警備隊隊員とイェーガーズ全員に連絡する。

 

この通信機はスタイリッシュ曰く欠陥品である。通信範囲は狭く、通信可能な時間も短い。30分も使えばエネルギー切れになる等の問題を抱えているのだ。

 

それでも十分にすごい発明であることは確かであり、多額の金銭を払い帝都警備隊の各支部に導入されている。

 

いったいどれぐらいかと言うと黄金の延べ棒が500本買える額が支払われている……大臣も苦笑いな金額であった。

 

スタイリッシュはこの莫大な資金で貴重な素材などを大量に集めることが出来て本人の研究が捗っていたとかいないとか。

 

それはさておき……レオーネたちの辿り着く予定の場所にはすでにウェイブ、クロメ、サヨの3人が待ち構えていた。

 

「後は誘拐犯がこっちに来るのを待つだけだな」

 

帝具グランシャリオの鎧を呼び出すためにも使われる剣を片手に持ち、真剣な眼差しで誘拐犯が来るのを待つウェイブ。

 

待ち構える場所は大運河に繋がる川の1つの河川。

 

広大な広さを持つ帝都だからこそ街の一部として組み込んでいるが普通の村や街ではまず見られないものだ。

 

「なんてこと言ってるけど肝心な所で……失敗なんてしないでよ?」

 

「なにおうっっ!!」

 

クロメが顔をニヤニヤとさせながらウェイブを挑発する。それに過剰に反応するウェイブ。

 

「俺の実力が信用出来ないってことかよ!」

 

「うん。だって……ナイトレイドのブラートに一矢報いることも出来ずにボコボコにされてるし」

 

「……」

 

ウェイブの心にグッサリと言葉のナイフが突き刺さる。

 

無言で胸を押さえる動作をするウェイブはまさにその身をもってどんな心境なのかを表していた。

 

「……ク、クロメちゃん」

 

あまりにも容赦のない一言。事実ゆえに何も言えないサヨはひきつった笑みを浮かべていた。

 

普段とあんまり変わらないクロメとウェイブの様子に肩の力が抜けるのをサヨは自覚する。そんなサヨにクロメはクッキーをくわえながら言う。

 

「うん……緊張も解れたみたいだね。無意識の内に変に力んでいるみたいだったからちょっと気になってたんだよね」

 

「あ、うん。そうみたいだね……」

 

言われると自分が緊張から変に力んでいたの自覚する。

 

「きゅ~」

 

コロがサヨの脚を軽くポンポンと軽く2回叩き。任せとけとばかりに胸を張る。

 

「もちろん、頼りにしてるよコロちゃん!」

 

「きゅきゅ!」

 

主従の絆を深める2人。それを微笑ましく見守る1人。そして……落ち込む1人。

 

何とも言えない空間が出来ていた。

 

 

 

 

「…………」

 

ランの指揮の下、チェルシーを誘拐した犯人たちを追いかけるイェーガーズと帝都警備隊。

 

そして、俺に恩を売るために独自に動く者たちの私兵。

 

それらとは全く関係の無い人物であるブドー大将軍から使者が送られてきた。

 

その使者から渡されたのはチョウリ内政官からの手紙。

 

わざわざブドー大将軍を経由して送られてきた手紙なのだから人に知られてはならないような情報が記載されているだろうことは用意に想像できた。

 

「…………そうか」

 

手紙には現段階の帝国国内の腐敗具合から予想される帝国の国としての寿命であった。

 

腐敗が進みすぎてしまえば腐った部分を切り取っても健全な部分に回復出来る力が残っていなければ結局は枯れてしまう。

 

俺が行ってきたことは無意味では無かったが応急処置とほとんど変わらず、腐敗の原因を取り除けるようなものではない。

 

僅かな延命行為に他ならないのだ。

 

やはり、革命軍にいる文官をこちら側に引き込まなければならない。

 

そう……大臣と革命軍に勝利した上で消えるであろう現帝国の文官勢たちの穴を埋める人員が必要だ。

 

だが、真に味方として引き込みたいのは己の身可愛さに帝国を離反した者ではなく、己が志の下に帝国を離反した者たちだ。でなければ第2、第3のオネスト大臣が生まれかねない。

 

それに……陛下自身に人を惹き付けるカリスマ性が必要だ。このカリスマ性に関しては陛下の周りがサポートし、後々に身に付けさせていけば問題はないだろう。

 

後は実績もだ。

 

あればそれだけで下に付く者は安心する。その安心が人を惹き付ける魅力となる。

 

「不足しがちだ……だからこそやらなければならない」

 

一手で事を大きく進めるには、その一手連鎖的に動き出す布石が必要。

 

現状その布石も十分とは言えない。理想の半分にも満たない。

 

作っても壊されることがほとんどだ。

 

「はぁ……つけ入るような隙を見せたのが悪いか」

 

俺自身も油断があったのは確かだ。

 

厄介な存在がいなくなるとどうしても気が緩んでしまう。こんな感じでいたら成功するものもしなくなってしまうな。

 

 

 

 

「………………もう嫌だぁ」

 

ボルスを筆頭に貴族の私兵などの強面集団が背を向けて逃げるレオーネたちとは違い普通に強面集団が視界に映ってしまうチェルシーは本格的に悲嘆に暮れていた。

 

それがかえってボルスの早く助けなくちゃ! という気持ちを燃え上がらせていたのだ。

 

イェーガーズの中でも指折りの善人であるボルス……彼は自分の後ろにいる貴族の私兵が全員強面であることを知らない。

 

いや、例え知っていても自分の方が怖いと思い、彼らのことを強面故に怖いとは思わないだろう。

 

自己評価が良い方に低くて悪い方に高いのがボルスの特徴の1つでもある。

 

「……だあぁぁぁっ! どうするよ! どんどん追っ手が増えてるし!!」

 

チラリと後方へと振り返り増えた強面たちを視界に納めたラバックはすぐに前を向いて叫んだ。

 

その叫びを聞いてタツミも振り返った。

 

「………………」

 

そして、すぐに前を向いて走ることに集中した。

 

見たことを後悔したのは当然ながら、このままだと逃げ切れないのを察したからでもある。

 

いずれ体力の限界がやってくるのは明白だ。

 

逃げ切るにはどうすればいいのか……今はレオーネだけが頼りであった。

 

その頼りにされているレオーネは内心かなりうんざりしており、そろそろどうにかしたいと思っているのだが……頭脳派ではなく肉体派であるため良策と言えるようなものは全く浮かばない。

 

ただ……この担いでいる荷物(チェルシー)を追いかけてきている奴らに投げればいいんじゃないだろうか? という考えが浮かんでいた。

 

目的は明らかにチェルシーなのだ。そのチェルシーを追いかけてきている奴らに投げれば逃げるための時間が稼げるし、自分が身軽になって一石二鳥である。

 

うん、それが最善だとばかりにレオーネは1人うなずく。

 

「これしかないな」

 

心苦しいがこれも自分たちが逃げ切るためだからしょうがない。必要なことであると自己を正当化させる。

 

「……え?」

 

ぽーんと放物線を描きボルス&強面集団へと飛んでいくチェルシー。

 

「んじゃ……足止めよろしく!」

 

レオーネは茶目っ気のある顔でチェルシーに言うとタツミとラバックを両脇に素早く抱えると近くにあった2階建ての建物を一気にかけ上がるとそのまま建物の屋根を移動して離脱していった。

 

「…………」

 

レ、レオーネぇぇぇぇぇっ!! とチェルシーは内心で叫びつつボルス&強面集団へと向かって投げられた自らの不幸を嘆いていた。

 

ついでにタツミとラバックはレオーネを止められなかったので後で絶対に仕返しすると心に決めて……。

 

「……大丈夫? 何処か痛いところはない?」

 

ボルスがレオーネに投げ飛ばされたチェルシーを両腕でキャッチして無事かどうかの確認をする。

 

外見上傷は見当たらないが、あくまで外見上なだけであり、見えていないだけで怪我をしている可能性もあった。

 

「……だ、大丈夫です」

 

このガスマスクを被った筋骨隆々の男が見た目からして怖くないはずがなく……例えいい人だと分かっていても萎縮してしまうのはしょうがないことなのだ。

 

むしろ……周りの住民からは奥さんはどうしてボルスを怖がっていないか不思議がられていたりする。

 

それはさておき……チェルシーを抱き抱えたボルスは立ち止まり、強面集団はレオーネたちを追って走り去っていった。

 

「……あなた?」

 

「……パパ?」

 

強面集団がレオーネたちを追って走り去っていき、チェルシーを抱えていたボルスはイェーガーズ本部へと向かって歩いていた途中で愛しの妻と幼い娘と遭遇……。

 

 

 

 

件の結果をランから報告を受ける。

 

「すいません……逃げられてしまいました」

 

逃げられたか……こちらとしては都合がいい。エスデスが健在であろう現在は味方への危険が大きかろうが敵方にはなるべく万全に近い状態でいてもらわなければならない。

 

「そうか。だが、問題はない」

 

捕まえることこそ出来はしなかったが小型通信機の有用性は証明された。帝国全土を小型通信機1つあれば小型通信機同士で通話出来るようになれば帝国はより暮らしやすくなるだろう。

 

実際に使った者たちから使い心地などの感想を書いてもらわなければならないが、後のことを考えると安い手間だ。

 

「一応、逃げた方向は分かっているのでそちらに捜索の手を伸ばすことは可能ですが」

 

「捜索しても痕跡を見つけることは困難だろう。しばらくの間は帝都警備隊の巡回を増やして住民の不安を和らげる必要がある。そっちの方が重要だ。犯人が捕まっていないのだからな」

 

人材不足は深刻である。常に就職希望の申し込みをしてくる者たちは男女共にいるのだが、そのほとんどが帝都の住民ではなく外から出稼ぎに出てきた者たちなのだ。

 

武力的には問題なくとも、この広い帝都の地理を覚えるのにはどうしても時間がかかってしまう。

 

「ええ……ですが、巡回を増やすとなると多少なりとも無理を強いることになります」

 

「ああ、だから短い期間だけやる……2週間ほどだな。後のことは任せる。」

 

予定よりも大分遅れてしまったが、そろそろ西の地へと出発するとしよう。

 

「ええ、分かりました」

 

「頼んだぞ」

 

俺はランに後のことを任せて、武具を身につける。西の地へと向かう前にチェルシーと少しばかり話をしておく事があるのでイェーガーズの本部へと1度寄っていく。

 

犯人について聞いておきたいこともあったからだ。後、様々な憶測が飛び交い事が大きくなっているのでそについても話し合っておきたいのだ。

 

…………後に俺はここが1種の分岐点であったのだと知った。

 


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