憑依者がいく!   作:真夜中

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15話 夜をいく

「……イヲカルが死んだか」

 

昨日に殺害されたらしく、死因は狙撃。

 

また、護衛に雇われていた傭兵も全員死亡。その中の1人は皇拳寺で師範代を勤めたこともある男だそうだ。

 

今日上げられた報告書をまとめてファイルに入れる。

 

大臣の遠縁にあたるイヲカルが殺されたことで大臣が動く可能性が出てきた。

 

どうするか……。

 

「失礼します」

 

イヲカルが殺されたことによりイヲカルを囮とした作戦が使えなくなったので代わりを考えているとサヨがやって来た。

 

「どうしたんだ?」

 

帝国軍の軍服に身を包み、背には骨で造られた弓を背負っている。

 

「はい。ドクターが「アタシの仕事はここまでよ。後は将軍に任せるわ」って」

 

と言うことはサヨの慣らしは終わったのか。

 

「わかった。見たところその弓が武器みたいだが」

 

「はい。ドクターが超級危険種タイラントの骨を削って造りました。弦はタイラントの筋繊維を使ってます。」

 

後は、とサヨは続けると背負っている弓を手に持ち、弦を外し、弓の真ん中部分を両手で握る。

 

すると弓が真ん中から2つに分かれて大きめの双剣のようになった。

 

「ほう……それなら接近戦でも使えるな」

 

「他にも……こんな風になります」

 

さらに柄の部分が動き、トンファーのようになった。

 

このようなギミックを思いつき実装するとは……。

 

ドクターはやはり凄い人物だ。……オカマであるが。

 

それが非常に残念でならない。

 

「住む場所についてだが……」

 

「あ、それならこの前決まりました。宮殿内の案内をしてもらっているときにボルスさんと奥さん、娘さんに会って。近場にちょうど空き家があるそうなのでそこになりました」

 

なんだ決まっていたのか。

 

「なら、生活については問題ないな」

 

「はい! 夕食に誘っていただいてますし。それに……その時に料理も教えてもらってますから」

 

俺の知らないところで色々進んでいたようだ。

 

オーガのことやショウイ内政官、警備隊のこともあったから気を利かしてくれたのだろう。

 

「そうか。それは何よりだ」

 

 

 

 

それからサヨを連れて俺は練兵場にやって来た。

 

弓の扱いについてはかなりのものらしく走りながらも的に当てられる腕前だ。

 

「……なかなか上手いな」

 

走りながらも体勢は崩さずにしっかりと的を見据えている。

 

サヨの腕を見るためにやらせてみたが思ったよりもずっと上だった。

 

これは嬉しい誤算だ。銃が主体となっている帝国で弓の扱いが上手いのは貴重だ。

 

「どうでしたか?」

 

息を切らせることなく戻ってきたサヨが感想を聞いてきた。

 

「ああ、思ったよりもずっと上手だったから驚いたぞ」

 

「そうですか」

 

ほっとした様子のサヨ。

 

意外と心配していたようだ。動かないとはいえ走りながらも的の真ん中に的中させる。これなら十分に誇っていいレベルなのにな。

 

「嘘は言わない」

 

嘘をついたせいで自惚れて足を掬われる事態になったら目も当てられないからだ。

 

「それと……その弓をすぐに分離させることは出来るか?」

 

「もちろんです。そこはドクターやトビーさんに言われて練習して、実戦形式の模擬戦で合格をもらいました。ドクター曰く「これぐらいのことはスタイリッシュなオトコのタシナミ」だそうです」

 

「……そうか」

 

今サヨが言った台詞を言いながらドクターがドクター的にスタイリッシュなポーズをとっている姿が軽く想像出来た。

 

あまり深く考えるのは止めよう。頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

 

それからサヨと簡単に模擬戦をしてから俺は宮殿内の執務室にやって来た。

 

サヨは他の兵士たちと一緒に訓練を受けている。

 

「将軍! 大変です!」

 

「どうした?」

 

部屋の扉をノックすることなく帝都警備隊の隊服を着た男が焦った様子で部屋に駆け込んできた。

 

額からはびっしょりと汗を流し、息も絶え絶えである。

 

「ザ、ザンク……首斬りザンクの目撃証言がありました! 更に警備隊隊員からも犠牲者が……」

 

「わかった。警備隊隊員全員に通達しろ。夜のパトロールは10人体制に変更……更に全員に笛を携帯させろ。もし、ザンクに遭遇してしまった場合はすぐに笛を吹け。生き残ることを優先しろ……ザンクに遭遇したら逃げろ。あいつは俺が直接相手をする」

 

「は、はい! しょ、将軍が直々にてすか……?」

 

「……ああ。ザンクは帝具使いだ。ならば、同じ帝具使いか俺が直接相手をした方がいい」

 

大臣お抱えの皇拳寺羅刹四鬼のような腕利きならいざ知らず。ただの警備隊隊員や兵士にはザンクの相手は荷が重すぎる。

 

ボルスは帝具の関係上ザンクの相手には回せない。

 

広範囲殲滅ならいざ知らず……対人しかも帝都の中で使うのであれば家屋に被害が出る。

 

「了解しました!」

 

バッと身を翻すと警備隊隊員の男は駆け足で去っていった。

 

「これは一時中断だな」

 

ナイトレイドを捕まえるために動くのはザンクのことを片づけてからか……。

 

早めに片づけないと計画に支障が出る。

 

たかが殺人帝具使いに時間を割くのが惜しいのだ。

 

「……夜間の外出禁止令を出さないとな」

 

帝都に住む市民の安全を考えると出すべきだ。期限は首斬りザンクの死もしくは捕縛。

 

だが、ザンクの捕縛はやらないつもりだ。

 

すでに幾人もの犠牲者を出している凶悪犯。

 

ナイトレイドの様な暗殺集団ではなく個人での凶悪犯であるため捕縛するメリットがない。

 

「……それは部下たちに任せるとして」

 

広い帝都全域でたった1人を探すとなると、とても難しい。

 

これは長期戦になることも考えなければならない。だが、そうなると各所に様々な悪影響が出る。

 

となると……囮を使い誘い出すのが1番だろう。

 

そして、誰を囮にするかが問題だ。

 

下手をするとその囮がザンクに殺されかねない。

 

……仮に俺が囮役をやったとしてもザンクが引っ掛かるかは微妙だ。

 

奴の使う帝具は五視万能"スペクテッド"は洞視、遠視、透視、未来視、幻視の力を持つ。

 

そのため並の奴ではザンクに殺られてしまう。

 

だが、帝具を持っている凶悪犯であるためナイトレイドがザンクを討つために動く可能性がある。

 

革命軍からしたら帝具という強力な兵器は欲しいはずだ。

 

あればあるほど自軍が強化されるのだから。

 

「……場合によってはその場で鉢合わせの可能性もあるか」

 

そうなったらなったで面倒である。

 

まあ、考えても仕方がない。

 

現在優先すべきはザンクであり、ナイトレイドではない。ナイトレイドは後だ。

 

ザンクの件が片づけないと本格的に動けない。

 

いっそのことクロメを呼ぶか? そんな考えが浮かぶ。

 

……いや……止めよう。

 

ザンクがクロメを標的にするとは限らない。

 

仮に狙ったとしたらクロメが見ることになる幻はアカメになるはずだ。

 

そして、油断していると思い込んだザンクはクロメに殺されるだろう。

 

だが、それにはザンクが幻視をクロメに使うことが前提となる。もし、ザンクが逃走を選択したら一般人に成り済まして逃げるはずだ。

 

「……警備隊隊員だとセリューしかザンクの相手を出来ないだろうし」

 

セリューの生物型の帝具にザンクの持つスペクテッドの力がどれだけ反映されるかは未知数。

 

そこが勝負の分かれ目となるだろう。

 

仮にヘカトンケイルにスペクテッドの幻視が効果あった場合……その時の動揺した隙を突かれてしまう可能性がある。

 

だが、俺の権限で動かせる帝具使いはチョウリ様の護衛として派遣しているランを除けばボルスとセリューのみ。

 

ボルスはルビカンテの能力的に周りの被害が大きくなるので却下するしかなく、そうなると警備隊隊員のセリューしかいなくなってしまう。

 

ブドー大将軍がいるから宮殿内は問題なく、その周囲は近衛兵が固めている。

 

俺は地図をテーブルの上に引き、ザンクの目撃証言のあった場所と被害者の出た場所に標を付けていく。

 

帝都は広く、いちいち場所を変えるのは大変だ。

 

ザンクの被害が出た日も記入してザンクの行動範囲を確認する。

 

「……なるほどな」

 

移動しているがその先はある程度予想できるものであり、網を張ることは可能であると感じた。

 

俺は一旦部屋から出ると伝令のいるところに向かいこう言った。

 

「帝都警備隊隊員のセリュー・ユビキタスを呼べ」

 

 

 

 

「帝都警備隊所属セリュー・ユビキタス到着しました!」

 

部屋の扉を開けるとその外でビシッ! 敬礼をしながらセリューはそう言った。

 

その足元では彼女の帝具であるヘカトンケイルも同じように敬礼をしている。

 

その事から生物型の帝具はある程度自我というものがあるのかもしれないと思った。

 

「入ってくれ」

 

「失礼します」

 

きびきびとした動きでセリューが入室する。

 

「今回呼び出したのは他でもない……首斬りザンクについてだ」

 

「それって……」

 

「ああ。すでに聞いているだろうが……ザンクの目撃証言があり、さらには警備隊隊員が殺害されているのもあり帝都にザンクがいるのが確定している」

 

「それなら早く正義を執行しないと!」

 

今にでもザンクを探しに行きそうなセリュー。これは同じ立場であったら確実にザンクを探しに行っていただろう。

 

そんな確信が持てた。

 

「そう逸るな。先ずはこれを見てくれ」

 

俺はテーブルに広げている地図を指差す。

 

「これは……帝都の地図ですか」

 

「そうだ。そして、標が付いている場所がザンクの犯行現場、目撃証言のあった場所だ」

 

「……確実に移動してますね」

 

「ああ……そして、その移動距離から考えられる次に起こるであろう犯行現場は……この範囲内の何処かであると予想している」

 

俺は次に犯行が起こるであろう範囲を指定する。

 

「なるほど……」

 

「そして、セリュー。お前を呼んだのは他でもない」

 

セリューは自分が呼ばれた理由が確信に変わったのか、とても生き生きとしたやる気に満ちた表情となった。

 

「首斬りザンクを見つけ次第殺せ。奴は死刑だ」

 

「はい! セリュー・ユビキタス! 持てる力の限りを尽くして必ず悪を裁きます」

 

覇気に満ちた声で高らかと宣言するセリュー。

 

「基本的に深夜の時間帯になるから昼間は当分は休みとなる」

 

「了解です」

 

「俺もザンクの討伐に行くが……帝都は広い。そして、まともにザンクと単身でやりあえるのが俺とセリュー……お前しかいないから負担は大きいと思うがよろしく頼むぞ」

 

「おまかせください。悪に正義を執行します」

 

心底嬉しそうな顔でセリューはこの件を了承した。

 

 

 

 

―――深夜。

 

外出禁止令を出したことで、いつも以上の静寂に包まれた帝都。

 

警備隊の隊員は10人で1組としてザンクを捜索しており、セリューに関しては俺と同じで単独でザンクを捜索していた。

 

セリューや警備隊隊員たち全員にはザンクについての情報はあらかた教えてある。

 

わかっていても防げる類いのものではないが、あらかじめ知っておけば些細な違和感を感じることも出来るだろう。

 

それで笛を吹いてくれればすぐにそこに向かうことが出来る。

 

位置によってはすぐに駆けつけられるだろう。離れていたらザンクに逃走される確率が高いが……。

 

「……まあ、遠視の力で俺だけでなくセリューや警備隊隊員たち全員の動向を把握しているだろうから素直に出てくるか疑問だが」

 

もしかしたら遠視の力で虎視眈々と隙を伺っているかもしれない。

 

かなり長くなりそうだな。

 

俺はそんな予感を感じながら深夜の帝都を歩くのだった。

 

 

 

 

―――同時刻。

 

帝都の刑務所では1人の囚人と1人の白衣を纏った科学者のような者が面会していた。

 

「その話を受ければ俺は外に出られるのか?」

 

「ええ、もちろん。その代わりにこの条件なんだけどね」

 

白衣を纏った科学者のような男は契約書を囚人の男に見せる。

 

その契約書を睨むように見つめる囚人ではあるが……やがて、その契約書にサインをした。

 

「フフフ……これで、あなたは刑務所生活からオサラバよ」

 

囚人が契約書にサインをしたのを見届けると科学者のような男はパチンとウィンクをする。

 

「……そうだな、これでおさらばだ」

 

ウィンクする科学者のような男のことを無視する囚人。

 

「んもう! 無視は駄目よ」

 

「……ああ、わかった」

 

囚人は少しの間考えるとうなずいた。

 

ここで下手なことを言って牢の中に戻されるのが嫌だったからだ。

 

「それでいいのよ。それじゃ、行きましょ―――()()()()()()()()()()()

 

「ああ、世話になるぜ―――ドクター」

 

オーガはどす黒く染まった瞳のまま答えた。

 

その瞳には自分を刑務所(こんな場所)に入れる原因を作った男に対する憎悪が溢れている。

 

元帝都警備隊隊長オーガはDr.スタイリッシュと契約を交わし外の世界に戻ってきた。

 

―――必ず殺してやる!

 

その殺意を胸に秘めたオーガ。そんな彼の復讐対象にはランスロットだけではなくかつての部下であり、捕まる時に殺そうとしてきたセリュー・ユビキタスにも向けられていた。

 

 


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