憑依者がいく!   作:真夜中

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17話 網を張る

ザンクの件が片づき、対ナイトレイドに集中して動けるようになった。

 

革命軍の標的になっているボルスは参加させずにいる。

 

この先、絶対に戦うことになるのだ。あまり情報は与えない方がいいだろう。

 

せめてナイトレイドとの対決が本格化するまで戦わせないつもりだ。

 

その頃にはランも戻ってきていることだろう。

 

問題があるとすれば……エスデス将軍。

 

彼女が帝都に戻ってくる。それはすなわち……大臣が動き出すということだ。

 

エスデス将軍は大臣の頼みを嬉々として聞くだろう。

 

部下に帝具使い3人。その内の1人は元将軍。

 

実力は保証されている。

 

おそらく……ナイトレイドでなければ止めることすら不可能だ。

 

今のうちに手を打っておく必要がある。

 

特に大臣に真っ向から対抗出来る上に戻ってこられると困る人物。

 

彼らを狙うはすだ。なればこそ、護衛を増やすべきだ。

 

ちょうど今回の対ナイトレイドに出番のない帝具使いのボルスがいる。

 

彼に行ってもらおう……チョウリ様の護衛として。

 

帝都から離れた場所にするでいるので帝都にくる道すがら襲撃をかけることは容易く想像できる。

 

ランとボルスの2人がかりなら大丈夫なはずだ。

 

兵も数十人とつければ賊に襲われたとしても問題ない。

 

……ただ、帝具使いが襲ってくれば話は別だが。

 

「とりあえず……護衛が終わったら1週間ぐらいの休暇を出しておくか」

 

それぐらいはしないとボルスの家族に悪いだろう。

 

仕事であれば私情を挟まないのがボルスという男だ。

 

例え不満があろうともそれが仕事であれば必ず引き受ける。

 

これで、護衛の件はいいとして……ナイトレイドを捕らえるためには待ち伏せが1番早い。

 

帝都の地図を机の上に広げて、革命軍の標的となっている貴族、文官等が暮らしている家に印をつける。

 

「さて……何処に警備隊を配置するか」

 

ナイトレイドが現れなければ……標的となっている者たちを捕まえて、ナイトレイドの標的を少なくすることで待ち伏せが成功する確率を上げることもありだな。

 

警備隊隊員にはナイトレイドを発見し次第笛を吹き増援を呼ぶように命令を出しておけばいいだろう。

 

ナイトレイドと正面から戦えるのはセリューと俺しかいないのだから。

 

だとすると……ナイトレイドが全員揃っているときや複数で行動しているときに遭遇すると危ない。特にセリューが。

 

セリューは性格上悪に対して異様なまでの殺意を抱いている。

 

その理由は父を賊に殺され、その父の遺言である正義は悪に屈してはならないという言葉が原因だ思う。

 

ナイトレイドは暗殺集団。暗殺集団と聞くと大抵は悪い方に見られがちだ。いくら悪人を標的にしていようとも。

 

故にセリューが俺の言うことをちゃんと聞くか疑問だ。

 

2人いたら尋問するのは1人でいいですよね、と1人は殺しそうだ。それだと俺が困る。

 

ナイトレイドにはしばらく欠員を出すことなく帝都の害虫を少しでも多く消してもらわなければならないのだから。

 

こちら側ではどうしても潰せないような害虫もナイトレイドなら潰すことが出来る。

 

「…………やはり、諜報に特化した集団が欲しいな」

 

後の帝国のことを考えると暗殺集団よりも情報を集めて、治安を維持することが重要だ。

 

情報があれば国内の状況を把握しやすい上に他国のスパイ捕らえやすくなるだろう。

 

国から民の心が離れ始めている今……他国が宣戦布告をしてこないとも限らない。

 

現在は3方面に敵がいる。北の異民族に西の異民族、南の革命軍。

 

何れも一筋縄ではいかない。

 

これも……大臣の責任だ。

 

「……民の心を国に戻すための方法も考えてあるがそれも上手くいくかどうか」

 

こればかりはわからない。

 

安寧道の教祖とは1度話しておきたい。俺がやろうとしていることには彼の協力が必要だと考えているからだ。

 

 

 

 

帝都宮殿―――謁見の間。

 

「申し上げます。ナカキド将軍、ヘミ将軍。両将軍が離反、反乱軍に合流した模様です!!」

 

帝国軍兵士の報告に文官らがざわめく。

 

「戦上手のナカキド将軍が……」

 

「反乱軍が恐るべき勢力に育っているぞ……」

 

「早く手を打たねば帝国は……」

 

口々に不安を口する文官たち。そこに陛下が立ち上がる。

 

「うろたえるでないっ!!」

 

バッ、と腕を振るいマントをはためかせる。

 

「所詮は南端にある勢力……いつでも対応出来る!」

 

この回答は……大臣の入れ知恵か?

 

「反乱分子は集めるだけ集めて掃除した方が効率が良い!!」

 

ここまで力強く言い切ると陛下はくるっと体の向きを変えて大臣を見る。

 

「……で、良いのであろう大臣?」

 

「ヌフフ……さすがわ陛下。落ちついたモノでございます」

 

やはり、大臣の入れ知恵だったか。それでも、不安もなくおちついたものいいだったのは陛下の資質だろう。

 

「遠くの反乱軍より近くの賊。今の問題はこれに尽きます。ランスロット将軍」

 

「うむ……対ナイトレイドにはすでに動いている。同時に革命軍にはこちらのスパイを数年に渡り潜入させている。革命軍の中で特に陛下に対し害意を抱いている奴はすでに何人か暗殺した」

 

俺の言葉を聞いた文官が驚きの表情を浮かべた。

 

「すでに動いていたとは……」

 

「さすがとしか言い様がない……」

 

あらかじめ先手を打っておけば後が楽になる。

 

「ほう……将軍はもう動いてましたか。なら、北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻し、万全の体制を整えましょう」

 

エスデス将軍の名が出た途端に何人かの文官が焦った表情を浮かべる。

 

「て……帝都にはブドー大将軍、ランスロット将軍がおりましょう!」

 

「大将軍が賊狩りなど彼のプライドが許しないでしょうし、何よりもランスロット将軍は帝都警備隊の最高責任者も兼任してます」

 

エスデス将軍を帝都に呼び戻す口実に使われたか……。

 

「エスデスか……」

 

陛下が考えるようにその名を言う。

 

「彼女ならブドー、ランスロットと並ぶ英傑……安心だ! 異民族40万を生き埋め処刑した氷の女ですからな」

 

そんな物騒な女の何処に安心出来る要素があるんだか。

 

教えて欲しいくらいだ。

 

「将軍。生死は問いません! 1匹でも多く、賊を狩りだし始末するのです!!」

 

対ナイトレイドのついでに賊は排除しよう。

 

大臣に命令された感じてとても腹が立つが、それは我慢だ。

 

「もちろん……賊だけではなく帝都に住む犯罪者らも狩り出しましょう」

 

「うむ! ランスロット、裁量は任せる。民たちの安寧のために頼んだぞ」

 

「お任せください」

 

裁量を任されたこの機会を使わない手はない。

 

少し予定を繰り上げて、腐敗した貴族を狩らせてもらう。

 

 

 

 

「……と言うわけで、ボルスにはランの元に援軍として行ってほしい」

 

謁見の間での話とボルスにチョウリ様の護衛をしているランの援軍として派遣させてもらうことを伝える。

 

「はい。行かせてもらいます」

 

「助かる。ランだけでは対応出来ない可能性があるからな……帝都に戻ってきたら1週間の休暇だからその事も伝えておくといい」

 

「1週間もですか……」

 

「ああ、理由としては期間がどれぐらいになるのかわからないのと、道中に賊の襲撃がある可能性が高いからな」

 

帝都周辺の治安は多少改善されているがそれよりも外となると楽観視は出来ない。

 

各地を治める領主も大半が駄目な奴であるため賊が増えている。

 

しかも、滅多なことでは討伐に行かないからなおのこと賊が増長してしまっているのだ。

 

それらを狩るためにも大臣に真っ向から挑めるチョウリ様には無事に帝都に来てもらわなければならない。

 

そのための増援としてボルスを派遣するのだ。

 

「わかりました。出発はいつ頃ですか?」

 

「そうだな……家族に説明する時間も欲しいだろうから明日だな」

 

「了解しました」

 

「ああ」

 

失礼します、と言って退出するボルスを見送ってから俺は椅子に深く腰をかける。

 

次は……セリュー・ユビキタスだな。

 

言い方を間違えれば……命令違反を起こす可能性の高い……。

 

扱いにくいじゃじゃ馬と言ってもあながち間違いじゃないだろう。

 

ボルスが退出してから数分後にセリュー・ユビキタスがやって来た。

 

「失礼します、セリュー・ユビキタス&コロです」

 

帝都警備隊の制服姿でビシッと敬礼をするセリューとコロ。

 

「ザンクの件はご苦労だった」

 

「いえ、私は結局奴を裁けなかったので……」

 

「いや、実際にセリューがザンクの相手をしたことで犠牲者が減ったのだからそう悲観することもない」

 

「ありがとうございます!」

 

悪が絡まなければ良い人材なのだが……。帝都でも評判が良いし……これで完全にまともであったらと思わずにいられない。

 

「ザンクのことが片づいたから……対ナイトレイドに移る」

 

「はい。私に話が来たってことは私がナイトレイドを相手にするんですよね?」

 

確信しているがそれが間違いでないかを確認してくるような口調だ。

 

「その通りだ。前にも言ったと思うが他の構成員のことを吐かせる目的もあるので生け捕りだ」

 

「……2人以上いてもですか?」

 

「ああ。2人捕らえたのなら片方にはあまりやりたくないのだが……強力な自白剤を投与することになるだろう」

 

「なるほど……それで普通に吐かせた方が嘘をついてないか確認するんですね」

 

その通りだと俺はうなずく。やはり、悪を殺すという思考に囚われなければかなりまともだと判断出来る。

 

「取り調べが終われば……確実に処刑となるだろう。特に大臣がそうするはずだ」

 

「確か……遠縁のイヲカルがナイトレイドに殺されているんでしたよね」

 

「そうだ。予想でしかないが……大臣は公開処刑にするだろう。それもかなり残酷な……」

 

「悪には当然の報いですね」

 

笑顔でそう言いきる辺り歪みを感じる。

 

セリューが本気でそう思ってるのがよく理解出来る。これは価値観がすっかりと固まっているな。

 

「まあ、対ナイトレイドだけにかまけているわけにもいかない。それでだ……セリュー、お前は帝都に住む悪と帝都周辺の賊狩りどっちに行く?」

 

「……それは断罪しても構わないんですよね」

 

「構わない。裁量は俺に預けられている。このリストに載っている奴は全員殺しても問題ない」

 

俺はそう言いながら賊の拠点と帝都に住む腐敗した貴族、悪徳商人、薬の密売組織の拠点の載ったリストを机の上に置く。

 

「これ全部ですか?」

 

「ああ。この中から選んでくれ。これは一応、ナイトレイドの標的になり得る輩のリストでもあるからな」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだ。ナイトレイドは殺し屋集団であり、主にこのリストに載るような輩の暗殺をしている」

 

今のところナイトレイドが良識のある文官を暗殺したとの話は聞いていない。

 

ナイトレイドに対する敵愾心を抱かせるための報道が流されるもそれが大臣からのものだと民は全く信じないので、民からのナイトレイドに対する心象は悪くないのが現状だ。

 

「全部の悪に裁きを下せないのが歯痒いです」

 

ギリリ、と歯軋りをするほど悔しそうにするセリュー。それに触発されたのかコロもウ~と唸っている。

 

「そう悔しがる必要はない。ナイトレイドの構成員を捕縛したらこいつらは一気に片づける」

 

「本当ですか!」

 

「嘘を吐いてどうする? 出来るだけ早めに片付けた方が民のためになるだろ」

 

「そうですよね! そうと決まれば……私はこれをやります!」

 

意気揚々とそう言いながらセリューが手に取ったのは……帝都の艷町で違法薬物を販売している組織の拠点だった。

 

「わかった。警備隊の隊員を30名連れていけ。拠点を制圧後は拠点にあった物のリストを作り、提出してくれ。それらは公共事業のための資金に使われる」

 

「了解です! セリュー・ユビキタス。早速、悪を断罪しに行ってきます!」

 

ビシッとコロと一緒に敬礼するとセリューは急ぐようにして退出していった。

 

「……ふぅ」

なんとか、セリューがナイトレイドの構成員を殺さないように誘導出来た。

 

それも今回だけだと思うがそれで十分だ。

 

ナイトレイドには帝都に巣くう害虫を出来るだけ始末してもらう。特にこちらが捕らえにくいのを始末してくれれば万々歳。

 

そうでなくても暗殺をしてくれるだけでこちらが他のことに手を伸ばす余裕が出来るので大助かりだ。

 

帝具使い同士が殺意を持ってぶつかれば片方が死ぬ、相討ちはあれど両者生存はあり得ないとされている。

 

それだけの性能が帝具にはある。それを無視して両者を生存させるには殺意を持ってぶつからないかもしくはどちらかが圧倒的に強いかのどちらかだ。

 

「さて……ナイトレイドを捕捉するまでどれぐらいの時間がかかるか」

 

標的が少なくなるにつれてナイトレイドの構成員が集団で動くようになってしまう。出来ることならなるべく人数が少ない状態のうちに捕捉しておきたい。

 

1人、2人ならば問題ないが……3人、4人となったら逃走される可能性が極めて高くなる。

 

そうなるとセリューが殺られる可能性も高くなる。特にブラートと出会ったらまず勝ち目はないだろう。

 

判明しているナイトレイドのメンバーの中で正面からの戦いで一番強いのはブラートで間違いないのだから。

 


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