憑依者がいく!   作:真夜中

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明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。


18話 潜み動くもの

ボルスが兵士を連れてランの援軍に向かってから数日。

 

その間にもナイトレイドによる暗殺があったがセリューは遭遇出来なかった。

 

俺の方も同じである。

 

それでも、リストに載っている標的はまだまだいるのでチャンスはまだ沢山残っている。

 

そう悲観することでもない。

 

セリューはむしろやる気に燃えている。心なしか警備隊の隊員たちも捕まえる相手や殺害する対象が極悪になので自分たちがやっていることが胸を張って正しいと言えるのが良かったのか、顔に自信が現れていた。

 

まあ、やる気があるのは良いことなので文句はない。

 

自分の仕事に自信を持って取り組めるそれが悪いことはないのだから。

 

「…………さて、どうするか」

 

俺は執務室の椅子に深く腰をかけ、目を瞑りながら革命軍にスパイとして潜入にしているあいつのことを考えていた。

 

陛下に仇なす考えを持っていた人物の暗殺をしたことにより革命軍の動きが少しばかり鈍くなったとの報告と同時にショウイ元内政官とその妻が革命軍によって保護されたとの報告があった。

 

ショウイ元内政官にはもしも本人にもう1度内政官をやる気があるのならオネスト大臣がいなくなった後に再び内政官として働いてもらいたいと思っているので、無事に保護されたとの報告は嬉しいものであったが、俺が考えていたのは別のことだ。

 

スパイであるあいつの所属している地方専門の暗殺チームが壊滅したらしい。

 

その報告はすでに革命軍に届き、近いうちにナイトレイドにも届くだろう。

 

自分が暗殺に行っている間に襲撃があり、潰滅したと書いていた。

 

幸い怪我などは無いようなので安心した本当に運が良かったようだ。

 

大臣を消すにはあいつの協力を得られないと始まらない計画があるのだから。

 

また、チームが潰滅したことにより一時的に革命軍の本部に所属するようだ。

 

そこで、ナイトレイドに増援が必要だと思わせることをやって欲しいとあった。

 

その増援としてナイトレイドに潜入するつもりらしい。

 

なので、こちら側に戻ってくるときはナイトレイドを利用するように書いておくとして……それまでは何をやらせておくか。

 

それが問題だ。

 

情報収集は基本として他には革命軍の主要メンバーと戦略を調べおいてもらおう。

 

革命軍がどのような戦略で来るかわかっていれば迎え撃つのは容易い。

 

何事もあらかじめ知り、それに備えていれば簡単に対応出来る。

 

「……送るか」

 

俺はあいつに向けての指示を書いた手紙を書き終えると、連絡用のマーグファルコンにくくりつけて飛ばす。

 

あまり上空を飛びすぎなければ帝都の空を守護する危険種に襲われることはない。

 

それに……俺が革命軍にスパイを送り込んでいることはすでにばらしているので、何処に手紙を出したのか聞かれても潜入させているスパイの元に送ったと答えるだけだ。

 

そろそろ賊の討伐に行くか。

 

俺はパルチザンを背負うと部下たちが集結している場所へと向かった。

 

 

 

 

帝都周辺の賊狩りを終えて帝都に戻ってくる。

 

賊狩りを終えてと言ったが、これは帝都周辺の賊の一部に過ぎず、狩るべき賊はまだまだ沢山残っているから本当の意味で終わりではない。

 

「……配置は済んでいるな」

 

帝都に戻ってきたからと言って今日やるべきことが終ったわけではない。

 

「ハッ! すでにセリュー・ユビキタスを含めた帝都警備隊隊員30名が配置についています」

 

「よし……深夜を過ぎて対象が現れなければ、餌さとして残しておいた輩を狩るぞ」

 

ナイトレイドを誘き出すための餌として処罰せずにいた文官や貴族らを始末するのだ。

 

ナイトレイドが来ればナイトレイドが始末をするだろう。仮に来なければ俺たちが始末をする。それだけの違いしかない。

 

ナイトレイドの構成員を捕らえてもエスデス将軍が帝都に帰ってきてからだと確実にナイトレイドの構成員を尋問するのはエスデス将軍になるだろう。

 

というか、自分からやらせろと言ってくる可能性が高い。

 

そうなったら確実に尋問の皮を被った拷問になったあげく飽きたら殺すだろう。

 

「はい!」

 

敬礼をすると去っていく警備隊隊員。

 

その後ろ姿を見送ってから俺は今持っている武器の確認をする。

 

投擲用短剣が4本、短剣が2本、そして……パルチザンが1つ。

 

パルチザン以外は安物なのですぐに壊れそうだが……何とかなるだろう。

 

確認を終えて、それらを装備すると俺は待ち伏せに向かった。

 

 

 

 

革命軍の本拠地。

 

そこの会議室には机の上にうつ伏せなっている1人の女性がいた。

 

普段から身に着けている赤いリボンの付いたヘッドホンを机の上に置かれ、舐め終わった棒つきキャンディーの棒も一緒に置かれている。

 

「新たに将軍が2人とその部下が加わり、ショウイ元内政官とその妻が革命軍に合流か」

 

身を起こして、ん~ッと伸びをすると彼女は新しい棒つきキャンディーを取り出して、その包みをとると口に含む。

 

「あの人は頼んだことは必ずやってくれるだろうし……後はいつものように行動して時が来るのを待つだけかな」

 

そんなことを口ずさみながら彼女は思い出していた。

 

自分が革命軍(ここ)にスパイとして潜入する切欠を作った人との出会いを……。

 

「……本当に遠くまで来ちゃったなあ」

 

彼女―――チェルシーは懐かしむように微笑を浮かべる。

 

太守を殺した時にスカウトされ、それから暗殺に必要な技術を教え込まれ、今に至るまでが本当にあっという間で……当時からは考えられないくらいの修羅場を潜り抜けた。

 

「全てが終わって2人とも無事に生きていたら俺の手でお前が願う望みを1つだけ叶えよう、か……たったそれだけの報酬のために働いてる私って端から見たらなんなんだろう?」

 

1人、クスクスと笑いながら何を叶えてもらおうかなと考える。

 

いつになるかわからないが考えるだけならタダだ。

 

捕らぬ狸の皮算用にならないように気をつけなきゃなと思いつつチェルシーは機嫌良さそうに立ち上がる。

 

「さ~て……無茶ぶりせずに安心と安全を心がけて頑張りますか!」

 

赤いリボンの付いたヘッドホンを頭に着けると、手鏡を取り出してヘッドホンの位置を調整する。

 

それから身だしなみを軽く整えてから手鏡をしまう。

 

「あなたの懐刀はちゃんと働いてますよ~と」

 

そんなことを口ずさみながら彼女は会議室から出ていった。

 

 

 

 

ザンクがランスロットの手により討たれたと公表された日。帝都から北の方にあるナイトレイドのアジトではザンクとの戦闘による怪我の治療を終えたタツミと他のナイトレイドのメンバーが会議室に揃っていた。

 

「あ~……やっぱりそうなってるかぁ」

 

レオーネがしょうがないかといった様子で言う。

 

ランスロットにザンクが討たれる。逆のことは絶対に起こりえないというのはナイトレイドに所属する全員が共通して認識していることだった。

 

特にタツミが目撃したランスロットによる一方的な展開。自らは攻撃する動作を見せずにザンクが自分からダメージを受ける話は全員に衝撃を与えた。誰もが予想出来なかった展開であったゆえに。

 

「もう……化物ってレベルじゃないだろ」

 

片手で頭をガリガリと掻きながらラバックはそう呟く。

 

「本当に人間なんでしょうか?」

 

「もう、新種の危険種でいいんじゃない? 超級の」

 

シェーレは顎に人差し指を当てて首をかしげながら、マインは天井に視線を向けながらそう言う。

 

そんな風に言っているメンバーを他所にアカメ、ブラート、ナジェンダの表情は優れなかった。

 

特にアカメとブラートはランスロットと正面からぶつかることが幾度かあり、もしザンクにやった技が自分たちにも使われた場合のことを考えると、とてもではないが軽口を叩けなかった。そんな凶悪な技にどう対処すべきかそこが問題である。

 

ナジェンダは革命軍の本拠地に行って至急戦力を増強すべきだと考えるが、すでにナイトレイドのメンバー自体が強力な戦力であることからそれも難しいと考えていた。

 

何かしらの切欠があればと思わずにはいられず小さく溜め息をこぼす。

 

周りがそんな状況の中タツミはランスロットのところにいるであろうサヨについて考えていた。

 

未だに会うことは出来てはいないが、向こうも俺に会いたいと思っているはずだと。

 

だが、サヨは記憶を失っておりタツミのことは愚か昔のことも覚えていない。

 

タツミはその事を知らずにいた。

 

「それよりも……タツミがナイトレイドのメンバーだってあの将軍にばれたんだろ。そうなると帝都に入り込んで情報収集が出来るのが俺とレオーネ姐さんとマインちゃんだけに戻っちまったわけだろ?」

 

せっかく少しは楽になったと思ったのにい~とぼやくラバックにアカメがしゅんとした様子で謝る。

 

「すまない。私が将軍の目の前に出たばかりに」

 

「いや、あれはしょうがないって。あそこでタツミを助けにいかなかったらあの将軍に連れていかれてたからね」

 

事実、あの場面ではアカメでなくてもタツミを助けにいっただろう。今回の件はたまたま顔ばれしているアカメがタツミを助けたからランスロットにタツミがナイトレイドのメンバーだとばれたのであって、運が悪かったしか言いようがない。

 

「なってしまったことはしょうがない。前と同じに戻っただけだ。それにあいつがタツミをナイトレイドの一員として手配する可能性は低い」

 

「え! そうなの?」

 

ナジェンダの言葉に何故かタツミよりも先にマインが反応した。

 

「ああ。理由としては幾つかあるが……1つはタツミが帝具を所持していない。後はタツミがアカメに連れられていくのを見ていたのがあいつだけだという点だ」

 

「なるほど。確かにあの化物将軍ならそうだろうね。もし、タツミをナイトレイドの一員として手配して一般人だったら大臣にみすみす隙を晒すことになるから」

 

「ラバックの言う通りだ。故に数日ほど様子を見てれば結果がわかるはずだ」

 

ナジェンダがそこまで言って言葉を切るとタツミが思い出したように言った。

 

「……あ、俺……将軍がザンクと戦ってる時にラバの名前言っちゃったんだ」

 

「おいぃぃぃぃぃ!? それはマジで洒落にならないからっ!」

 

若干泣きそうなラバックがタツミの服の襟元を掴んでガクガクと揺する。

 

「おいおい……何を慌ててんだ?」

 

ブラートがラバックの肩を軽く叩きながら落ち着けと諌める。

 

そこでナジェンダが思い出したようにポンと手を叩く。

 

「そう言えばラバックはランスロットの無茶ぶりに付き合ったことがあるんだったな」

 

「イイィィィィヤアァァァァァ!!」

 

これ以上言うなと言うように奇声を上げるとラバックはそのまま駆け出して会議室から出ていった。

 

…………無茶ぶりって何をやったんだ?

 

それが全員に共通した思いであった。ナジェンダも詳しいことは聞いたことがないので詳細は知らないのだ。

 

ただひとつ確定しているのは……それがトラウマになるような過酷なものであったのは言うまでもない。

 

 

 

 

「今日も……駄目か」

 

深夜の帝都でナイトレイドの標的になっているもしくはなっているであろう人物の住む家の近くで待ち伏せしていたが、時間が来てしまった。

 

「将軍……突入準備は出来ています。どうしますか?」

 

「……突入して身柄の確保だ……生死の有無は問わない」

 

「了解しました! 」

 

突入! と声を張り上げて兵士たちが裏で麻薬の密売をしていた商人の家へと侵入していく。

 

警備員として雇われた傭兵等が出て来るが、兵士たちの着ている鎧に刻まれた交差する剣の紋章を見ると途端に抵抗を止めるものと逃げ出すものに別れた。

 

その両者は共通してその紋章を持つ兵士が誰の手の者か理解しているようだ。

 

それは俺の部下たちである証。

 

これを見て逃げ出した者はほぼうしろ暗いことがあり、抵抗を止めたものは潔白もしくは諦めた者だ。

 

悪用などされないように鎧には特殊な金属を使用している。

 

故に1つ1つが特注品と変わらず、西に残してきた部下たちと古参の部下しか持っていない。

 

ランはいずれ政界に行くので必要ないのとボルスは帝具の関係上鎧が邪魔になるかもしれないからだ。

 

火炎放射気の帝具を使うボルスに鎧を着せたら、鎧が熱を持ち、内側が蒸し焼き状態もしくは肌が熱された鎧によって火傷する可能性がある。

 

それならば鎧なぞ最初からない方がいい。

 

身を守るためのもので負傷なんてするのは馬鹿らしいからだ。

 

「もうそろそろ……網にかかってもよいような気がするんだがな」

 

ナイトレイドが狙うような奴も少なくなってきたことだし……そろそろまみえることが出来る。そんな予感がしてる。

 

だが、予感がしているだけなので本当に会えるかはわからない。

 

予感はあくまで予感でしかない。期待せずに待つとしよう。

 

どうせ……いずれはぶつかることになるのだから。

 


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