憑依者がいく!   作:真夜中

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26話 結成

竜船の出来事から月日が流れて、ついに帝具使いを集めた特殊部隊が設立される日となった。

 

メンバーの資料はすでに届いており、それらには全て目を通してある。

 

俺が知らない人物は1人だけであり、それ以外は全員知っている。俺の部下を除いてもだ。

 

エスデスがこの部隊の隊長であるが同等の権限を俺も持っているので実質隊長が2人いるようなものであり、俺が指示を出すのはエスデスが指示を出せない場合においてだろう。

 

予定はメンバーが全員揃ったら陛下への謁見。その後は活動の拠点となる本部の案内となっている。

 

「時間的にそろそろか」

 

部隊のメンバー集合場所に集まる時間は本日の昼を少し、過ぎたあたり。

 

場所は活動の拠点となる建物の会議室。

 

宮殿から近い位置にあるので移動に時間はかからない。

 

そして、件の会議室に近づいてくると何やらドタバタと人が暴れているような音が聞こえてきた。

 

「何をやっているんだ?」

 

開いている扉から部屋に入り、室内を見渡す。

 

床に寝転がっている海兵が1人。八房を抜いているクロメにボルスとランの背後にいるドクター。両手に拳銃を握るサヨと氷づけにされているコロ。笑っているエスデス。

 

「あっ……将軍! 」

 

俺と目があうと八房をしまいながらクロメが飛びついてきた。

 

「おっと……元気そうだな」

 

飛びついてきたクロメを受け止め、俺の胸元に犬猫のように頭を擦り付けてくるクロメの頭を撫でる。

 

「うん! 」

 

元気のいい返事が返ってくる。

 

犬猫にマーキングされているようだなと思っていると海兵が起き上がった。

 

「いってぇ~………」

 

クロメを抱き抱えつつ、起き上がった海兵に近寄る。

 

「濃い面子が多くて災難だったな」

 

「いや、えと、その…………」

 

「答えづらいのはしょうがない。上司が1番濃いキャラをしているからな」

 

オカマであるドクターにガスマスクで顔を隠したボルス。コミュニケーションのとりづらいクロメ。そして、拷問大好きドSのエスデス。

 

「ほう……言うじゃないか」

 

「事実だろうに」

 

クロメを抱えたままエスデスの方を向く。

 

「ランスロット……お前も十分に濃いキャラをしているだろ。崖を駆け上がったり、飼い慣らした竜種の背から賊のアジトに飛び降りたりとな」

 

「……ああ、あれか……懐かしいな」

 

あの時はまだナジェンダ元将軍が帝国で将軍をしていた。

 

本当に懐かしい。

 

「顔も見たことだし俺はそろそろ戻るとしよう」

 

「なんだ……戻るのか」

 

「ああ、俺は俺で案外やることがあるんだ……ほら、クロメ」

 

「……ちぇ」

 

渋々といった様子でクロメが俺から離れる。

 

少しむくれているクロメの頭をワシャワシャと撫でながら言う。

 

「夕食は一緒なんだ。また、その時にな」

 

「……はーい」

 

「いい子だ」

 

クロメのことを知らない面々からは何やら色々と聞きたそうな視線が向けられるがそれを無視する。

 

話てもいいのだが、少し時間がかかる話であるのでこの場で話すことはない。

 

「……では、また後ほどな」

 

俺はそう言ってクロメの頭から手を離すと部屋から出て、宮殿へと戻るのだった。

 

 

 

 

コンコン、と執務室の扉がノックされる。

 

「失礼します。エスデス隊長がそろそろ来いと。食事をしながら自己紹介と部隊の方針について話すそうです」

 

「そうか。だが、わざわざサヨが呼びに来なくてもよかったんだぞ? 宮殿の警備員やメイドにその旨を伝えてくれれば問題なかっただろうに」

 

「いえ……お仕事の邪魔をしちゃ悪いと思って」

 

「そうか」

 

俺は治安維持の観点で幾つか気になった報告書をファイルに纏めてから立ち上がる。

 

「それでは……行くとしよう」

 

「はい」

 

俺はサヨの後に続き執務室から出ていくのだった。

 

「部隊名は決まったのか?」

 

「はい。エスデス隊長がイェーガーズと名付けました」

 

「なるほど……犯罪者は獲物というわけか。それで、サヨはしばらくの間ドクターのところにいたがどうだった?」

 

「そうですね……基本的に新武装のテストをしたり、コロちゃんに専用の武器を造ってくれました」

 

帝具に武器を持たせるか……その発想はなかった。

 

「ドクターらしいと言えばドクターらしいな」

 

「拠点強襲用の装備に対軍仕様の装備、近接特化の装備と色々と造ってくれました」

 

なんでもないかのようにサヨは言うが、ドクターは少し張り切り過ぎじゃないだろうか……。

 

「さすがとしか言えないな」

 

「ドクターも本当はここまでするつもりはなかったらしいのですが……造っているうちにインスピレーションが湧いてきて止まらなくなっちゃったそうで」

 

「そうか。……まあ、確かに調子が良いときはその勢いのまま突っ走ってしまうものだから、わからんこともない」

 

コロが強化されたのは理解した。……それも戦争で重宝されるぐらいに。

 

「凄かったんですよ! コロちゃんが両手に片刃の大剣を握って、それを豪快に振り回してワニ型の特級危険種を討伐したときなんて!!」

 

如何にコロが活躍したかを身ぶり手振り、効果音をつけながら説明するサヨはとても生き生きとしていた。

 

それだけ、コロのことを気に入っているのだろう。

 

戦闘時の見た目以外であればマスコットキャラにもなれそうな感じのコロだ。

 

ただ……戦闘時の見た目を知っているとマスコットキャラとして認め難いものがある。

 

「サヨはどうなんだ?」

 

「私ですか? そうですね、私はトビーさんに徒手空拳を鍛えてもらいつつ、ドクターの私兵の皆さんと一緒に訓練したりしてました。義足の方もより性能のいいやつに変わりましたし」

 

「……なるほど」

 

これもドクターからのサービスの一環として見ていいだろう。コロの件はドクターの悪のりと考えても、サヨの件は違う。

 

俺に対してのご機嫌とりとも考えられるが……。

 

まあ、悪いことではないので深く考えなくてもよいだろう。

 

実害があったわけではないのだから。

 

 

 

 

同時刻。

 

ロウセイ山脈。

 

そこにはロウセイキャンサーを始めとした危険種らの死骸が散らばっていた。

 

共通しているのはそれら全てがミンチにされたようにグチャグチャになり、原形を留めていないことだけだ。

 

この惨状を作り出したのは1人の男。

 

「まだだ……まだ、足りねぇ……」

 

口から溢れた言葉は自分の作り出したこの惨状に対するものではなく、自身へと向いていた。

 

筋骨隆々とした体躯。その身長は2メートルを超えている。

 

この男の名前はオーガ。

 

かつて帝都警備隊の隊長を勤めていた。

 

「こんなんじゃ……あの糞野郎を殺せねぇ……」

 

帝都警備隊隊長を勤めていた時とは体格、容姿を含め完全に変わってしまっているためこの男がオーガ本人であるとは思えないだろう。

 

鬼と呼ばれ、恐れられた男は復讐に燃える鬼となり…………人を辞めていた。

 

「もっとだ……もっと! もっと、もっと、もっとッ!! 」

 

血の臭いに惹かれ集まる危険種を鎧袖一触。薙ぎ払いながらオーガが吼える。

 

「かかってこいやあぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

全ては憎きランスロットを殺すため。

 

今は行き場のない身を焦がすような憎悪を危険種へとぶつけていた。

 

ぎらつく相貌に赤銅色となった肌。

 

ドクターの改造により、以前にもまして人道から外れたオーガ。

 

身体の大半を危険種の血肉で強化し、人の部分をほとんど無くした男。

 

「は、はは、ははははははははハハハハッ!!!」

 

狂ったように集まってくる危険種を殺していく。

 

返り血に濡れることも構わずにオーガは危険種を殺し続ける。

 

自分が……自分である時間が刻々と無くなっているのに気がつかずに……。

 

 

 

 

「あら? いらっしゃい歓迎するわよ?」

 

サヨに連れられイェーガーズ本部の会議室に入るなり、ドクターのウインクが飛んできた。

 

「遅かったな」

 

「……だが、始まる前には間に合ったぞ」

 

俺はドクターのことを無視して椅子に座って寛ぐエスデスに答えた。

 

んもぅ、いけずなんだからぁ~ともじもじしながら言うドクターの存在を視界から追い出しつつ、部屋を見渡すとボルスとウェイブ―――海兵の姿が見えない。

 

ランは何故かウェイターの格好をしている。

 

まあ、本人も満更ではなさそうなので気にしないでおこうと思う。

 

クロメは猫じゃらしでコロと遊んでいる。

 

「ふん……確かにな」

 

何処と無く機嫌良さそうに答えるエスデスに一抹の不安を感じるが……それよりも。

 

「将軍はここ」

 

クロメが隣の椅子を指差している。

 

「わかった」

 

俺はクロメに指定された椅子に座る。

 

「なら、アタシはここね」

 

ドクターが俺の対面の席に座る。

 

しかも忘れずにウインクを飛ばしてくるのだから質が悪い。

 

俺にはそっちの気がないので嬉しくもなんともない。

 

「コロちゃん」

 

「きゅきゅう」

 

クロメの対面の席に座ったサヨがコロを呼び、膝の上に乗っける。

 

生物型ではあるが帝具をペットの如く扱うサヨ。

 

犬? のような見た目をしているコロだから違和感はないが……どうしても戦闘時の姿を思い出してしまうため釈然としないモヤモヤを感じる。

 

それを振り払うように隣に座るクロメを見ると、モシャモシャとお菓子を頬張っていた。

 

「あまりお菓子を食べるなよ? 夕食が入らなくなるぞ」

 

「ん、大丈夫。ちゃんとそれとは別だから」

 

いつの間にか取り出した菓子を摘まんでいるクロメ。

 

別とは言うが、入る場所は同じなのだから別ではないだろうに。

 

どうせそんなことを言っても聞いてもらえないだろうことはわかっているので特に言わない。

 

「……食べる?」

 

かなり惜しみながらクッキーを差し出してくるクロメ。

 

未練たらたらにしながら渡そうとしてくるので素直にもらおうと思えない。

 

が、もらう。そして……。

 

「…………ほれ」

 

「あむ……っ!?」

 

もらったクッキーをクロメの口に入れた。

 

「無理してくれようとしなくていいからな」

 

とりあえず、ニタニタと笑うエスデスとアタシもと催促してくるドクターをどうにかしなければならない。

 

特にドクターだ。露骨にアピールしてくるので鬱陶しくて堪らない。

 

ランは我関せずとにこやかに笑みを浮かべているだけ、サヨはコロに干し肉を食べさせているため全く気がついていない。何気にうっとりとした表情でコロに干し肉を食べさせている辺り完全にペット扱いである。

 

どうするべきか悩んでいると、会議室の扉が開かれ、食欲をそそる匂いが漂ってきた。

 

「皆、夕食の準備が出来たよ 」

 

料理の乗ったお盆を持ったボルスが明るい声でそう言いながら会議室へと入ってくる。

 

その後ろからウェイブが両手に煮魚の乗った大皿を持って部屋へと入ってきた。

 

同時にランが会議室から出ていく。

 

「んん~……美味しそうな香りね」

 

ドクターが自分の目の前に置かれた料理の匂いを嗅ぎ感想を言う。

 

「ほう……確かに美味そうな匂いだ」

 

エスデスもドクターと同じ意見のようだ。

「いや~、これもウェイブ君のお土産のお陰だよ。新鮮な魚介類だったしね」

 

「そんなことないですよ。ボルスさんの腕が良かったからですって」

 

どうやらボルスとウェイブの2人で夕食の準備をしていたようだ。

 

何気にこの2人が1番打ち解けているように見える。

 

「話すのもいいですが、せっかくの料理が冷めてしまったら勿体ないので話の続きは食べながらにしませんか」

 

ワイングラスとワインの入った瓶を数本持ってランが戻ってきた。

 

「酒が飲めないやつはいないか?」

 

酒が飲めないのに無理して飲ませるつもりはないので確かめるために聞いてみた。

 

「いたとしても1杯は飲ませるさ」

 

エスデスは1杯は無理矢理にでも飲ませるつもりのようだ。

 

サヨ、ウェイブはエスデスの言葉に苦笑し、クロメは無反応。

 

「全員少なくとも1杯は飲めるようだな」

 

「嫌がるのを無理矢理飲ませることが出来ると楽しみにしていたのだが……残念だ」

 

「……そうか」

 

さすが人を苦しめて悦に浸る女だ。

 

これで恋をしたいと言っているのだから、とても信じがたい。

 

恋人に選ばれたらそれこそストレスで胃をやられそうだ。ターゲットとなっている少年に同情を禁じ得ない。そもそも少年を売ったのは俺なのだから同情する以前に諸悪の根源と言われても否定できないな。

 

まあ、そんな些細なことは置いておいてだ。

 

今はこの面子で初の夕食を楽しむことにしよう。

 

 


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