リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第七十九話 邪神様クオリティ

げぼあっ。

 

悪ふざけをしていた邪神様にとうとう限界が来た。本格的に風邪をひき始めたのだ。

ギニュー隊長のポーズを取った瞬間に夕飯だった物を口から吐き出してそのまま前のめりに倒れた。勿論、その吐き出したものに顔から突っ込んで。

 

うへぇ。

 

と、別時空からやって来たプレシアはその様子に顔をしかめた。

確かに目的のためならどんな汚れ仕事もやるつもりだったが、これはない。

いや、邪神を誘拐した時点で彼の不調は知ってはいたが、実際にするとなると躊躇する。

そんな邪神に自分と同じ時空からやって来たリニスが邪神の世話を焼く。

どこで手に入れたかはわからない清潔なお湯で邪神の体をさっと吹き上げ、厚手の毛布でくるみ上げた邪神の姿はまるで手足をもがれた羊のようだった。

 

本当に使えるのかなぁ。この邪神。

 

疑いの目を向けてしまうが、彼の存在の有無が自分の娘の組成に不可欠なのだと結論は出ている。その証拠として、自身の武器であり、防具でもあるデバイスに彼の技が加わることで確かに身体能力が向上した実感が持てた。

あとは自分が元居た時空に戻るだけといったところだが、現状、戻れる手段はない。

あの未来から来たという桃色の娘の言葉を信じれば自分も戻ることが出来る。その技法があれば自分は元の世界に帰れる。もしかしたらアリシアが死ぬ手前の時間軸に行けるかもしれない。

邪神はその時の保険だ。彼の技には+αの効果がある。これを手放す人間は馬鹿だ。

 

そんな事を考えていると彼を取り戻しに来ただろう管理局の人間達がやって来た。

邪魔が来るのは想定済みだ。だが、プレシアは科学者ではあるが、同時に強力な魔導士だ。戦闘だって想定内の上、リニスもいる。並大抵の戦闘員なら撃破できる。

 

さあ、来るが言い。どんな輩が何人来ようと我が道を通してやる。

 

「時空管理局だ!お縄に着くといい、別時空からやって来たプレシア・テスタロッサ!こっちは疲れているんだ正月くらいゆっくりさせろや、こらぁっ!」

 

邪神が繰り広げる騒動のせいで口調が大分乱暴な黒髪の時空管理局院のクロノ。

その後ろに自分の娘のクローンのフェイトを筆頭に。彼女のペットのアルフ。

友人の高町なのは。

八神はやて。彼女の守護騎士達。

アミタに特殊な荒縄で、特殊な技法で縛られたままのキリエ。

そして、この状況を呆れた様子で見ている王ちゃまとその配下であるミニチュア状態のシュテルとレヴィ。

 

恐らく、この地球という世界での最高戦力な魔導士達(十人越え)がやって来た。

 

多すぎぃっ!

 

どんな奴でも、どんな数でもこなしてやると言ったがここまで一気に来いとは言っていない。

いくら自分の実力に自信があってもこの物量は無理。一般管理局職員なら完封できるが、目の前の少年少女達からは並々ならぬ魔力を感じる。相当力を込めた攻撃じゃないと倒せない。リニス目を配ると首を横に振って肩をすくめる。ええい、もう少し頑張ろうという気概を見せてみろ。

だが、勝算がないわけではない。こちらには邪神の手が加えられたデバイスがあるのだ。少しは戦力が上がっているはずだ。リニスが彼女達の注目を集めて、自分が広範囲かつ高出力の魔法を放てば少しは勝ち目がある。

 

え~、やるの~。

 

と、言いそうなリニスの視線に強い眼力で返して突撃させる。五秒持てばいい方だろう。

 

ちなみにプレシアたちがいるのは海鳴の町の端にある海岸で、今もなお冷たい海風が吹きつけていた。

そんな中でプレシアがいざデバイスを起動させようとしたが、なぜか起動しない。邪神に預ける前までは問題なく起動できたはずなのに。まさか、だましたのか?!

そう考え、毛布にくるまれ、彼女の足元で転がされていた邪神の方を見ると、彼はにやりと笑みを浮かべてこう言った。

 

「そのデバイスは確かにパワーアップしたが、合言葉がある」

 

「合言葉ですって?!面倒な機能をっ!早くその合言葉を言いなさい!」

 

「合言葉は『開眼せよ!愛と希望のマジカルドレス!展、開♡』」

 

「よし、『開眼せよ!愛と』って、できるかぁあああっ!踏みつけるわよ!」

 

そう叫びながらプレシアは邪神の顔のすぐ傍を踏み抜いて脅した。

 

「すいません、プレシア。もうもちませんっ」

 

そんな事をしていると、リニスがやられかけていた。仕掛けるタイミングをミスった。

仕方なく。本当に仕方ないが、邪神の言う通りにしないとご破算になる。

羞恥に耐えながらプレシアは合言葉を言うプレシア。

 

「か、『開眼せよ!愛と希望のマジカルドレス!展、開♡』」

 

スン。

 

デバイスは機能しなかった。

 

「うわぁ、本当に言っている」

 

「踏むわ!」

 

「ぎゃああっす!」

 

羞恥八割、騙された怒り二割のストンピンクが邪神の顔面に繰り出された。

その間にリニスは数の暴力にやられ、その二秒後にプレシアも捕縛されることになった。

守護騎士とキリエからはやや同情的な目で見つめられるプレシア達だった。

 

そんな喜劇を少し離れた上空で眺めている白い民族衣装のような服を着た金髪の少女がいた。

 

「…え?私、あれ(邪神)と同一視されていたの?」

 

割とショックを受けていた。

 


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