憑依者がいく!   作:真夜中

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35話 再び

ナイトレイドのアジトに襲撃をかけたチームスタイリッシュ。

 

「さすが……ナイトレイドと言ったところかしら?」

 

強化兵の侵入に気づくや否やすぐに対応しだしたナイトレイドにスタイリッシュは感心したように言葉をこぼす。

 

「スタイリッシュ様……トビーがアカメと接触、戦闘を開始しました」

 

「状況は?」

 

「はい。優勢に進めています……っ! 」

 

突如として表情を強張らせる耳。

 

「どうしたの?」

 

「カクサンがブラートと接触し即座に敗北しました。エクスタスはナイトレイドのシェーレの元に渡った模様」

「何ですって!?」

 

予想外のことに驚きつつも、スタイリッシュはその事実を即座に受け入れる。

 

ブラートはあのエスデスに手傷を負わせることのできる男。

 

強化兵であるカクサンが実力からしてブラートに勝てるとは思ってもいなかったが即座に敗北するとは思ってもいなかった。

 

「……どのようにして敗北したの」

 

「出会い頭に首を1突きです」

 

「……そう」

 

首は他の部位とは違い強化できる部分が少ない。

 

故に敗北したとスタイリッシュは考えた。

 

「……スタイリッシュ様。強化兵の20%がナイトレイドに討ち取られました」

 

目がナイトレイドのアジトの付近で倒れ伏す強化兵を見ながら言う。

 

そして、ナイトレイドのアジトの壁の一部が内側から壊れ、そこからマインと顔を隠した少年が現れた。

 

 

 

 

「って俺ごと射つなよ! お陰でまたハゲが出来るところだったじゃないか!」

 

自分の髪の毛を指差しながら文句を言うのは顔を仮面で隠したタツミ。

 

指差した部分の髪の毛は焦げていた。

 

「うっさいわね! アンタが隙を突かれるのが悪いんでしょうが、むしろ助けてもらったんだから感謝しなさいよ!」

 

「それについては感謝してるけど……それとこれとは話は別だ。射撃の天才を自称するなら余裕を持って当てろよ!」

 

「自称じゃなくて射撃の天才は事実よ、このヘッポコ剣士!!」

 

「誰がヘッポコ剣士だ! この射撃の秀才!!」

 

ガミガミと口論するタツミとマイン。

 

当然、その隙を逃すことなく2人の背後から強化兵が襲いかかる。

 

だが、マインの背後にいた強化兵はその首をタツミの剣によって斬り裂かれ、タツミの背後にいたのはマインのパンプキンによる射撃を額に受けて沈黙した。

 

例え口論していようとも2人は付近に気を配っていたのだ。

 

「ほら、相手はまだまだいるんだから……とっとと殺りなさい」

 

「わかってるって、そう言うお前こそちゃんと殺れよ?」

 

「フン……少なくともアンタ以上に戦果を出すから問題ないわ」

 

「おーし、言ったな……なら、どっちが多く敵を倒すか勝負だ! 」

 

売り言葉に買い言葉。少なくともアジトが攻められている時にこんな問答をしているのはおかしいのだが本人らはいたって真面目であった。

 

「返り討ちにして上げるわ」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

フン! お互いにそっぽを向くとそれぞれ強化兵に向かっていくのだった。

 

それでも、お互いにすぐにカバーに入れる位置取りをしている辺りちゃんと冷静である。

 

 

 

 

アジトの正面。

 

そこには強化兵の死体が幾つも転がっていた。

 

「腕は鈍ってないようだな」

 

「はい。やっぱり私にはこれが1番しっくりきます」

 

アジトの正面で大量の強化兵を相手に一方的な蹂躙を行うのはブラートとエクスタスを取り戻したシェーレ。

 

「さっき出会い頭にぶっ倒した野郎がエクスタスを持っていたなんてかなりラッキーだったぜ」

 

「お陰で私も足手まといになりませんからね。包丁だとこの人たちを相手にするには荷が重かったですし」

 

エクスタスを自在に振るい次々と強化兵を両断していくシェーレ。

 

「そりゃあ、包丁は料理に使うための物だしな」

 

ブラートが振るうノインテーターが複数の強化兵を両断し、弾き飛ばしていく。

 

「うーん……普通の人なら包丁で十分なんですが」

 

「おいおい、コイツらを普通の奴らと一緒にするなよ」

 

少しずれたことを言うシェーレに苦笑するブラート。

 

ナイトレイド最強の白兵戦闘能力を有するブラートと絶対に避けなければならない一撃を放つシェーレを前に強化兵はなすすべなく倒されていくのだった。

 

 

 

 

「くっ」

 

「おわっ!? ちょ、危な!」

 

アジトの中をアカメとラバックが追われる形で走っていた。

 

銀色に輝く鎧を身に纏い、額に帝具スペクテッドを着けたオーガに追いかけられているからだ。

 

オーガの両腕には片刃の大剣が握られており、それを振り回しながら駆けている。

 

「オラオラ! どうした、逃げるだけかぁ」

 

嗜虐的な笑みを浮かべるオーガにラバックは明らかに嫌そうな顔をして、アカメはどうやってオーガを倒すかを考えていた。

 

スペクテッドにより動きは常に先読みされ、身に纏っている鎧のせいで村雨の刃が身体にとどかない。

 

「ったく……勘弁してくれよ」

 

足止めにと糸による妨害を行うもそれらすべてを無効化されてラバックがぼやく。

 

「ハーハッハッハ! 逃げてんじゃねぇぞ」

 

鎧の肩部分が開きそこから銃身が覗く。

 

「マジかよ!? 」

 

「…………」

 

アカメは窓を割り外へと身を投げ出し、ラバックは近くの部屋へと転がり入る。

 

その瞬間、けたたましい銃声が響き渡った。

 

 

 

 

「うーん……マズイわね」

 

耳から寄せられる報告にトビーの戦死、オーガがアカメともう1人に襲いかかっていると報告され、スタイリッシュは思案顔をしていた。

 

主戦力であったトビーとカクサンが殺られ、私兵も次々と殺られて急速に数を減らしている。

 

「……どうなさいます?」

 

目が戦場を見渡しながら尋ねる。

 

「……アレを使おうかしら」

 

「スタイリッシュ様! アレはまだ未完成です」

 

鼻がややオーバーアクション気味に驚く。

 

スタイリッシュの言ったアレとはスタイリッシュがランスロットから貰った危険種の素材や貴重な鉱石を使い作られている兵器のことである。

 

鼻が言ったように未完成であるがその性能は既存の兵器とは一線を画すものであり、その技術はオーガの着ている鎧にも使われているのだ。

 

「でも、そうも言ってられないのよね」

 

―――私兵を無駄死にさせただけだと将軍からの評価がさがるわ。そうしたら危険種の素材や貴重な鉱石を融通してもらえなくなる。

 

ギリッと奥歯を噛みしめながらスタイリッシュは次に打つ手を考える。

 

懐に忍ばせてある注射器を手に取り、使うべきが数瞬迷うも……使わないことにしてすぐに懐にしまう。

 

―――まだ、手は残ってる。慌てる時じゃないわ。スタイリッシュな男なら不利な状況で取り乱すことなんてないわ。冷静に最善の1手を模索し、それを迷わず決行する!

 

「……次の手の準備に入るわよ」

 

そうよ、使える手札はまだまだたくさんあるのだから慌てる必要は無いわね、内心でそう呟きながらスタイリッシュは近くにいる強化兵に指示を出す。

 

 

 

 

「ちっ……逃げられたか」

 

オーガは苛立たしげに右手に持った片刃の大剣を振るい、八つ当たり気味に壁を壊す。

 

だが、まあいいと思い直す。帝具スペクテッドの能力である遠視、透視を使えばどこにいるのか隠れていようともすぐにわかる。

 

「……トビーの野郎もカクサンの野郎も殺られやがって」

 

どうせ死ぬなら手傷を与えてから死ね、とオーガは内心で吐き捨てる。

 

窓から外を見れば強化兵相手に無双するブラートとシェーレ、そしてオーガから逃げたアカメの姿があった。

 

「どいつもこいつも使えねぇ」

 

ナイトレイドのメンバーが1ヶ所に集まり始めているのを視たオーガは舌打ちする。

 

スタイリッシュが次の手を打つことはわかっているがそれもどこまで通用するかわからない。

 

「……アレを使うか」

 

バキン、と音を立てて鎧の両腕部から細い鉄芯が3本づつ出る。

 

その内側ではオーガの腕から飛び出た5本の細い鉄芯がバチバチと帯電し始めた。

 

鎧の内側で作られるエネルギーが鎧の両腕部から出た細い鉄芯に集約されて火花を散らす。

 

武装名―――偽・アドラメレク。

 

ブドー大将軍の帝具であるアドラメレクをスタイリッシュが真似て作り出した物だ。

 

威力は当然本物に劣る。だが、それでも必殺の威力を備えている。

 

腰を落とし、両腕を真っ直ぐに伸ばし、それをアジトの正面にいるナイトレイドのメンバーに向けた。

 

続々と集まるメンバーに顔がにやける。

 

たった1度しか使えないが、その威力は本物にも劣らないと豪語するスタイリッシュ。

 

その言葉を真に受けているわけではないが威力は折り紙つきであることはわかる。

 

仮に避けられても最終兵器が残っているのだ。

 

オーガは待つ。

 

両腕を向けた先に生成されているプラズマ球が徐々に巨大化していくのを見ながら、偽・アドラメレクを

からプラズマ球を放つその時を……。

 

 

 

 

「スタイリッシュは何処に行ったんだ?」

 

「知らん。ドクターは帝具の実験をしに行ったから何処か広い場所にいるのだろう」

 

「まあ、サヨちゃんが探しに行ったからすぐに連れてきますよ」

 

「将軍やエスデス隊長を除けばイェーガーズ最速だもんね。ランが空を飛ばなければだけど」

 

「空を飛ばなければ普通に抜かされますけど」

 

イェーガーズ本部。ウェイブ、サヨ、ドクターを除いた全員で談話室に集まり、いつぞやのようにトランプをしていた。

 

前回とは違い負けたら箱に入っている紙を1枚引き、そこに書かれている服装に着替える罰ゲーム付きのトランプだ。

 

すでにボルスが1回負けて……ガスマスクを着けた筋骨隆々の男のナース服というとてつもなく恐ろしい状態になっている。

 

ランは2回負けているのでハゲかつらと鼻眼鏡を付けている。酷い有り様としか言えない。

 

俺とクロメ、エスデスはまだ負けていないから普段の格好のままだが……これもいつまで続くか。

 

前回の罰ゲームが可愛く見えてきた。

 

負けられない戦いというよりも負けたくない戦いだ。

 

ちなみにやっているのはババ抜きである。

 

ババは俺の手の中に存在している……早いところ他のやつに回さないと危険だ。

 

「ウェイブも怪我さえしてなければ参加させていたものを」

 

「次は是非とも参加してもらおう」

 

「うん、そうだね」

 

「ウェイブも災難ですね」

 

ニヤリとした笑みを全員で浮かべ、ゲームは続く。

 

「……上がりだね」

 

ボルスがランの持っているカードを1枚引き、上がってしまった。

 

俺の手札には未だにババが残っている。

 

未だかつてないピンチを迎えた。

 

 

 

 

「ハッ……ハッ……」

 

月明かりの照らす森の中をサヨが駆け抜ける。

 

「キューッ!」

 

「そっちですね!」

 

コロが指差した方にサヨが向かう。

 

コロがスタイリッシュの臭いを探し、サヨに伝える。

 

生物型帝具であるが故に本物の犬よりは嗅覚は劣るがそれでも人のものよりは断然上だ。

 

「キュキュー」

 

「はいはい、わかってますよ。帰ったら鳥の串焼きを20本あげますからね」

 

仕方がないなぁ~、と小さく微笑みながらコロにそう言うサヨ。

 

未だ、スタイリッシュのいるナイトレイドのアジトには程遠く、どんな状況にあるのかわからないがサヨのやることは決まっている。

 

それは、ランスロットに言われた通りにスタイリッシュを連れ帰って来ることそれのみだ。

 

 

 

 

月明かりを頼りにナイトレイドのアジトに向かって高速で飛行する特級危険種エアマンタ。

 

その上には3つの人影がある。

 

その内の1人はナイトレイドのボスであるナジェンダ。

 

残りの2人はフードを深くかぶり、外套を羽織っているためその性別すらもわからない。

 

「アジトの方で凶兆が出ているか……間に合うと良いのだが」

 

煙草を口に加えながら、呟くナジェンダ。

 

彼女の脳裏には仲間の姿が次々と流れていく。

 

高速で移動するエアマンタの上に仁王立ちしながら視線をアジトのある方角へと向ける。

 

―――着いたら……手紙、書かなくちゃなぁ。

 

風圧でバサバサと揺れ動くフードを片手で押さえるチェルシー。

 

めんどくさいなぁ、と小さく呟くも、少しワクワクしているのか楽しそうな顔をしていた。

 

新しい棒つきキャンディーを取り出して口に加え、視線を帝都の方へと向ける。

 

ほんの数秒ほどその方向を見つめるとすぐに視線をナジェンダの向いている方へと変えた。

 

各陣営に援軍が着くまでもうしばらくの時間が必要である。

 


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