リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

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第七十八話 海鳴の邪神様

「で、私が産まれたってわけです」

 

未来からやって来たという邪神の娘を語る大きなラウンドシールドを持った少女。マシュは疲れ切った表情で自分の出生を話してくれた。

いつの間にかいなくなっていた邪神の代わりにいた少女三人組。魔力持ちでバリアジャケットも羽織っていたから自分達と同じ管理世界の人間だろうと話を聴いてみれば、邪神の関係者。

それを知った時のクロノとシグナム。リインフォースは憐れみと驚愕とまだ見ぬ疲労から感情が抜け落ちてしまい、一時的にマネキンのようになっていた。

だが、マシュから話を聴いていくたびに彼等からは同情と気苦労から零れだした涙を拭おうとせずに「そっちも大変だったんだな」と声を掛けていた。

 

そんな邪神否定派の人達とは逆に邪神肯定派の人間達というと。

がっくりと俯いて凹んでいるフェイトを囲むように邪神に想いを寄せる少女たちからの非難を受けていた。

 

「フェイトちゃん、魔法使いじゃなくてシーフだったんやな」

 

「フェイトちゃん。…横取りはよくないよ」

 

「フェイトちゃん。その場の流れもあるかもしれないですけどちゃんと避妊もしなきゃ駄目よ」

 

なのはとはやてからは若干冷めた声質で、シャマルからは保健体育の大切さを説かれていたフェイトは恥ずかしさのあまり直下の地面に砲撃魔法を打って、その開けた穴に埋まってしまいたい気分になった。

 

「私かもしれないけど。私じゃないもん」

 

「いやぁ、大変なことになっていますねぇ」

 

今回。未来や並行世界からの来訪者といった事象を作り出してしまった妹を追ってきたアミティエは今回の事件を解決するには地元の協力者が必要だと思い、自分の事を知った人の記憶はもれなく消すという条件で協力してもらっていた。

 

だが、邪神の有用性を知ると良心が揺れる。

 

自分達のいる世界は荒れ果てていて、汚染されているが邪神がいればあっさり解決してしまうのだ。

土地の浄化。それがどれだけ難しく時間がかかる物かを知っている。

それを妹であるキリエもわかっているのだろう。しばらくは邪神のあまりコメディチック(オブラート三枚包)で調子を崩されていたが、アミティエ。アミタがいざ捕まえようとする直前でその場を離れ、並行世界から来たプレシアに攫われた邪神の後を追跡した。

本当はあの場にいた王ちゃまがいるから別にいいか。とも思ったが、邪神の有用性と過去の人間に迷惑をかけてしまったという良心から邪神の救出に嫌々で向かった。

そのキリエを追跡して、なのは達。王ちゃま。アミタに未来組に時空管理局で向かっていた。

 

はっきり言おう。戦力過剰であると。

 

しかも追われる側は邪神という毒にも薬にもなる人物を抱えているのだ。その心労を思うと本当に可哀そうになる。

 

「で、でもでも邪神のお陰で私は助けられたよ。それにアインハルトさんだって」

 

「そ、そうですよ。邪神は結果的に見ればクズ男に見えるかもしれませんが、その倍は助けられた人がいるんだから」

 

「だからといって、シン兄さんや私のような人達がこれ以上増えてしまうのは看過できません」

 

それとなく未来から来た二人が邪神のフォローを入れるが即座に否定されてしまう。未来から来た少女。ヴィヴィオとアインハルトはマシュの言葉を聞いて明後日の方向を見てしまう。

そして、その否定からクロノは嫌なことに気が付いてしまった

 

「ちょっと、待ってくれ。もしかして、君一人だけではないのか?邪神の血縁者は」

 

この言葉も否定してくれと懇願する想いで声をかけたが、返ってきたのは力のこもっていない苦笑だった。

 

「シン兄さんはまだ誠実ですよ。邪神の弟。私の叔父なんですが、邪神が小学校を卒業する前に生まれた男の子なんですが、邪神と違って変な能力はありません。異常に身体能力が高くて何の補助もない拳で岩を砕いたり、空中ダッシュしたり、魔法弾をジャストガードで弾いて、無傷で受け流すくらいの身体能力を有していますが、『まだ人間』レベルのいい人ですよ」

 

邪神はもう『人間じゃない』レベルなのだろうか?

いや、確かに持っている能力は文字通り神レベルだが、そのスペックはWCCを除けば魔法も使えない人間と変わらないはずだ。

 

「…皆様、ご存じでしょう。邪神は変にモテるんですよ。変に!」

 

力なく微笑んでいたマシュだったが、突如人が変わったかのように物語る。

 

「ええ。ええ!わかっているっ、分かっているんですよ!彼に関わる人達は何かしらの厄ネタを持っていることを!それが父さんにしか解決できない問題だったりするんですよ!あの人は邪神の力以外にも人脈というチートがありますから!相手を悲しませないための知識と技術を日々取り入れている努力を怠らない人だから!」

 

一気にまくし立てたマシュは一度深呼吸をする。

 

すぅぅうううう~。

 

そして再び語られるは邪神の所業。

 

「だからと言って何でああも父さんみたいな人を好きになってしまうのか!ええっ、ええっ!分かってますよっ、あの人は恩に着せないように悪ふざけや見返りを求めますけど実際のところお返しとしてみれば3%未満が殆どなんですよ!実績100:お返し3が殆どデフォなんですよ!残りの97がどうして好感度に回されるのか、これが分からない!」

 

「…お、おう。そうだな」

 

助けられたことがある人達はマシュの苦悩が分からんでもない。

しかし、ヴィータのように考えてみればそうなのだ。

人の命を文字通り救い、世界の危機すら救った邪神の御業。その代償が邪神のおふざけに付き合うだけでいいのだ。まるで見合っていない。

地球にいる様々な神話に出てくる神と比べればなんと優しい慈悲深い神だろうか。

 

「父さんも父さんですよ!どうして知り合う女の人が皆美女か美少女!それなのに厄介ごとは特大!で、それを解決しちゃうんですか!?アイドルからOL。赤貧少女からお姫さまにまで興味を持たれるって何なんですか!?呪いですか!モテる呪いでも受けているんですか!」

 

邪神の能力もあるが、彼の第二の武器はその人脈にある。

前世の記憶持ちという余裕から行動力に拍車をかけた邪神の交友関係は広い。そこから広がる出会い。

それが半端なく広いのだ。

邪神の能力を無しに考えてもこの人脈は広すぎる。

だからこそ、様々な女の子に出会い、厄介事を解決し、惚れられる。

そして関係を持ってしまい、マシュのような子どもが爆誕する。

その数の多さからついたあだ名が、『海鳴のエイリアン』。

出会った女性たちと関係を持ち続けてしまう彼。そして、そのやらかした証拠が爆誕する確率が7割越え。あまりの的中率から地球外生命体の二つ名を得ることになった、

 

「もう、ね!人類皆兄妹(同父)がデフォなんて嫌なんですよ!いずれ邪神の子供たちだけで世界が埋まってしまうのではないかと本気で管理局に恐れられたこともあったりするんですよ!」

 

「…わぁ。…だが、邪神は悪くないのではないか?」

 

マシュの嘆きを受け止めつつも、何とか邪神の弁護を図る王ちゃま。

彼女も邪神の世話になっていたから彼を慕う気持ちはあるが、そこまではない。

それに邪神は人を誑し込むこと意図的にやっているわけではない。むしろ、そうならないように馬鹿をやって好感度を下げようとしている。

だが、それがいけなかった。

ついさっきマシュが言っていたが、実績100:お返し3。

邪神の貢献度があまりにも大きく、報酬が少ない。

ある程度の文化と教養がある大体の人はそれ相応の報酬を用意しようとする。

邪神に見合う報酬などほとんど存在しない。だが、ほんの小さな報酬で満足している邪神を見て思うのは『あ、この人いい人だ』である。

そこに97の感情が流れ込むともうだめだ。惚れる。

邪神がもっと強欲に請求すればこうはならなかった。しかし、しょせん一般庶民でしかない邪神にそれ相応の報酬など思いつかなかった。

邪神がもっと完璧を演じていれば『あ、この人は私たちをは違う立場の人間なんだ』と、思わせることも出来た。だが、邪神は馬鹿をやって助けてくれた人の目線に合わせてくる。だから『あ、自分はこの人の隣にいていいんだ』と思ってしまう。

そこに97の好感情が流れてしまえば仕方ないというもの。

 

「だからと言って、あんなに女性と関係を持つ方がおかしいんですよ!あんなんだから永遠のプレイ(される)ボーイって言われるんですよ!」

 

「なんか妙な間があったように聞こえたよ?」

 

王ちゃまの懐にいたちっさい青髪のフェイト。省エネモードのレヴィがマシュの発言に疑問を持つが、その答えを聞くことは出来なかった。

 

「もういっそのこと去勢してしまえばっ…。ああ、そうだ。去勢させれば丸く収まるじゃないですか」

 

マシュの思い付きの呟きに、ひゅん。と、男性陣は股間を寒くした。

 

「そうか。私はこのためにこの場所に来たんだ」

 

先ほどまでの狂乱は収まり、何か悟りを開いた僧のように答えを見出したマシュに慌ててヴィヴィオとアインハルトが止めに入る。

 

「待って!そんな事をしたらこの先の未来で私が助からないかもしれないから!」

 

「駄目ですよ!そんな事をしたらマシュさんがいなくなってしまいます!」

 

「親殺しのパラドックス。…私はそれをなしてみせる!」

 

割とシャレにならない決意を固めたマシュを説得するのに一時間かかってしまった。

説得に当たった同期の二人に、歴史を変えるという大罪の重さを説いたアミタと邪神肯定派の人達。

だが、邪神否定派の人間にはそれもありかと思われた邪神様はというと。

 

「海鳴の邪神!私立聖祥小学校四年!田神裕!とう!」

 

と、風邪で思考回路がバグり始めた彼の介抱に当たっていたリニスとプレシアはとある宇宙皇帝お抱えの特戦隊のポーズを見せられていた。

何でもこれをやらないと邪神の技が使えないという理由で、自分達にもポーズを強要してくる馬鹿に頭を悩ませていた。

こいつ、今からでもクーリングオフできないものかと。

 


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