リリカルなのはW.C.C   作:さわZ

58 / 82
第五十八話 もっとやれ!邪神様のLPはゼロよ!

 邪神の音頭で始まったクリスマス・パーティー。

 パーティー開始直後にビンゴのガラガラは回り始めた。

 体育館全体を使ってのその会場にはカラオケマシン(WCCで加工済み)を始めとして貸衣装で普段は着れないようなドレスやコスチューム(使用後はWCCで仕立て直す)を見に纏ったイエーガーズ団員とその家族。関係者で二百人近い人達が聖夜を楽しんでいた。聖夜の催し物の殆どに邪神の手が及んでいるのはいかがなものだろう。そして、邪神の思惑により、一つの催し物が開始されていた。

 

 「次の番号は~~~っ、19!19番ですっ」

 

 「はいっ。ビンゴッ!ビンゴです!」

 

 また一人イエーガーズ団員女子のビンゴ用紙に一つの列が作られた。それを持って壇上に山盛りにされた景品のうちの一つを男子団員の手によって授与される。と、同時に愛の告白が始まる。

 

 「団員№31ちゃんっ。恋人として付き合ってください!」

 

 「いや、団員№31っ。俺と付き合ってくれ!」

 

 「せめて名前で呼んでほしいよっ!」

 

 スパーンッ。スパーンッ。と景気の良い音を立てて頭を叩かれた団員二名の恋は儚く散る。そんな光景を男子団員達はもう七回は見ている。

 次にビンゴする女子は誰だ?それは自分が恋してやまない相手なのか?それともリーチなのか?告白する勇気が無いからどうかビンゴしないでくださいと願う団員達も出てくる中、邪神様の視線が弱気になっている団員達に突き刺さる。

 

 『団長の権限を持って命ずる!全団員は時期が来たらすべて告白すべし!』と、

 

 そう言っているような目だった。

 団長命令。それは十にも満たない子ども達には抗いにくい強制力を持ったギアス。

 

 『重ねて団長の権限で命ずるっ。散って行った者達の想いを無駄にするな!』

 

 先に散って行った団員達のおかげで『場の流れ』が出来ているその流れに合わせて行けば上手くいくかもしれない。だが、だが、それでも怖いのだ。自分の想いが叶わないかもしれないという恐怖が彼等の肩にのしかかる。そんな時だった。

 特別ゲストとしてよばれた八神家の女性の一人が見事にビンゴを引き当てた。銀髪のその女性は大人陣営では初のビンゴ達成者である為か少しおどおどしながら壇上に上がっていく。

その女性を確認した後邪神が、男子団員達の前をコツコツと小さい音を立てながら真っ直ぐ突き進んでいく。その様子を彼等は見て確信した。あの女性が団長の目的の女性なのだと。

 そして、その背中からこう言っているようにも見えた。

 

 『さらに重ねて全ての団員に命じる。共に歩もう!リア中の道を!』と、

 『男には負けるとわかっていてもやらねばならない時がある』とも言っているようにも見えた。

 

 「「「「「だ、だんんちょおおおおおおおおっ」」」」

 

 自分達の前を歩いていく彼の姿はまさに先駆者(ヴァンガード)だった。

 

 

 

 「・・・負ける事は確定なんだ」

 

 「まあ、私としてはその方が都合がいいけど」

 

 それを言ったらおしまいだ。プレゼントの補充にやってきたテスタロッサ姉妹に唇の前に指を立てて言わないようにと注意する男子団員達だった。

 

 

 

 おいっ、デュエルしろよ。

 八神家長女に位置するリインフォースさんサンタコスチュームバージョン。着なれない服だからかスカートの端を押さえながら姿に俺の攻撃力。もとい、告白力が50%アップする。さあ、受けてもらうぞリインフォースさん。俺からの告白(アタック)を。

 

 「第一印象の外見だけで決めましたっ。付き合ってください!」

 

 「『外見だけ』って、どういう意味だ馬鹿物がっ」

 

 邪神様 攻撃力300! VS リインフォース 防御力2100!

 

 って、弱っ!

 50%上がって攻撃力が300って、弱すぎる!

 スパーンッ。先程見た光景が再び繰り広げられていた。どうやら邪神様の告白は失敗に終わったらしい。だが、邪神様のターンは終わっちゃいないぜ!フィールド魔法『クリスマス・パーティー』の効果で俺のライフにダメージを与えても俺自体は破壊されない。てか、破壊されたら怖いわっ。

 

 「次の番号は~~、60番。60番です!」

 

 「・・・ビンゴだ」

 

 んも~、景品がもらえるんだからそんな嫌そうな顔をしないの。いくら賞品を授与するのが俺だからって・・・。

 ムチムチバディで少し小さめのサンタコスチュームで団員はもちろん、その父兄たちからも黄色い声が上がる。後に締め上げられる悲鳴にも変わるが・・・。

 俺の視線から自分の体を隠したいのか出来るだけ腕を体に回しているのは逆にエロスを感じる。そうっ、日本人の萌えという感情は見えないからこそ掻き立てられMO☆SO♡から来るものである。

 

 「その恥じらう姿にS心を刺激されました!これからも辱めていくのでよろしくお願いします!」

 

 「それに答えるような被虐嗜好に見えるのか私は!」

 

 邪神様 攻撃力450! VS シグナム 防御力2300!

 

 邪神様の残りライフは250!もう、後が無いよ、俺!

 あと、どちらかといえばお前がMだろ?どMだろ?という視線があちこちから飛んで来るが俺、どMじゃねよっ。ソフトMだっ。略してSMだっ。

 

 「・・・リアさん、お宅のお子さんが変態的な格好でいろんな女性たちに声をかけているのですけれどよろしいのですか?」

 

 「私は一向に構わない!突き進め息子よ!」

 

 高町夫妻が私のお母様こと田神リアはワイングラスを片手に顔を真っ赤にしながら俺を応援してくる。あ、お母様がお酒を飲むと色々とタガが外れるんだよね。いろいろと。というかエロエロに・・・。

 

 「洋(ひろし)さん?またお酒が進んでないじゃない?」

 

 「いや、リア。私はこれで二樽目なんだが・・・」

 

 ド派手というか胸元を大きく開いたドレスを着こんだお母様の隣に立っている頭が少し透けて見える40代後半のサラリーマン然とした男性に蛇のように絡むお母さま。

 サラリーマン風の男性は俺の父上殿だ。というか、自分の体積よりも多いはずの樽を空にする父上の成分の半分は優しさとアルコールで出来ているんだろう。この二人が出会ったのはいわゆるお水な商売の場で、接待としてきた父上の飲みっぷりに惚れたお母様がむすばれた。お酒で繋がった二人だ。真面目一辺倒の父上だがお酒に関しては無双できる。それは魔法を使い始めたなのはちゃんの勢いにも勝るとも劣らない。そして、べろんべろんに酔っぱらったお母様は飢えた大神もとい狼のごとく父上に求愛行動をする。ちなみに酔っぱらったお母様に父上以外の男性が近づいたら握りつぶされるぞ。何をって?ナニをだよ。少し前に地域の飲み会で酔っぱらったお母様に邪な考えを持って近付いた五十代独身のSさんは三十年以上も務めていた建築業を辞めてオカマバーで働いているぞ。

 

 「私のお酒が飲めないっていうのか?というか、私がお酒飲めないってか?」

 

 メイドさん達もきっと上等なワインをグラスじゃなくジョッキで持ってくるが片っ端に父上が飲み干していく。お母様がこれ以上飲んだらドレスを脱いで邪神の弟か妹を作成する作業に移ってしまうからだ。OK、父上。今年はイエーガーズの皆とオールナイトで歌ってくるから。父上もお母さまを連れてオールナイトで歌っても大丈夫だから。あ、美少女な妹希望で。

 

 「・・・この親にして子ありか」

 

 そして高町夫妻は俺の行動を止めることを諦める。大人って大変だよね。世間体ってやつがさ。お酒が入るとそれが無くなるけどね。あ、ちなみに変態行動とは相手を不快に思わせたり、訴えられない限り『変態』にはならないらしいよ。たぶんね。そして、次に美人さんがビンゴした時が俺のファイナルターン!性行率もとい成功率は低いが0出ない限り諦めない。まあ、可能性としては0.00000000001%だがな!

 

 「次は7番!7番です!」

 

 俺という海パンマスクが隣にいるというのに司会進行を平然と務めるイエーガーズ女子団員№10もだいぶ成長したなぁ。ツッコミが無い分ちょっとさみしい・・・。

 

 「・・・・・・・・・ビンゴよ♪」

 

 俺に告白されると思ったのか、それともその方が面白いと思ったのか声色が明るい美人さん(確定)の声が聞こえた。ふふふ、知っているか、非リアの執念っていうのは立ち直るには時間がかかるが立ち直った時の戦闘能力がその都度あがっていくことをっ!その上がった戦闘能力はリア充へと至る事が出来る存在へと進化していくことを。そう、今の俺はスーパー邪神様だ!見ていろ皆(男子団員)っ、これが俺のファイナルターンだ!

 

 

 

 邪神様 攻撃力675! VS 月村忍 防御力3500!

 

 

 

 「・・・なん、だと・・・?」

 

 「あらあら、私には告白してくれないのかしら?」

 

 にこにこと微笑むのはその馬鹿げた防御能力の所為か。これがリア充とそうでないものの差だというのか?そして、気づく。いや、気づいてしまった。彼女の左手に光る物体に。あ、あれは『こんやくゆびわ』というものではないか!?ばっと会場を見渡し高町恭也が呆れた顔でこちらを見ている姿を彼の左手にも光る『こんやくゆびわ』を!そして彼が『リア充力は53万です』という気迫を持っていることを。

 

 「・・・あ、うあああ」

 

 「あらあら」

 

 邪神様は知ってしまった。自分がどうしても勝てない存在に。

 リア中の中でも過酷な運命に抗い、打ち勝ち、そして美女や美少女に囲まれて生涯を過ごす伝説のリア充。奴が、奴が伝説の・・・。

 

 月村忍の特殊効果発動。彼女がアタックされた際、『高町恭也がいるのなら彼の防御力を足してよい』

 

 高町恭也の防御力は・・・530000!

 月村忍の防御力と合わせて533500!

 

 邪神は泣いた。

 改めて見せつけられた彼との圧倒的な差に悔しくて泣いた。

 

 団員達が何やら騒いでいるが俺には聞こえない。あまりのリア充力に聴覚が遮断されているのだろう。だが、口の動きから察するに、「もうやめて、団長のLPゼロよ!」だろう。

 

 月村忍の反撃!

 

 「ごめんなさいね。私達来年籍を入れるの♪」

 

 崩れ落ちていく邪神は薄れていく意識の中。最後に高町恭也の姿を見た。彼は呆れ顔だがその気迫には『私には美少女な義理の妹二人いる。この意味が分かるな?』といっているようにも見えた。そして、最後の力を振り絞って叫んだ。

 

 

 

 「恭也さんの、恭也さんのエロゲしゅじんこぉおおおおおおおおおうっ!!」

 

 

 

 邪神があまりにも失礼な一言を吐き捨てた為、恭也が人外なスピードで裕の頭を張り倒した。その一撃とこれまで受けてきた精神ダメージ(自爆)が大きかったのか気絶した裕は保健室へと運ばれた。ちなみに田神夫妻はそんな息子の末路を見届けることなく、メイドさん達に二次会の準備とお願いを済ませた後、その二次会が終わり次第迎えに行くまでホテルで休憩してくるそうだ。邪神の妹か弟爆誕待ったなしである。

 

 「・・・あいつは本当にモテる気があるのかしら?」

 

 「団長が持っていた『月刊モテ男』には自分に正直にと明記されていたんですが、何か間違っていましたでしょうかバニングスさん?」

 

 「あれになびく女の子ってなかなかいないんじゃないかな?」

 

 アリサの言葉に男子団員の一人が答えるが、その答えにすずかが苦笑しながら答える。

 裕は連続で女性に告白していたが、もしビンゴしたのが彼に想いを寄せる自分達あったらどうなっていただろうか?

 

 「私は、あんな状態だったら断るな・・・」

 

 「・・・私も」

 

 「私的には・・・。・・・・・・無し。いや、ありかな」

 

 アリシアになのはも否定的なコメントを出すがはやてはギリギリありらしい。あの面白い格好をする彼とならたぶんずっと楽しめるだろう。

 可憐な少女達の言葉になのはの姉である美由希もまた苦笑しながら言葉を零した。

 

 「あははは。こりゃあ、なのはも大変だ。・・・鈍感な振りして彼の事が好きな女の子を振りまして、最終的にはナイスなボートに乗車するような男の子にならなきゃいいけど」

 

 「「「「「団長の事かぁああああああっ!!」」」」」

 

 「いや、そうだけどっ。少しは否定しようよっ。皆、裕君のお友達でしょう?!」

 

 バッドエンドを迎えそうな少年の末路に合わせて、そうならないようにと思って口にしたのだがそれを聞いた男子団員達が起こったように叫んだ。というかその幼さであのアニメを知っているのだろうか?

 

 「まあ、確かに団長がモテるのはわかりますけど」

 

 「まあ、俺達のムードメーカーだし、リーダーだし」

 

 「男女問わず好かれると思うけど。俺の方が団長の事を・・・」

 

 「あんな変態的行動を取っても笑って済ませるくらいの仁徳者ですしおすし」

 

 それでも非モテの男子団員としては自分達のリーダーがグループから離れていくのはさびしい。というか、彼以外に自分達を率いてくれるヴァンガードな先導者はいない。それに、なのは達に恋している団員達もいる。だから団長が彼女達の誰かにふざけ半分でも告白してカップル成立なんかしてほしくない。まあ、お互いに本気なら祝福する。ビンタ付きで。

 

 「てか、なんで皆私達が裕君の事が好きって知っているの?!」

 

 「見ればわかりますよ」

 

 「バレバレです」

 

 イエーガーズ男子だけでなく女子もうんうんと頷いて見せる。

 

 「まあ、うん。団長を除けば王城?とか白崎?以外に思い当たるのがいませんし。それ以外だとしたら百合ですし・・・」

 

 「私としてはそっちの方が萌えるんですけど・・・」

 

 オタク系な女子団員の目から見ても彼女達が裕に想いを寄せているのは明白だという。

 

 「・・・皆が気づいているのに、裕が気づいていないはずがないんじゃないか?」

 

 「ホモなのかしら?」

 

 高町恭也の疑問に忍がとんでもない事をさらりと答えると、複数の女子達ががくがくと震えだし、一人の男子団員は頬を赤く染めた。

 

 「団長が男色?」

 

 「笑えないって」

 

 「Don’t恋、団長」

 

 「いや、でも、これだけあからさまなのに気が付かないという事は・・・」

 

 「・・・不能?」

 

 「いや、俺達の年齢だと機能し始めているかどうかも不明だ」

 

 「君達は本当に小学生かな?」

 

 

 

 ホモやら不能やら様々な疑惑が疑惑を呼び、裕が保健室から帰ってくるとそこでは『団長はホモか不能かどMなのか調査会』というふざけた垂れ幕が追加されていた事に裕は怒って「ふざけんな俺はどSじゃーっ!」と叫ぶと即座に「「「それはないっ。どMだよ」」」と満場一致で返された邪神は涙を零しながら保健室へと逃げ帰るのであった。

 

 




特別編。
日頃お世話になっている高町恭也へ邪神様からのプレゼント。
『YES』と『NO』とそれぞれ書かれた枕を二つ進呈。

恭也「意味わかって渡しているのか?!」

邪神様「俺が普通な贈り物するわけないでしょう。それに裏を見てください」

恭也が『YES』と書かれた枕の裏を見る。そこには・・・『YES』の文字が。
『YES』の後ろも『YES』だった。

邪神様「忍さんみたいな美人さんなら男は誰だっていつだってYESです!」

恭也「やかましい!」

邪神様「あとこれ、回復薬作っていたら偶然できた精力活性剤なんですけど・・・」

恭也「だから意味が分かって言っているのか?!分かっていたらいたで問題だぞ!」

邪神様「いらないんですか?」

恭也「・・・・・・・いや、もらっておこう」

ちなみに『NO』の裏は『NO』だった。
付属として拳の形をした枕『オラオラ』枕も贈呈する邪神様だった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。