く、くやしい。
だけど、感じちゃう。ビクンビクン!
ぶくぶくと膨れ上がる肉の風船から飛び出してきたヴィータと裕が地面に降りると同時にプレシアが裕に指示を出した。
「アユウカス!アレをどうにか抑え込みなさい!」
「アイサー!唯我独尊(マッシュ)!」
脱出する際に事前につけていた狐の面の奥から幼い声を発信がら裕は地面に手をついてWCCを作動させる。
すると肉の風船を丸飲みするかのように巨大なキューブ状のものが地面から生える様に飛びだし、膨れ上がっていく肉の風船を呑みこむように噛みついた。というか呑みこんだ!
「うおっ?!凄い勢いで膨れ上がっていく!修復と一緒に強化と弱体化。浸食した部分から魔力放出。無毒化しないと」
キラキラと光を放つキューブ状の物体。唯我独尊と呼ばれた建造物。
その目(鼻?)にあたる部分から薄紫色の魔力の霧が立ち上っている。
「アユウカス、抑え込めそう」
「うーん、何とか。浸食型だったから良かったのかも。浸食しようとしてもWCCの方が上みたい。接触部分から上書きすれば抑え込める。この調子なら地形効果、というかトラップ効果での『魔力放出』ができる。・・・もしかしたらダンジョン・マスターにも使えるかもWCC」
「・・・嫌な思い付きね」
「まあ、接触してないと効果が無いんだけどね」
噛みついた唯我独尊を一つのアクセサリーとして置き換えて装着している。接触している存在から魔力を吸い上げて放出。唯我独尊自体を強化。魔力耐性の特性を付加していく裕の後ろでははやてがヴィータに抱きついて『闇の書』脱出期間を喜んでいた。
「ヴィータぁああっ、無事でよかったぁああっ」
「うっ、はやて、ただいま。ぐすっ」
先程まで自分達が肉の風船に取り込まれそうになったのだ。ヴィータ自身も脱出した後になってはやての元に帰れなくなったという事に気が付いてはやてとしばしの間抱き合っていた。
「そ、そうだ。はやて、あいつが『闇の書』の中にいた最後の騎士だ」
銀髪の女性を指さして紹介する。
「あなたが私の新しい家族」
「っ」
はやての言葉に銀髪の騎士は感動したように涙を浮かべた。
そしてお互いに近付いて行き、お互いの影が交差する。
「へやあっ!」
「にゃふんっ」
寸前で騎士ははやての頭にチョップをかました。
どうしてここでチョップをかましたのか誰もわからなかったが、はやてと新たな騎士とのやりとりでそれが判明する。
「なにするんやっ」
「怒っていてるんですっ。こんな危険地帯にどうして貴方の様に非力な子どもがいるんですか!」
「それは私が『闇の書』のマスターやからや!危険を感じたら所有者権限でどうにか抑え込もうと考えていたんや!」
「どうしてこんな無茶をしたんですか!自分が死ぬ可能性があったかもしれないのに!」
「自分の家族が命かけて戦っているのに家長である私が動かないなんて道理はないで!家族の為にや!」
「じゃあ、どうしてそんなに手をワキワキさせているんですか!」
「チィッ・・・」
「どうしてすぐに答えないんですか!?」
「ええやんっ!巨乳がそこにあれば揉みたくなるのは人の性や!」
銀髪の騎士の後ろで邪神がうんうんと頷いているのはどうでもいい事である。
ようはシリアスで感動的な場面でセクハラを働こうとしたはやてに気が付きチョップをかましたという事らしい。
「それより、はやてさん。お礼をいう人はもう一人いるんじゃないかしら?」
プレシアははやてに視線だけずらして裕の方を見る。
白いかつらに白い袴と真っ白な風貌をしている邪神の傍に騎士(ザフィーラの後ろに将・新入りの順で続いている)を引き連れて。
すでに屈強と称されている守護騎士のうち二人に畏怖の対象として見られている邪神はある意味、邪神らしいだろう。
「・・・裕君。私を。私達の家族を助けてくれて本当にありがとうっ」
「・・・はやて」
裕ははやてに近付いて行き、裕ははやてに手を伸ばし、
「バルス!」
「ぎにゃあああっ?!目がっ、めがああああっ!?」
目つぶしを喰らわせた。
のたうちまわるはやての頭を掴んで叱りつける邪神。
「お前、あれほど名前で呼ぶなって言っただろっ!」
「ごめんなさいっ。わざとやないんや!決してここまできたんなら裕君も巻き込んで邪神の力をこっち側につけようなんて考えてないで!」
「確信犯じゃねえかっ!それに邪神の方もアウトだろうが!」
ぎゃあぎゃあ言いあうはやてと裕。
そんな二人を放っておいてシャマルと銀髪の騎士。プレシアにクロノとリーゼ姉妹は唯我独尊を見ながら話し合いを進めていた。
「闇の書本体はあの肉の風船の中にあるのにあなた達はなんで無事なの?」
「私自身がデバイスのような物なので騎士達と闇の書とのリンクを書き換えて私自身が闇の書の任を負っています。適度なデバイスがあればそこに移そうと思うんですが」
「闇の書クラスのデバイスってあったかしら?」
「邪神に作ってもらえば」
「っっっ」
「そんなに涙目にならないの」
(この短期間で守護騎士をここまで怯えさせるとかユウって、何者?)
リーゼアリアとロッテはもう遅いだろうが管理局への通信の一部をオフにする。
裕の情報をこれ以上流すのは危ないだろうと思っての事だ。
一応彼も主人の親友の命の恩人だ。
彼は管理局に関わりたくないようだった。今ある平穏を無くしたくないから邪神の力を振るったのだ。
これで管理局が彼の力を求めて強硬な手段を取った場合。文字通り神の怒りに触れてどうなるかたまったもんじゃない。
現に邪神は自分の素性を暴露しようとしている少女の口を塞いでいた。
「うむんんんんんぅううううっ」
「は、はやてぇええええっ」
むちゅるるるぅじゅっぽじゅっぽじゅるじゅるりずちゅぅうううっ。ピロリロリン♪
「1upした?!」
と、生々しい音を立てながら。
見れば邪神がはやての口を自分の口で塞いでいるようにも見える。
「裕、お前はやてに何してるんだよって、うわぁっ、きも!」
はやての口から離れた裕の口には彼女とのつながりを示す涎の後と、裕の口元から生えているイソギンチャクのような物があった。これはマスクのような物で口の上に装着してキスをした相手にイソギンチャクの触手の感触を与えるという物である。
「ヴィータお前も喰らいたいのか?邪神キッスを?」
「いや、うん。はやての口が滑ったのは悪かったとは思うけどはやては大丈夫なんだろうな?」
「安心しろ。ちょっと癖になる程度だ。試したことがある俺が保証する」
「そうかそれならって、安心できるか!」
仮面の上にかぶせた邪神キッス(マスク)の下で頬をやや赤くした邪神は肉の風船を噛み潰したままの唯我独尊にWCCをかけ続けていく。
「・・・で、アユウカス。この調子ならどうにかなりそう?」
「うーん。この調子ならあと五十年ここに留まって浸食されるのを防ぎながら魔力を放出し続ければ普通の魔法で灰も残さず消えると思うよ」
「そうならよかっ・・・。て、五十年?」
「五十年。俺がここでWCC使い続けていればね。ここから離れたら肉の風船が解放されて辺り一面肉の海になるだろうし。そこまで居座るつもりもないけど・・・。とりあえず俺が抑え込んでいる間に何か策でも考えて」
裕は簡単に説明したがWCCは繊細な作業だ。何かあった際にミスして対応が違うWCCをされた大変だ。その事も考えて裕は懐から指輪を幾つかとりだし嵌めていく。
それぞれに『集中力アップ』『体力回復』『睡眠防止』の効果を持たせたアクセサリーだ。
「まあ、こっからはそっちにませたから早く対抗策を考えてね」
目の前に爆発寸前の爆弾を目の前にしているような状況で裕は簡単に言ってくれた。
「あ、あと、それから真・ライガーの先っちょに引っかかってた。あいつも療養させたら・・・」
真・ライガーの羽の先っちょに引っかかっていた王城。
色んな物に見離された彼だが悪運だけは残っていたらしい。
シャマルから汚物を見るような目で簡単な手当てを受けた王城はそのままアースラに搬送されるのであった。
今日の戦果
干からびた王城。