憑依者がいく!   作:真夜中

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19話 鬼が来る

「………………」

 

深夜の帝都。今日も変わらずにナイトレイドを待ち伏せする。

 

数日前に捕らえた護衛として雇われた傭兵の半数は刑務所に送られ、残りの半数は帝都警備隊に入隊することとなった。

 

あのまま釈放してもよかったのだが、多少給金は少ないが帝都警備隊に入隊しないかと声をかけたところ全員が承諾してしまった。その結果に俺は少しばかりに驚いたが、理由を聞くと納得できた。

 

多少給金は低くとも安定した給金の職業であり、傭兵でいるよりも安心して生活出来るからだそうだ。

 

俺としては規則を守り、真面目に働いてくれるなら文句はない。

 

ある程度腕に覚えのある者らが入隊したのだから、人が減った警備隊の人数補充が出来たのでこれで少しは警備隊のシフトが回しやすくなったので大助かりだ。

 

シフトを確認して働きすぎていないかチェックをするのも俺の仕事の1つ。人が増えれば余裕を持ったシフトに出来る。

 

これで少しは楽になった。

 

中間管理者もだいたい決まってきたので帝都警備隊関連の仕事は書類の確認を行い、何かあればその都度命令を下すというものになるだろう。

 

「……来ないか」

 

待ち伏せしているがナイトレイドの構成員が現れることなく時間ばかりが過ぎていく。

今のところ笛の音も聴こえてこないので誰もナイトレイドを見つけられていないのだろう。

 

セリューはともかく他の警備隊隊員は上手く気配を隠せないのが多い。

 

「……ふむ、別の場所に行くことにしよう」

 

俺は金銭の横領をしている文官を捕らえるように連れてきた部下に命令を下すとセリューが潜んでいる場所へと移動を始めた。

 

信用していないわけではないのだが……暴走する可能性のことを考えると……今さらだが心配になってしまったのだ。

 

ナイトレイドの構成員がそんな簡単に殺られるとは思えないが、何事にも絶対はない。

 

それは強力な武器を持っていようと必ずだ。

 

 

 

 

「…………」

 

ナイトレイドを待ち伏せしているセリューは黙って周辺の気配を探っていた。

 

相棒とも呼べるコロ―――ヘカトンケイルもセリューにならい静かにしている。

 

セリューはナイトレイドの構成員を生け捕りにすると言っているランスロットの言葉に表面上は同意したが内心では不満だった。

 

―――将軍のいうことはわかりますが……私は……。

 

ギリィ……と歯軋りの音が風に揺れる葉の擦れる音に紛れて消える。

 

セリューにとって悪とは問答無用で正義を執行して断罪するべき対象。

 

今回はナイトレイドの構成員を生け捕りにして、そいつから情報を引き出すために殺さないようにすることを命令されている。

 

例え後に処刑されるとしても悪が目の前で生きていることを許せそうになかった。

 

「キュウウウン」

 

「……大丈夫だよコロ。今回だけなんだから」

 

そう、自身に言い聞かせるセリュー。

 

不満だが今回だけなのだ。

 

末端を潰していくのではなく末端から大本へたどり着き、その大本ごと末端を纏めて潰す。

 

そのための我慢なのだ。

 

それに自分が裁かなくとも必ず他の誰かが裁きを下すことがわかっている。

 

だからこそセリューは暴走せずに済んでいた。

 

そして……。

 

「来たか!?」

 

セリューの視界に明らかに怪しい2人組の姿が映った。

 

1人は大きな鋏を持ち、もう1人は巨大な銃を持っている。

 

大きな鋏を持っているのは手配書に載っている人物―――シェーレ。もう1人についてはわからないが一緒に行動していることからナイトレイドの一員だと判断出来る。それらを一瞬のうちに見定めるとセリューの動きは早かった。

 

勢いよく飛び出すと2人の間に降り立つ。

 

「夜ごとに身を潜めていた甲斐があった」

 

セリューはようやく巡り会えたナイトレイドの2人を前に歓喜していた。

 

セリューから距離をとりいつでも動けるように構えるシェーレとマイン。

 

これから始まるであろう戦いに自然と精神が研ぎ澄まされていく。

 

「手配書に記されている特徴と一致、ナイトレイドのシェーレと断定。その同行者も帝具とおぼしき銃を所持しているからナイトレイドと断定。これより……正義を執行する!!!」

 

セリューは狂喜の表情でシェーレとマインを指を指しながらそう宣言した。

 

 

 

 

その光景を少し遠くの建物の屋根の上から見ている男がいた。

 

月明かりをバックにしており、その男の容姿の全貌は見えないが片目が潰れているはわかる。

 

「くくく……」

 

何が愉快なのか凶悪な笑みを浮かべる男。

 

「……せいぜい仲良く潰し合うこった」

 

対峙するセリューとシェーレ、マインの様子を見ながらそう言うと男はその場に座り込み観戦の体勢をとるのであった。

 

 

 

 

セリューがナイトレイドのことを待ち伏せしている場所に向かっているとピイィィィィィッ!! と笛の鳴る呉とが聴こえてきた。

 

「……どうやらナイトレイドに遭遇出来たようだな」

 

これは急ぐ必要があるな。

 

援軍が呼ばれたとあればあちらも全力でセリューを殺しにかかるだろう。

 

1対1なら生物型帝具であるため2対1の状態で戦えるが相手が2人だと必然的に普通の装備で帝具を相手にしなければならない。

 

それはかなり辛いはずだ。

 

俺は問題ないがセリューには問題になる。

 

そして突然眩い光が発生した。

 

「む! これは……」

 

いつしかアカメと遭遇したときと同じような光が視界に映り込んだ。

 

急いだ方がよさそうだ。この眩さでは確実に目が眩んでいるはず。

 

そうなるとセリューが殺られる可能性が高くなる。

 

幸いなことに今はなら気配を隠さずとも気取られることなく移動を出来るだろう。

 

俺は光が発生した場所に向かって一気に駆け出した。

 

光が発生した場所に近づいていくと今度は大きな叫び声が聞こえた。耳を塞ぎたくなるような音だが超級危険種の叫び声と比べると超級危険種の方が煩いので耳を塞ぐことなく走る。

 

どうやら先程の叫び声はセリューの帝具であるコロが発したものらしい。

 

状況は今にも止めを刺されそうなセリューとコロに握り潰されそうになっている少女。

 

お互いに相討ちになりそうな状況であるが大きな鋏を持っている女性がコロに握り潰されそうになっている少女を助けに行った。

 

あの鋏は帝具で間違いないだろう。万物両断エクスタス。その使い手となるとナイトレイドのシェーレで間違いない。

 

「よくやったぞ……セリュー」

 

俺はナイトレイドのシェーレが仲間であろう少女をコロの手から助け出した時を見計らいセリューに話しかけた。

 

「……将軍」

 

両腕を失い座り込んでいるセリューが俺を見上げる。

 

「いたぞ! ナイトレイドだ!」

 

そこへ警備隊隊員たちが続々とやってくる。

 

「くっ……私が時間を稼ぎます。だから、逃げてください!」

 

シェーレがエクスタスを突き出すように構えながら走り出した。

 

「……っ……ごめん!」

 

そう言って大型の銃を持って少女がシェーレと反対側に駆け出した。

 

あの少女が持っていた銃には見覚えがある。あれはナジェンダ元将軍が所持していた帝具パンプキン。

 

使い手が変わっていたのか。

 

逃げ出したパンプキンの使用者は負傷しているから逃がさせたのは仲間意識が強いからか。

 

それともシェーレが甘いだけなのか。2人で組まされていたことから相性は悪くないのだろう。

 

「半数は逃げ出した奴を追え! さらに残りの半分はセリューを手当てするためにセリューを連れて引け……ナイトレイドのシェーレは俺がやろう」

 

俺は背負ったパルチザンの持ち手に手をかけながらシェーレに向かって駆け出す。

 

「……行かせません! エクスタスッ!」

 

シェーレがそう言った瞬間にエクスタスから眩い光が発せられた。

 

金属発光ッ!? これがエクスタスの奥の手か……。

 

なるほど、元々が万物両断と強力なエクスタスはすでに十分な破壊力を秘めている。故に奥の手はそのエクスタスの一撃を回避させにくくするためのものか。

 

正直に言って奥の手とは思えないが……虚を突くということならある種の奥の手だな。

 

「ぐわっ! 目がぁ……」

 

「うっ……!? この光は……」

 

警備隊隊員たちの動きが止まってしまった。

 

目を閉じていても眩しく感じるほどの光量なのだから仕方がないが、これでは逃げられてしまうかもしれない。

 

「目が見えなくても……大体の位置は掴める」

 

俺はシェーレの足音や気配から大体の位置を掴みパルチザンを振るう。

 

ゴオォォォンッッ!! と轟音と同時に手に衝撃が走る。

 

どうやら外したようだ。

 

だが、視界が回復したのでシェーレの姿が確認できた。

 

「…………」

 

エクスタスは閉じられてる。どうやら元々の硬度を武器として使うようだ。

 

万物両断だけあって帝具の中でも最高クラスの頑丈さを誇るエクスタスはその硬度だけでも十分な破壊力を持つ。

 

「すいませんが……時間を稼がせてもらいます」

 

シェーレが剣呑な目つきで自身の周りを囲む警備隊隊員たちを威嚇しながらそう言う。

 

逃走したナイトレイドの構成員を追わせるはずだった隊員たちは動けずにシェーレの雰囲気に飲まれてしまっている。

 

セリューはすでに警備隊隊員たちによって撤退を終えている。後はシェーレを捕まえるだけ。もう1人は一応形だけとはいえ追っておく必要があるだろう。

 

パルチザンの方は先程の一撃で完全に赤熱化しているため使えない。

 

だが、それも問題ない。生きて捕らえるのが目的なのだ。

 

「構わん……だが、お前は逃がさない」

 

パルチザンを地面に突き刺し、両手に剣を握る。

 

それから警備隊隊員たちに向けて言う。

 

「今から追いかけても追いつけないかもしれないが追っておけ。もしかしたらという可能性もあるからな」

 

「了解です! お前たち行くぞ!」

 

だっと駆け出す警備隊隊員たちを無視してシェーレは俺から視線を外さない。

 

「……私も運がないですね。帝国最強の一角と相対することになるなんて」

 

自嘲するようにそう言っているが諦めの表情ではない。

 

「たまたまだろう。そういうときもあるさ」

 

俺とシェーレは同時に駆け出す。

 

「っ……それも、そうですねっ」

 

「ああ、そうだ」

 

素早く槍のように突き出されるエクスタスと俺の操る双剣がぶつかり合う。

 

鳴り響く金属音に飛び散る火花。

 

そしてすぐに俺の持っていた剣が砕け散った。

 

「やはり……安物は脆いか」

 

その瞬間をチャンスだと思ったのだろうシェーレが奥の手を使用した。

 

「エクスタス……ッ!」

 

カッと眩い光が発せられるがすでに手は打っている。

 

この光は発生した瞬間なら使い手にも影響があるはず。つまり俺の行動も一瞬ならわからなくなる。その一瞬で十分だ。

 

……短剣2本を投擲するには。

 

視界が回復すると案の定シェーレの両足に短剣がちゃんと突き刺さっていた。

 

「……それでは一旦眠ってもらおう」

 

俺はシェーレが横凪ぎに振るってきたエクスタスを片手で掴むと力任せに引っ張り空いた片手でシェーレの首を掴み頸動脈を締め上げる。。

 

「ぁ……」

 

ガランとシェーレの手からエクスタスが落ちる。

 

「捕獲完了」

 

俺はシェーレの両手両足を紐で縛るとパルチザンを背負い、シェーレを肩に担いだ。

 

 

 

 

その光景を見ていた男は苦々しげに呟いた。

 

「チッ……ナイトレイドの暗殺者もあいつを傷つけるのは無理だったか」

 

だが、と男は思い直して同僚である複数の警備隊隊員によって運ばれるセリューの方に視線を向けるとニヤリと笑みを浮かべる。

 

「まあいいさ……チャンスはこれだけじゃねぇんだ」

 

男は立ち上がるとセリューがいる場所に向かって移動を始めた。

 

 

 

 

先ず最初に気がついたのはセリューだった。

 

建物の上から降りてくる筋骨隆々の隻眼の男。

 

その男によって次々と同僚である警備隊隊員たちが斬殺されていく。

 

コロを使おうともコロはナイトレイドのシェーレとマイン相手に奥の手を使い数ヵ月は起動出来ない状態となっている。

 

そして、自分以外の警備隊隊員が斬り殺される。かつて……鬼と呼ばれ恐れられた男の剣は錆び付いておらず、むしろ以前よりも動きが精練されていた。

 

「な、何故……何故貴様がここにいるッ……オーガ!!!」

 

「そりゃあ……もちろん決まってるだろう? 」

 

剣にこびり付いた血を剣を振るうことで払うとセリューに近づいていく。

 

「テメェを……殺すためだろうがぁぁぁッ!」

 

ザンッとセリューの両足が斬り落とされ、身体が地面に仰向けになる。

 

「ゴフゥッ! 」

 

オーガの足が両足を失い仰向けに倒れたセリューの腹を踏みつける。

 

「いい様じゃねえか……」

 

そう言いながらオーガはセリューの腹を何度も何度も踏みつける。

 

何度も腹部を踏まれ続けたことにより内蔵は破裂しか細い呼吸と同時に吐き出される血。

 

すでにセリューの視界はボヤけており痛みも感じていなかった。

 

感じていたのは……寒くなっていくことと死に逝くことへの恐怖。

 

「チッ……元々弱ってたからもう死にそうなのかよ」

 

つまらなそうにそう言うオーガの声はセリューに聞こえていない。

 

そして……セリューが最後に見た光景はオーガの持つ剣が自分に向かって降り下ろされる瞬間であった。

 

翌日。

 

セリュー・ユビキタス及び彼女を運んでいた警備隊隊員の斬殺死体が発見された。

 

セリューの所持していた帝具、魔獣変化ヘカトンケイルはその近くで斬殺されていた警備隊隊員の死体の下から発見される。

 

犯人は不明であった。

 


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