憑依者がいく!   作:真夜中

2 / 53
1話 帝都をいく

「異民族の討伐を終えました」

 

帝都に戻ってきた俺は宮殿の大広間で陛下へ報告にきていた。

 

「さすがだな、ランスロット将軍。大義である」

「はっ!」

 

「将軍とその部下たちに2日の休暇を与えよう。しっかりと英気を養うように伝えてくれ」

 

「はい。しかと伝えておきます」

 

皆も喜ぶであろう。久しぶりの休暇なのだから。ここ最近は訓練、実戦、訓練、実戦の連続でこれといった休みを与えられていなかったからな。

 

「これで良いのであろう大臣」

これさえなければどんなに良かったことか。

 

「ヌフフ、お見事です」

 

グチャッ、グチャッと肉を摘まみながらでっぷりと肥満体の身体を動かしながら大臣が現れた。

 

「お久しぶりです大臣。今日も相変わらず不健康そうな身体ですね。それと、陛下が食べていないのに自分だけ食べるとか、何処の国でもやってませんので即刻止めていただきたいのですが」

 

「不健康ではなく私は健康です。それと、ちゃんと陛下から許可を頂いているので問題ありませんよ」

 

「そうですか。それと、陛下」

 

俺は大臣に返事を返してから陛下へと話しかける。

 

「どうした」

 

「大臣の体型は基本的に病気と何ら代わりありません。もし、汗が臭くなったら教えてください。消臭剤を用意いたしますので」

 

「将軍……それは薬を用意すべきではないのか?」

 

ピクピクと目元をひきつらせる大臣に内心で笑いつつ、陛下と話を続ける。

 

「いえ、薬では治りません。一時的には治せるでしょうが……本人の生活習慣を変えなければ根本的な解決にはなりませんので」

 

そうか……、とうなずくと陛下は隣に立つ大臣を見上げる。

 

「大臣よ……やはり食べる量を減らすべきではないのか? この手のことでランスロット将軍が間違えたことはないぞ」

 

「急な病死をしたくなければ今すぐにでも運動してその肥満体を健康体に戻すべきです。手伝いますよ?」

 

新兵を鍛える時のメニューその8……帝都の外周を走るで。

 

「いえいえ将軍も暇ではないでしょうし遠慮しておきます」

 

チッ……まあ、嫌がらせは出来たしいいか。

 

「そうですか……健康体になりたければいつでも言ってくださいお手伝いしますので」

 

「何度も言いしたが、これでも健康体です」

 

「ご冗談を」

 

はははは、と軽く笑う。

 

その度に大臣の目元がひきつるので気が晴れる。

 

「それと、陛下……帰還途中に危険種の群れと遭遇し、殲滅したので焼却部隊へ死骸の始末の命令をお願いします」

 

「わかった。余が命令を出しておこう」

 

「はい。それでは失礼します」

 

俺は深々と陛下に頭を下げると大広間から退出した。

 

 

 

 

宮殿の外へ出ると今回の異民族の討伐に連れていった兵士たちが整列して待っていた。

 

「将軍、陛下はなんと?」

 

宮殿から出てきた俺にランが近寄りつつ聞いてきた。

 

「陛下からの言葉を伝える。2日の休暇を与えよう。英気を養うようにとだ。それと、せっかくの休暇なのだ少し早いが今月の給料を支給する」

 

給料の支給と言う言葉を聞いた瞬間兵士たちがざわめきだした。

 

皆、金が好きだなあ、と思いつつランを見るとランはやれやれといった様子で首を軽く笑っていた。この光景にも慣れたのだろう。

 

給料を早めに支給すると本気で驚かれたし、古参の兵士たちはすでに慣れたもので仲間内で何に使うかを話している。

 

それから、隊舎に戻ると金庫から今月分の給料を出して、兵士一人一人に渡していく。

 

それを受け取ったそばから兵士たちはそそくさと帰っていった。

 

最後の一人に渡し終えると、ランがお茶を用意していてくれた。なんともまあ気のきく副官だ。

 

「どうぞ」

 

「すまんな」

 

ランから湯飲みを受け取り一口飲む。

 

お茶特有の苦味が口内を満たす。濃いめのお茶が好みな俺にとって丁度いい感じだ。

 

「焼却部隊の方はどうです?」

 

「陛下にお願いしておいたから問題はないだろう」

 

「大臣が何か言うかもしれませんよ」

 

「それこそしないだろう。危険種の死骸を燃やすだけで……俺の()が増すわけじゃないんだからな」

 

仮に焼却部隊の隊長であるボルスを部下にしようとしたら確実に妨害があっただろう。

 

ただでさえ、ランが俺の副官になっているのも俺が帝具を持っておらず、帝具の代わりに帝具持ちの部下を欲したからに他ならない。

 

多分、俺が帝具を手にいれたらランは何らかの理由をつけて他の場所へ移されるだろう。

 

全く……大臣も困ったものだ。

 

「そうですか……でも、あまり無茶なことをしてると大臣も強引な手段を取るかもしれません」

 

「それもそうだな。それは大きな手柄を立てれば問題はないと思う……例えばナイトレイドのメンバーを捕らえるとかな」

 

「はぁ……そんな簡単にいくと思っているのですか?」

 

「まさか、全員が帝具を持っているのに簡単に捕らえられるわけないだろ。もっとも相性や状況によるがな」

 

事実……この円卓最強と言われる"ランスロット"の身体と互角に戦えるブドー大将軍が色々とおかしいだけだ。

 

ブドー大将軍並みのがポンポンいたら今頃帝国は滅ぼされている可能性もある。

 

「そうでしたね……白兵戦に関してあなたを越えるものは帝国にいませんでしたね」

 

「そういうことだ。遠距離なら近づいて白兵戦に持ち込めばいいし、近距離ならよっぽどの達人ならいざ知らず大半は問題ない。奥の手もあるしな」

 

奥の手……無毀なる湖光(アロンダイト)

 

超級危険種を相手にしたとき以外に使っていないこの剣を使えばいい。

 

「そうですか……それと、手紙が来てましたよ」

 

「手紙? 誰からだ」

 

大半の手紙が縁談や賄賂についてなのでほとんど無視しているのだが、とりあえず名前だけは確認するようにしている。

 

相手によってはちゃんと返事をしなければならないからだ。

 

「元大臣であるチョウリ様、それとスラムにある孤児院からのお礼のお手紙です」

 

チョウリ様と孤児院からか……チョウリ様からのはちゃんと返事をしなければならないな。孤児院からのは一応、返事と一緒に食べ物と寄付金を送ろう。

 

「チョウリ様か……ラン、これは使えると思わないか」

 

ニヤリと口元を歪ませる。それだけで俺が何を考えたのか理解したのだろうランは呆れたような表情で俺を見てくる。

 

「恩人も利用するつもりですか……悪い人ですね」

 

「ランも俺と同じ立場だったらそうするだろうに……それに政治について勉強出来るいい機会だぞ」

 

帝国を内部から変えようとしているランならこの機会は絶好の機会だ。元大臣であるチョウリ様から政治について教わることが出来るかもしれないのだから。

 

俺も一時期世話になったことがあるのでこの人の頼みは無下には出来ない。

 

大臣と真っ向から政治という舞台で戦える数少ない人物。上手くいけば陛下にとって毒でしかない害虫らを消せるのだから支援しないわけにはいかない。下手したら暗殺される可能性のある方だ。

 

「綺麗事だけじゃ世の中やっていけないですしね」

 

「その通りだ。清濁併せ飲むことが出来ないとな」

 

本当なら綺麗事だけでやっていけるような世の中なら簡単なのにな。

 

早々上手くはいかないか。

 

手紙の内容はある程度予想通りのものであった。大臣の悪政の噂が地方の方にも流れ、さらには重税で日々を生きるのすらも難しい村の数が増えてきたことが書かれていた。

 

そして、近いうちに帝都に来ると。

 

近いうちといっても日程もまだ決まっていないらしくもうしばらく先になるそうだ。

 

これなら近いのか遠いのかわからない。でも、これは朗報だ。大臣にとっては凶報ともとれるが。

 

「顔見せも兼ねてランがチョウリ様の護衛に行くか? 多分、刺客が現れると思うが……どうする?」

 

「そうですね……刺客が来る可能性を考えるなら私よりも将軍が行ったらどうです? 大半の刺客は逃げますよ」

 

ランはニッコリと笑いながらそう言ってきた。

 

「俺は危険種か何かか?」

 

「人型危険種ですね。新種ですよ」

 

「人を勝手に人外にするんじゃない」

 

全く……失礼なやつだ。超級危険種を単身で討伐したくらいで人外扱いはないだろうに。

 

手紙の返事を書く準備をしつつ、ふと気になったことを聞いてみる。

 

「ランは休暇中はどうするつもりなんだ?」

 

「休暇中ですか……私は孤児院の子どもたちに勉強を教えに行きます。元とはいえ教師でしたから」

 

元か……あんなことがなければ今もランは教師を続けていただろう。

 

―――()()()()が当時ランが教師を勤めていたジョヨウに現れなければ。

 

子どもは国の宝。無限と言ってもいいほどの可能性を秘めている。だからこそ……子ども殺しの凶賊は始末しなければならない。

 

未だに行方は掴めていないのが残念極まりないが、そればっかりにも集中していられないのが現実だ。

 

「なら、しっかりと教えてこいよ。もしかしたら将来その子どもたちが国を動かしているかもしれないんだからな」

 

俺がそう言うとランはくすくすと笑いながら言った。

 

「そうなると嬉しいかぎりです。教え子が立派になった姿を見れるんですから」

 

そんな未来を作るためにも帝国に巣食う害虫たちの駆除は必須だな。

 

綺麗なままでやっていけない世界だが汚くして良いわけではない。

 

……一応、大臣にも陛下にも知られていない俺の切り札とも言えるあいつに連絡をとっておくか。

 

あんまり連絡をしないでいるといつかみたいに任せたことをほっぽり出してこっちに来かねないからな。

 

「……そうか。なら、行くついでに返事の手紙とお土産を持っていってくれ」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

俺は手紙を書く準備を終えたので孤児院向けに返事を書き始めた。

 

 

 

 

「うーん……」

 

目覚めとともに上体を起こして首を軽く回す。ゴキゴキと骨が音を立てる。

 

それから起き上がり、布団を畳んでから着替えると俺は軽く朝食を食べてから外へ出て帝都の外へと向かう。

 

昨日書いた手紙を届けるためだ。

 

チョウリ様や孤児院宛にではなく切り札とも言えるあいつ宛にだ。あいつ宛には鳥型の危険種であるマーグファルコンで手紙を送る必要があるのだ。

 

2級危険種であるマーグファルコンであるが俺が手懐けたわけではなくあいつが手懐けられたやつを俺との連絡ように勝手に使っているのである。

 

バレたら俺も色々と困ることになるのだが……あいつなら大丈夫だろうという確信がある。戦闘能力には期待してないが。

 

それはともかくとして……。

 

「頼んだぞ」

 

マーグファルコンの足に手紙をくくりつけて、一撫でしたのちに空へと放す。

 

すぐにその姿は小さくなり、見えなくなった。

 

この休暇中に返事はまずないだろう。

 

なので、それを見越した上で動かなくてはならない。

 

チョウリ様宛の手紙は普通に送れるのでそれを生業としている人に任せればいいので、後はどうするか。

 

部下たちは休暇を思い思いに過ごしているだろう。殉死者がいないので遺族への報告などもないから俺も完全に休暇と言える。

 

友人に会いに行こうにも仕事の最中だろう。夜になったら家族との時間だし邪魔をするのも悪い。

 

こんな日は散歩にかぎるな。

 

馬鹿がいたら捕まえればいいし、帝都の治安状況をこの目で確かめておくのも悪くない。

 

あと、明日は大丈夫か聞きに行くことにしよう。

 

それに……久しぶり酒を飲みに行くのも悪くない。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。