時系列的に言えばザンク戦の後になります。
「………………で? 何故メンバーが増えてるんだ」
俺はナイトレイドのアジトの会議室で椅子に座り、足を組ながら床に正座し額からダラダラと冷や汗を流すレオーネを冷たい目で見ていた。
「………………」
アカメやブラート、シェーレにマイン、ラバックは明後日の方を向いており、レオーネの方を決して見ようとはしていなかった。
そして、レオーネがブラートに拉致させた少年は何事!? と俺とレオーネに視線を交互に移していたって
「黙りか……、メンバーが増えたことはしょうがない」
一般人をアジトに拉致してきたあげく仲間にしてしまっている。もう過ぎてしまったことゆえにどうにも出来ない。
「あ、あの……」
「ん? 済まんな、少年。ところでレオーネに何かされてないか?」
おずおずと話しかけてきた少年にそう聞くと、少年は頬を人差し指で軽く掻きながら言った。
「……えっと……金を摺られました」
少年がそう口にした瞬間レオーネがライオネルを起動して逃げ出そうとした。
「逃げられると思うなよ……少しお仕置きする必要があるな?」
咄嗟に窓から外に逃げようとしたレオーネの尻尾を引っ張ることで床に引き摺り倒す。
そして、逃げられないように頭を片手で押さえる。
「イダダダッ!! ちょっ、頭蓋骨がミシミシ言ってる!!」
「少し……時間がかかりそうだな」
ボスは煙草に火をそう言う。ボスもレオーネを助ける気は無いようだ。
「いや……後でやる。逃げたら……三時間の間断続的に襲撃をかけて精神的に追いつめる」
「そ、そんなぁ……」
まるでこの世の終わりに遭遇したみたいに絶望した表情でレオーネはその場に固まった。
周りからは同情の視線が向けられているが誰も助けようとはしない。
ただ1人少年だけはオロオロと視線をさ迷わせていた。
「それで……本部からの呼び出しは何だったんだ? 」
そう、俺は革命軍の本部からの呼び出しで本部に行っていたのだ。
「北に行けとのことだ。何でも北にいた連絡員や協力者からの定期的な連絡が無くなったらしい」
「なるほどな。だが、ランスロットお前が行くほどのことなのか?」
「北にいたのは暗殺結社オールベルグの出身者だ」
オールベルグは俺が所属している結社であり、ナイトレイドには革命軍に雇われる時の条件であったゆえに所属しているのだ。
「わかった。……ここにはどのくらいいるんだ?」
「色々と準備する必要があるから数日だな」
少年の方を見ると俺が北に行くことぐらいしか理解できていないようだ。
元がただの一般人だった少年に暗殺結社オールベルグのことはわかるはずもない。
一瞬だが、アカメと視線がぶつかるもすぐにそれてしまう。
ナイトレイドの中で俺とアカメ以上に気まずい関係の者はいないはずだ。
お互いに命のやりとりをした仲なのだ。当然、自分の大切にしていた者たちの仇でもある。
表面上は仲間としてやっているが、それもナイトレイドの仲間としての話しかせず、プライベートでの会話はほとんどない。
周りにいるメンバーもその事は知っているので極力俺とアカメが2人になることを避けてくれている。
1度それで半日の間、何も喋ることなくピリピリとした空間になったからだ。
アカメはたまに俺の方を見るくらいで、俺はラバックが帝都からアジトに持ってきた小説を読んでいた。
■
あの後、レオーネにお仕置きをしてから俺は自室で荷造りを始めた。
コンコンと部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
荷造りを止めることなく答えると、そう言いながら少年が入ってきた。
「少年か……どうした?」
「あ、いや……まだちゃんと自己紹介してなかったから」
そう言えばそうだな。
「そうだったな。俺はランスロット。暗殺結社オールベルグに所属し、革命軍との契約でナイトレイドにも所属している」
「俺はタツミです」
「よろしく頼むぞ、タツミ」
「こちらこそ」
その場でタツミが頭を下げる。
何故、頭を下げられているのだろう?
レオーネが意趣返しに何か入れ知恵でもしたのか……。
「頭を下げる必要はないぞ」
「え? でも、ラバと兄貴が挨拶はしっかりとやっておけって」
「兄貴?」
「ブラートさんです。ハンサムか兄貴って呼んでくれって言ってたんで兄貴って呼んでます」
なるほど。
一瞬ではあるが革命軍の中に兄弟がいるのかと思ってしまった。
「そうか。別に畏まらなくてもいいぞ。俺は気にしないから」
「あ、そうなの? ラバがやけに怯えてたから怖い人なのかって思ってたけど」
「ああ、そういうことか。ラバックは覗きの常習犯だからな、発覚する度にお仕置きとして簀巻き状態にして崖から吊るしてたから怯えられているんだろうな」
「あ、そうなんだ……」
タツミは右頬をひきつらせながら無理矢理笑っていた。
「そうだ……だから、タツミもそんなことするなよ?」
「は、はははは! あ、当たり前じゃないですか!」
少し、威圧感を込めながら言うとタツミは多少どもりながら返事をした。
「どもってるな……何か後ろめたいことでも? まあ、後で発覚したら吊るすが」
「スイマセンでした! この前の帝具の試着の時に女性陣の服を透視してガン見してしまいましたッ!!」
凄い勢いで土下座して自白した。
ラバックにはない新鮮な反応だ。ここでラバックだったら「後悔はしてねぇ!」と堂々言っていただろう。
痛い目にあっても覗きをする男だからな。
確か首斬りザンクを始末し、その帝具を回収したんだったな。なら、不可抗力と言えるか。
「……タツミがラバックみたいだったら確実に吊るしていたが、反省しているようなので……よしとしよう」
「ありがとうございます!」
「くれぐれも気をつけるように」
「はい! ランスロットさん」
「別に名前で言わなくてもいいぞ。ランスロットだと長いから適当に俺だとわかるように言ってくれれば問題ない」
「そっか……それなら」
そこで一旦言葉を切ってタツミは考え出した。
まあ、何て言うかは任せるとしよう。
「うーん……なら、師匠で」
「…………何故、師匠なんだ? 」
「いや、実はボスにランスロット以上に剣の腕が立つ奴は革命軍にいないから教えてもらえって」
「そうか。ボスがそう言ったか……まあ、今は時間が少ないが簡単に教えるぐらいなら出来るか」
いない間はブラートに任せっきりになるだろう。
槍をメインにしているが剣の腕もあるし、タツミも兄貴って呼んでいるぐらいに慕っているようだから俺が教えるよりもいいかも知れないな。
「なら、明日から始めるか」
「オッス! よろしくお願いします!!」
元気よく頭を下げるとタツミは部屋から出ていった。
■
深夜。
アジトの崖の上で1人……月を見ていた。
今日は雲がなく月と星が綺麗に見える。
「………………お前も月を見に来たのか?」
後方によく知っている気配を感じたので振り返ることなく言葉を紡いだ。
数秒ほど待てど特に返事は返ってこなかった。だが、ゆっくりとした歩調で近づいて来ているのはわかる。
その歩調は俺からほんの少し、離れた位置で止まった。
「…………………………」
「…………………………」
無言のまま時だけが過ぎていく。
聞こえるのは木々と虫のざわめきだけ。
「…………綺麗だな」
「今日は天気がいい……だからだろ」
そう今日は本当に天気がいい。
「……用があるんだろ? アカメ」
月を見るのを止めて、振り返る。
「ああ……ランスロット。お前は何で何も言わずに私を仲間として受け入れたんだ? お前の妹分を殺し、何度も殺しあった相手なのに……」
「それを言ったらアカメ、お前はどうなんだ? お前のかつての仲間を殺したのは俺だぞ」
お互いにお互いの大切にしていた相手を殺している。
お互いに必要最低限のことしか話さなかったゆえにこのような機会は初めてだ。
「私は……
「そうか。俺は……憎くはなかった。ただ、仇討ちぐらいはしてやろうと思っていた」
妹分―――タエコが死んだのは確かに悲しかった。だが、殺しに行って返り討ちあい死んだのだ。
殺しに行ったからそうなった。
それだけだ。殺しに行った側が憎悪するのは筋違いと言うものだ。
こちらは恨まれる側であり、恨む側ではない。
私情で殺さず、依頼で殺すから暗殺者であって、私怨で殺せば単なる復讐者もしくは殺人者でしかなのだ。
「……ランスロット。お前は今も私を殺そうと思っているか?」
「…………どうなんだろうな。俺はアカメがとりわけ憎いわけではない。殺しあったがそれはその当時の任務だったからであり、私情ではなかった……ただ、仇討ちぐらいは、とたまに考えてしまうがな」
「……私も似たようなものだ。完全に憎くはないと言えば嘘になるが……昔ほどではない。当時と今とでは状況が違う」
「そうだな」
臣具という帝具程ではないが強力な武具を使う帝国の暗殺チームとその暗殺チームを狙う革命軍に雇われた暗殺者としての殺しあいはすでに終わっている。
恩人が死に妹分も死んだ……あの時からすでに数年。
「私たちの出会いはかなり悪い部類だったが……今はこうして肩を並べている」
「当時であれば嘘だと言いたくなるような今だがな……決して悪い気はしない」
「同感だ」
フッとお互いに小さく笑うと手を差出し、握手する。
「今さらだが、よろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
こうして俺とアカメはようやく仲間となれたのだろう。
随分と時間がかかってしまっているが、元々敵対していた者同士だったのだ。
こうして仲間となれただけ、奇跡に近い。
それにしても……。
「皆……暗殺者とは思えないほどお人好しだな」
「ああ、だからこそのナイトレイドであり、大切な仲間だ」
俺とアカメの様子をずっと伺っている仲間たちのことを考えると2人して、小さく声を出して笑ってしまう。
「きっと、俺たちが気がついてるのも承知しているだろうな」
「そうだな。ランスロットと私の微妙な関係のせいで随分と気を使わせてしまった」
「だな。皆には礼を言わなくちゃならないな」
「うん……」
俺の真の任務は連絡の途絶えた者たちの確認ではなく……帝国最強の帝具使いの抹殺。
生きて帰れる可能性は今までの任務の中で1番低い。
本部で得た情報は古いものと考えて行動しなければならない。移動にかかる時間分、相手は変化しているのだから。
「そろそろ、戻るか」
「ああ」
俺とアカメは月明かりを背に受けながらアジトへと戻った。
■
翌朝。
「……これはやらんぞ」
広間に集まり、全員で朝食を取っているのだが……珍しく、いや、初めてアカメが俺の対面の席に座っている。
「そうではない。いつもの位置じゃないから珍しくてな」
「そうか……そうだな。確かにその通りだ」
「食い散らかすなよ?」
「問題ない! 全て食べるからな!」
キリッとした表情でそう言いつつ両手に骨付き肉を持っているので説得力がない。
「まあ、いいか。……ブラート」
「ん? なんだ」
「タツミを少し借りるぞ」
「わかった。……動けなくなったら俺が介抱するぜ?」
俺に返事をした後、ブラートに頬を染めながらタツミの肩に手を置きそう言った。
「……う、うん」
タツミから助けてと視線で訴えられる。
「安心しろブラートも本気ではない……はずだ」
「そこは言いきってよ師匠!!」
「新しい扉の1つや2つ……開けてみせろ。きっと新しい世界が見えるぞ」
「そんな世界見たくねぇよ! 後戻り出来ないじゃん!」
青い顔をするタツミにブラートがニカッと笑い歯を輝かせながら言った。
「安心しろ……俺が手取り足取り丁寧に教えてやるからよ」
「……あ、う、うん」
「…………タツミ」
すっかりと意気消沈したタツミをラバックが同情した視線で見ていた。
「はぁ……食事くらい静かに出来ないのかしら?」
「まあまあ、賑やかでいいじゃないですか」
煩いことに文句を言うマインをシェーレがなだめる。
ボスはボスでこの賑やかな状況を見て満更でもない表情をしていた。
レオーネはタツミから盗った分の金を稼ぎに帝都に行っているのでこの場にいない。
俺が北に行ったらアジトの方に戻ってくるだろうな。
全額を返済出来るかは怪しいが……多少は戻ってくるはず。
とりあえず、期待はしないでおこう。
俺はカップに入ったスープを飲みつつこの後にやることを考えるのだった。