憑依者がいく!   作:真夜中

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22話 迎えにゆく

シェーレが処刑されるまで後1日となった日のことだ。

 

「……あの、将軍……どうしましょうか?」

 

おずおずとサヨが困り顔で聞いてくる。

 

その原因は……ヘカトンケイルであった。

 

そう、帝具"魔獣変化ヘカトンケイル"にサヨが適合したからだ。

 

今はまだセリューが使用した奥の手の影響で起動はしていないが、サヨがセリューの代わりに使い手となった。

 

「せっかくだから使わせてもらえ。それは生物型の帝具だからコアを破壊されない限り無限に復活する」

 

「……はぁ、そうなんですか。でも、私が使っても……」

 

「そう言うな。適合してしまったんだからしょうがあるまい。まあ、盾が手に入ったと思っていればいい」

 

コアを破壊されない限り再生されるのだから、優秀な壁役となる。

 

実際、弓を主武装としているサヨにはちょうどいいだろう。

 

「盾……ですか」

 

「そうだ。前任はコロと愛称をつけていた」

 

「前任者ってことは……」

 

そうだった。サヨはセリューのことを知らないんだったな。

 

それに前任者って言われたことである程度の予測が出来ているのか表情が暗くなっている。

 

「……前任者は何者かによって殺害された」

 

未だに犯人についての情報はなく捜査は全く進まない。

 

チェルシーからもたらされた情報を元に悪徳商人、汚職文官らは次々と捕縛出来ているが、セリューを殺した犯人の足取りは全くつかめないのだ。

 

「……そうですか」

 

「ああ、だがサヨが気にすることではない。気にするなら明日の護送の方にしておけ」

 

「……将軍は邪魔が入ると思いますか?」

 

「どうだろうな」

 

確率で言えばそれなりにあるだろうがエスデスが帝都に戻ってきている今、エスデスとぶつかる可能性を考えて救出に来ないかもしれない。

 

全ては明日わかる。

 

 

 

 

翌日。

 

シェーレを乗せた馬車を囲むように俺とサヨ、数十人の帝都警備隊員が道を進んでいく。

 

帝都に造られた処刑場へと。

 

「将軍……」

 

「どうした?」

 

「…………何かおかしくないですか?」

 

「……気がついたか」

 

意外ではあるがサヨは中々に気配を読むのが得意らしい。

 

まあ、弓をメインとして使っているのだから索敵能力はそれなりに高いか。

 

「と言うことはやはり……」

 

「ああ……見られているな」

 

どうにも複数の視線をさっきから感じているのだ。警備隊員は気がついていないようだが。

 

その視線はサヨと馬車、俺に集中している。

 

それも市民が向けるような視線ではない。

 

暗殺者や狩人などがする対象を注視するような視線だ。

 

「どうします?」

 

判断を仰ぐサヨ。

 

その目に迷いはない。命令があればすぐに動くと言っているようだ。

 

「そのままにしておけ。俺たちの役割はあくまでも()()だ」

 

「わかりました」

 

これがセリューだったらサヨみたく素直にうなずかなかっただろう。

 

部下は素直に言うことを聞いてくれる存在が好ましいな。

 

仕事に私事を挟んでくると本当に扱いづらいのだから。

 

まあ、それでもただ単にはいはいと答えるような思考放棄は困るが。

 

「それにしても、何で気がつかないんですかね」

 

「そういう機会に恵まれなかったからだろうな。気配を読む必要がない環境にいたということだ」

 

「それもそうですね」

 

納得したようにうなずくサヨ。

 

そのまましばらく黙って歩いていると、目的の場所である処刑場が見えてきた。

 

ここまで来ると視線が消えた。大方、やらかす準備をしているのだろう。

 

「将軍、賊の身柄を渡していただきたい」

 

「わかった」

 

処刑人が兵士を2人連れてやって来た。

 

その処刑人の目は血走っており正気ではなく狂気に彩られている。

 

とてもではないがこいつが本当に処刑人でいいのか不安になってきた。だが、大臣が選んだ人材であり、多分失っても痛くも痒くもない人物であるのはすぐにわかった。

 

俺は目だけで警備隊員にシェーレを出すようにと促す。

 

警備隊員が俺の意思を汲み取り動き出すのを確認すると俺は処刑場へと視線を向ける。

 

処刑台はいたってシンプルであった。

 

ギロチンのみ。

 

牛裂きを命じる大臣が命じたにしては……なんとも優しく感じる。

 

「将軍」

 

「ああ。シェーレを引き渡したら撤収するぞ」

 

警備隊員がシェーレを処刑人に引き渡すのを見届けると俺は撤収しようと背を向ける。

 

「将軍は見ていかないんですか?」

 

そんな言葉が投げかけられた。

 

「ああ」

 

そう答える。処刑を見ている暇があるのなら俺はその分の時間を別のことに使いたい。

 

「なんともまあ、残念だ。そこの嬢ちゃんはどうだい? 今日は関節を1つづつ斬り落とし、最後に斬首って感じなんだけど」

 

「い、いえ! 結構です」

 

引き気味の表情で首を左右に振るサヨ。

 

「そうかい……残念だねぇ」

 

ニタリと笑いながら処刑人はそう言うとシェーレを連れて処刑台へと向かっていった。

 

「俺たちの役割はここまでだ。各員撤収する」

 

「はい!」

 

一斉に返事が返ってくる。

 

まともな精神をしているなら処刑の現場を見たくはないだろうから当然と言えば当然か。

 

シェーレの処刑は失敗するだろう。

 

ここに辿り着くまでに感じた視線の正体がナイトレイドのものであればの話ではあるが。

 

その方が俺としても都合がいい。

 

今はまだなるべくナイトレイド側に死者は出ないでもらいたいからだ。

 

理由は簡単だ……ナイトレイドが帝都に巣食う害虫を減らしてくれているからだ。それも、まだこちらの方では捕らえることの出来ない奴まで。

 

それらが粗方片づいたら消えてもらいたい。

 

というよりも本格的に消しに行くといった方が正しいか。

 

こんな考えをしているなんて……ほとんど大臣と似たり寄ったり出はないかと思ってしまう。

 

全く嬉しくないことだから余計に腹が立つが……。

 

 

 

 

「やっぱりか……」

 

宮殿に戻り、いつものように書類仕事をしているとシェーレが助け出されたとの報告が届いた。

 

三獣士もおらず単なる処刑人とその護衛の兵士しかいなかったのだから当然と言えば当然の結果だな。

 

三獣士ならば処刑を見に来ると思っていたのだが……来なかったとなると、別の場所に行っている可能性が高い。

 

すでに俺の思考は処刑のことから三獣士に対してのものに変わっていた。

 

大臣の用意した捨て駒同然の処刑人などのことはこの際どうでもいい。大事なのは三獣士の同行だ。

 

エスデスの部下である彼らはエスデスに絶対服従であり、その忠誠心も凄まじいものがある。

 

故に大臣のお願いをエスデスが了承していたら真っ先に動くのは彼らだ。

 

「……これはどうするかだ」

 

今、俺が手にしている書類には護衛の依頼があった。

 

少し先の話になるが大運河に停泊する竜船でパーティーが行われるのだ。それに参加する古株の文官からの依頼である。

 

大臣に抵抗する文官の1人であることから狙われる可能性が高く、俺に護衛の話が来たわけだ。

 

この話は受けようと思っている。久しぶりにチェルシーと直接会えるからな。

 

手紙ではどうしても情報が少しばかり古くなってしまう。

 

生の情報を得られる数少ない機会だからこのような機会を利用しない手はない。

 

それにボルスはわからないが、ランなら確実に参加するだろう。いずれ政界に出ると決めているのだから、ここで顔や名前を売っておいて損はない。

 

チョウリ様の護衛もやっていたのだから歓迎されるだろう。

 

元大臣であるチョウリ様の影響力は高い。特に古株の文官であるならばなおさらだ。

 

故にチョウリ様には無事に帝都に来てもらわなければならない。

 

「……さて、俺もそろそろ行くとするか」

 

帝都警備隊には俺がいない間に何か問題が起こった時の対処のしかたはすでに指示を出しているし、サヨについてはドクターが新しい武器を造ったらしくそれのテスターをやっている。

 

まあ、ドクターのことだからサヨの体格でどうにかなるような武器しか使わせないだろう。

 

ただ……サヨが帝具使いになることが確定してしまったのでその事で何かしらあるかもしれないから注意する必要がある。

 

大臣に何か吹き込まれないとも限らないしな。

 

 

 

 

同時刻。

 

ナイトレイドのアジト。

 

「おかえり……シェーレ」

 

「はい、ただいまです。マイン」

 

足を負傷しているため座っているシェーレにマインが涙を浮かべながら抱きついていた。

 

シェーレはそんなマインを微笑みながら抱きしめる。

 

「アカメもブラートもありがとうございます」

 

「おう! いいってことよ」

 

「ああ」

 

礼を言うシェーレにブラートとアカメは気にするなとばかりに笑いながら答える。

 

タツミ、レオーネ、ラバックはシェーレ奪還後はそのまま帝都での情報集めのためにアジトに戻っておらず、帰還は今日の夜となっていた。

 

そのため、現在アジトにいるのは顔がバレているメンバーだけであるものの実力の高いメンバーが多い。

 

元将軍であるナジェンダ、ナイトレイド最強と言っても過言ではないブラート、暗殺技術においてはブラートをも凌ぐアカメ。

 

並の相手ではまず相手にならないであろう面子である。

 

「それでだ……あいつ(ランスロット)に関して何かあるか?」

 

「はい……彼の部下にタツミと同郷の少女がいます。そして、彼女は帝具使いになる可能性があります」

 

「そうか……タツミには聞かせたくはないことだが、言うしかあるまい」

 

憎く思っていない同郷の者と殺し合う可能性がある。それは憎く思っていないだけより辛く厳しいものになるとここにいる全員は思った。

 

最愛であるからこそ(クロメ)を殺そうとしているアカメは他の誰よりもタツミのことが心配になってしまう。

 

自分のようにその覚悟を決めていない彼にとってそれはどれだけの負担になるのか、想像するのが難しくなかったからだ。

 

「出来れば……こっち側に来てくれるといいのだが」

 

ポツリと言葉をこぼすアカメ。

 

ついこの前まで一般人であったタツミのことを思ったからこその言葉であった。

 

「ああ、そうだな。だが、それも難しい。少なくともランスロットが上司ならばこちら側に来る可能性は低い。これが悪どい卑劣漢だったら話は変わったんだがな」

 

煙草に火を着けながらナジェンダがそう言う。

 

「そうですね……帝国内で最も人気のある将軍ですし」

 

「大臣に対して表だって敵対しているから大臣を嫌う奴からは自分たちの代弁者のように感じてんだろ。不正を犯す文官や悪徳商人を捕まえて、そいつらが所持していた金は民に返すか国の公共事業用にしか使ってないからな」

 

シェーレやブラートが言った様に民からの人気は高い。

 

そして、そんなランスロットが忠誠を誓っている皇帝は幼さゆえに大臣に騙されているがすごい人物であると認識されている。

 

それはランスロットが皇帝が望んでいることを帝都から出た先々で話したりしているからであり、特にランスロットの部下である兵士たちが在中している西の地では、他の何処の地よりも皇帝に対して良い印象を抱いている。それこそ、革命軍が入り込む余地がないほど。

 

「それだけ聞くといなくなった時の反応が怖いわね」

 

「ああ。実際にランスロットがいなくなると奴の部下たちが暴走する危険性がある。あいつらは基本的にランスロットに心酔している。それも、奴のためなら命を捨てられるくらいにな」

 

マインの呟きにナジェンダは煙草の煙を吐き出しながら答えた。

 

「だな。帝国で最も堅牢な部隊であり、個々の技量も高く、弱兵が多い帝国軍内にて唯一末端の兵士ですら1人で最低でも2級危険種を狩れるぐらいの力量がある」

 

「革命軍にも大臣にも目の上のたんこぶのような厄介な相手だ」

 

ブラートとアカメは口々にそう言う。

 

わかっていることだが、口に出して再確認することでより厄介な相手であると認識を改める。

 

いずれは殺り合うことになるのだから。

 

 

 

 

「……こんなものか」

 

俺は襲いかかってきた土竜をパルチザンで縦に真っ二つにする。

 

チョウリ様たちと合流するために進んでいるところで襲われたので普通に返り討ちにしたが、その死体の処理に困る。放置しておくと他の危険種の餌となってしまうから処分しなくてはならないのだが……。

 

「……仕方がない。後でボルスに燃やしてもらうか」

 

合流したらまたここを通るのだからその時に処理しよう。これが特級危険種であるエビルバードだったら近くにある村などに持っていってもよかったのだがな。

 

俺はパルチザンにこびりついた土竜の血を払い落とすとパルチザンを背負って移動を再開する。

 

いつ合流できるかわからないが、焦ることなく気持ちに余裕を持っていこうと思う。

 

焦りなどは精神を追いつめ、視野を狭くするだけでなく思考すらも縛りつける。

 

平常心を保ち続けることこそ必要であり、必須。

 

そうでなければすぐに足元を掬われる。

 

「……竜船のことも伝えておくべきだな。そこならおいそれと大臣側の奴は侵入出来ないだろうしな」

 

油断せずにいかなくてはならない。1つの油断が全てを無に帰すのだから。


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