憑依者がいく!   作:真夜中

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本当は4月中に投稿するはずだったのに……


44話 来たれり

今日は久々に家に帰ることにした。

 

イェーガーズ本部にも自室は与えられているが、元々購入していた家があるのだ。

 

イェーガーズを解散したら再びここに住むことになるのだから、たまに掃除しに帰っておかなくてはならない。

 

人を雇って掃除をしてもらうのもありなのだが……他のことにお金を使った方が有効だろうと思い自分の手で掃除をすることにしているのだ。

 

そして、久々に我が家に戻ってくると……香ばしい香りが漂ってきた。

 

俺は無言で玄関まで戻り、家を正面から見据える。

 

確かに俺の家で間違っていないはずだ。

 

「~~♪」

 

再び家の中に入ると今度は鼻唄まで聞こえてきた。

 

……何が起こっているんだ我が家に?

 

感じる気配は1つ。

 

こんなあからさまな暗殺者などいるわけないだろうし、となると……呆けた人が自分の家と勘違いしたか…………。

 

いや、まさか……そんなことはあるまい。

 

とりあえず、誰がいるのかを確認するために家の中を進む。

 

トントントンと音が聞こえる。

 

足音を立てないように台所へと向かう。

 

そして………台所へと着いた俺の目に入った光景は……。

 

見覚えのある見映えの良い服装をした不健康を体現するメタボ体型の男。

 

「ンフフ~♪」

 

そいつが人の家の台所で機嫌良さそうに鼻唄を歌いながら料理をしている。

 

「なん……だと……!?」

 

これは……新手の嫌がらせなのか? それとも……。

 

いや、まて……ただ単に大臣が家を間違えた可能性も……いや、ないか。

 

久しぶりに動揺しているのが自分でもわかる。この光景を見たら誰でも動揺するはずだ。

 

何で大臣が料理をしているんだ!

 

…………いや、落ち着け俺。

 

そもそも大臣が俺の家にいるのがおかしい。

 

冷静になって考えてみろ。

 

大臣がそばに護衛を置かずに宮殿の外に出るなどまずあり得ないとなると……考えられるのは1つだけか。

 

心臓に悪いと言うかなんと言うか……嫌がらせじみたイタズラだ。

 

「…………はぁ」

 

犯人がわかったので小さくため息を吐く。

 

そうなると怒りよりも呆れが強くなる。

 

だが、許そう…………こんなイタズラぐらいで怒る必要はそもそもないだろう。笑って済ませよう。

 

そう思った俺はすぐに行動に移した。

 

「……チェルシー、その姿から元の姿に戻ったらどうだ?」

 

「ンフフ……バレてしまいましたか」

 

エプロンを身につけた大臣姿のチェルシーが大臣の真似をしながら振り向く。

 

そして、ボン! っとその姿が一瞬だけ煙に包まれると大臣の姿ではなく、そこら辺にいる貴族の娘のようなドレスを着た元の姿になった。

 

「どう? ビックリしたでしょ」

 

してやったりとした楽しげな笑みを浮かべながらそう言ってくるチェルシー。

 

「……確かにビックリした」

 

事実だからそう返すしかない。

 

誰だって大臣が家で調理をしていたら驚くはずだ。驚かない方がすごいと思う。

 

「……で、どうして俺の家にいるんだ? 何か問題でも起きたのか」

 

何かあったから俺の家にいるのだろうと早速訪ねる。

 

だが、そんな心配はないとチェルシーは首を左右に降ると……。

 

「……少し時間のかかる仕事を与えられたから……来ちゃった」

 

そう照れたように微笑みながらいった。

 

 

 

 

「ん~! このお酒美味しいわね」

 

「それなりの値はするからな」

 

テーブルを挟み向かい合うように座る俺とチェルシー。彼女の作った夕食を食べながらゆったりと過ごす。

 

「それにしても……元気そうで何よりだ」

 

「当たり前よ」

 

「そうか……だが、無理だけはするなよ?」

 

「……むぅ、信用無いわね」

 

ちょっとばかし拗ねたのかチェルシーが口を尖らせる。

 

信用してないわけでは無いのだがな……。

 

「信用してないわけではない。常に命の危険がある場所に送り込んだ俺が言えることではないが……心配なんだ」

 

自分も大臣同様にろくでもない人間だと自覚してるがな。

 

「……大丈夫だって! ちゃんと自分の限界くらい理解してるもの」

 

「そうか。それでも、心配はするさ……危険な役目を任せた本人だろうがな」

 

そう言ってコップに入っている酒を一口飲む。

 

「……もう」

 

しょうがないなぁ、と言いたげな表情をしながらチェルシーは俺を見ていた。

 

人間ある程度酔いが回ってくると饒舌になるのか口が軽くなる。

 

「……やっぱりな」

 

「ん? どうしたの」

 

「いや、単に気がついたことがあっただけだ」

 

考えてみれば案外すぐにわかるものだな。

 

「……つまり?」

 

「俺は……こうやって過ごす時間が意外と好きらしい」

 

「えーと……それって私と一緒に過ごすことが好きってことでいいのかな?」

 

「ふむ。間違ってはいないな」

 

信用している誰かと過ごす時間が1番安心出来る。

 

足の引っ張りあいや、あれこれと考える必要もなく食べて飲んで話す。

 

たったこれだけのことで意外と満たされるものがある。我ながら他人をあまり信じてないと思う。

 

「そ、そっかぁ……」

 

「ああ。だから、もうしばらく付き合ってもらえるか?」

 

「ええ、もちろん。もうしばらくじゃなくて明日になるまででも付き合うわ!!」

 

「なら、明日に支障が出ない程度に付き合ってくれ」

 

付き合ってくれると言うのだから、しばらくの間付き合ってもらうとしよう。

 

この日……久々に酒の入った瓶を3本空にした。

 

 

 

 

「ん……」

 

目に刺激を感じて目が覚める。

 

どうやら、窓越しに射した朝の日射しが顔に当たったらしい。

 

意識が覚醒していくにつれて家の中に酒の匂いが充満しているのがわかってくる。

 

テーブルには酒を入れていたコップとつまみを置いていた皿が置きっぱなしになっていた。

 

もちろん、中身は入ってないし皿の上には何も乗っていない。

 

「……思っていた以上に度数が高かったか」

 

床に転がっていた酒の入っていた瓶をおもむろに手に取り、ラベルに書かれていた度数を見たら自然とその言葉が口から出ていた。

 

どうやら、まだアルコールが抜けていないらしい。

 

少しばかりフワフワとした感覚がある。

 

「そう言えば……チェルシーは?」

 

寝るときはさすがに寝間着に着替えていたのだが……それなりに酔っていたこともあり、家に泊まっていったのだが姿が見えない。

 

「ランスロ、呼んだ?」

 

すると、眠そうな様子のチェルシーが洗面所の入口から顔を出した。

 

「姿が見えなかったからな」

 

「ああ、そういうことね……」

 

洗面所から出てくると手には濡れたタオルを持っていた。服装はまだ寝間着姿のままであり胸元のボタンは2つほど開けていた。

 

「予想を超えるぐらい飲んでいたが大丈夫か?」

 

「うん……少し胃がもたれてるような感じはするけど」

 

そう言いながらチェルシーはタオルで顔を拭き始めた。

 

「そうか……なら、少し休むか? ナイトレイドには上手いぐあいに俺の家に転がりこんだので情報収集してたから遅れたと言えば多少のことなら見逃されると思うが」

 

「それも……ありよね。そうなると同居か」

 

「嫌なら別の手も考えるが」

 

「ううん! 嫌じゃない、嫌じゃない。むしろラッキーかな」

 

ラッキー? 俺の家で過ごすことがか……。もしかして、チェルシーの普段の生活はよっぽど酷いのか?

 

「なあ……普段の生活環境がよっぽど悪かったりするのか?」

 

もし、本当に悪いものであれば俺の方でも何とか出来るように考えるが……。

 

そんな俺の心配は杞憂に終わることになった。

 

「そんなことないわよ」

 

チェルシーが否定したからだ。

 

「それは何よりだ」

 

「衛生的にも問題ないし、温泉もあるしね」

 

「ほう……温泉もあるのか」

 

温泉か……しばらく行ってないないな。

 

機会があればそのうち行ってみるか。

 

………それだと温泉がある場所=ナイトレイドのアジトの可能性もあるのか?

 

前のアジトにも温泉があったのだから否定は出来ない。

 

知る人ぞ知るような温泉のある場所にアジトを建てているのではとすら思う。

 

まあ、どうでもいいことだ。

 

今はまだ……その時ではない。

 

なら、今のうちに計画の一部を進めるとするか。

 

「チェルシー。この後、会ってもらいたい人物がいるが、時間は大丈夫か?」

 

「大丈夫よ。元々それなりに時間のかかるものだったから」

 

ならば、問題はない。

 

「でもさ、私の存在を教えて良いの? 今までランスロは誰にも知らせることしなかったのにさ」

 

「ああ、確かにそうだが……知ってもらってた方が都合がいい。お前をこちら側に戻す時は必ず役に立つ」

 

「へぇ~……なら、私のスパイ活動もそろそろ終わるのかな?」

 

「今すぐにと言うわけではないが、ナイトレイド、革命軍にスパイとして潜入している必要は無くなる」

 

そろそろ安寧道の教祖に接触する準備や陛下を帝都の外へとお連れする用意もしなくてはならないからな。

 

「そっかぁ……じゃあ私は次に何をすることになるの?」

 

その疑問は最もだろう。隠すこともないので伝えておくことにした。

 

「伝令役及び暗殺、影武者の3つだ。この中で1番重要なのは影武者だがな」

 

「……うわぁ、今よりも忙しくなりそう」

 

「だが、チェルシーにしか出来ないことだ。特に影武者はな」

 

帝具ガイアファンデーションの力がなければ実行に移せないことなのだ。大変だがチェルシーならばやってくれるだろうと期待している。

 

「それでさ……誰に私の存在を教えるの?」

 

「それは勿論……スタイリッシュだ」

 

ドクター以外に教える相手はいない。

 

チェルシーをこちら側に戻すには彼の力が必須なのだ。

 

 

 

 

帝都内にあるドクターの研究所にチェルシーと共に向かう。

 

あらかじめ伝令を出してドクターに研究所に向かうことを伝えておいたので研究所の入口でドクターが待っていた。

 

「あら? どうしたの……将軍がクロメ以外と一緒にいるなんて」

 

「ちょっとドクターの力が必要になってな」

 

そう言うとドクターは少しばかり目を細める。

 

「そう……とりあえず、中で話しましょ」

 

「ああ」

 

研究所の中に入っていくドクターに続いて俺とチェルシーも研究所の中へと入っていく。

 

研究所内にある応接室に向かう道中から話を進める。

 

「連れてきたのは俺の懐刀で現在はナイトレイドにスパイとして潜入している者だ。名前はチェルシー」

 

「なるほどね。ナイトレイドに潜入しているってことは帝具使いよね」

 

「ああ、そうだ。そして、今回ドクターに頼みたいのはチェルシーの身代わりを作って欲しい」

 

身代わりを用意しなければチェルシーをこちら側に戻すことは出来ないのだ。

 

するとドクターが無言で振り返り、チェルシーへと視線を向ける。

 

「あなた……いえ、チェルシーと呼ばせてもらうわ。身代わりを作る上で色々と体の検査をするけどいいかしら?」

 

「……いいわよ。そうしないと私の身代わりは作れないだろうし」

 

「助かるわ。いくらスタイリッシュなオトコのアタシでも調べずして限りなく本物に近い身代わりは作れないもの」

 

「でも、どこまで調べるの?」

 

確かにどこまで調べればいいのか不明だし、気になるのはわかる。

 

「少なくとも身長、体重、筋肉の付き方、健康状態ね。これさえ分かれば問題ないわ」

 

「それだけでいいんだ」

 

「あら? お望みなら改造手術もしてあげるわよ。眼からビームとか足からバズーカみたいな」

 

恐ろしい改造だな。

 

勿論、チェルシーはお断りのようで首を左右に振って断っていた。

 

「いやいや! そんな改造いらないから……検査だけでいいから!!」

 

「そう……気が変わったら何時でも言ってね。安くしておくわよ」

 

パチンとウィンク1つして締めくくるドクターにひきつった笑みを浮かべるチェルシー。

 

「……まあ、腕は確かだからその点は安心していいぞ。俺はドクターの腕は帝国全土で1位のものだと思ってるからな」

 

「それって……腕だけよね? 性格については触れてないわよね」

 

「……理由は察しただろ?」

 

「そうね………ある程度分かったわ」

 

性格が色々と問題あるが話せば理解してくれるだけましだ。特に利益があれば確実に味方となってくれる時点でこちらの要望を聞いてもらい安いのも大きい。

 

エスデスがいない間に色々と動かさせてもらおう。エスデスがいないのであればイェーガーズを俺の思うように動かせる。

 

だが、特に動かすような案件がないのでほとんど意味がないのが残念なことだ。

 

チャンプやシュラの目撃情報があればすぐさまイェーガーズを派遣して討伐に向かうのだが………そうそう上手くは運ばない。

 

それに、帝都警備隊の増員も行わなくてはならないのだから。この広い帝都の全域をカバーするにはまだまだ警備隊員の数が足りないのだ。

 

日中だけでなく夜の人員も必要なため大変なのだ。毎月応募は多いのだが……即戦力になるようなのが中々いない。これが悩み所である。

 

まあ、今はいい。予算はあるのだからじっくり考えていこう。今はチェルシーの件が先だ。

 

ドクターに身代わりは頼めた。後はその後の予定について煮詰める必要があるな。

 

チェルシーの方も時間は限られているからな。ここだけで全部を使えない。


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