憑依者がいく!   作:真夜中

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20話 Sの帰還

「…………犯人は不明か」

 

セリュー・ユビキタスが殺害されたと報告があり、その犯人を探していたが全く手がかりが掴めなかった。

 

帝都警備隊隊員の中では最強と言って間違いない戦力だったのだが……。

 

犯人は見つけ次第……始末させてもらう。

 

セリューは基本的に悪が絡まなければ良い子だったので帝都の子どもたちや老人らには基本的に人気だった。

 

葬儀には同僚だけてなくセリューを慕っていた市民らも大勢参加した。そして、当然のように仇をとってくれとの声が上がった。それは参加した市民共通の言葉である。

 

性格に難があり、扱いの難しい部下であったが殺されたとなると心中は穏やかにいられない。

 

その事は一旦置いておき、シェーレについてだ。ナイトレイドのシェーレは簡単な怪我の治療を終えた後は十数人の見張りのある拘置所に入れてある。そして、暇潰し用に本人が希望した天然を治すための方法百選という本を与えてある。

 

見張りにはただ見張るだけでよいと言ってある。どうせ逃げられはしないのだから。

 

ヘカトンケイルとエクスタスを持ち俺はこれから陛下に謁見しなくてはならない。

 

帝具を手に入れたから実物を持ってその事が嘘ではないと証明するためだ。

 

「将軍……そろそろお時間です」

 

「わかった」

 

迎えに寄越された近衛兵の言葉にうなずくと同時に俺はエクスタスとヘカトンケイルを持って待機していた部屋から退出する。

 

「ランスロット将軍。今回はブドー大将軍も参加します」

 

「珍しいな」

 

「はい。ブドー大将軍もそのように言われるだろうと言っておられました」

 

「そうか」

 

本当に珍しいこともあるな。

 

やはり帝都を騒がす賊の中で一番のナイトレイドを捕らえたからだろうか?

 

それとも別の何かか……どんな思惑があるにしろあの人は大臣側になることはない。

 

陛下の味方だ。俺にとって不利となろうとも陛下の味方であれば構わない。大臣と組まなければ問題なのだから。

 

「ランスロット将軍をお連れしました!」

 

「うむ。下がってよい」

 

陛下の声に無言でうなずくと敬礼して近衛兵は謁見の間から退出した。

 

謁見の間にいるのは陛下と大臣、ブドー大将軍を始めとする帝都にいる将官らである。

 

「ランスロットよ……ナイトレイドの構成員を1人捕らえたそうだが」

 

「はッ! 捕らえたナイトレイドは帝具、万物両断エクスタスの使い手シェーレです。現在は帝都警備隊の拘置所に逗留させております」

 

「おや、それだと逃げられるんじゃないんですか? ヌフフ」

 

大臣が嫌らしい笑みをしながらそう言ってきた。

 

「そうなったらそうなったで考える。帝具は取り上げているのだ戦力が格段に下がっているから警備隊隊員でも捕らえられるだろう」

 

「ぬるいな……いっそのこと足の健を切っておけばいいじゃないか」

 

この声は……戻って来ていたのか。

 

「エスデス将軍……戻ってきていたのだな」

 

「ああ。北の勇者とやらは完全に名前負けで些か拍子抜けした」

 

「そうだろうな。エスデス将軍が求めるようなレベルの相手はなかなかいないのだからしょうがないと思うぞ」

 

それこそ……ブドー大将軍か俺かブラートぐらいだろう。

 

ナイトレイド側だとブラート以外では純粋な技量でエスデス将軍と戦えないだろう。アカメは暗殺者としては一流であるが……正面からとなると無理だ。

 

暗殺者としてならそれなりのところまではいけるだろうが……。

 

「まあ、2人とも積もる話もあるだろうが……今はランスロットが手に入れた帝具だ。報告ではエクスタスだけとあったのだが……その犬? はなんなのだ?

 

「帝都警備隊隊員セリュー・ユビキタスが所持していた帝具の魔獣変化ヘカトンケイルです。彼女はナイトレイドと遭遇し戦闘にはいり、負傷。撤退させていたところを何者かの襲撃にあい死亡しました。犯人は不明です」

 

「……帝具使いが殺られたのか」

 

「はい。本人は両腕を失っており、後から調べたところ帝具は奥の手の影響により数ヶ月は動けないようなので」

 

これなら一般人に毛のはえた程度の賊に殺されたとしても不思議ではない。

 

ただ、傷の切り口からそれなりの腕前の賊であることは確かだ。

 

 

 

 

その頃。

 

帝都から北に10㎞離れたところにあるナイトレイドのアジトでは……。

 

「シェーレが……私を逃がすためにッ!」

 

アジトに戻ってきたマインが一緒に戻って来ていないシェーレのことを話す。

 

「そうか……奴が現れたか」

 

ナジェンダはくわえていた煙草を義手で握り潰すとレオーネに視線を向ける。

 

その視線を受けたレオーネはうなずく。

 

「今から帝都に行って調べてくる」

 

「あ、姐さん……俺も……」

 

すぐさま行こうとするレオーネにタツミが同行すると言う。

 

「いや……あの将軍に会うなら私だけの方がいいさ。タツミは顔を知られてるからね」

 

「だな。シェーレに関しての情報はレオーネに任せてタツミは俺と来い……なあに……心配することはねえさ」

 

「え……いや……」

 

途中まではよかったのだが、最後の方で猫なで声になったのでタツミに悪寒が走る。

 

気をつかってくれているのだろうと思うも……ホモ疑惑があるために素直に気をつかってくれているとは思えなかった。

 

「じゃあ……行ってくる」

 

そうしている間にレオーネが帝都に向かう。そして、タツミはブラートに引きずられるようにしてみんなの前から姿を消した。

 

残ったのはアカメ、マイン、ナジェンダ、ラバックの4人。

 

「アカメ……マインの怪我の手当てだ。ついでに風呂にも入れてやれ」

 

「……わかった」

 

ナジェンダに促されてアカメがマインを連れてアジトの中に入っていく。

 

それを見送りながらナジェンダは新しい煙草を取り出すと火を着けて口くわえる。

 

ふぅー、と白煙を吐き出すとラバックに指示を出す。

 

「お前も帝都に行け。レオーネとは別口でシェーレに関しての情報を探るんだ」

 

「了解。行ってくるよナジェンダさん」

 

「ああ。危ないと思ったらすぐに逃げてこい」

 

「もちろん」

 

レオーネに続き、帝都に向かうラバックを見送るとナジェンダはその後ろ姿が見えなくなると革命軍の本部に向けて現状を伝えるための手紙を書くためにアジトの中に入っていった。

 

 

 

 

帝具を保管庫に入れて、執務室に向かう。

 

「エスデス将軍……」

 

「ランスロットか……邪魔してるぞ」

 

そこには自分の部屋のように寛ぎながら紅茶を飲んでいるエスデス将軍の姿があった。

 

「はぁ……」

 

「なんだ? 人の顔を見るなり溜め息を吐くなんて」

 

溜め息も吐きたくなる。どうせ何を言っても無駄なのだろうが……。

 

「なんで……ここにいる?」

 

「それはお前に少し用があってな」

 

「用? 珍しいこともあるものだな」

 

面倒な予感が沸々と沸いてくるが……聞くしかあるまい。

 

陰鬱な気持ちになりそうだが、そうならないように気をしっかりとしながら耳を傾ける。

 

「単刀直入に言うとな……私は恋をしたいと思っている」

 

「………………すまん。もう一度言ってくれ」

 

今のは何かの聞き間違いだろう。

 

「だから……私は恋をしたいと思っているのだ」

 

「……ふぅ」

 

聞き間違いじゃなかったのか。

 

「正気か?」

 

「正気だぞ。と言うかそこは本気か? と聞き返すところではないのか 」

 

「そこはお前の好きなことを思い出してみろ。言わずとも誰もが正気かと疑うと思うぞ」

 

「そんなにおかしいか? まあ、私自身何故恋をしたいと思ったのかわからんが」

 

直感か何かで恋をしたいと思ったのか……。発情期の来た獣みたいではないか。

 

そんなことを言ったらこの執務室が使えない状況になるのでそんなことは思っても言えないが……。

 

「まあ、陛下にも渡したがこのリストの条件に合う奴はいないか?」

 

ぴらっと懐から紙を出すエスデス。

 

「…………なんだこの条件は厳しすぎないか? 」

 

「そうか? 私としてはこれぐらいじゃないと納得できないのだが……」

 

「いくらなんでもこれはないだろ」

 

1、将来の可能性を重視して将軍級の器を自分で鍛えたい。

 

2、肝が座っており現状でもともに危険種の狩れるもの。

 

3、自分と同じく帝都でなく辺境で育ったもの。

 

4、私が支配するので年下を望みます。

 

5、無垢な笑顔が出来る者がいいです。

 

これが条件だ。

 

なんともまあ……理想が高い。

 

「で……いるのか、いないのかどっちだ?」

 

とっとと答えろと言わんばかりの態度だ。

 

俺は仲介人ではないのだが……。

 

「心当たりがあると言えばある……特に条件の1から4までなら該当する」

 

「本当かっ!? それでそいつはどこにいる?」

 

「知らん。2度会っただけだからな。1度目は募兵の時、2度目は首斬りザンクを殺った時にな」

 

「チッ……使えん奴だ」

 

すぐに手のひらを返すか……さすがだな。

 

「だが……まあいい。いることさえわかればあとは自分で探し出す」

 

「そうしてくれ」

 

こんなことに警備隊隊員や兵士を使われても困る。

 

「名前ぐらいはわかるだろ」

 

「タツミだ」

 

「そうか……タツミか」

 

ふふふ……と機嫌よさそうに笑うとエスデスは執務室から出て行った。

 

すまんな、少年。あのまま居座られたり、ストレス発散の相手に時間を潰されることを避けるために売らせてもらったぞ。

 

からまれでもしたら一応助けてやるので……それで勘弁してくれ。

 

それしても……まさか……恋とは。正直思ってもみなかった。てっきり捕らえたナイトレイドのシェーレを拷問するから寄越せとでも言うのかと思っていたから余計に驚いてしまった。

 

「失礼しますよ」

 

今度は見慣れた肥満体型の大臣が現れた。

 

何しに来たんだ?

 

「将軍……捕らえたナイトレイドのことですが……」

 

「公開処刑にするのか?」

 

「おや、おわかりですか。でしたら話が早い。3日後にギロチンによる打ち首をします。ヌフフ……よろしいですね?」

 

「よろしいもなにももう決まったことなのだろう?」

 

どうせ決まっていなければ言いに来ないはずだ。

 

「ええ。もちろんですとも。陛下のサインもあります」

 

そう言って差し出された紙には確かに陛下のサインがしてあった。

 

「となると……護送のための兵が必要になるな」

 

「そちらはお任せします。私は処刑人を用意しておきますので……」

 

よろしくお願いしますねと念を押してから大臣が執務室から出て行った。

 

護送中に逃げられたら俺の責任にされてしまうから、護送は俺がやるしかないか。

 

「はぁ……」

 

溜め息を吐きつつ護送に割く人員のリストを作ろうとするとコンコンと扉がノックされた。

 

今日は珍しく連続来客があるな。

 

「どうぞ」

 

そんなことを考えつつ、護送用の人員をリストに書きながらそう言う。

 

「入るぞ」

 

今度は陛下だった。

 

マントや帽子は被っておらずに軽装であった。その背後には護衛の近衛兵が2人ほど直立不動で立っている。

 

俺は椅子から立ち上がり陛下へと近寄っていく。

 

「どうしました?」

 

「うむ……実は相談があってな……その、今は大丈夫か? 忙しかったらまた後でよいのだが……」

 

「いえ、大丈夫です」

 

陛下から相談があるとは……一体何の相談なのだろうか?

 

「そうか……実はな……エスデス将軍のことなのだが……」

 

何やら言いずらそうな陛下の様子にエスデス将軍関係で何か問題でも起こったのかと思っていると……。

 

「エスデス将軍がな……恋がしたいと言ったのだ」

 

それか…………。

 

「それならばエスデス将軍本人から聞きました」

 

「そうであるか。それでランスロットは人を紹介出来たのか?」

 

「ええ。一番厳しい条件である鍛えれば将軍級の器を持つをクリアしてます」

 

「なんと!? 」

 

驚きを顕にする陛下。廊下にいる近衛兵も同じように驚いている。

 

「なので気にしないでいいですよ、陛下」

 

「そうか。大臣もよい男だからオススメしたんだが断られてしまってな……どうしたらよいか悩んでいたのだ」

 

「なるほど。でも、陛下……大臣をオススメするのは間違いです」

 

「どうしてだ?」

 

きょとんとした様子で首を傾げる陛下。

 

何故大臣をオススメしてはいけないのか本気でわかっていないようだ。

 

「第1に年齢。2に立場。3に相性です」

 

「…………エスデス将軍と大臣は相性が良くないのか?」

 

「この場合の相性は本人たちの好みの問題です。エスデス将軍の恋人にしたい人物の条件に大臣は何1つ当てはまりません」

 

それに……確か大臣には息子がいたはず。

 

しばらく姿を見ていないが……。

 

「ところで話は変わるが……ランスロットに恋人はいるのか?」

 

「いません」

 

「好きな異性もか?」

 

「はい」

 

陛下の問いに答えながらも思った。

 

陛下も色恋沙汰に興味を持ち始めたのかと。

 

そうなると大臣が傀儡にするために大臣の息のかかった悪女もしくは身体が弱くいつでも始末出来る女をあてがう可能性が出てきた。

 

「聞いてくると言うことは陛下は誰か好きな娘でも出来たんですか?」

 

聞いておかなければ不味いな……もしかしたら大臣と俺で陛下の嫁探しが始まるかもしれない。

 

「いや……エスデス将軍が恋をしたいと言っていたからな。余もした方が良いのかと考えてしまってな……」

 

「陛下……聞いた言葉ですが、恋とは落ちるものらしいですよ」

 

「落ちるもの?」

 

「ええ、落ちるものらしいです」

 

とりあえず陛下の嫁探しはしばらく先と言うのがわかっただけよしとしよう。

 

「不思議なものだな」

 

「はい」

 

恋人か……そういえばランは……独り身だったはず。

 

そして、護衛対象のチョウリ様には一人娘がいた。

 

………………まさかな。

 

ふと浮かんだ考えに内心苦笑しつつ俺は陛下と会話を続けるのだった。


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