邪神がいない世界のプレシア・テスタロッサは激怒した。
この暴虐非道の邪神に辱められた上に計画をまるっと潰された事に激怒した。
たった一人の娘を救うための手段を目の前の邪神に潰されたのだ。神を語る輩などろくなものではない。
うんうん。と、クロノと一部の守護騎士を始めとした邪神関係者達は頷いていた。
俺、そんなにろくでなしなの?
邪神の視線に乗せられた想いにその場にいた九割が頷いていた。
王ちゃま一味。聖王と覇王の末裔は苦笑いしている。
邪神が手を下した時点で何かしらの負担を背負う運命。
邪神に助けを乞えば、好意を持つ。
邪神に敵意を剝ければ予想外の報復に会い、忌避感を覚える。
邪神と交友を持てば、未来から自分の娘(やらかし)がやってきて恥辱を受ける。
「まさしく、触らぬ神に祟りなし!ですね!」
「…理解したくないものね。これが邪神という奴か」
未来からやって来たというアミタが元気よく邪神の評価を発表した。
キリエは泣きたかった。だが、涙は出ない。先ほどの騒動で余計な水分をうしなったから。
「とにかくっ、だ!これで終わりだな!?終わりだろ!休暇置いてけ!」
妖怪休暇置いてけになりつつあるクロノが別時空のプレシアを捕縛しながら、息を荒げる。
なにせ、彼はこの管理外世界。地球にやってきてろくに休めていない。
いや、邪神の手によって彼等の拠点である時空航行艦アースラから間借りしているマンション。今現在装備しているデバイスにまで邪神の御業で回復効果が施されているので休めている。はずなのだが、
『ちょっ~とっ、クロノ君がお疲れだから裕君、あまりはしゃがないでね』
遠距離通信からエイミィが邪神を名指しで諫める。
クロノはこの騒動が無ければ、年越しをマンションで過ごした後、久しぶりに取った連休で昼まで何も考えずに寝て過ごそうとしていた。が、そこに邪神がやらかした。という知らせを聞いた時点で臓腑に収まっていた空気を口から一気に吐き出した。
邪神が施した回復効果が無ければ今頃、胃潰瘍か若年性脱毛症に悩んでいただろう。
「これで終わりだな?!終わりと言ってくれ!そうなんだろう、ザフィーラァアアっ!」
八神はやての守護騎士。その慌てようで盾たる守護獣。唯一落ち着いている。頼りになる男性に縋りつく烈火の将。彼女も本当なら邪神に関わらず八神邸でゆっくり過ごしたかった。
だが、彼女は年越しに邪神とデートがしたいというではないか。
シグナムは絶望した。万が一。万が一にだ。主と邪神がいい仲に。結ばれるようなことになってしまってはこれから先、邪神の加護とシャマルの介護を受けても押しつぶされる未来しか見えない。
「よしっ、もう終わりですね。帰りましょう。そうしましょう。え、まだ何て言いませんよね?」
「まだだぞ」(無慈悲)
「だとしたらこれは夢だ。私は今頃、主はやての家でおせちとやらをつついた後、炬燵でぬくぬくしてみている夢なんだ。…いやな、初夢だなぁ」
それはリィンフォースも同様だった。彼女は頼りになる同性でシグナムに次いでの実力者であるヴィータを盾にするようにして泣きついていた。彼女はシグナム同様、邪神によって弄ばれた存在だから。
「…精神分析」
「待って。ザフィーラ。それは私の役目だから。その拳を下げて。それをやったらシグナムのSAN値がもっと減っちゃう」
邪神を目撃したんだから狂気に落ちるのは当然だよなぁ?
「・・・ユウ」
「ど、どうしたフェイト顔色悪いぞ?」
「・・・去勢に興味ない」
「ない」
そんなお茶会に誘う感じで男をやめさせようとしないで。
なすびちゃんもそれ関係の病院の情報をこれ見よがしに検索しないで。それは見るからに盾でしょ。何かを押しつぶすような素振りをしないで。
それを聖王娘と覇王娘が必死に止めている。混乱の場を作ったのは自分かもしれないが、どうしてこんな事になったのかわからない。
「「裕君」」
「な、なんでございましょうなのは様、はやて?」
「「初潮を迎えた女の子をどう思う?」」
え?セクハラ?
「どうして、そんな事を聞くの?」
「「質問に質問で返さないの」」
「た、大変だなぁ。と、思う?」
内臓が抉られる痛みらしい。男だからわからんけど。
「「高校生な人妻をどう思う?」」
え?だからセクハラなの?
「え、いかんやろ。自活も出来ない子どもが子供を作るなよ。と、思う」
風邪をひいて思考もまとまらんが、それくらいはわかる。
「「…裕君。去勢しよ」」
「まだ精通もしていないのに!?」
嫌だよ、そんなの。
風邪をひいて思考もまとまらんが、それくらいはわかる。(二回目)
もうだめだ。この場にいる人の殆どが狂気に陥っている!原因はおそらく俺?
た、助けてユーノっ、お前だけが頼りだ。この場を収めてくれ。
「…逃走!」
「逃がさんぞっ!お前一人だけ逃がしはしないぞっ!」
砂浜に倒れ伏している友を見捨てて逃げ出そうとしたユーノに組み付くクロノ。さすが年上。戦闘を行う事が前提の執務官と言うべきか。逃げ出そうとしていたDEXとSTRの対抗でユーノをその場に押しとどめていた。
「いや、離してくれよ!絶対これ碌なことにならないじゃん!民間人の協力、拒否権くらいはあるだろ!」
「ふざけるな!お前も道ずれだ!」
さすがは我が友。邪神に関する危機察知の能力はずば抜けているね。
でも、さすがに。ちょっと傷つく。
「もう放っておいていいじゃん。どうせ、邪神効果で敵対者は勝手につぶれるよ!それに巻き込まれたくない!」
「もう潰れているんだよ。特に僕の休暇が!どうせ、プレシアの研究所でニートしているんなら働け!」
言っておくが、ユーノ君はニートではない。
管理局に情報提供。プレシアの手伝いをしながら、歴史研究者として地球の勉強もしている。というか、まだ子どもなんだからニートは無い。勉強が仕事と言うのなら過労と言われてもいいくらいに頑張っている。
「あ、あの~。お話があるのですがいいですか?」
「ああん?ちょっと待ってろ。この魔法生物チューノを巻き込むまで」
「ぴぃ。ごめんなさいっ」
ちょっと~、クロノくん。その見知らぬ民族衣装を着たゆるふわ女子を睨まないの。泣きそうじゃないか。
「…邪神効果で敵対者が潰れるって聞いていないわよ」
プレシア(別時空)が邪神を睨みつけるが、邪神も初めて知ったよ。
というか、味方であるなのはちゃん達も勝手に潰れたよね。
俺、(事前に)何かやっちゃいました?…やっちゃっていたぜ☆
「…ふむふむ。なるほど。システムU―Dの因子と一緒に邪神のデータを取り込んだことで暴走気味だった思考回路に余裕が出来たんですね。で、投降しに来たと。いい判断です。判断がつかないまま暴れるのは得策ではないですからね」
「…うう。やっとまともな人と会えたぁ」
キリエが探していた。砕け得ぬ闇。システムU―Dが年端もいかぬ少女の姿になって、接触してきたが、それに気が付いたのは捕縛されたリニスと騒ぎの中心にはいるが、風邪を引いていた事で注意散漫になっていた邪神だけが、彼女の接近に気が付いていた。
システムU―D。のちにユーリと呼ばれる彼女の存在になのは達が気付くのはあと五分かかった。
システムU―D(バーサーカー)で邪神(フォーリナー)に勝てるはずがないんだよ。
だから、暴走じゃなくてどうにか言いくるめをしようと接触してきたけど、その場は混沌と化していた。