憑依者がいく!   作:真夜中

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16話 狩りにいく

首斬りザンクの捜索を開始してすでに2週間が経とうとしている。

 

今のところナイトレイドの目撃は無いがナイトレイドと思わしき暗殺は起きており、いつザンクを標的にするかわからないのが現状だ。

 

この2週間の間に犠牲者は何人か出ている。警備隊だけではなく地方から帝都に来た人たちもである。

 

その原因は地方から来た人たちがザンクについて知らないのと宿を取れなかったことが原因であると見ている。被害に遭った地方から来た人たちの死体が見つかる場所が帝都の中でも比較的に宿に泊まれなかった人間が野宿をする光景が見れる場所だったからだ。

「……ふぅ」

 

最近は寝不足になってきたのでほんの些細なことでさえ苛立つことが多くなってきた。

 

これではいけないとわかっているのだが……どうにも抑えきれない。

 

全く……情けない。

 

お陰で報告に来た部下たちがビクビクと怯えてしまった。

 

後で謝罪しなくてはな。

 

セリューは1度ザンクと交戦したそうだが……逃げられている。

 

どうにも奴の帝具の力によってヘカトンケイル―――セリューはコロと呼んでいる―――の動きが見切られて必殺の一撃が当たらなかったらしい。

 

トンファーに仕込んである銃による射撃も初めからそこを撃たれるのがわかっているかのように避けたと報告があった。

 

これは未来視の力だろう。

 

となると……ザンクを殺すには圧倒的な格上が一番だろう。エスデス将軍やブドー大将軍のような。

 

さすがにザンクも実力差がわかるだろうからこの2人のことは避けるはずだ。

 

無手でいけば俺を狙うだろうか? 武器を持った状態でなら強いと知られているはずだし、今さらだが試す価値はあるかもしれない。

 

引っかからなけれ引っかからないでその時はその時だ。

 

それに……下手に援軍を呼ぶとザンクは帝都から逃げ出して別の街にいく可能性が高くなる。

 

そうなるとさらに被害が広がってしまう。

 

ランがいれば多少楽になるのだが……。

 

主に書類の作成や報告書の確認が。

 

ボルスには部下たちの訓練を任せているのでこれ以上は任せられない。訓練といってもそれにかかる備品等の金額を書類として提出してもらったりしているからだ。

 

特に備品は毎日の消費しているのでこまめに調達しておかないと無くなって足りなくなってしまうこともある。

 

「……半分か……殺った方だな」

 

革命軍の中に存在する陛下に危害を加えることを考えている輩を始末するように命令を下したアイツから手紙が届いた。

 

「予想よりも多く始末出来ている」

 

せいぜい……3分の1ぐらいが限界かと思っていたのだが……どうやら革命軍側も動きの遅いやつはいるようだ。

 

「……ただ、これ以上は危険か」

 

俺ではなく革命軍に潜入しているアイツがだ。

 

とりあえず、暗殺は止めて情報収集に力を入れておくように命令を出しておこう。

 

無理をされて死なれたら困る。

 

それに……。

 

「クロメの方も無事に終わったようだしな」

 

クロメに頼んでおいたことはクロメがちゃんと達成してくれたので問題はない。

 

後は俺か……。

 

大臣からザンクが帝具を持っていることから早く回収するようにせっつかれている。

 

革命軍側に帝具が多く渡ってしまうと後が大変になるのは目に見えてわかるので、例え大臣の手に渡ろうとも回収する必要があるのは明白だ。

 

48しか存在しない超兵器。

 

ナイトレイドは今のところ判明してるメンバー全員が帝具持ち。判明してないメンバーも帝具を持っていると考えられる。

 

下手をするとナイトレイドのメンバーが増える可能性がある。それも、帝具持ちがだ。

 

そうなってしまえば、一般兵にかなりの被害が予想される。

 

そうならないように集めなくてはならない。

 

「……ものは試しでやってみるか」

 

ザンクが引っかかるかわからないがやってみなければわかるまい。

 

俺はザンクがどうすれば俺の目の前に現れるかを考えて、その時にふと浮かんだことを実行することにしたのだった。

 

 

 

 

深夜の帝都。

 

「…………ようやくか」

 

ザンクを探して帝都の路地を歩いているとガキン! と金属同士のぶつかる音が聞こえてきた。

 

誰かが戦っている。

 

外出禁止令のこともあるので戦っているのは帝都の住人ではないだろう。

 

早めにいかないとザンクに逃亡されてしまうかもしれない。

 

ようやく近くに来たのだ逃がすわけにはいかない。

 

「……これで外出禁止令を解除出来そうだ」

 

1週間を過ぎた辺りから不満の声が出始めていたので、ようやくそれを解消できると思うと足取りが軽くなる。

 

ガキン! ガキン! と徐々に大きくなっていく金属音。

 

そして、ついに見つけた。

 

両手に剣を装着した男と以前に1度だけ会ったあの才能の塊の少年を。

 

両手に剣を装着した男がこっちに気がつくと同時に少年の方も俺に気がついたようだ。

 

「おやおや……とんだ大物が来たようだ」

 

「あ! あの時の無茶苦茶強い軍人のお兄さん!」

 

ザンクはニタリと笑い、少年の方は斬られた傷口を押さえている。

 

「ようやく、見つけたぞ……ザンク。そして、少年は久しぶりだな」

 

少年がちゃんと生きていてくれたのは嬉しいが……その前にザンクを殺らなくてはな。

 

「くくく……俺を殺るつもりか? 武器を持ってないのに」

 

「……透視か」

 

「ご名答。さすがにスペクテッドの能力を知っているだけはある」

 

俺が喋らなくても心を読まれればそれだけで会話が出来そうだな。

 

「この状況でそんなことを考える余裕があるとは……俺もなめられたものだ」

 

「武器があろうとなかろうと俺がすることは変わらないからな」

 

ザンクを殺して……帝具を回収すること。ただそれだけだ。

 

 

 

 

「な、何が起こったんだ……?」

 

少年は目の前で起こった出来事に対して唖然とした様子でそう呟いた。

 

首斬りザンクが武器を持たずにただ立っている俺を斬ろうとして駆け出した瞬間……()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「……これはザンクぐらいにしか使えそうにないな」

 

自分からダメージを負うような無茶な倒れかたをしたザンクを見ながらそう呟く。

 

だが、そうしなければザンクは死んでいた。

 

「な、何なんだよ……これ……」

 

目の前で起きている出来事が信じられないのか少年は地面に座り込んだままだ。

 

俺は倒れているザンクにそれなりの速さで近づくとザンクは自分から自分の体を痛めつけるように無茶な回避行動をとる。

 

「ぐぉおぉぉぉ……」

 

そんなことを数回続けると俺が直接触れることなくザンクはボロボロになっていた。

 

そして、少年にもわかるようにゆっくりとザンクに向けて無造作に手を伸ばすと、それから逃れるように起き上がったザンクは俺の手から逃げるように頭から生垣に突っ込んだ。

 

「ふむ……中々にしぶといな。帝具がなければすぐに終わっていたんだが」

 

「……化物め」

 

苦々しげにそう言うザンク。

 

―――未来視。

 

帝具"スペクテッド"の持つ能力の1つである。

 

それは筋肉の機微で相手の行動を視るというものだ。

 

ザンクはそれにより視ているのだろう。自分が俺に体の一部を掴まれた次の瞬間に殺されるのを。

 

掴まった途端に殺しにかかる容赦のない必殺の一撃となる動きを。

 

だからこそザンクは自分の意思で頭から生垣に突っ込んだり、背中から勢いよく地面に倒れたりしたのだ。

 

ズルズルと後ずさるザンク。

 

ザンクはどうすれば俺から逃走できるかを必死に考えていることだろう。目が完全に逃走手段を考える賊と一緒だ。

 

「……これが、ラバックが化物将軍って言った理由かよ」

 

怯えるザンクを見ている少年の口から自然とその言葉が紡がれるのが見えた。

 

ラバックか……その名前は一応覚えておこう。

 

必死に逃走するための算段をつけようとするザンクに近づく。

 

1歩近づくと1歩下がる。

 

「タツミ、無事か」

 

「アカメ!」

 

少年の側にアカメが駆けつけた。となると……少年はナイトレイドか。

 

タツミということはサヨの同郷の人物であり、イエヤスの友か。

 

ザンクの方に集中しているうちにタツミの元にやって来たアカメは身体のあちらこちらに斬り傷があるタツミを見て一瞬心配そうな表情を見せるも、すぐにそれを取り払い逃走するための動作に入った。

 

「走れるか?」

 

「あ、ああ」

 

「なら……すぐに逃げるぞ」

 

「……な!? いいのか?」

 

コクりとうなずくアカメ。その視線の先に俺と何とか俺から逃げ出そうとするザンクの姿が映っていた。

 

「このままでは私たちまで捕まってしまう」

 

「……わかった」

 

そして、アカメの後に続きタツミは駆け出した。

 

「行ったか」

 

「……追いかけなくていいのか? あれはナイトレイド、捕まえる標的なのだろう?」

 

「そう言ってお前は逃げるつもりなのだろう」

 

ザンクはここで……始末する。

 

「……当ぜ……ん……っ」

 

ザンクが喋っている途中でザンクが反応しきれない速度で近づき、その首をねじ切る。

 

ブチブチッ……と力任せに肉を引き千切る音がする。

 

「済まないが……さよならだ」

 

ザンクの首のない身体が倒れる。

 

そして、俺の手には……ねじ切られたザンクの頭。

 

アカメが少年を連れて撤退したので本気で決めにいったのだ。

 

ザンクは反応出来ずに逝ったが……それもしょうがない。

 

「だが……まあ、これでザンクの件は片づいたな」

 

それにしても……意外とショックを受けていたんだなと思う。

 

「…………はぁ」

 

残念だ。見所のある少年だっただけに……。

 

サヨのこともあるからなおさらそう思う。

 

多分、同郷だと思われる2人を殺し合わせる羽目になったのだから。

 

直接ぶつかり合うのは当分先だろうが……いずれその時は必ずやって来る。最も少年がその時まで生きていたらの話だが……それも

 

ザンクの頭から帝具"スペクテッド"を回収すると、その頭を身体の側に置く。

 

「戻るか……この後は警備隊にザンクの死亡を知らせて、夜間外出禁止令の解除をしなければな」

 

帝具は明日、陛下の元に持っていこう。

 

適合する者が現れるまでスペクテッドは帝具専用の保管庫に保管されるはずだ。

 

心を読むことが出来るから尋問がものすごくはかどるだろうな。

 

拷問官が尋問のときには完全に不要になるだろう。

 

拷問なんてのは正常な人間にやらせるようなものではない。処刑人もだ。

 

確実に精神を病む。ただでさえ兵士になり命のやり取りをするだけでも多大な影響がある。

 

考えによってはザンクも被害者か……。

 

 

 

 

「……どうぞ、これがザンクの所持していた帝具、五視万能"スペクテッド"です」

 

スペクテッドを入れていた箱の蓋を開き、中にあるスペクテッドを陛下に見せる。

 

「ご苦労、ランスロット将軍。これで民も安心出来るだろう。大臣……この帝具はどうする?」

 

「はい、陛下。もちろん考えてます。軍に適合者がいるかを検査します。それで適合者がいないようであれば保管庫に入れておきます」

 

今回は食べていないなもし、飲み食いしていたらもう一度殺気を叩きつけてやろうと思っていたのだが。

 

「大義であるぞ。将軍は今後対ナイトレイドに力をいれるのだろう。何か必要なものはあるか?」

 

「そうですね……ナイトレイドのメンバーは判明しているほとんどが帝具を所持してます。目には目を歯には歯を帝具使いには帝具使いをということで帝具使いを援軍に欲しいですね」

 

どうせ無理なのはわかっている。大臣からしたら俺が力をつけるのは面白くないだろう。

 

「ふむ、そうか……大臣、誰か動かせないか?」

 

「ううーん……そうですねぇ」

 

アゴヒゲを擦りながら考える動作をする大臣。

 

思案顔をしながらもその目は明らかに、俺に対して帝具使いを回す気はないと物語っていた。

 

だったら、そんな悩んでますよという演技を止めてもらいたい。時間は貴重なのだ。こんなことで無駄にしたくない。

 

「時期的に厳しいですね。北の異民族制圧に行っているエスデス将軍が帝都に戻っていたら話は違っていたんですが……」

 

なるほど……エスデス将軍は何処にも属してないがどちらかと言えば大臣側。お互いに利用しあう関係。それを利用してエスデス将軍から俺の動きを探ろうとしたのだろう。

 

何か弱味を見つければそこを突いて俺の戦力を減らせるようにと。

 

武力で勝っているだけではいつ状況をひっくり返されてもおかしくはない。大臣は政治という面では完全に俺を越えているのだから。

 

お互いの土俵であれば勝つことが決まっている。問題はどうやって自分の土俵に連れ込むかだ。

 

チョウリ様が大臣の対抗馬として帝都に来られれば政治の面では何とかなる。

 

そうなるとエスデス将軍との対立は避けられない。それも大臣側と良識派側の最強戦力として……。

 

帝国最強の帝具使い。俺がいなければ帝国最強であったらしい。

 

「そうらしいが……何か他にあるか? 可能な限り叶えよう」

 

「………いえ、気にしないでください。試しに言っただけですので」

 

「む……そうか。それならばよいのだか……」

 

本当に試しに言っただけなのだ。要望が通ったら運が良かった程度の……。

 

「ええ」

 

それから、帝都の現状報告が行われた。

 

もちろん……大臣の都合の良いように改編された報告であるが。

 

やはり……政治の舞台で大臣と対等以上に渡り合える人物が必要だとつくづく感じる。

 

政治の面でも大臣にプレッシャーを与えることが出来れば……そう考えられずにはいられなかった。


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